再生医療の研究現場から、研究者にソリューションを販売する営業職に転身
ライフテクノロジーズジャパンに入社するまでのご経歴を教えてください。
父が製薬会社の研究員で、私にとって研究者は身近な存在でした。高校生の頃、バイオテクノロジーやヒトゲノム研究に興味を持ち、大学では植物に感染するウイルスのゲノム解析を行いました。研究を始めた最初の頃は計画通りの結果が出ることは少なく、失敗ばかりで落ち込むこともありました。しかし、分からないことを先生や周囲に相談したり、自分で調べたりしながら、試行錯誤を重ねて前に進むと、あるとき自分たちだけの発見にたどり着くのです。新たな発見をしたとき、それまでの失敗は「発見までの道のり」として意味を持つようになります。研究は大変でしたが、発見したときの面白さや嬉しさがあるから、やり遂げられたのだと思います。
大学院ではバクテリア由来タンパク質のX線結晶構造解析を研究テーマに選び、次はヒトや哺乳類の細胞を使った実験をしてみたい、できたら再生医療研究に関わってみたいと思っていました。そのとき、理化学研究所・神戸キャンパスにある「発生・再生科学総合研究センター」の求人を見つけたのです。2004年、私はテクニカルスタッフとして働き始めました。
当時はまだiPS細胞が世に出ておらず、ES細胞の研究が主流でした。私は、スウェーデン人上司のもとで、マウスES細胞から血管内皮細胞への分化経路をモデルにした遺伝子発現解析を担当しました。上司は細胞の働きなどの生命現象をシステムとして理解し、コンピュータ上で再現する「システムバイオロジー」の専門家で、私は上司の仮説を検証するため、研究室で実際に手を動かして細胞培養などの実験を行う役割を担いました。ES細胞は維持管理を怠るとすぐに死滅してしまうため、試行錯誤と失敗を重ねながら、日々注意深く観察するようになりました。そんな日々を過ごす中で、2006年に山中伸弥教授が世界で初めてiPS細胞を発表し、世界中の注目を集めるようになりました。京都大学と神戸理化学研究所は、日本における再生医療研究の中核拠点の1つとなり、世界各国から研究者が集まってきました。最初の頃は再生医療で細胞が医薬品になるとは半信半疑だったのですが、2010年以降に新規参入企業が続々と現れ、本当に商用化されるかもしれないと思うようになりました。関連製品や実験手法も次々に便利で新しいものが登場し、研究できることがどんどん増えていきました。このように変化が激しく、新しい発見が次々と生まれる環境だったから、9年も続けられたのだと思います。好奇心が満たされる楽しい日々でした。
ただ、私が所属していた研究グループは2013年に任期が終了することが決まっていました。理化学研究所の人事部は研究者向けの転職支援をしており、転職活動を行うにあたり、職業適性を客観的に評価してもらおうと適性検査を受けてみたところ、第一位は意外にも「営業職」でした。これまで自分には研究が向いていると思っていたのですが、研究職以外にもどんな仕事があるのだろう、興味のある方に行ってみようと思い立ち、2013年、サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループの一員であるライフテクノロジーズジャパンに入社したのです。
なぜライフテクノロジーズジャパンを選んだのですか?
もともと、研究試薬・機器メーカーなどの営業の皆さんと接する機会があったので、研究者をお客さまとする営業職の仕事はイメージがつきました。研究者に機器やソリューションを提案・販売する営業職なら、それまで研究現場で培った経験を活かして、私にもできるのではないかと思ったのです。
再生医療研究の中心地・日本で、再生医療の事業化を加速するお手伝いをしている
社内での職歴を教えてください。
2013年に入社して、最初に所属したのはテクニカルセールススペシャリスト部です。コンピュータとカメラが一体となったオールインワン顕微鏡「Invitrogen™ EVOS™ Imaging System」という新製品の営業を担当しました。省スペースで、初心者でも簡単に細胞などの高品質画像・動画を撮影できるのが強みです。ただ新製品だけに日本市場への導入に向けて、最初にどのような研究者に使ってもらえそうか、営業戦略を十分に練る必要がありました。私たち営業チームは、マーケティングチームと連携しながらターゲットを絞り込み、効率的に営業を進めていきました。
その後、テクニカルサポート部に異動し、より幅広い製品のポストセールスや社内外向けの製品トレーニングなどを担当しました。お客さまの課題がクリアになり、次の研究段階へと進むお手伝いができることにやりがいを感じました。2021年に再びテクニカルセールススペシャリスト部に戻り、現在は細胞培養ソリューションをはじめとする再生医療領域の営業を担当しています。
営業職への挑戦はいかがでしたか?
