「クリーンビューティー」という新しいカテゴリーを創る
ベアエッセンシャルに来るまでのご経歴を教えてください。
慶應義塾大学でESSに入り、ディベートやスピーチを学びました。相手の話を聞きながらリアルタイムで論点を考えてディベートしたり、その場で与えられるテーマでスピーチしたりする訓練を積むことで、話す/考える/表現する力を身に付けました。この力は、今も大いに役立っています。また、当時は大学のジャズバンドでシンガーもやっていて、大学の卒業式でも歌いました。アートも好きで、就職でアート方面に進むことも考えたくらい、表現することが好きでした。
大学卒業後、ノエビア化粧品に入社しました。早くから男女平等を掲げ、女性社員にオポチュニティを与えてくれる会社だったからです。宣伝部で、テレビCM撮影や広告制作のプロジェクトに加わりました。ただ、そのうちに英語を使って仕事をしたいと思うようになり、広告代理店で英語の広告制作プランニングを行ったり、エル・インターナショナルという化粧品輸入会社で輸入販売の仕事を手掛けたりしました。
次に入ったのが、化粧品メーカーのレブロンでした。マーケティング部室長としてブランドのポジションを再設定し、海外の有名モデルを起用し、マスマーケットより少し高い価格帯の市場に商品を投入する判断を行いました。その戦略は成功を収め、お客様の購入単価は上がり、店舗数が300店から1500店へと急拡大しました。続くイヴ・サンローラン・パルファンでは、エステティックサロンでイヴ・サンローラン商品を使用したエステコースを作り新規ビジネスを立ち上げ、日本版パウダーファンデーションやジャパン・シェードという日本独自のリップを開発しました。それからブルジョワに移って、マーケティング部部長として本当にいろんなチャレンジを行いました。最終的には、フランス本社から世界No.1マーケティング賞をいただくほどの成果を上げることができました。ブルジョワでは営業部部長も兼任し、取引先のいろんな方と仲良くなって世界が広がり、数字を作る面白さも知りました。
ブルジョワで10年頑張った後、レブロンに戻りました。当時の社長から、いつか戻ってきてほしいと、誘われていたからです。そして2012年3月、私はレブロンの代表取締役社長に就任しました。当時のレブロンは伝統あるブランドでしたが、日本では「眠れる獅子」でした。私はあの手この手で獅子を起こしました。たとえば、東日本大震災があった2011年には、塗るとひんやりするファンデーションを「節電ファンデーション」としてプロモーションし、売上を伸ばしました。いち早くYouTuberとコラボレーションしたPRイベントを開催したりして、宣伝会議やWWDなどの専門メディアに取り上げてもらい、デジタルに優れたブランドという印象を付けることができました。ビジネスとしては既存商品の底上げにも力を入れ、安心感・安定感のあるブランドという認知を高めました。結果的に、6年ほどでネットセールスを2.6倍に伸ばすことができました。
正直なところ、私はレブロンでビジネスをやりきったと感じ、引退してスローライフを送ろうと考えていました。ところが縁あって、2022年8月からベアエッセンシャルの社長を務めています。
なぜベアエッセンシャルの社長に就任したのですか?
実は私は、2017年6月から日本輸入化粧品協会の理事長を務めており、日本の化粧品業界全体のことも考える立場に立っています。ベアエッセンシャルの「ベアミネラル」は、世界で注⽬を集める「クリーンビューティー」のパイオニアブランドです。今、業界としてもクリーンビューティーには注目をしています。そのタイミングで、アメリカ本社(オルヴェオン グローバル)の経営者から「ベアミネラルを日本で広めるのに力を貸してほしい」と言われ、もうひと頑張りしよう、と私の心に火が付いたのです。「クリーンビューティー」という新しいカテゴリーを日本に創っていきたい、力のある「ベアミネラル」ブランドを創っていきたい、そう思いました。
「ベアミネラル」はSDGs時代に即したクリーンビューティーのパイオニアブランド
ベアミネラルとクリーンビューティーについて教えてください。
クリーンビューティーにまだ明確な定義はありません。それを決めるのも、私たちの仕事のひとつだと考えています。現状、私たちが作った暫定的な定義は、「肌に負担となる成分を使わずに、製造や処⽅に透明性を持ち、さらに地球環境にまで配慮して作られた化粧品」です。
ベアミネラルは、クリーンビューティーのパイオニアブランドです。1995年、サンフランシスコの創業メンバーが、5種のミネラル成分だけを使用したオリジナル ファンデーションを作ったところから始まりました。ベアミネラルのファンデーションやスキンケアなど、主要な製品のほとんどは、動物由来の成分を含まない「ビーガン フォーミュラ」です。パラべン、フタル酸エステル、紫外線吸収剤、PG(プロピレングリコール)、マイクロビーズは一切使っていません。また、これから先も動物実験は行いません。地球にも優しいサステナブルな商品です。
ベアミネラルの主力商品は、クリーンでナチュラルな「ミネラルファンデーション」です。これは100%、自然界に存在する鉱物や海や土の成分からできています。付けたままで寝ても大丈夫なほど肌に優しいファンデーションで、敏感肌・弱い肌の方やお子様にも安心して使っていただけます。もちろんフェイスだけでなく、アイ、リップ、ブラシ&ツール、スキンケアなどの領域で、クリーンビューティーの商品を幅広く展開しています。
