外資系企業でマーケターとしてご活躍の方々に「仕事の魅力」「キャリア」についてお伺いしていくインタビュー。今回は、世界の化粧品業界のリーダー『日本ロレアル』望月 良輔さんです。(聞き手:鈴木玄)
プロダクトを通じて人が輝く瞬間を届けたい
日本ロレアルに入社するまでのご経歴を教えてください。
中学高校と父親の仕事の関係で4年ほどベトナムに住み、インターナショナルスクールに通いました。ベトナムがドイモイ政策(社会主義に市場経済システムを取り入れる政策)を経て、工業化と近代化を進めている時でした。現地での刺激的な生活を通じて、さらに多様な文化的背景を持つ仲間と切磋琢磨して勉強し、視野がぐっと広がりました。その後、大学ではソーシャルイノベーションを学びました。買い手・売り手・世間の「三方良し」を実現し、単純なお金儲けではなく、世の中にポジティブな影響を与えられるビジネスとは何かを考えるようになりました。また、将来的には、人生を豊かにする・自己実現を後押しする、そんなプロダクトやサービスをグローバルで展開する仕事をしたいと強く思うきっかけになりました。
大学卒業後は、香水をはじめとした香り商材に力を入れているフィッツコーポレーションに就職しました。
理由としては、まず香水というプロダクトの面白さにあります。香水自体は、生活の必需品ではありません。目にも見えません。しかし、気分やオーラを演出することができ、人生を豊かにし、コミュニケーションの潤滑油にもなりうるものです。そのコンテンツ性が非常に面白く、好きだなと思えました。また、海外のブランドを輸入販売するだけでなく、日本でも製品開発を行いグローバル展開している点にも興味を抱きました。「社会人としてすぐに活躍したい」という想いがあった私にとって、小規模な組織で幅広い仕事を早く任せてもらえそうな環境、業界No.1を狙えるのではと感じる香水業界の可能性に魅力を感じ、フィッツコーポレーションを選びました。
新卒で入社した会社では、どんな仕事をされましたか?
4年ほど在籍し、最初の2年は営業、残りの2年はブランドマネージャーを経験しました。営業時代は、EC企業へのルート営業からはじまり、専門店や百貨店の香水売場も担当しました。お客様に一番近い現場で学ぶことができ、行動の成果を短期スパンで見ることができたので楽しかったですね。
ブランドマネージャーへの異動後は、海外の香水ブランドを担当しました。日本での販売計画を練り、ブランドを大きくするのがミッションでした。1ブランドにつき担当1人の少数精鋭組織でしたので、需要計画などの物流や宣伝販促までの幅広いプロセスに携わりました。振り返ってみると、この頃の「折衝する」経験での学びは大きかったですね。海外ブランド製品が日本市場にマッチするとは限りません。いかに製品の持ち味を理解し、日本で展開するか。ときにはコンセプト、香り、パッケージの変更を提案することもありました。変えなければいけない点をどうやって海外メーカーなどの関係者に理解してもらうのか。ブランドマネージャーとしてオーナーシップをもって折衝し、相手に理解してもらい、物事を進めていく経験を積むことができました。この経験は今にも活きています。
日本ロレアルへの転職のきっかけは何だったのですか?
