ブランディングと製品企画の両立に惹かれマースに入社
マース ジャパンに入社するまでのご経歴を教えてください
大学卒業後に日系の消費財メーカーで営業部に配属されました。九州で3年間ドラッグストアやGMSのバイヤーに対して提案や売り場提案を行っていました。
私はもともと「衣食住」に携わる仕事に興味があり、食品や日用品など身近で接点があるもので「人に勧められる製品を扱いたい」という思いが企業選びの際の根底にありました。
その後マーケティング部門に異動し、パーソナルケア製品のブランドマネジャーや中国のマーケティングを担当することになりました。これが私のマーケターとしての出発点です。
実は「マーケティング」という職種は、当時は未知なものでした。
営業として活動している際に、来店したお客様にいかに楽しい買い物体験をしてもらえるか工夫をしており、取引先であるGMSのバイヤーに新しい店頭ディスプレイの提案や、消費者目線に立った企画提案などを積極的に行っていました。そんな活動を見た当時の上司が、私のことをマーケティングでも活躍できるのでは、と考えて、マーケティング部へ推薦をしてくれたようです。
ただし「本社・マーケティング部門」への異動が決まった時は、営業の面白さが分かってきた時期だったこともあり、喜びより不安が大きかったことを覚えています。
戸惑いながらもマーケティングの世界に飛び込み、2年目に大きいブランドを担当した時に、マーケティングの面白さを体感しました。
同時に、消費者の心を動かすことの難しさも痛感しました。営業は自分のアクションがすぐ購買に反映されますが、マーケティングは全国・全世界が対象となることや、製品や施策のローンチまでに時間がかかるため、その感覚の違いに難しさを感じました。
一方で、マーケティングの“手触り感”のような、重要な気づきも得られました。
当時のお客様相談室に来る声は、お叱りの声もありつつも「使って良かった」「この製品がない生活は考えられない」などが大半です。このリアルな声に、マーケティングに携わることでより多くの、そして全国・全世界の消費者の心を動かせるという喜びを感じたのです。
その後中国でもマーケティングを行いましたが、ちょうどコロナ禍だったので、現地に行けずリモートで対応していました。
苦労をしたこともありますが、日本以上に中国はデジタルマーケティングが進んでいたので、むしろ勉強になることも多かったです。
なぜ転職先にマース ジャパンを選んだのですか?
1社目ではマーケティングの基本を学べたのですが、少し気になっていた点は、ブランディングと製品企画が組織的に分かれていたことです。
マースではその二つを同時に実現できることに、魅力を感じました。
それに加え、面接の時に良くも悪くも正直に情報提供してくれ、驚きとともに誠実さを感じました。例えば、面接で自分がやりたいことを言ったときに、難しさなどの現実もあえて教えてくれたのです。
アピールだけを押しつけないマースのスタンスに触れ、私も自然に「選ばれる」だけではなく「選ぶ」という対等な意識になったことを覚えています。
面接で象徴的に思い出すのは、面接官から聞かれた「マースに入ったら良い人になれました」というセリフです。確かにお会いした方々も各々個性はありつつも、誠実性は共通していました。
ブランドを真摯に世の中に伝えるためには、会社にエンゲージするカルチャーが浸透しているマースで働きたいと思い、入社を決めました。
ペットを通じてオーナーの幸せまでも考えられる醍醐味
マース ジャパンでの役割や現在注力されている仕事を教えてください
入社後、シーザーという犬のウエットフードを1年、翌年にはカルカンやシーバの猫のウエットフードを担当。その後、シーバのドライフード、ウエットフード、おやつなどのトータルブランドを管轄するマネジャーになりました。
短期間でいくつかのブランドを経験しているのには背景があります。実は、もともとは、フォーマット(フードの形状)ごとに担当が分かれており、例えば、複数ブランドの猫のドライフード担当者、複数ブランドの犬のウエットフード担当者、といった形で異なるブランドを一人のブランドマネジャーが担当する形になっており、ブランドは違うのに同じようなアプローチになってしまい、それぞれのブランドの強みが薄れてしまっていました。それをブランドごとにポートフォリオを作成したことと、加えて組織体制などの変化もあり、現在の形になっています。各ブランドを前面に打ち出してブランディングと製品企画機能を両立できるため、やりがいを感じています。
ただしマースは工場が海外にある製品が多いため、製品を企画する際にどこまでR&Dメンバーに日本の要求を受け入れてもらえるのか、というチャレンジもありました。
そこで、ブランドのビジョンやその製品が市場や消費者に与えるインパクトを共有することで目線を合わせ、開発部門の協力を得ることに注力しました。またローンチ後はR&Dメンバーの活躍や苦労などの開発秘話ストーリーを社内共有し、開発部門のエンゲージメントを高めるように心がけています。
携わったなかで特に印象に残ったプロジェクトはありますか?
