マーケティング影響力の大きさとプロダクトの勢いに惹かれ、アモーレパシフィックに入社
アモーレパシフィックに入社するまでのご経歴を教えてください。
青山学院大学文学部英米文学科卒業後、宝飾品のミキモトでの販売員からキャリアをスタートしました。というのも、青山学院大学時代に毎年イギリスで学びヨーロッパを旅する中で、普遍的にどこの国でも通用する付加価値が高い商品を広めることに興味を持ったのです。それで日本が誇る国際的なジュエリーブランドを選びました。
ミキモトでの現場経験は、お客様のダイレクトな感情やハイクラスのお客様とのやりとりが勉強になり、今でも顧客目線を貫くビジネスの原点を養えたと思います。余談ですが、社会人20年目の節目の際、記念になるものを買いたくて、かつてお世話になったミキモトの店長からジュエリーを買いました。このような、記念に買いたくなる「色あせないブランド」を扱う醍醐味が、仕事選びの根底にあるような気がします。
次に、学生時代に感じていた「海外で仕事をしてみたい」思いを実現するため、ヨーロッパなどでコレクションをするデザイナーブランドに興味を惹かれ、ファッション業界に転職しました。海外の一流バイヤーなどと接する刺激的な日々で、ブランドアイデンティティーに則って仕事をする重要性を学びました。
その後、日系化粧品のインターナショナルブランドに転職し、さらにマーケターとしての新たなドアを叩きました。コスメ業界はファッションと比べると企画やローンチのスピードが速いことや、治験や研究などの科学的要素が強いことから、よりマーケターの力量が問われると感じたことを覚えています。
さらに伝統的な欧州のジュエリーブランドでのマネジャー経験を経ながらも、やはりコスメ・ビューティー業界での経験を積みたいと思い、ドクターシーラボに転職しました。
ドクターシーラボでは、今思い返すと自分のキャリアのターニングポイントとなる経験が詰まっていました。シンガポール法人の立ち上げを始めとした企業間のデューデリジェンスの経験や、日本国内のブランド戦略の設定や舵取りを担当し、そして素晴らしい経営陣や上司、同僚から多くを学ばせてもらいました。
なぜ転職先にアモーレパシフィックを選んだのですか?
これまでの経験で、付加価値が高いプロダクトやブランドを扱う魅力に加え、コスメ業界ではマーケティングの影響が大きい点にやりがいを感じていました。そんな中、韓国化粧品業界のリーディングカンパニー、アモーレパシフィックでスリーピングビューティー分野の先駆け的存在であるブランド「ラネージュ」のブランドマネジャーを探しているという話が舞い込んできました。
実は11年ほど前、前職の赴任先のシンガポールで、アモーレパシフィックの店舗が近くにあり、韓国コスメの勢いに着目していました。スリーピングマスクに代表される睡眠美容にポテンシャルを感じていましたが、当時の日本での知名度はそれほど高くありませんでした。そのブランドが満を持して日本でローンチされ、そのスタートアップのマネジャーということで挑戦しがいがあるポジションだと思い、入社を決めました。興味がある領域でブランド立ち上げが出来るのは幸せなことだと感じました。
入社後は、ラネージュブランドの発売に向け、メディア発表や店頭イベント準備、SNSの運営やインフルエンサー施策など、大急ぎで準備に奔走しました。ブランドの立ち上げはなかなかできる経験ではありません。忙しいながらもやりがいを感じる日々でした。
科学要素で差別化できる点がマーケティングの醍醐味
現在の役割や注力されていることを教えてください。
現在もラネージュのブランドマネジャーを担っています。ラネージュというブランド名は、「La・Neige(雪)」というフランス語が由来で、「スキンケアを通して、雪の結晶のように輝く美しさを世の中の人にお届けしたい」という想いを込めてネーミングされています。ブランドマネジャーとして、ブランド全般の舵取りや方向性決定から、MD、SNS、展示会などのイベントまで管理しています。商品がお客様に届くまでの全ての工程を網羅して、マネジメントしています。
