異なるマーケット、コンシューマー、カテゴリーを経験してきたことが私の糧になっている
まずはブラジル時代のご経歴について聞かせてください。
大学では主にマーケティングを学びました。出身地のブラジルでは、大学時代にインターンシップに参加するのが一般的で、私はコルゲート・パルモリーブでインターンとして働き始めてそのまま入社し、以来20年、同社とグループ会社のヒルズで働いてきました。マーケティングの道に進んだのは、ものを通じて人との関係をつくることに興味があったからです。それにマーケティングはビジネス成長に直結しますからね。
コルゲート・パルモリーブは、ブラジルではハミガキ粉・石けん・洗剤などで広く知られており、働いてみたい会社の1つでした。インターン時代は、石けん・シャンプーなどのパーソナルケアを担当し、マーケティングの基礎を学びました。たとえば、消費者のあらゆるデータを集めてリサーチする方法や、あるいはユーザーや店舗のお客さまにインタビューして、製品をどう選ぶのか、自社製品の何に魅力を感じているのかを探索する方法を実地で経験しました。ブランドの重要性を理解した時期でもあります。インターンに参加することで、大学の友達と遊んだり生活を楽しんだりする時間を犠牲にしたわけですが、おかげで早くからビジネスの現場で成長することができました。かけがえのない期間でしたね。入社後2年で、オーラルケア担当のブランドマネージャーになりました。若くしてブランドマーケティング全体を任せてもらえたのも、インターンでの経験があったからです。
当時のコルゲート・パルモリーブ ブラジルは、歯ブラシやマウスウォッシュが主力製品でした。私はオーラルケア担当のブランドマネージャーとして、これらの製品の売り上げを伸ばし、会社の成長を支えました。たとえば、開発チームと協力して歯ブラシのイノベーションを行い、問題点を解決して消費者のニーズに応えました。この時に自分が会社に貢献する実感を得られましたね。ユーザーである歯医者さんたちから、さまざまな知見を得た時期でもありました。
その後、カスタマーマーケティングマネージャーやイノベーションマネージャーなどを経験するにしたがって、ビジネス全体を俯瞰的に眺められるようになっていきました。
ブラジルを出て、ニューヨークやメキシコではどのような経験を得られましたか。
ニューヨークやメキシコでの経験は、私にとって欠かせないものです。異なるマーケット、異なるコンシューマー、異なるカテゴリーのマーケティングを経験してきたことが、私の糧になっています。たとえば、一度目のニューヨークでは、ニューヨークにいながらにして南米全体のソリューションプランニングを行いましたが、やはりニューヨークでは、ブラジル時代とはかなり違う考え方になりました。
メキシコでは2010年から2年間、イノベーションマネージャーとして働きました。私が主に担当したのは、マウスウォッシュなどの新製品発売時のコミュニケーション施策です。特に、若者向けのデジタルコミュニケーションに力を入れました。テレビ・新聞などの従来型広告コミュニケーションは、クリエイティブから実施までのガイドラインが定められており、実施までに一定期間が必要になります。一方で、当時のデジタルコミュニケーションはまだ決まりが少なく、専門家同士が協力し合えば、少人数で迅速に進めることができました。それが楽しかったですね。
2012年、二度目のニューヨークには、グローバルマーケティングマネージャーとして赴任しました。この時は、さまざまなカルチャーショックを受けましたね。たとえば、世界には、木の枝で歯を磨く習慣がある地域があります。それらの地域においても都市部では歯ブラシを使う人が増えていますが、変わらずに木の枝を使っている人も多くいます。一方で、中国は歯ブラシのイノベーションが極めて速く、新製品が次々に発売されていました。私たちは、こうした国や文化の事情に合わせて、マーケティング戦略を大きく変える必要がありました。また、歯ブラシは3カ月に一度は交換した方が良いのですが、その事実を広めて教育する方法も、先進国と新興国では全く異なりました。振り返ると、ニューヨークという世界の中心地でグローバルマーケティング戦略を経験し、世界の市場と文化に触れた時間は得がたいものでした。
日本法人とヒルズ・グローバル・ペットニュートリションセンター(PNC)のつなぎ役となり、両者に大きなベネフィットを生み出すために尽力している
2015年、コルゲート・パルモリーブからヒルズに移りました。
私自身、ペットを飼っており、ペットフードはヒルズを買っていました。獣医さんもヒルズ製品を多く扱っており、周囲を見てもヒルズ製品の使用率が高く、昔から憧れのブランドの1つでした。ですから、ヒルズで働けることになった時は、「夢が叶った!」と思いましたね。
