ファシリテーター
日本ケロッグ合同会社
執行役員 経営管理・財務本部長(CFO)
池側 千絵氏
新卒でP&Gジャパンに入社して以来、一貫して外資系企業のファイナンス部門に勤務。P&Gでは、家庭用洗剤・紙製品・ビューティケア事業部門などで担当事業の財務業績向上に取り組み、また日本支社全体の利益・資金管理と報告、経理、税務、アジアHQでの研究開発・販売管理費管理業務など幅広いファイナンスの専門業務も歴任。その後、日本マクドナルドのフランチャイズ事業担当財務部長、レノボ・ジャパンのCFOを経て現職。同志社大学文学部卒。慶應大学大学院経営管理研究科在学中。
参加者
日本トイザらス株式会社
バイス・プレジデント & CFO
吉田 耕一郎氏
P&Gにて、アジア地域の洗剤事業、日本の洗剤事業やフード・ヘルスケア事業でのビジネスファイナンス、アジア地域全体の内部統制などに従事。その後、外資系コンサルティングファームへ転職し、様々な経営課題のプロジェクトに携わる。日本トイザらス入社後、経営管理、IT、購買、サプライチェーン・物流、店舗開発等を担当。2016年より現職。
京都大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学修士(MBA)。
モルソン・クアーズ・インターナショナル
アジア・パシフィック地区CFO
鷲巣 大輔氏
大学卒業後、P&Gに入社。以後一貫して管理会計をベースとした経営戦略策定、事業部コントロールに従事。日本・韓国のビジネスユニットのコーポレートファイナンスマネージャーを担当。その後、プライベートエクイティ業務、国立大学のCOEプロジェクト(大学の構造改革プロジェクト)への参画、ベンチャー企業のCFOなどを経て、2015年にモルソン・クアーズ・ジャパンに入社してCFOを務めた後、2016年より現職。一橋大学商学部卒。
「全体最適」を図るのがCFOの仕事
池側氏:今回は、ファイナンス以外のさまざまな経験もした後にCFOになったお二人に来ていただきました。まずはお二人のご経歴を簡単に教えてください。
吉田氏: 新卒でP&Gに入社しました。新設のアジア地域事業の仕事などは刺激もあり、それ以来、ビジネスファイナンスが中心で、営業、マーケティング、生産と一緒に事業計画の策定、新商品の上市の財務計画や問題解決を行いました。アジア各国の営業とマーケティングの内部統制を担当したときは、社内だけでなく、広告代理店やディストリビューターのCFOとプロセス構築に取組みました。その後、経験や人脈を広げたく、外資系コンサルティングファームに転じ、金融、製造業、商社、小売などのプロジェクトに携わりました。チャレンジも多かったですが、同世代を中心とした多様な仲間に巡り会えたことは財産です。2009年に日本トイザらスに入社して、さまざまな部門を担当してきました。2016年からCFOに就いています。
鷲巣氏:私は6年ほどP&Gでビジネスファイナンスやコーポレートファイナンスを手がけた後、2001年からはベンチャーの世界でさまざまな経験を積んできました。2回ほど、自身で起業したこともあります。2006年、P&G時代の先輩がCEOを務めるベンチャー企業に誘われて、CFOとして入社しました。これがはじめてCFOになったときで、その先輩に声をかけられていなければ、私はいまだにCFOになっていないかもしれません。その後、2015年にモルソン・クアーズ・ジャパンにCFOとして入社し、現在はモルソン・クアーズ・アジア・パシフィック地区のCFOを務めています。また、本業とは別に、グロービス経営大学院の講師も務めています。
池側氏:現在、お二人はCFO以外の業務もなさっていますか?
吉田氏:ファイナンスが中心ですが、店舗開発や物流などもレポートラインです。
鷲巣氏:私もモルソン・クアーズ・ジャパンのCFO時代は、ファイナンスやアカウンティングだけでなく、総務・人事・ITなどのバックヤード全般を幅広く見ていました。これは、私たちのような小さな会社では、ごく自然なことだと思います。
池側氏:お二人にとって、CFOの役割とは何ですか?
鷲巣氏:いろいろとありますが、ファイナンスの専門性を駆使してビジネスに貢献した一つの例としては、初めてCFOになったベンチャー企業で、ある事業の買収を行ったことでしょうか。こうした事業買収のとき、その事業価値の評価を行うのはCFOをはじめとするファイナンスの役割です。また、地味ですが重要なのが、月次KPIのモニタリングをして、「経営の見える化」を進めていくことです。
吉田氏: KPIの大切さは同感です。小売業は、既存店売上高がプラスか、また、KPIが昨年比で改善しているかがベースにあります。これはトレンドを語る上では大事なことですが、それだけだと、昨年の数字が良かったのか悪かったのかという視点が、すぽっと抜けることがあります。より重要なのは、今年目指すべき目標に対してどうだったかということです。 そして目標との乖離があれば、リカバリーや軌道修正することが求められる。その舵取りが重要な役割だと思います。如何に目的的に進めるかということだと思います。
池側氏: CFOは、ときには皆が聞きたくないこと、耳が痛いことを言わなくてはなりませんが、一方で皆をモチベートする必要がありますね。難しいことですが、どうされていますか。
鷲巣氏:おっしゃる通りだと思います。私が初めてCFOになった会社のCEOは、いわゆる「ビジョナリー」で、いつも大きな夢を描いており、その夢で社内外の多くの方を惹きつけていました。一方で、その夢を現実的なオペレーションに落とすのが、CFOである私の仕事でした。その会社では、そうやって役割を分担していたのです。そのCEOにとって、私がいつも数字を用いてコミュニケーションしていたのは、ときに嫌なことだったかもしれませんが、ビジネスを大きくしていく上では避けられないことでした。私の場合、このように経営トップに合わせてCFOの役割やキャラクターを決めていくケースが多いです。
吉田氏:私は、全体最適を図ることも大切な役割の一つだと考えています。もちろん、より良いサービスや商品をより良い価格で提供する、ということを考えるのは楽しいですし、結果として投資した店舗が想定以上に好調、年末商戦で予想以上の需要に対して応えることが出来たときは充実感があります。一方、コスト、経営資源、資金調達などを勘案して全体最適を図り、ビジネス継続の土壌を整える必要があり、そのためにはすんなり受け入れられないこともハードルを下げずに言い続ける必要があります。幸いにも、財務指標という客観的数値があります。利益が全体最適の結果ですから、この結果に対する各々のKPIの関連性を明確にして、丁寧に伝えていくことだと考えています。
池側氏:CFOの働きかけによって、売上や利益を向上させることはできるのでしょうか?
