早くサーバント・リーダーシップを学べて幸運だった
セールスフォースに入るまでのご経歴を教えてください。
大学までは、音楽漬けの日々を送っていましたね。音楽はいまだに大好きで、バンドも続けています。大学3年生のときに1年休学してイギリスに留学したんですが、帰国して復学したら、もう就職活動の時期がだいたい終わっていました。それで大学の先輩に相談し、先輩の会社を受けに行き、入社したのがプライス・ウォーターハウスでした。
当時プライス・ウォーターハウスは130名規模、ITコンサルティングに力を入れていく変換期でした。それまでプログラミングなど勉強したことがなかったのですが、プログラミング研修の成績はダントツの1位。小さなときからヘリクツばかり言っている子どもで、知らず知らずのうちに論理思考が身についていたのだと思います。当時はプログラミングが楽しくて仕方なかった。そのままITコンサルタントとして、大規模システム改修プロジェクトのメンバーに入りました。
入社から4年後、ERPパッケージベンダーのJD Edwards(現・日本オラクル)に移りました。当時関わっていたプロジェクトでJD EdwardsのERPパッケージを使用しており、その経験を活かしたいと思ったからです。私はJD Edwards日本法人の5人目の社員でした。すでにERPパッケージを使いこなしていたこともあって、すぐにマネジャーに昇進したんですが、そこで苦労しましたね。第一に、ビジネス英語が全然できなかった。しかし、上司はアメリカ人ばかりです。彼らを説得しようと努力を重ねていたら、数年で英語がかなり上達しました。採用面接も担当しましたが、基本的にJD Edwardsは無名の会社でしたから、採用は大変でした。私が選抜するというよりも、なぜ私がここにいるのか、JD Edwardsの製品がどれだけ素晴らしいか、3年後、5年後のビジネス展望・将来像を具体的に説明して、安心してもらう面接でしたね。
幸運だったのは、JD Edwardsが「サーバント・リーダーシップ」の会社だったことです。若くしてマネジャーになったので、サーバント・リーダーシップという考え方は非常にありがたかったです。実力ある年上のメンバーの皆さんが私の部下にいたのですが私はサーバントに徹して彼らをフォローしていけばよいのですから。このマネジメントスタイルは、いまも変わっていません。最初に本当に良い環境でマネジメントを学ぶことができました。最終的に、JD Edwardsでは、コンサルティング・プリセールス・営業・アライアンス・マーケティングの部門長を歴任しました。社長とバックオフィス以外の仕事は、ほぼ全て担当しました。部門の立て直しも行いました。
次の日本アリバ(現・SAP Ariba)は、米アリバ社とソフトバンクの合弁会社で、私はまずマーケティングを担当しました。「半年でアリバを一気に有名にしよう!」という目標のもと、短期間でジョイントベンチャーのパートナーシップを組みながら、大規模イベントを開催したり、メディアに打って出たりしました。CMO、Channel VP等を務め、もちろん大変でしたが、やりがいも大きな仕事でした。
その後、今一度ゼロからのスタートアップを経験したく友人のベンチャー企業を少し手伝ってからインフォアジャパンに転職しました。慣れ親しんだERPの世界でしたから、すんなり入っていけました。JD Edwardsは会計・流通が中心でしたが、インフォアでは生産管理を担当。未知の分野を学べる楽しさもありました。中国出張が多かったのも新鮮で嬉しかったですね。
そして、2011年にセールスフォースにやってきました。
お客様の「おもてなし文化」を高めることが重要だ
セールスフォースではどのようなことをしてきたのですか?
