心の底から仲間たちを信じ、任せる
インビザライン・ジャパンに入社するまでの職歴を教えて下さい。
大学・大学院ではアメフトに熱中しました。アメフトは世界で最も会社組織に近いスポーツで、企業の部署や役職などと同じようにプレイヤーの一人一人に細かく役割が決まっています。私の任されていたポジションはランニングバックと言って、私以外の仲間全員が敵チームから私を守り、私は仲間のサポートを受けながら1ミリでもボールを前進させる、そして1点でも多く得点を勝ち取ることが役割でした。ランニングバックのプレーを通して、全体の状況を俯瞰して見る視野、1ミリの隙間でも突破する道を見つける感覚、相手と自分の相対的な速度や位置関係で相手の動きをコントロール出来ることを学びました。何より、結果を出し切ること、そしてチームのために全力を出し尽くす精神が身に付いたことは社会人経験に大きなプラスとなっています。勉学においては、アメフトとの両立を図るためにも論文や卒業というゴールへの最も近い道を探し、最大限効率的な方法を情報収集しながら研究をした結果、極めて短い時間でアウトプットを出せるスキルと習慣が身に付きました。アメフトや勉学で身に付けたことは、いまでも仕事で役立っている基本的かつ大切にしているスキルです。
大学院修了後は、国内新卒採用プロセスを始めたばかりのアメリカ大手食品会社・マースに入社しました。短期間にいくつものプロジェクトリーダーを経験できるプログラムで入社し、実際に3年間4部門(営業・人事・マーケティング・SCM)でプロジェクトリーダーを経験しました。たとえば、社会人1年目の2004年10月から新卒採用リーダーを任せていただき、採用戦略の立案から社長を含めた面接者のトレーニング、また就職説明会では1500名の学生さんたちを前にプレゼンテーションや対談イベントなどを経験させて頂きました。経験した4部門の中でも本格的にビジネスの面白さに気付いたのはSCMで、全社横断的に業務を推進出来ること、また自分が推進し達成したコスト削減が企業全体の利益に直結することを体感出来たことは、将来のキャリアに繋がる大きな経験でした。
その後ジョンソン・エンド・ジョンソンへ転職し、薬剤溶出ステントではWorldwide SCMの日本担当、また血液検査試薬・機器のSCMを担当しました。どちらの製品も患者さんの命に関わる製品かつ国内マーケットシェアが非常に高かったため、絶対に欠品させるわけに行きません。特に薬剤溶出ステントは日本の全社KPIに大きな影響を及ぼすほど売上高も在庫高も大きかったため、一つ一つの判断や責任は重大でした。海外メンバーとの調整業務が多い仕事でしたが、一緒に働く海外メンバーの中には文化の違いなどから日本の細かい要求や意図が伝わらず日々試行錯誤していたことを鮮明に憶えています。
特に大変だったのが、血液検査試薬のSCMを担当していた際に起こった東日本大震災(3.11)。上司が前後数週間不在で、海外と交渉出来る日本のSCM担当は私1名でした。震災当日はオフィスから自宅まで防災用ヘルメットを被り徒歩で深夜に帰宅し、電気も暖房もない寒さの中、ダウンジャケットを着て頭にはヘッドランプを付け、PC越しに各国に情報共有し細かく指示を出して入荷の交渉や調整をし続けました。血液検査試薬が欠品することは手術や輸血が出来なくなり命を左右する可能性がある製品です。あの当時、万が一にも自分の判断違いで海外から国内に入荷出来なかった場合、国内供給はゼロになる状況でした。3月11日以降、日々何万人と増加する被災者などが手術や輸血を出来なくなることは何万人、何十万人の命が失われる可能性に繋がるため、全身全霊で対応した人生でも忘れられない修羅場の一つでした。成田や羽田などの航空輸送、国内の主要な陸路など流通が大混乱してしまったため、正直あのときは、自分の指示で製品が日本に届くか祈るような週末でした。何としても命を守り切るんだと心を燃やしながら国内外のメンバーと働いていた記憶があります。そんな非常事態において、海外の仲間が日本のために全力で助けてくれました。航空便の確保、成田・羽田以外の空港の確保、陸路の確保、通常では発生しない想定外の困難に対して先回りをした交渉と手配を続け、日本のために誠心誠意尽くして対応してくれた結果、製品は無事予定通り日本に到着。1件の欠品も発生させずに乗り越えることができました。それ以降、どんな困難であっても、自分がすべきことを全てやり切れば仲間たちは応えてくれる、心の底から仲間たちを信じ任せられるようになりました。今でも忘れられない出来事です。