今後のビジネス戦略を教えてください。
ピラティス教室とのコラボレーションイベント
がんと向き合う女性を応援するオンラインメイクセミナー
私は2022年8月に社長に就任したばかりで、今まさに戦略を練っている最中です(※インタビューは2022年11月)。SDGs時代、地球環境重視の時代の追い風を受けて、ビジネスは上向いています。可能性の大きなブランドであることは間違いありません。時代に即したブランディング戦略・マーケティング戦略を練り上げて、効果的な施策を次々に立ち上げれば、必ずブランドは大きくなると確信しています。
そのために今、さまざまなことにチャレンジしています。たとえば、女医さんたちによるクリーンビューティーの討論会、ピラティス教室とのコラボレーションイベント、子供向け「ハロウィンメイク」オンラインイベント、男性向けオンラインビューティーセミナー「Beauty kick-off for men」、がんと向き合う女性を応援するオンラインメイクセミナーなどを、次々に実施しています。化粧品業界での私の経験を若い方々に伝えて、キャリアの参考にしていただく「ベアミネラル キャリア塾」も開いています。
もちろん新商品も増やしていきます。先日は、新商品「ミネラリスト マット リキッド リップカラー」を売り出すと同時に、東京、大阪のビーガン カフェと「カフェタイムリップ」というコラボレーションを行いました。このイベントはSNSでかなりの話題になりました。私は、こういうちょっとした成功を重要視しています。いろんなタッチポイントを試して、小さな成功を増やし、気付いたらみんなで大きな成功を実現している、という状態にしたいと思っています。小さな成功体験の積み重ねこそ、勝利への近道だからです。
一方で、現在の最優先事項は、既存店の売上を高めることです。また、私たちはECを重視しており、既に売上の約45%が自社ECですが、今後は自社以外のECプラットフォームにも積極的に出店して売上を高めるプランを組んでいます。そうやって多角的に取り組んで、来年には売上を40%アップに、2年後には2倍近くにまで増やしたい、と考えています。ベアミネラルは、そのくらいのことを十分に実現できる潜在力を秘めたブランドなのです。
「売れっ子になりましょう。でも、人生は手こぎです」
新社長として、今組織をどのように変えていますか?
私は、「社長はみんなの“おっかさん”だ」と考えています。レブロン時代も今も、社員全員をケアしながら、仕事を任せて、うまくいったら褒めることを最も大切にしています。日頃から、「髪切った? いい髪型じゃない」とか「この服、ステキね」と話しかけて、私はみんなを見ていますよ、と伝えるようにしています。ただ、時には厳しい言葉をかけて、負けず嫌いの心に火を付けることもあります。単に優しくすればよい、とは思っていません。一人ひとりに合わせたスピードや声の掛け方をします。一番大事なのは、彼らが育つことです。
私がよく言っているのは、「売れっ子、売れる人材になりましょう。でも、人生は手こぎです」という言葉です。成功を掴むためには、失敗してもいいから、自分の力で前に進むことが大切です。失敗したり、進む方向が曲がったりしたら、軌道修正すればいいんです。とにかく前に進みながら、科学的に試行錯誤して小さな成功体験を積み重ねていけば、いつの間にか実力が付いて楽しい人生になっているはずです。私は社員全員を売れっ子にしたいんです。仕事を利用して、自分の夢を叶えてもらいたい。そのために、褒めたり厳しく接したりしながら、みんなを人生のステージに立たせるのが、私の役目だと考えています。そして、ゆくゆくは化粧品業界をリードするような人材になってもらいたいです。
まだ着任してたった数カ月ですが、社内の雰囲気は変わってきています。特に、セールスチームが明るくなりました。また先日、アメリカ本社(オルヴェオン グローバル)からグローバルCEOが来日したのですが、ひとりの社員が、彼に「現在は売上世界第3位の日本法人が、1位のアメリカ、2位のイギリスを追い抜いて、世界トップになるためには何をしたらよいのでしょうか?」と問いかけるという出来事がありました。こういうパッションをCEOに向けて発してくれたことが、私は本当に嬉しかった。社員たちをさらに後押しして、力強いメンバーがたくさん在籍する会社にしていきます。
どんな方を求めていますか?
第一に、クリーンビューティーに興味がある方です。その上で負けず嫌いで、誰かを喜ばせたい、という気持ちのある方だといいですね。マーケティングも営業も他の職種も、目の前の相手をもっと喜ばせたい、お客さまをもっと幸せにしたい、そしてブランドを強く大きくしたい、という気持ちが最も大事ですから。
ベアエッセンシャルでは、自分の意見をどんどん口にしていただいてかまいません。私たちは、言いにくいことも正直に言い合うことを大切にしています。「私はそう思いません」といったことも、どんどん発言していいのです。そうやってディベートすることが、良いブランドづくりにつながりますから。ベアミネラルは、CEOから若手までの全員が一緒になって考え、創り上げていくブランドです。
私のもとで働く以上は、自分なりの夢を抱いて、良質な経験を積んでいただきたい。そうして最終的に、良い人生だった、ベアエッセンシャルで働いてよかった、と感じていただけたら、こんな嬉しいことはありません。
Photo by ikuko
Text by 米川青馬
Edit by ISSコンサルティング