最初に就いたのは、未経験分野である公共部門担当のプリセールス部門シニアディレクターです。入社してすぐに極めて短期間で公共サービス向けの新システムを立ち上げるプロジェクトを担当。これがうまくいったことで軌道に乗り、金融業界も担当することになって、最初の3年は目の回る忙しさでした。
転機は2014年にやってきました。日本で新しくマーケティング・クラウド部門を立ち上げることになり、その責任者に抜擢されたのです。既存のBtoB向けに加え、BtoC向けのポートフォリオを創るため、企業買収も行いました。アジア&パシフィックの上司などと密に連携を取ってビジネスを軌道に乗せ、優れたメンバーが集まる良いチームを創ることができました。そして3年後、事業が成長しプロダクト軸の事業部編成へと組織変更となりました。その後、私はマーケティング・クラウドだけでなく、全製品の営業部を統括するポジションに就いて、いまに至ります。
セールスフォースのマーケティング・クラウドの優位性を教えてください。
最も大きく違うのは、アメリカ本社の日本市場へのコミットメントの強さです。それを象徴するようなエピソードがあります。マーケティング・クラウドの立ち上げ責任者になったとき、私は、日本でビジネスを拡大するにはLINEと提携する必要があると考え、本社に提案しました。そうしたら、「実はLINEとは1年ほど前から交渉を始めていて、もうすぐ契約が締結される」と言うんですね。これには私も驚きました。そのくらい、セールスフォース本社は日本のマーケットに深い興味・関心を持っており、日本でのビジネス成功にパッションを傾けているんです。そんな会社はおそらく他にないでしょう。
それ以外に2つ、私たちの強みを紹介すると、1つは営業支援からビジネスを始めていることです。そのため、創業当初から、「お客様のビジネスの成長」を極めて重視する文化が根づいています。
私が特に力を入れてきた取り組みに、「ジャーニー・ワークショップ」があります。最近ますます、個々人の方向けにカスタマイズする、その人に合ったサービス提供をする、「パーソナライゼーション」がマーケティングの主流の考え方になってきていますが、弊社のマーケティング・クラウドは、One to One のカスタマージャーニーを実現させるためのソリューションです。しかし、マーケティング・クラウドを導入するだけでビジネスが上向くわけではありません。簡単に言えば、お客様企業の皆さんが、そのお客様を「おもてなしする力」が問われるのです。お客様のマーケティングチームに「おもてなし文化」を導入し、おもてなし力を高めていただかなければ、マーケティング・クラウドの効力は最大限に発揮されないんですね。そこで、おもてなし文化を築き、お客様のビジネス成長を実現していただくために、私たちはお客様と一緒にカスタマージャーニーを考える、ジャーニー・ワークショップを行ってきました。
例えば、そうですね、デジタルカメラを例にカスタマージャーニーを考えてみましょう。現状、デジタルカメラの売上は量販店の店員さんに大きく左右される構造になっており、メーカー各社がそこにコミットすることには限界があります。しかし、マーケティング・クラウドを使えば、メーカーのファンになってもらうことの後押しは十分に可能なんです。どうするかというと、例えばメール・LINEなどで「カメラの楽しい使い方」を伝えていくんです。購入から1カ月後に「●●機能の使い方」を、3カ月後に「●●の撮影方法」をという感じで、少しずつ適切な情報を伝えていく。お客様との継続的な接点を創り、ファンになってもらおうというわけです。
この、お客様に購入していただくまでのカスタマージャーニーを設計する際に欠かせないのが、「おもてなし力」なんですね。おもてなしが上手になってくると、運動会シーズンに「晴れの地域」と「くもりの地域」に分けて、LINEで「晴れたときの撮影方法」「くもりの日の撮影方法」をそれぞれ伝えるといったことができるようになります。運動会は、お父さん・お母さんが最もカメラを使う日の1つ。そうしたところに標準を合わせて、きめ細やかなカスタマージャーニーを用意していけば、ファンを増やしていけるんです。ファンが増えれば、買い替え時に圧倒的な優位に立てます。ジャーニー・ワークショップでは、こうしたアイデアの出し方を学んでいただき、どんどん実践していただいています。
もう1つの強みは、セールスフォースが「マルチテナント」であることです。セールスフォースの製品は、いずれも世界に常に1バージョンしか存在せず、古いバージョンが一切ありません。これがマルチテナントの大きな特徴です。そのため、旧バージョンのメンテナンスの必要がなく、エンジニア全員に現バージョンのイノベーションに集中してもらえる体制が整っています。つまり、マルチテナントだから、イノベーションのスピードが速い。この点も私たちの明らかな特長です。
自分のやりたいことをやるパッションがあれば伸びる
今後はどのようなことに注力するのですか?
企業の経営トップへの働きかけを強化していきたいと考えています。というのは、カスタマージャーニーを突き詰めていくほど、大規模な統合CRMが必要になってくるからです。経営トップにカスタマージャーニーの重要性を感じていただき、CRMへの投資をもっと増やしていただかなければ、カスタマージャーニーの発展・進化が止まってしまう恐れがあるんです。私たちのビジネスにとっても、これは重要なことです。すでにいま、個人情報はある程度までパブリック化されています。出会う前から、デジタル上で顧客一人ひとりのことをある程度知ることができますし、既存顧客のことはもっと深く知ることができます。マーケティング・クラウドとカスタマージャーニーによって、お客様を知り、お客様の気持ちを掴み、お客様をつなぎ止めることの重要性がますます高まっているわけです。そのことを経営トップの皆さんにも、より熱く伝えていきたいと思っています。
どんな方と一緒に働きたいですか?
JD Edwards時代から一貫して感じていることですが、どんどん伸びるのは「自分のやりたいことをやっている人」です。企画書などを自分で納得するまで仕上げたり、お客様のことに興味を持って自分なりに調べたり、自分なりに知識をストーリー化したり、自分の関心をベースにして主体的に動いたりする人です。セールスフォースの仕事に関係することなら、どんなことでもかまわないので、何かにパッションと興味を持っている方と一緒に働きたいですね。