ヒルズはコルゲート・パルモリーブのグループ会社ですが、会社もカテゴリーも違いますから、私にとっては新たなチャレンジでした。オフィスも、ニューヨークからカンザスに移りました。ニューヨークでの経験や生活は実に素晴らしいものでしたが、当時は息子が小さかったこともあり、のどかなカンザスで暮らすのも良いと思いましたね。実際、カンザスは温かい人が多く、過ごしやすい場所でした。
ヒルズの社員には、2つの共通点があります。社員全員がペット好きであることと、何かのプロフェショナルであることです。さらに言えば、獣医さんやユーザーも、皆さんペットが好きなのですね。社内外で意思疎通が取りやすく、全体的にコミュニケーションしやすいビジネスだと言えるでしょう。
ただ、それだけに知識や知見が大事になります。私たちは、カンザスに「ヒルズ・グローバル・ペットニュートリションセンター(PNC)」を設け、全ペットのユニークなニーズ理解を日々深めています。PNCでは、180エーカーにも渡る広大な敷地に450頭以上の犬と450匹以上の猫が暮らしており、その犬猫たちとともに、ペットフードの栄養成分分析、ペットのライフステージに合わせた密度や硬さの算出、ペットたちのおならの分析、ペットが好むフードの香り・味・食感の研究などを進めています。PNCは、私たちが世界中の獣医さんから推奨を得るために、またペットの人生を変え、人とペットの関係を変えるために欠かせない役割を担っています。
2018年、日本ヒルズ・コルゲートに入社し、2022年には代表取締役社長に就任。何を実現してきましたか。
日本は、ヒルズにとって極めて重要なマーケットですから、日本に赴任することはポジティブでした。自分にとっては遠く離れた国でしたが、ワクワクしながらやってきました。
2018年当時、日本ヒルズ・コルゲートは、すでに日本市場で強固なブランド価値を築いていました。しかし、まだまだチャレンジの余地はある、とも思いました。たとえば 、獣医さんとの関係性をもっと強くしたり、製品説明や販売方法を更に改善したりできると感じました。日本市場全体を盛り上げ、その結果としてヒルズをもう一段上に引き上げることが十分に可能だ、と考えたのです。私はいつも現状に満足せず、チャレンジして結果を出すことを重視してきましたので、日本でも、仲間たちと協力してチャレンジしたいと思いました。
そこで、総合栄養食ブランドである「サイエンス・ダイエット」と「サイエンス・ダイエット〈プロ〉」のリローンチに踏み切りました。パッケージやコミュニケーションなどを一新し、より親しみやすく、より我々が考えるブランドイメージに近い位置付けになるように変更しました。また、獣医専任のセールスチームを立ち上げ、獣医さんたちやペットオーナーの皆さんとのコミュニケーションを改善しました。たとえば、いくつかのデジタルツールを開発し、獣医さんやペットオーナーとの距離をもっと縮める工夫をしてきました。
日本市場をどのように捉えていますか?
日本のマーケットは、ヒルズにとっては「パイオニア市場」です。ヒルズはいま小型犬に力を入れており、2021年には、アメリカ・カンザスに「小型犬専用のイノベーションニュートリションセンター」をグランドオープンしました。日本は小型犬が多く、小型犬の世界的なリーディングマーケットと捉えています。私はいま、日本法人とPNCのつなぎ役となり、両者に大きなベネフィットを生み出すために尽力しています。今後私たちは、小型犬向けペットフードにさらなるイノベーションを起こせるはずです。
それから、犬よりも猫が多いのも日本の大きな特徴ですね。世界の大半は犬の方が多く、猫が多い国や地域は珍しいです。ですから、私たちは猫にもフォーカスを当てています。
小さな実験を繰り返し、小さな変化を積み重ねていけば、次第に変化が楽しくなってくる
どんな人を求めていますか?
変化を恐れずにチャレンジし続ける人材を求めています。実際、私やリーダーたちが率先して手本を見せれば、若手社員たちも変化を起こせるようになっていきます。小さな実験を繰り返し、小さな変化を積み重ねていけば、むしろ次第に変化が楽しくなってくるのです。ですから、新たに入社する方も心配する必要はありません。怖がらずにチャレンジしてください。私は、そうやっていつも現状に満足せずに前に進む人、熱意を持って変化を起こす人を仲間に求めます。
また、私たちはダイバーシティを重視しており、誰もがその人に合ったキャリアを開発したり、心地よくスピークアップしたりできる職場環境を用意しています。トレーニングやOJT環境も整っています。インターナショナルなキャリアを積みたい人にも、ヒルズをぜひお勧めしたいですね。実際、海外に赴任する日本人社員もいますし、日本法人にも、オーストラリア・韓国・台湾・中国・フィリピン・ウズベキスタンなど、さまざまなバックグラウンドの社員が働いています。それから、盲導犬とともに働く社員もいます。もちろん、女性マネージャーも数多く活躍しています。多様性を重視する場で自分が求めるキャリアを目指したい方に、私たちの仲間になってもらえたら、とても嬉しいです。
Photo by ikuko
Text by 米川青馬
Edit by ISSコンサルティング