20代後半の頃、将来の夢や目標、目指すべき姿を考え始め、30歳のとき「45歳で社長になる」という目標を立てました。当時、自分の中で仕事・働くことに対して明確な定義が見つかり、「自分を最大限に生かして、社会に貢献すること」が、自分の短い人生で与えられた使命だと腹落ちするようになりました。自分を最大限にストレッチして生かし、仕事を心から楽しんで社会に貢献するためには、その裁量を持たなければ成し遂げられないと考え、現実的で若干ストレッチな15年後というタイムラインで目標設定しました。この目標達成には、SCM以外の経験を多く積む必要があり、成長企業で全社オペレーションを統括リードする経験が積めるブランド・ロイヤルティ・ジャパンでオペレーション・ダイレクターとなりました。少人数ながら効率的に売上・利益を高めている外資系企業で、新製品導入・マーケティング・法務対応・QA/QC業務・SAPの立ち上げなど、望み通りにさまざまな業務に携わり、会社組織づくりや短期間で+60%以上の事業成長をリードする経験を積むことができました。また、社長の間近で、経営者としての判断や視点、海外本社との連携の仕方、営業的なコミュニケーションスキルやトラブルシューティングへの対応について学べたことも大変大きかったです。
2013年、ヘッドハンターや転職エージェントから連絡を受けるたびに、「私は世界一の企業で働きたいので、ウォルマートなら検討したい」と伝えていたところ、本当に縁があり、ウォルマート・ジャパン/西友のドットコム事業部でお仕事をさせて頂くことになりました。
ドットコム事業部の新規サービス責任者として、また小売の変革を推進する一人のチェエンジエージェントとして事業の中心にある店舗の考え方やプロセスを少しずつ壊しながらオンラインと融合に取り組みました。新たにネットスーパービジネスへのプロセスを構築すること、働く人々のマインドセットをオンラインにシフトチェンジしていくこと。この両輪を、数万人働いている巨大組織で一気に進めることは想像をはるかに超えた大きなチャレンジでした。たとえば、ネットスーパーで販売している商品をピッキングする作業端末を導入した経験をご紹介します。当時は店舗・倉庫での商品ピッキング作業は紙のリストを使い、高齢の作業者であっても目視でリストと商品の小さなJANコード表記を確認して鉛筆でダブルチェック、常に時間に追われ店舗の中を駆けまわり作業していました。ピッキング作業はネットスーパー専任の作業者だけでなく店舗メンバーのフォローが入る時も多く、ミスが発生したり、時間が余計にかかっていたりと課題が山積みでした。そんな現場の状況や生の声に深く耳を傾け、3つの目的を掲げてピッキング作業端末を導入しました。1つ目は歩く時間の削減で、店舗・倉庫のピッキング動線が自動で一筆書きの最短ルートにしました。2つ目は数万点ある商品棚から目視で商品を探していた時間の削減です。、スマホ型の作業端末に最新の商品画像をカラーで載せ、商品を探す時間を大幅に削減しました。3つ目はピッキングミスの削減です。ピッキング時に商品のJANコードをスキャンしてミスを減らすシステムを導入し、ミス防止機能を盛り込みました。導入に際しては、1,500名以上の作業者にトレーニングを実施、1か月という短期間で100店舗以上の昼夜シフトの全作業者にロールアウト完遂。プロジェクト立ち上げから店舗への導入完了まで7カ月という短期間でしたが、結果として導入後すぐに作業効率が20%以上あがり、10カ月で導入コストを回収することが出来ました。他にも、ロッカー受取サービスの導入、オムニチャネル型店舗の立ち上げ、1,500坪の冷蔵冷凍施設を完備した新しいFulfillment Centerの立ち上げ、幹線輸送とラストマイルを融合した新しい配送モデルの構築、レジの自動化や配送ルート端末の導入などをリードし実現しました。新規サービス開発や立ち上げを通して、テレビや新聞などでの広報活動、IT関連のシステム導入、配送会社や不動産オーナーとの交渉など、1つの職種や1つのエリアではなく多岐に渡る経験をさせて頂いたことは、現在の仕事にも大きく活かされています。
店舗とオンラインが抱える課題を解決して、より良いネットスーパーサービスを作る、そしてオンライン時代の新しい食のインフラを作ることに尽力出来たことは本当に素晴らしい経験でした。
一区切りついたところでウォルマートを離れ、2018年にインビザラインに入社して、いまに至ります。
なぜインビザラインを選んだのですか?