現在注力しているのは、ラネージュそのものの認知拡大です。アモーレパシフィックは1945年に創業した韓国化粧品業界のリーディングカンパニーで、メイクアップブランド「ETUDE(エチュード)」、ナチュラルライフスタイルブランド「INNISFREE(イニスフリー)」など有名人気ブランドを有していますが、「ラネージュ」は日本で販売してまだ3年目です。まだまだ認知が足りないと感じています。ブランドそのものに加え、ラネージュが生み出す「好奇心と科学が生み出したスキンケア」という世界観も含めて、啓蒙的に認知拡大を狙っています。
そのために、本社やグローバルとの連携は密にしています。日本でのローカライズの特徴としては、ブランドヒストリーや開発秘話、成分などを意識的に伝えるようにしています。本国の研究員に日本の展示会やメディア向けの発表会などに直接参加してもらい、消費者への安心感を高める努力をしています。
このような取り組みを通じて、商品を使ったお客様側から積極的に発信されるUGC(User Generated Content)を増やし、認知拡大を狙っています。全ての方々に知られるまではまだ時間がかかるかもしれません。まずは美容高感度層など、私たちが商品をお届けしたい人に絞って、その方々の反応を引き出すような体験型コンテンツなどを拡充する予定です。
アモーレパシフィックならではのマーケティングの特徴はどのようなところですか?
アモーレパシフィックの最大の強みはサイエンスです。最近は日本でも韓国コスメがメジャーになりつつありますが、アモーレパシフィックの強みは科学や研究に裏打ちされていることです。コスメ業界はスピード感が速い面白みがあります。一方で、話題性だけのプロダクトではマーケットから淘汰されるスピードも速いとも言い換えられます。
その点、アモーレパシフィックはデータドリブンでストラテジックな考え方が強い企業特性が強みです。特に日本では数字の根拠や正確性にこだわる文化があるので、アモーレパシフィックの600名のリサーチャーや大きな研究所の存在はアピール材料になります。
また、トライ&エラーのスピードが速く、変化に対して柔軟に最新のテクノロジーで対応しようとする風土も魅力です。その影響か、私自身も研究員に開発秘話を突っ込んでヒアリングするようになりました。他社の商品の勉強をしたり、自分で買って成分を調べたりもしています。化粧品に限らず、洋服や食品やワインなどライフスタイルにも好奇心のアンテナを張るような感度の体質になりましたね。
ただサイエンスを武器にブランド名を知ってもらうだけではなく、ラネージュが面白い商品作りをしていることも合わせて伝えていきたいと思っています。消費者が求めることを感性で捉えつつも、リサーチでの根拠などを加え、定性・定量のバランスにこだわっています。
アモーレパシフィックで働く魅力を教えてください。
サイエンスとスピードが、他社との違いになると思います。韓国にあるアモーレパシフィック本社は、ドラゴンシティといういま話題の場所にあります。本社ビルには託児所や社食も完備され、外観も内観もとても洗練されており、街とともに躍動感がある発展を遂げている印象があります。
さらには本社から1時間ほど離れた場所にある研究所にも、アモーレパシフィックが誇るサイエンスが裏打ちされています。東京ドーム1.8倍ほどの広さの敷地があるのですが、そこまで広大な研究施設を持っているメーカーはなかなか存在しないと、メディアやインフルエンサーからも驚かれます。
研究所では自然との共存を大切にしながら、環境とITテクノロジーを駆使して「美しさ」を考えられる空間になっています。例えば「寝ている間にスキンケアができないだろうか」や「クリームとローションを一体化できないだろうか」などの素朴な疑問や発想を、すぐにサイエンスの力で商品化できる環境が整っています。日常的なちょっとしたことをサイエンスの力で可能にした本物のスキンケア商品、スキンケアブランドを生み出す好奇心という原動力が溢れていますね。また、このようなアイデアを形にするサイクルが速いことも魅力です。化粧品は敏感に消費者トレンドを捉える必要があります。変化に対して柔軟にトライ&エラーを重ねていける体制が整っています。