一つ目は、カルカンの消費者キャンペーンです。
具体的には「対象製品を買って応募すると、応募1口につき1袋のカルカンパウチが保護猫施設に届けられる」というマストバイキャンペーンでした。
このキャンペーンは業界紙による賞にも選ばれ、授賞式にも登壇することになりました。当時は担当が変わった直後で、出来ることを夢中で進めていた感覚はありますが、外部からも認められた仕事ということで印象に残っています。
今担当しているシーバにも印象に残る取り組みがあります。
シーバは、単に「茶色い粒」や「ほぐし身」という「愛猫のためのおいしいごはん」を提供しているわけではなく、猫とペットペアレンツ(飼い主)のつながりや空間を演出する、というブランドが大切にしている想いが消費者に伝わり切れてない、ということからリブランディングを行うことにしました。
そこで「高級でおいしい」のような漠然としたポジションではなく、シーバの提供価値の根底を考える、クロスファンクションのプロジェクトをスタートしたのです。
大きなリブランディングをリードする機会はあまりないので、チーム全員が脳に汗をかき疲れ果てることもありました。ですが半年間のプロジェクトを経て、ブランドの輪郭が分かってくると、よりブランドへの愛着が湧きました。チームの全員がシーバの代弁者となり「皆で同じ船に乗る」という一体感が生まれたプロジェクトです。
顧客からの反応も嬉しいものでした。
キャンペーンを始めるとSNSで、私たちが目指した通りの反応が得られたのです。広告動画を最後まで視聴してくださる方も想像以上に多かったですね。
単なる広告を超え、消費者の方々とのコミュニケーションを通じて、ブランドの世界観を共有できた手応えがありました。マーケティングの神髄を感じた貴重な経験です。
マース ジャパンならではのマーケティングの魅力・特徴はどのようなものですか?
一つは私自身ペットが好きで、かつペットと一緒に暮らす世界に強い想いがあり、その事業に関われる純粋な喜びがあります。
さらに、ペットだけではなくペットペアレンツ(飼い主)の生活に潤いが与えられるのもやりがいです。
前職では、あくまで使う人の喜びだけを考えていましたが、マースではペット以外に、ペットが食べる姿や元気に過ごす姿を見て喜ぶペットペアレンツ(飼い主)までが含まれます。一つの製品で、倍の喜びが得られるようなマーケティングの広がりが魅力です。
もちろんペットは人間の言葉を話せないので、製品を選ぶ飼い主の方の心も動かす必要があるのは、やりがいでもあり難しさでもあります。
口に入れるものなのでおいしいだけではなく、成分の安全性はもちろん、パッケージ、売り場のレイアウトまで工夫して、数ある製品の中からマースに興味を持って頂くことを心がけています。
もう一つの魅力は、他の会社では組織で分断されがちなブランドを、トータルで管理できることです。マネジャーとして全体マネジメントする「ブランドの社長」のように思って仕事を進めています。
もちろんその分、責任も追いますし自律的に推進することも求められます。私自身はこの環境が、マーケターとしての筋力アップになっていると感じています。
ブランドへの想いとチャレンジ意欲がある方に入社してほしい
マース ジャパンのカルチャーや入社後の仕事イメージを教えてください
私はマネジャーとしてメンバーをマネジメントしていますが、実務も兼務しています。そのため、メンバーは部下というより一緒に戦う仲間と認識しています。
会社全体でも、組織の上下関係よりもブランドの観点が強く「このブランドに携われて良かった」と思える働き方を志向しているように思います。
チーム同士のコミュニケーションも活発です。
よく社内では「アライン」というワードを使うのですが、これは「決裁」というより「OK」のような意味合いで使われています。
当社には「マースの五原則」がありますが、そのなかの「責任の原則(Responsibility)」に表現されているように、現場に近い人を尊重し責任を持たせるカルチャーがあるのです。
ただチーム全体の合意を重視するため、場合によっては決定に時間を要することもあります。良くも悪くも組織の垣根がない仕事の進め方が特徴でしょう。
その分、周囲からの関与やサポートはとても手厚く、より良いアウトプットのためのディスカッションも頻繁にしていますね。
グローバルチームともディスカッションはよく行いますが、ローカル各国をバックアップするスタンスが特徴的です。グローバルでのブランドのガイドラインはあるのですが、ローカルを尊重してくれいて、お互いのコンフォートゾーンを見つけるような関与をしてくれています。
