そろそろ自分の好きなブランドを成長させてみよう、と入社を決めた
マース ジャパンに入社するまでのご経歴を教えてください。
小学校から高校までは、人生をサッカーに捧げていました。負けず嫌いは子どもの頃からで、うまくなりたい一心で大変な練習も頑張りました。高校ではチームキャプテンを務め、チームで成果を出すことの難しさを知りましたね。今の社長業にもつながっている体験です。大学時代は哲学に興味を持ち、ニーチェやキルケゴールなどを読みました。
新卒でシャープに入社したのは、ユニークな製品群に惹かれたからです。しかし、いったん働きだしたら、若いうちにビジネスを学び直したいと思うようになり、退職してアメリカのサンダーバード国際経営大学院に入りました。やはりMBAを英語で学ぶのは大変で、しょっちゅう徹夜で勉強しましたね。英語には苦労しましたが、あるとき突然聞き取れるようになりました。何より刺激を受けたのは同級生たちの存在で、たとえば本気でメキシコの国全体を良くしようと志す同級生がいたりしました。彼らの視座の高さに感銘を受け、自分も視座高く、視野を広く持とうと思うようになりました。
帰国後は、ジョンソン・エンド・ジョンソンに入社して、プロダクトマネジャーとなりました。一度目のキャリアの転換点です。全体をホリスティックに見ながら取り組める仕事で、ものづくりとマーケティングの楽しさを存分に知ることができました。P/L責任を持ちながら、リサーチ、宣伝、商談を含めたすべてに関わりました。日本のシェアの高かった歯ブラシやバンドエイドなどを担当し、やりがいも大きかった。思い出深い日々ですね。
次の転職先にシック・ジャパンを選んだのも、少数精鋭組織で、マーケティング全般を分業せずに担当できたからです。当時のシックはグローバルで伸びていた会社で、成長に伴って、日本だけでなく、アジアパシフィック全体のマーケティングディレクターも担当しました。そうしたらあるとき、「次は日本法人の社長(ゼネラルマネジャー)にならないか」と言われたんです。正直、当時は、社長とはただただ大変な仕事だ、というイメージを持っており、あまり気が進みませんでした。ところが、やってみたら実に面白かった。人生二度目のキャリアの転換点です。営業・サプライチェーン・消費者・社会にいたるまで、ビジネスに関わる全部を俯瞰的に見ながら仕事ができる、とても醍醐味に感じました。さまざまな戦略を講じた結果、着実に業績を伸ばすことができました。
2016年からは、フランス発のフレグランス・コスメ・スキンケアブランド「コティ」日本法人(HFCプレステージジャパン合同会社)の日本代表を務めました。その後、2020年8月にマース ジャパンにやってきて、今に至ります。
なぜマース ジャパンを選んだのですか?
20年前に初代のゴールデンレトリバーを飼い始め、現在は2代目と暮らしているのですが、マースのペットフードブランドの1つ、ニュートロの製品を長らく愛用しているので、親しみがありました。これまでは仕事とプライベートを分けて考えてきたのですが、キャリアの終盤くらい、自分の好きなブランドを成長させる仕事をやってみよう、と思ったのが、最も大きな理由です。私は日本人社長として、日本からグローバルにメッセージを発信すること、マース ジャパンを元気づけること、この2つを期待されています。そうした期待にも応えられると思い、引き受けました。
入社1日目、コロナ禍ということもあり、私のために全社を挙げてリモートでウェルカムセッションを開いてくれました。サプライズで始まった部署ごとの紹介は、各部署が工夫を凝らして準備をしてくれていて、コントあり、歌ありとユニークな内容で、誰もが本当に楽しそうだったんです。その時点で、「この会社はまだまだ、成長に向けて一丸となれる」と確信しました。
中国やインドがマース ジャパンのビジネスモデルを学んでいる
マースはどのような会社ですか?
