ビジネスを実践で学び、ピープルマネジメントのスタイルも転換してきた
現在に至るまでのご経歴を教えてください。
新卒でITサービス企業に入社し、10年間一貫してエアラインシステムの開発に携わりました。私は主に予約系システムを担当し、統計学を駆使した売上最大化の実現などを目指して試行錯誤する日々でした。10年かけて、お客さまのビジネスを本当に深く知ることができ、面白かったですね。アメリカに幾度も出張し、現地のシステム開発チームとあれこれ議論したのも良い思い出です。
10年間エンジニアとしてシステムデザインに携わる中で、もう少しビジネスに近い立場にチャレンジしたいと思いました。これまで航空業界をメインに担当していたので、他の業界や、システム以外のビジネスに関わってみたいと思っていたところ、お題を与えられて問題解決するコンサルティングに興味を持ち、1999年にコンサルティング業界に移りました。個人のプロフェッショナル意識が極めて高く、皆がコンサルティングについて熱く語り合う風土や、当時の会社の熱量は今でも鮮明に覚えています。クライアントの事業構想や中期経営計画の立案、M&Aのデューデリジェンスに関わったりと、多種多様なプロジェクトに携わることができました。
コンサルタントを経験した後、グローバルIT企業との事業統合を契機にビジネスマネジメント側に回る事となり、ビジネスの組み立て方を徹底的に学びました。売上目標を達成するためのシナリオを構想し、その後は必要があればリカバリーしながら、継続的に目標達成を確認していくやり方です。当時学んだことは、今も大きな糧になっています。またこの時代に、ピープルマネジメントのスタイルも転換できました。以前は部下に指示を出すスタイルだったのですが、私自身がコーチングを受けたことをきっかけに、部下に対して過度な口出しをしないピープルマネジメントを行うようになりました。最初は思わず口を出してしまうこともありましたが、指示しないマネジメントを続けるうちに、皆の動きや表情がどんどん良くなっていき、信頼関係も築くことができ、自律的な組織に変化していきました。活力ある組織になっていくとともに結果も付いてきたので、楽しかったですね。それ以来、私はこのマネジメントスタイルを続けています。
その後2015年に現在のPwC Japan グループに加わり、今に至ります。
IT部門を従来のバックオフィスから、PwC Japan グループを守る組織に
これまでどのようなキャリアを築いてきたのですか?
Transportation & Logistics Industryを新たに立ち上げ、それ以来、運輸・物流業界のコンサルティングビジネスに携わってきました。当時すでに、企業が常に何か新しいことをしないと生き残れない時代になっており、多くのクライアントがコンサルタントの支援を必要としていました。私はそうしたクライアントと一緒に、愚直に問題解決を目指し、ともに新しい価値を生み出していくスタイルです。そうやって信頼関係を築いたクライアントとは今も良い関係が続いています。
Transportation & Logistics Industryのコンサルティングパートナーを続けながら、エンジニア組織RDCの立ち上げもリードしました。AIやRPAを開発するエンジニア、SAPシステム導入エンジニアなどを増員して組織化したのです。その組織づくりが一段落したところで、PwC Japan グループ全体のチーフ・インフォメーション・オフィサー(CIO)に任命され、それ以来、CIOとコンサルティングパートナーを兼務しています。
PwC Japan グループのCIOとIT部門のミッション・役割を教えてください。
私がCIOに着任して以降は時代の変化に合わせて、IT部門を変える必要がありました。その背景には「DX」があります。DXとは、一言で言えばITの民主化だと考えています。誰でも簡単にITシステムをつくれる時代になった、ということです。実際にPwC Japan グループでも、IT部門の全社システムとは別に、グループ内の各法人が必要に応じて、いくつものシステムを開発・運用しています。
そこでIT部門としては、いかなるシステムにおいてもデータ漏洩やシステム侵入を許すわけにはいきません。かくしてIT部門には、各部門が開発したシステムのセキュリティやリスク管理、システム開発時のルール作り、ルール違反がないかどうかの見回り、といった新たなミッションが生まれたのです。