また、マースには部下のキャリアアスピレーションを実現するのもマネジャーの役割で、全てのアソシエイトはキャリアを実現する権利があるという考え方があるのも特徴だと思います。
アソシエイトのサポートができるよう、マネジャー向けのトレーニングセッションも月1回開催されています。目標設定、1on1のようなコンテンツを一つずつ学びながら、実践しています。
個人的に、マース入社後には「コーチング」の概念が新鮮でした。
今までは、マネジャーはメンバーに「ティーチング」していくものだと思っていましたが、マースでは「コーチング」も場面によっては必要なスキルとなります。ただ解を与えるのではなく、本人の内側にあるWILLを引き出すアプローチは、部下を育てることにもつながり、マースの良さであり強みだと感じました。
私自身、この方法で自分のキャリアを切り拓いてきました。
もともと「ブランドマネジャーになりたい」とぼんやりと描いていたのですが、入社後にラインマネジャーと目標設定やキャリアの話をしている中で、確信が高まっていきました。そのおかげで、マネジャーのプロモーションの機会が来た時には、躊躇なく手を挙げられました。マースではこのプロモーションのプロセスもユニークで「昇進審査パネル」というものを経て昇進できるかどうかが決定されます。このパネルでは、上司だけではなく関係部署のステークホルダーも評価者として出席している場で昇進候補者がプレゼンテーションをし、それを聞いた人々によるディスカッションの結果、昇進の可否が決定され、フィードバックと共に昇進候補者に戻されます。このフィードバックは、昇進の結果に関わらず、今後の能力開発に生かされ、さらなる成長を目指すことに繋がります。
また、年齢よりも適性やチャレンジ意欲を重視しているので、最近は若手社員のマネジャーへの登用も進んでいます。「自走する組織」を標榜しており、多様な考え方の人材登用や採用をすることで、組織に刺激を生むことを大事にしているからです。
どんな人が活躍しやすいですか?
最近はローカル独自の文化を重視した、日本独自の製品も増えています。そのため、採用も次の時代を見据えた人を求めています。
ブランドを大事にしている会社なので、ブランドにのめり込める・ブランドを背負う気概を持った人を歓迎しています。
同時に、消費者側の視点にフラットに立てるバランス感覚も重要です。製品が消費者に届くまでの全てのプロセスにこだわり、考え抜ける人なら、マースで楽しく働けると思います。
ペットを飼っているか/いないかは、重視していません。
日本でのペット飼育率は20%程度なので、そこを条件とすると転職マーケットでの候補者も狭まってしまいます。マースの場合も入社後にペットを飼い始めた社員も含めて、ペット飼育率は30%程度でしょうか。
スキル的には、周囲からの意見を受け入れられる人は成長スピードが速いと思います。
ただ聞き入れるだけではなく、コンフリクトマネジメントの視点を持ち、自分の信念と周囲のアドバイスを融合できる方は馴染みやすい気がします。
また中途入社で活躍している人材は、クロスファンクションの環境で周囲とコラボレーションしながら、推進するスキルを持っている傾向があるでしょう。
前職で培ったスキルで一点突破するようなタイプの方もいますが、総じてスキルに依存せずに、周囲に働きかける感性が強いように思います。
マースはブランド同様、人間関係でも上下や組織の垣根がない良さがあります。「世の中で新しいものが求められている」など意見を言う社員がいれば、それを支援するカルチャーが強い会社です。
年齢問わず、自分でブランドを育てたい・創りたいというチャレンジ精神を持つ方であれば、心理的安全性が確保された環境で、才能を存分に開花させられるのではないでしょうか。
インタビューを終えて
聞き手:コンサルタント 鈴木秀和
山口さんとは以前から面識があったのですが、あらためてご経歴やマーケティングへの思いをお聞きすることで、山口さんの大事にされていることをお聞きすることができました。最前線で大活躍されているマーケッターのお話ですので、マース社で働くことのイメージを持っていただけるのではと思います。様々な外資系企業でブランドマーケティングのポジションを募集していますが、マース社はカルチャーや日本市場の中での裁量の大きさなど、他企業にないユニークな点が沢山ありますので、本インタビューを通じて、そのあたりもご理解いただけますと幸甚です。
Photo by ikuko
Text by 松本久美子
Edit by ISSコンサルティング