ブランドマネージャーとして働く中で、マーケティングを体系的に学びたい、と思うようになりました。また、海外メーカーと仕事をしながら、海外のブランドだったらどんなふうにビジネスを作り上げるのか興味が湧きました。グローバル展開するブランド側で市場を理解してみたいと思ったんですよね。それが転職のきっかけです。
ロレアルは、お客様を理解するためのリソースが豊富です。フォーカスグループインタビューやコンシューマーテストといったお客様に関わる情報を収集するノウハウを多く保有しています。それまで携わってきた香水と、ロレアルの「フレンチ」というエッセンスに親和性が高かったのもよかったですね。プロダクトやサービスで、多様な人々に輝く瞬間を与えたい。さらに、それを国際的なレベルで展開していきたい。それは、私が仕事を選ぶ原動力です。ロレアルは、世界no.1の化粧品会社であり、それを十分に実現できそうだと感じられたのも大きかったです。
信頼できる裏付けとストーリーで製品を訴求する
日本ロレアルでの仕事内容を教えてください
コンシューマー プロダクツ事業本部「ロレアル パリ」ブランドのヘアカラーのプロダクトマネージャーとして入社しました。「ロレアル パリ」のヘアカラーカテゴリーでビジネス規模が大きいのは、白髪染めです。前職では10代や20代をターゲットにしたブランドを担当していたため、改めて消費者を理解するチャレンジとなりました。女性向けの製品は自身がターゲットとならない場合もあります。店頭に足を運び、お客様の声を聴き、自分でも使用感を確かめながら、身をもって製品の良さを語れるようにしていました。
1年半後にヘアカテゴリー全体を統括するグループプロダクトマネージャーに昇進。3年ほど経った後、アクティブ コスメティックス事業部へ異動し、マーケティングマネージャーとして「ラ ロッシュ ポゼ」ブランドを担当しています。スキンケアは初めてのチャレンジでしたし、ラ ロッシュ ポゼの成長ポテンシャルにも興味がありました。
担当されている「ラ ロッシュ ポゼ」は、どのようなブランドですか?
「ラ ロッシュ ポゼ」は、敏感肌用のスキンケアブランドです。もともと、フランスの中西部にラ ロッシュ ポゼ村という地域があり、湧き水が皮膚疾患に効くといわれていました。この効用を利用して製品を展開しています。ラ ロッシュ ポゼ村には、ターマルセンターと呼ばれる水を利用した治療センターがあるくらいです。全世界で82ヵ国、9万人以上の皮膚科医が製品を採用し、皮膚科医の先生方との結びつきも強いブランドです。日本でも皮膚科領域での販売からスタートし、今ではバラエティストアやドラックストア、オンラインチャネルで販売しています。
他の化粧品とは違う特徴のあるブランドですが、どのようなマーケティングを行っていますか?
特徴的なのは、深い製品知識が求められるブランドだということです。例えば、「乾燥に効きます」という言葉の裏には、なぜ乾燥に効くのかというデータやロジックを説明できなくてはいけません。グローバルチームからデータを集めたり、ときには日本の皮膚科医の先生方とクリニカルテストを行ったりしながら、製品の効果性能を確認していきます。
製品の信頼性とストーリーがあるからこそ、BtoBの皮膚科領域だけではなく、BtoCの一般流通でも支持を得ることができます。逆に、消費者調査で得たニーズを、製品が持つベネフィットとして皮膚科医の先生方にもアピールできる。それも「ラ ロッシュ ポゼ」の強みだと思います。
「ラ ロッシュ ポゼ」は半期に一度新製品を発売するサイクルです。消費者ニーズに敵った製品を展開するにあたって、1つ1つの製品に対して消費者にきちんと届く戦略を綿密に作り上げることが求められます。
最近の成功例は「トーンアップUV」のマーケティングです。昨年春に発売した製品ですが、2年目になって各段に売上が伸びました。これは私のマーケティング経験のなかでもはじめてのことです。
売上アップの要因の一つは、投資を集中させる戦略です。2年目も継続的な投資を行い、メディアに対して「トーンアップUV」を集中的に売り込むことができました。また、ファンや口コミを増やすアドボカシーマーケティングも効果的でした。「トーンアップUV」は、メディアに掲載された月に売上が伸びるだけではなく、その後もうなぎ上りに上昇していく形で成長しています。その裏側には、「私はトーンアップUV派」とファンを増やすマーケティングが活きています。
SNSでのタグを利用して口コミを訴求させるのもその一つです。セレブリティやトップインフルエンサーだけでなく、多くの消費者の方々が、自然とトーンアップUV派と口にするようになる。売上が伸びたのは、皆様に製品を手に取ってもらえるように工夫を重ねた結果だと思います。
マーケターとして、今後取り組みたいことを教えてください
今後は、マーケティングの壁を超えてビジネスの成長に果敢に関わっていきたいですね。より広範囲な視点を持ってビジネスを引っ張るリーダーになるのが目標です。
マーケティングマネージャーに着任してからは、ブランドを成長させるため、マーケティングに限らず、営業やファイナンス的な観点も求められます。事業部長や他のマネージャーたちと切磋琢磨し、闊達な意見交換ができることも、自分の糧になっています。
幅広い興味のアンテナがマーケターの深さをつくる
望月さんから見て、ロレアルはどんな会社ですか?