「寺本さんにピッタリの会社がある」と紹介されたことがきっかけです。グローバルでは飛躍的な成長を遂げていた外資系企業でありながら、日本法人の規模はまだ小さく未成熟な部分も多い。歯科の知識はありませんでしたが、優れた製品であることはもちろん、全国ではコンビニの数の1.2倍以上にあたる約7万軒のクリニックが存在する日本の歯科マーケットの巨大な可能性、そしてブランド・ロイヤルティやウォルマートの多方面で取り組んだ自身の経験を活かして、私にもできることがいろいろとありそうだ、と感じて入社を決めました。
マウスピース型矯正治療のリーディングカンパニー
インビザライン・ジャパンのビジネスを教えてください。
私たちが提供している「インビザライン・システム」は透明に近いマウスピース型矯正治療で、ワイヤーを使った従来型の矯正治療と異なります。装着していても目立ちにくく矯正治療中も周囲に気づかれにくいこと、食事の時には取り外して食べたいものが食べることが出来ること、治療中でも簡単に歯のお手入れができるので口腔内の衛生状態を保てること、1週間や2週間など一定期間でマウスピースを取り替えるために比較的痛みが少ないこと、治療完了後のイメージを視覚化できることなど多数挙げられます。
マウスピース型矯正治療の世界では、インビザラインはグローバルのリーディングカンパニーです。もちろん競合企業はありますが、私たちはすでに世界900万人以上の患者様のデータを持っており、競合他社が追いつくのは極めて難しいと言えます。独自に開発した先端3次元画像化技術をはじめ、革新的なテクノロジーや機能、素材により、装着感が良く、予測実現性にも優れた歯列矯正を行うことができます。また、3Dプリンターによるマスプロダクションは世界トップ規模であり、他の追随を許しません。また、弊社では、光学的に印象を採得し、口腔内の三次元形状データを作成することができるデジタル印象採得装置iTero口腔内スキャナーを歯科医院に販売しています。この機器で作成した口腔内の三次元形状画像とインビザライン・システムと組み合わせることで、より先進的な矯正治療の実現を可能にしています。他社には真似できない製品・品質・サービスを確立し、いまも日々進化を続けている会社です。
どのようなビジネス戦略なのでしょうか?
戦略はシンプルで、より多くのインビザライン・システムによる矯正治療を日本中に広めること。そのために、約3000名の矯正専門医が正しいインビザライン治療を行えるサポート、矯正専門医以外で矯正治療の経験が少ない方でも安心して矯正治療が出来る製品やサービスの開発など、お客様へのサポートとサービスを追求することです。
多くの歯科医がインビザライン・システムの名前を聞いたことはあると思いますし、近年では直接患者様からインビザライン・システムに関する相談を受けるケースも増えて来ているのではと思います。
現在会社として取り組んでいる変革は何ですか?