マースは、100年以上の歴史を持つ家族経営企業です。マースでは、会社全体、また各事業部で「使命(Purpose)」を定めていますが、これは、四半期単位で結果を求めるのではなく、世代単位での長期的なアプローチが可能である家族経営だからこそできるものです。マース全体の使命は、「私たちが望む明日の世界の実現は、今日の私たちのビジネスへの取り組みから始まる」と定め、日々の業務の中でもさらなるチャレンジを目指す意気込みを示しています。また、ペットケア事業の使命は「ペットのためのより良い世界(A BETER WORLD FOR PETS)」、スナック事業の使命は「おいしい時間が、世界中を笑顔にする(better moments make the world smile)」です。そして、何より私たちは、使命(Purpose)が伴わない成果(Performance)は無意味であり、成果なくして使命を成し遂げることは不可能だと考えています。使命と成果はどちらも追い求めるべき目標なのです。そして、私たちにとっては、あくまでも使命が最上位の価値なんですね。第一に強調したいことです。
マースのビジネスについて詳しく教えてください。
現在のビジネスは、大きくペットケアとお菓子に分けられます。ペットケアには、「シーバ®」「カルカン®」「シーザー®」「プロマネージ™」「アイムス™」など、ホームセンターやスーパー、ドラッグストアなどで販売している一般向けブランドと、「ニュートロ™」「グリニーズ™」といったペット専門店で販売しているブランドがあります。多彩なブランド展開、ライフステージごとのニーズに合わせたフード、さまざまな形状(ドライフードやウエットフードなど)、いろいろなチャネルでのペットフードの販売を通じて、栄養面から使命の実現を果たしています。
お菓子には、「スニッカーズ®」「M&M’S®」など、世界でも日本でも長年愛され続けているブランドがあります。さらに昨年、「BE-KIND®(ビーカインド®)」という米国発のナッツバーブランドを日本市場で発売しました。人工甘味料を一切加えていないヘルシー志向のナッツバーで、急成長を遂げています。ここまでご紹介したとおり、マースにはペットケアでもお菓子でも、日本でよく知られたブランドが多く、各ブランドが長期的に力強く成長を続けています。
それから、ビジネスに加えて、マースが独自に環境負荷低減に向けて設定しているプログラム「Sustainable in a Generation Plan(次世代に向けた持続可能な環境整備プログラム)」も積極的に推進しています。マースが展開している事業を通じて最も影響を与えることができる3つの分野「健全な地球」「人々の繁栄」「ウェルビーイングの充実」に焦点を当てた取り組みです。例えば、2025年までに100%リサイクル可能なパッケージの採用を目指すことで、プラスチックパッケージの廃棄を削減してリサイクル率を高める取り組みや、カカオ農家の生活水準の向上のためにカカオ生産量増加と女性の社会進出などの地域に根差した課題の解決の支援なども行っています。どれも、使命とサステナビリティを実現するために重要な取り組みです。
マース ジャパンの方針や戦略を教えてください。
以前から、日本のペットケアマーケットは世界中から注目されています。なぜなら、ペットケアに関しては、日本が世界の最先端を走っているからです。まず、高齢まで生きるペットが非常に多く、ペットフードにこだわる飼い主の方が極めて多いところです。日本で暮らしていると普通に感じるかもしれませんが、こんなに多くのペットが長生きする国は、稀なんですね。室内飼いやペットの家族化が進んでいることも、大きな特徴です。ビジネス面で言えば、ペット専門店向けブランドのビジネスモデルは、実は日本独自のものです。将来、他の国でも同様のことが起こるだろうと考えられており、中国・インドをはじめとする各国が、マース ジャパンのビジネスモデルを学んでいる最中です。私たちは、アジアの国々から注目されながらも、現状に甘んじることなく、さらに前を向いて改善を進めています。
また、グローバルでも日本でも、ペットケアマーケットは好況を迎えています。コロナ禍に入って皆さんの在宅時間が長くなり、ペットを新たに飼う方が増えたこともひとつの要因です。今、私たちがチャレンジしようとしているのは、使命に沿った啓発活動です。ペットケア事業の使命である「ペットのためのより良い世界」を実現するための柱の1つに「飼い主のいないペットの撲滅」を掲げています。ペットフードの開発・製造・販売のみに終始するだけでなく、ペットと人が共生してより良い社会が実現できるように、「ペットの飼い主責任(動物に対する責任、社会に対する責任)」の啓発活動や、動物保護団体のサポートなどの取り組みをはじめとした活動を日本でも展開していきます。
お菓子に関して言えば、日本マーケットに適した製品開発に力を入れていきます。例えば、最近、日本では、たんぱく質の摂取を重視する方が増えています。その変化を受け、私たちはBE-KIND®(ビーカインド®)ブランドの新製品として、植物由来のプロテインを摂取できる「BE-KIND®プロテイン ダークチョコレート&アーモンド」を日本主導で開発しました。今後も、こうしたマーケティングチャレンジを次々に起こすことで、日本市場でも「おいしい時間が、世界中を笑顔にする」の使命を実現させていく予定です。
何ごとにおいても使命を最重視する会社
どのような社風で、どんな方を求めていますか?