全くの未経験で、東京で働くのも初めてでしたから、最初は東京のオフィス街やスーツ姿の人の多さに圧倒されました。先輩方のバックグラウンドも様々で、私が本当にここで通用するのだろうかと不安でいっぱいでした。ですが、入社後にロールプレイなどの営業研修を受け、多くのお客さまと現場でお話ししているうちに、セールストークがお客さまに「刺さる瞬間」が分かるようになってきました。自分らしい営業スタイルも、徐々に確立できました。結果的には、変化を楽しみながら壁を乗り越えることができたと思います。前職での現場経験も非常に役に立っています。
研究職と営業職で大きく違うのは、出張の多さです。大学や研究機関、企業の研究所は全国にありますから、私たちテクニカルセールススペシャリスト部の営業は日本各地を訪問する機会があります。また、営業職の面白い点の1つは、出身大学や研究ネットワークの垣根を越えて、全国のさまざまな研究者に会い、多様な製品の感想や実験のアイデアを直接伺うことができる点です。
お客さまの課題を解決するため、お客さまと一緒になってソリューションを考えるのは、営業職の楽しいところです。適性検査で自分に営業適性があるという結果が出たときは半信半疑でしたが、10年ほど営業を続けてみて、いまは確かに、自分は営業に向いているのかもしれないと実感しています。
ライフテクノロジーズジャパンの強みを教えてください。
サーモフィッシャーサイエンティフィックは世界中に125,000人を超える仲間がいるグローバル企業で、アメリカ・アジア・ヨーロッパなどにも、同じ製品を扱っているセールスの同僚たちがいます。彼らのサポートを受けたり、他国の成功事例を日本で展開できたりするのは、ライフテクノロジーズジャパンの大きな強みです。研究はグローバル標準で行われていますから、研究者の皆さんは世界の状況を知りたいのです。海外にいる私たちの同僚とも定期的にディスカッションしますが、彼らがもたらす知見やフィードバックは大いに役立っています。もちろん、日本発の情報を他国の仲間たちに共有して、営業活動や製品開発に役立ててもらうこともしています。
いま森脇さんが最も注力していることを教えてください。
私が担当している再生医療の領域は、いま世界的に事業化・商用化の大きな波が起こっています。日本は長らく再生医療研究をリードしてきた国であり、大学や研究機関にはシーズやアイデアが豊富にあります。ところが、日本は資金と人材が不足しているため、事業化・商用化があまり活発に進んでいません。シーズから事業化への流れが最適化されているアメリカとは対照的な状況にあります。
私が最も注力しているのは、できるだけ多くのお客さまに対して「事業化加速」のお手伝いをすることです。お客さまに早い段階で事業化を見据えてもらうため、再生医療の研究開発から細胞培養、分析、製造までの一連のプロセスに対してソリューションを総合的に紹介し、研究から事業化への流れを少しでもスムーズにしようとしているのです。事業化のためには、より高品質、より安全、より安価な製品を目指すだけでなく、安定供給できる原材料や製造手法を用意する必要もあります。研究開発の初期の段階から、さまざまな課題やリスクを想定して解決策を持っておくことが、迅速な事業化を実現するのです。
こうした当社のサービスをより多くのお客さまに知ってもらうため、私たちは通常の営業訪問に加えて、オンサイトやオンラインのセミナーを行ったり、Web上に動画を公開したりして、さまざまなチャネルを活用しながら営業活動を行っています。また2022年には、再生医療分野における当社の革新的な製品やソリューションを体験できる施設として、「再生医療クリエイティブ・エクスペリエンス・ラボ(Thermo Fisher Scientific Creative Experience Lab for regenerative medicine:T-CEL)」を東京本社のオフィス内に開設しました。
「常に変化に適応する」という価値観の会社で、チャレンジを何より重視する
ライフテクノロジーズジャパンの社風を教えてください。
前職の理化学研究所と、現在のライフテクノロジーズジャパンの似ているところは、どちらの職場も新しいものへの好奇心を重視しており、一人ひとりが自分で課題やテーマを発見して、貪欲に取り組むことが求められるところです。また、どちらの職場も結果にはシビアで、責任を持って最後までやり抜くインテグリティを強く求められます。海外とのコミュニケーションが多いのも共通点です。
さらに、ここでは専門分野の異なる人たちの意見も取り入れながら、ビジネス上のゴールを達成する「チームワーク」を大事にしています。営業チームだけでなく、マーケティング、ファイナンス、R&D、アメリカ本社や他国のサーモフィッシャーの仲間たちなども必要に応じて巻き込み、社内に大きな活動の流れを作っていくことができます。たとえばマーケティングチームは、ポータルサイト・SNS・デジタルツールの活用、SEO対策などを通じて、さまざまなアイデアで営業活動を力強く支援してくれています。こうした専門家たちの協力を得られることは、この職場の大きな魅力の1つです。
どんな人に仲間に加わってもらいたいですか?
サーモフィッシャーには、「常に変化に適応する」という価値観があります。もちろん厳しい面もありますが、チャレンジを何よりも重視しているのです。会社も科学技術も研究も進化を止めることはありません。ですから、新しい知識をどんどん吸収して、自ら課題を発見し、前例にとらわれずに挑戦できる仲間を求めています。その上で、その課題をチームとして解決していくことを楽しめる方なら、すぐにでもサーモフィッシャーで活躍できると思います。
Photo by ikuko
Text by 米川青馬
Edit by ISSコンサルティング