吉田氏:いきなり大きく変わることは少ないでしょう。ただ、どこにどのように投資していくかといった考え方で、2、3年後に影響を及ぼす可能性はあると思います。
池側氏:外資系企業の場合は、本社との利益交渉・予算交渉は、CFOの腕の見せどころの1つです。日本のビジネスプランや各部門の意向をよく理解した上で、それが実現できる年間・四半期の売上げ・利益目標や、宣伝広告費・資本投資の予算を合意して、みんなの仕事がやりやすくなるように努めています。必要な投資ができることによって、業績を伸ばすことができますね。自社内でも、いろいろやりくりして投資にまわせる資金捻出をします。
吉田氏:確かに投資獲得は大切ですね。付け加えると、日々の課題にも定量感を持って臨むことも大切かと思います。「売上が伸びる」「コストがかかる」といった主観的情報に対して、「ざっくりでも良いからどのくらい?」とアプローチしていくのが大切です。
例えば、思ったほど振るわなかった場合、直感的に「競合プロモーション」が理由となりますが、実際分析してみると現象の2割も説明できず、数値に分解すると複数要因が絡んでいる、ということが起こりえます。具体的数値で語らないと、限られたリソースをどこにどれだけ使うべきかの判断の確度が高まらず、結果が最大化されません。しかし、そうはいってもなかなか難しく、天候や暦に大きく左右されることも多いですし、どれだけ掘っていってもビシッとした解が出ない中で進めていかないといけないのが現実です。
池側氏:CFOやFinanceが、商品ごと・店舗ごとなどの細かい単位で損益を見て、損失を減らし、利益がでる商品・店舗に投資をするなどして、業績を上げることはできますね。
CFOは尊敬できるCEOの夢を仕組み化する
池側氏:ファイナンス以外の仕事の経験は、CFOの仕事にどう役立っていますか?
鷲巣氏:以前の上司に「CEOができなければ、CFOにはなれない」と言われたことがあります。CEOが行う決断やディレクションの意味がわからなければ、CFOとしてビジネスに十分貢献できないからです。そうした意味では、吉田さんが積んできたコンサルタントや実務の経験は、CFOとして強みになると思います。
吉田氏:出来るだけ「実行の大変さ」を忘れないようには心がけています。立ち上がりは期待通りの成果が出なかった店舗でも除々にエンジンがかかって成果を出すこともありますし、コストコントロールといってもその裏には大変な努力や工夫があります。決めた後に実行するところにハードルがあるわけで、その実行の大変さに思いを馳せることが出来ないと、第三者的立場になってしまいます。そういう意味で、現場での実務や実務部門のマネジメント経験は多少なりとも糧になっていると思います。
池側氏:どのような方がCFOに向いていると思いますか?
鷲巣氏:私はこれまで、自身で2回ほど起業して小さな会社ながらトップを務めた経験がありますが、今こうしてCFOとして参謀に徹しています。多くの経験をした結果今思うのは、自分はCFOのほうが向いているということで、ずっと居心地が良いですね。
吉田氏:よく、CFOは参謀タイプの性格や志向が合っていると聞きますが、私は「仕組みややり方を変えることで会社はもっと良くなる」と思っている方、そこにやりがいを感じる方は、CFO向きだと思います。鷲巣さんもそうではないですか?
鷲巣氏:おっしゃるとおりです。その分類は腑に落ちますね。先ほどもお話しした通り、私は尊敬できるCEOのビジョンや夢を仕組み化して、会社の土壌をつくっていくのが楽しいですし得意なのだと思うのです。No.2の仕事は、No.1の「やりたい」を形にすることで、それがCEOとCFOの大きな違いだと思います。そのときに、CEOが何を考えているか、何をしようとしているのかがわからないと、CFOはその役割をまっとうできません。それが、「CEOができなければ、CFOにはなれない」という言葉の真意です。言い換えれば、CFOにはCEOスキルが必要なのです。ただし、勘違いしてはならないのは、最終的にはCEOがすべての責任を負っていることです。その点では、CEOとCFOには、とても大きな差があります。
まとめ
CFO Round Table No2 前編では、Finance部門だけでなく、その他部門での経験を経てCFOとなった吉田氏、鷲巣氏に、CFOの役割についてお話いただきました。後編は、「ビジネスパートナーとして業績向上に貢献するためには何が必要なのか(能力、育成)」についてです。引き続き後編もお読みくださいませ。