何度も触れてきたとおり、何ごとにおいても使命を最重視する会社です。また、私たちが意思決定を行う際には、必ずマースの五原則(品質・責任・互恵・効率・自由)を中心に考えます。もちろん、マースの五原則も使命に沿っています。新たに入社する方にも、使命への共感とカルチャーフィットを第一に求めます。
一方で、各国の経営の自由度は高く、自主権が大いに尊重されています。日本向けの新製品を積極的に開発できるのも、自主経営が可能だからです。私の役割は、日本人社長として、本社やグローバルに対して「日本マーケットに合わない施策にはNoと言うこと」や「日本独自のニーズをアピールすること」です。私としては、自分たちと一緒になって、日本マーケットに合ったビジネスを推進してくれる仲間を求めています。
当然ながら、コロナ禍の現在は、原則在宅勤務体制を取っていますが、アフターコロナも在宅勤務・オンラインワークを基本としつづける予定です。これは、長期間の在宅勤務体制を通じて、社員も、また、会社としても「理想の働く場所」に関する考え方が変化したことを背景とした決定です。複数回にわたる社員へのアンケートの結果を踏まえ、社員のニーズの多様化を確認したことから、「オフィスの役割」を見直し、現物の確認や対面必須のチームビルディングなど「オフィスでしかできないこと」と、「オフィスでなくてもできること」を分けて考えることにしました。また、オンラインワークになってから、むしろコミュニケーションがより円滑になったチームもあり、オンラインの雑談を増やす工夫などをしていけば、在宅勤務のデメリットはほとんどないと考えているからです。先日は、全社オンライン会議の後に、小グループごとにバーチャル店舗をはしごするオンライン懇親会「マース ジャパン横丁」を開催して、大いに盛り上がりました。私も、バーチャル割烹店の主人となって頑張ったんですよ。また、カジュアルなコミュニケーションからビジネスのヒントが生まれるのがマースのカルチャーなのですが、在宅勤務の中でも自発的にオンライン雑談を誘い合う動きも出てきています。こうした工夫はいくらでも可能です。
ただ一方で、やはりチームがオフラインで顔を合わせて話をすることも大切ですから、週に1度はオフィスミーティングを推奨するなどして、バランスの良い「スマートワーク」を推進したい、と考えています。
最後に、読者へのメッセージをいただけたらと思います。
私は、決して社長になろうとして働いてきたわけではありません。どうしたら周囲の仲間や会社に貢献できるかをよく考えながら、目の前のやりたい仕事に一生懸命取り組んでいたらキャリアが広がっていきました。人生は一度きり。後悔のないよう、やりたいことにチャレンジしたほうが良いと思います。もし、チャレンジしてみたいことがマースにあったら、思いきって飛び込んできてください。一緒に楽しく働きながら、使命を実現していきましょう。