変革のエリアは主に4つあります。1つ目は「日本のミッション・ビジョン」の策定です。グローバルのPurposeとして掲げられている「Transforming smiles, Changing lives」から、日本としてのミッション、そしてビジョンに落とし込みました。すべての従業員が自分事として会社の変革に関わり成長を加速すること、そしてお客様である歯科医、何より患者様からダントツに選ばれることを目指した「ダントツプロジェクト」を通して、顧客満足度の更なる追求と継続的な事業成長を目指しています。
2つ目は「コンシューマーマーケティング」です。昨年はアジア太平洋地域で100万人目のインビザライン患者様が日本から出たこともあり、オンラインメディアやSNSを活用した大規模なキャンペーンを実施しました。加えて、オリンピックを目指すアスリートとライセンス契約を締結し、応援するプロジェクトなど、日本の皆さんが「歯科矯正と言えばインビザライン・ジャパン」となる世界を目指しています。
3つ目は、「歯科医へのサポート」です。技術面で手厚くサポートするクリニカルサポートはもちろんのこと、個人事業主である歯科医の悩みにお応えするカスタマーサポートも用意しています。さらには、営業メンバーも両面の知識・ノウハウを備えており、三重で支援する体制を整えています。日本の全歯科医が安心で安全にインビザラインを始め、患者様の笑顔を作るためにサポート出来る仕組みがあるのです。
4つ目は、DX(デジタルトランスフォーメーション)による「オペレーション改革」です。テクノロジーを中心に組織の仕組みやシステムなどを整備して、より少人数で効率よく動けるシームレスな組織づくりを進めています。グローバルでの事業成長に伴い、新しいプロセスや業務フローが次々と生まれますが、将来の継続的な成長加速にはあらゆる複雑性を取り除き、シンプルに簡素化することが欠かせません。バックオフィス業務だけでなく、営業活動を効率化するツールの開発と推進など、日々のマニュアルワークを徹底的に効率化することに取り組んでいます。
今後のビジネス展開について教えてください。
重視したいポイントの1つは、「10代向け製品の強化」です。日本でも世界でも、矯正治療の多くは10代の患者様ですし、近年10代向けの強力な新製品が出たのでこれから重点的に広めて行きます。
更に、今後のビジネスの成長に欠かせないのが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速です。オンラインセミナーやバーチャル診療サポートツールなどは弊社が推進しているエリアで、2020年は歯科医向けセミナーや教育プログラムを合計200回以上開催しましたが、年間で90%以上はオンライン開催となり各回何百名もの歯医者さんや歯科助手の皆さんが参加してくださいました。また、バーチャル診療サポートツールは、新型コロナウイルスの流行が始まって間もない2020年5月に、私たちはグローバルで「バーチャルアポイントメント」と「バーチャルケア」の展開を始めました。新型コロナウイルスのパンデミック以前から開発には着手していましたが、当初の予定よりも提供開始時期を早めました。このツールは、患者さん自身がスマートフォンアプリを使って撮影した写真をベースにして、オンライン上での診察予約や、診療自体をオンラインで行う新しい仕組みです。すばやい対応ができたおかげで、私たちはコロナ禍でもグローバルでの成長を続けています。
歯科業界全体を変革する志に共感していただける方と一緒に成長したい
どのような方を求めていますか?
第一に、ビジネスや組織の急速な変化を楽しめる方です。バーチャルサービスのエピソードからも感じていただけると思いますが、インビザライン・ジャパンとしての社内外への新しい取り組みは今後も加速して行きますし、日々何かしら新しい変化を感じる環境です。日々の変化を楽しみながら、自己実現に向けた成長を加速できる環境で働きたい方にとっては間違いなく向いている職場です。
第二に、製品を好きになっていただける方です。私も現在インビザラインで矯正治療をしていますが、痛みもなく快適で、目立たず、治療開始から歯並びが美しく整っていくことに驚きと感動をおぼえています。インビザラインのユーザー体験や、本当に素晴らしい製品とサービスであることを実感し心から信じている、そんな社員が多いからこそ困難な状況でも助け合いながら働けている部分はあると思います。
最後に、日本の歯科業界全体を変革し、私たちの中心にある「Transforming smiles, Changing lives」というPurposeに共感して頂ける方と一緒に働きたいと考えています。不透明で変化が多い社会だからこそ、企業として変わらない価値観を従業員が共通して持つことが今後の事業成長を左右すると感じていますし、多くのスマイルを通して患者様の豊かな生活に寄与したい、という私たちの願いと志は今後も変わりません。
読者へ向けてメッセージをお願いします。
笑顔を創ることに関わる会社ですので、誰もが笑顔で働ける、自分が大切にする家族やパートナーと笑顔になれる、日々模索しながらもそのような環境と新しい未来づくりに取り組んでいます。私のチームのスローガンは「Smile Together」。患者様、お客様である歯科医療従事者、そして従業員。関わる全ての方が笑顔になり、より多くの社会貢献できる姿を目指して、このスローガンにしています。もちろん大変なことも多いのですが、自分たちの仕事を通して世の中に笑顔が増えることに誇りを感じていますし、日本中に最高のスマイルを一緒に広めましょう!