そんな環境で当社が掲げるビジョンである「New Beauty」が生まれています。アモーレパシフィックが追求するNew Beautyとは、誰もが自分ならではの美しさを発見し実現する人生のことです。誰かに定義された美しさではなく、自由に自分で美しさを定義できる。この点が、アモーレパシフィックならではの特徴だと思います。
ブランドの成長過程を当事者意識を持ちながら楽しめる方にジョインしてほしい
アモーレパシフィックのカルチャーや入社後の仕事イメージを教えてください。
データドリブンやストラテジックな考え方が、カルチャーとしては強いと思います。日本では、化粧品に対して安心安全を求められ、数字の出所や根拠に厳しいため、信頼性があるデータしか出せません。本社から送られるデータの裏付けが必要なのはもちろんのこと、時には研究員とともに臨床試験の結果も含めたプロダクトストーリーを展開しています。
ただし、データだけではなくブランドの感性も重要です。韓国コスメは良くも悪くも最近は話題になりやすいため、一過性の流行で終わらせないようなブランドストーリーを描き、そこにデータの裏付けをしていくような感覚かもしれません。
当社の場合、立ち上げフェーズのブランドも多いため、自らブランドを作り上げていく醍醐味が味わえます。現在は6つのブランドがあり、基本的には入社時のブランドにコミットします。国を超えた異動は基本的にありませんが、国を超えて本社に集うような機会は頻繁にあります。グローバル会議では戦略についてのミーティングだけでなく、様々な国の担当者と混ざっての懇親会やベストドレッサー大会のようなイベントもあり、グローバルでのコミュニケーションが活発で楽しいです。
どんな人が活躍していますか?
アモーレパシフィックには、自発的でありセルフスタートがきれる人が多いように思います。具体的には、好奇心が旺盛な人、ゼロから形を作ることが好きな人、何ごとも自分ごと化して捉えられる人、というような特徴をお持ちの方は、アモーレパシフィックに向いています。
韓国コスメは現状で右肩上がりではあるものの、まだまだ発展途上です。だからこそ裁量をもらえて自発的に動けることに意義を感じられる人には、大きなチャンスがあります。スタッフレベルでもある程度の権限があるので、プロアクティブに動きたい方や好奇心旺盛な方に満足してもらえるフィールドがあります。
語学に関しては、韓国語が堪能な方は本社とのコミュニケーションがしやすいメリットがあります。ただ、私も韓国語ができないので英語でやり取りをしますし、英語も韓国語もできないスタッフは日常的なやり取りは翻訳ツールを使うことでコミュニケーションをとり、特に不便を感じることはないようです。
なおアモーレパシフィックは中途入社社員が多いため、バックボーンや性別・年齢などの多様性があることも特徴の一つです。中途入社者の方のほとんどは、過去のキャリアをフル活用している印象があります。アモーレパシフィックは多様性を受容しているため、中途の方でもこれまで培ってきたものを大いに活かしていけます。
サイエンスを重視しているアモーレパシフィックだからこそ、新しくジョインしてくださった人との化学反応は楽しみにしているポイントです。
インタビューを終えて
聞き手:コンサルタント 安齋 陽子
これまでに複数のコスメ業界でマーケティングや新規事業立ち上げのご経験を積んでこられた中村さんは、スキンケアの成分や効能について深く研究されており、博識として社内でも一目置かれている存在です。コスメ以外にも、食やファッションに旅行と興味の幅は広く、その好奇心の旺盛さがマーケターとしてはもちろんのこと、中村さんの人生の豊かさにも繋がっているように感じました。
Photo by ikuko
Text by 松本久美子
Edit by ISSコンサルティング