企業統制のフレームワークに「3つのディフェンスライン」モデルがあります。第1線が現場のオペレーション管理や内部統括、第2線は財務管理・セキュリティ・リスク管理・品質管理などのルールづくり、第3線は内部監査です。この3線で企業統制を図ろうとするのが、3つのディフェンスラインです。このモデルに当てはめると、従来のPwC Japan グループのIT部門は第1線をメインに守っていましたが、DXの登場によって、第2線側に大きく軸足を移す必要性が出てきました。従来のバックオフィスではなく、ユーザエクスペリエンスの改善による生産性の向上、ITガバナンスの運営によるレピュテーションリスクの最小化を行う、PwC Japan グループ全体を支える組織になったわけです。これは大きな変化でした。
具体的な取り組み事例を教えてください。
もちろん、全社システムの開発・運用といった第1線の仕事も続けています。「Improvement for PwC」と「Improvement for ourselves」を掲げ、全社システムとIT部門において自動化・統合・ソーシングを推し進めています。たとえば、全社勤務表のUXを改善し、カレンダーやスケジュールと組み合わせて利便性を大幅に高めたり、各プロジェクトの進捗状況・審査状況を一覧で把握できるようなマッシュアップシステムの開発を進めたりしています。一方で、私たちIT部門の業務をRPAなどで自動化し、業務負担を減らして、新たな価値を生み出すための時間をつくる努力も重ねています。
最終的には、アドミニストレーション業務を全面的に自動化・統合するところまで持っていきたいと思っています。全従業員がダッシュボードを確認すれば、全てを見渡せるようにするのが目標です。
一方で、IT部門のメンバーが現場の着想を直接ヒアリングし、現場で本当に役立つシステムを開発・運用する取り組みも進めています。システムの開発・運用を行うことに加えて、現場のDXを全体的に支援していきます。具体的には、デジタルツールがより効果的に活用されるために「DXコンシェルジュサービス」の企画検討を始めています。PwC Japan グループには、これからのデジタルリーダーを育成するトレーニングプログラム「Digital Accelerators」があります。このトレーニングを受けたメンバーがDXについてアドバイスするのが、DXコンシェルジュサービスです。私たちは彼らが質問を受けて返答するプラットホーム構築の構想を進めています。
今後はこれまで以上に各法人内にIT部門のメンバーが入り込んで直接支援する体制をつくる構想も練っています。この仕組みでPwC Japan グループ全体の組織力向上により貢献したいと思っています。
PwC Japan グループのIT部門は、一人ひとりがやりたいことを自ら企画して提案できる組織
どんな人に、IT部門に新たに加わってもらいたいですか?
PwC Japan グループのIT部門では、まず私からメンバーにIT部門のビジョンを示し、各チームリーダーが自分たちのやりたいことをまとめたプレイブックを作成しています。さらに、各メンバーもやりたいことを自ら企画しています。具体的には、各々が自身の年次計画を立案し、「こういうことをやりたい」と手を挙げて実行しています。私たちはこうした提案が歓迎され、実際にチャレンジできる組織なのです。
だからこそ、私たちはメンバーに「2つのジリツ」を求めています。「自ら考えて動ける自立」と「忖度なく提言できる自律」です。この2つは、私たちの行動規範にも則っています。PwC グローバルのValuesの1つ「Make a difference」は、常に世の中の情報に通じ、その将来について自分の意見を持つことを求めています。また「Reimagine the possible」は、現状に挑戦することをいとわず、新しいことを試すことを求めています。さらに「Act with integrity」の一環として声を上げることは、まさにPwCのValuesの実践例です。
一言で言えば、PwC Japan グループは今、これまで以上にプロアクティブな組織に変わろうとしているわけです。そのアクセラレーターになるような方に、仲間に加わってもらえたら嬉しいですね。
Photo by ikuko
Text by 米川青馬
Edit by ISSコンサルティング