個人の考えを尊重する土壌が強いと感じます。意見を上から押し付けるのではなく、その人の考えを聞き入れ、出来る限り実現しようとします。多様な意見やアイディアを発信して聞き入れる双方向性がありますね。納得感を形成した上で、より良いコラボレーションを生み出す姿勢を大切にするカルチャーです。
また、フィードバックを重視する文化があります。上司だけでなく部下や同僚からの360度フィードバックで頂いた意見や課題は気づきが多く、自分が成長する大きなきっかけとなっています。
ご自身のチームでどのような人を求めていますか?
まずは、幅広く世の中のトレンドに興味を持てる人ですね。ビューティーのトレンドだけではなく、アートやファッション、メディカルやヘルスなどアンテナの広さが思わぬところでマーケティングに活きてくるので、チームにお迎えする方には期待したいと思います。
「ラ ロッシュ ポゼ」は、敏感肌をお持ちの方や、皮膚疾患で悩まれている方が主なターゲットです。美しくなるだけでなはなく、お客様が内在的に抱える悩みに寄り添えるかどうかは、マーケターとして重要な資質だと思います。
仮に製品が売れても、悩みを払拭できなければ成功とはいえません。ニーズをきちんと把握して、役に立ちたいと思えるかどうか。その関心と共感が大切です。一般の消費者の方だけではなく、皮膚科医の先生、オフライン・オンラインチャネルなど、それぞれのステイクホルダーが求めることを理解し、真摯に向き合える方が、この会社で伸びていくのではないかと思います。
それから、チャンスもチャレンジも楽しもうという精神ですね。壁にぶつかったときに、乗り越える方法を建設的に考え、解決策につなげられる人。たとえば、問題が発生した場合に、個人の責任はなくてもブランドの責任者として対処しなければなりません。そのとき、どれくらいの気概を持って関係部署を巻き込んで動けるのか。そこもマーケターに求められる姿勢ですね。
最後に、転職を考えている方へメッセージをお願いします。
ロレアルは事業本部、ブランド、カテゴリー間の異動・昇進など、キャリア機会が豊富ですし、研修など学びの機会には事欠かない環境です。私自身もコンシューマー プロダクツ事業本部とアクティブ コスメティックス事業部でヘア、メイク、スキンケアカテゴリーを経験してきました。多種多様のブランドやポートフォリオを有しているからこそ、磨かれる経験値があります。
最近だと、プロダクトマーケティングとデジタルマーケティングの垣根がどんどん低くなっており、私のチームでも組織・個人の両方の成長を目的に意図的な担当変えをしています。マーケティング全体でデジタルを意識しつつ、異なる役割や部署の仕事も理解する。そうした意味では、仮にポジションが変わっても、抵抗なく新しい業務に就くことができますね。
私自身思うのは、マーケターとは製品を作り上げて育てるプロデューサーだということです。それには、仕事だけではなく、自分の人生やライフスタイルを見つめなおす必要があります。考えて、企画をし、必要な人々に協力を仰ぐ。こうしたスキルは、仕事だけではなく、人生も豊かにする視点だと思います。