いつも新しいことに出会えて幸せな日々
日本IBMに入社するまでの経緯を教えてください。
アメリカの大学で経営学・会計学を学びました。あえて日本人の少ないアリゾナ州の大学を選び、さまざまな面でカルチャーギャップを感じたのも良い経験になりました。卒業後は会計士になるつもりでしたが、知人から「会計は過去の数字を元にし、コンサルタントは未来を描くことに比重が置かれる」と聞き、確かにその点が面白そうだし、私に合っているのではないかと思い、コンサルティングファームに入社しました。
PwCコンサルティングでは、アメリカ滞在経験を買われ、いくつものグローバルコンサルティングプロジェクトに配属されました。周囲のパートナーやメンバーに恵まれ、大変忙しい日々ではありましたが、本当にいつも新しいことに出会えて幸せでした。上司や仲間たち、お客様から本当に多くのことを学びました。入社してしばらくは、さまざまな業界・業種のプロジェクトに関わっていたのですが、2000年頃にたまたま製薬事業の立ち上げプロジェクトに関わり、それからはずっと製薬業界に携わってきました。製薬業界は、M&Aとグローバル化の波が他業界よりも早く到来したこともあり、他の業界より先んじたプロジェクトに多く関わることができました。
その後、2002年にPwCコンサルティングがIBMの傘下となり、私はそれから日本IBMに在籍しています。
日本IBMではどのような仕事をしてきたのでしょうか?
2003年から研究開発プラクティスのリーダーとしてビジネスマネジメントを学び、2006年からはいくつかのプロジェクトリーダーもやりながら、プラクティス全体を預かるインダストリー・リーダーという立場になりました。そして、2011年からはパートナーとして、事業部全体の責任を持つ立場となっています。
パートナーになっても、私はよく現場に足を運ぶようにしています。なぜなら、現場のメンバーと会話を交わして、その雰囲気を味わえば、プロジェクトがうまくいっているかどうかがわかるからです。現場ではメンバーとの対話に徹するため、私は決してPCを開かないようにしています。そして、もし現場の雰囲気が悪ければ、みんなで食事に行ったり、インターナルのメールを禁止して、すべて直接対話でコミュニケーションしてもらったりして、空気を変えるように心がけています。こうしたプリミティブなことがプロジェクトの成功を左右するのです。プロジェクト・マネージャー時代は、よく最初のミーティングで「この長いプロジェクトのあいだ、どれだけみんながふざけられるかが重要だ」と話しました。生真面目に取り組むだけでは、疲れてしまうからです。ときに力を抜きながら、チームの良い雰囲気をできるだけ持続させることがプロジェクトの成功の秘訣なのです。
それから、私がIBMで学んだことの1つは「ひるまずに臨むこと」です。目的を説明し、とことん話し合って理解を得ていくことで、最終的には難しい案件をも良い結果に持っていくことが出来ました。
日本IBMはどのような会社ですか?
一言で言えば、先見の明のある会社だと思います。なかでも私が驚いたのは、ThinkPad事業をレノボ社に売却したことです。当時はまだ、PCがコモディティだと考えられていなかった時代です。そこでPC事業を手放した大胆さと緻密に練られた事業計画は、社内にいる私ですらすごいとしか言いようがありませんでした。それから、社内を見渡すと、テクノロジー分野を本当に奥深くまで熟知している人が何人も見つかる会社です。キャリアを「T字」で例えると、Tの縦の線の深いメンバーが多い。彼らのスキルがIBMの底力になっていると思います。
本当に実用的なAIソリューションを開発する
ヘルスケア・ライフサイエンス事業部について教えてください。
ごく簡単に言えば、ヘルスケアは病院をはじめとする医療施設向けの事業、ライフサイエンスは製薬企業向けの事業です。2016年4月、この2つの事業のシナジーを生み出すために統合し、ヘルスケア・ライフサイエンス事業部となりました。最近では、この2つの事業に加えて、国・行政向け事業や保険事業なども行っています。現在のヘルスケア・ライフサイエンス事業部の中核ビジネスは、いずれもIBM Watsonを中核とするコグニティブ・ソリューションで、大きく3つのカテゴリーに分けることができます。
カテゴリー1は「新規事業」の立ち上げで、2016年6月、大塚製薬との間で合弁会社・大塚デジタルヘルスを設立したのが代表例です。IBMが保有するWEX (IBM Watson Explorer)が2000名以上の精神病患者の電子カルテを読み込み、自然言語分析によって症状と行動の関連性などを明らかにして、精神科特化のデータ分析ソリューション「MENTAT」を構築しました、MENTATをつくる際、私たちは大塚製薬の皆さんや精神科の先生の協力のもと、50~60回のバージョンアップを行っています。本当に実用的なAIソリューションを構築するには、アジャイル開発で何度もバージョンアップしながら完成度を上げていくのが一番の早道だからです。私たちは、いつもこのように「実用的なAIソリューション」にこだわっています。
カテゴリー2は「生産性向上」を目指すソリューション群で、1社に向けたソリューションではなく、業界全体に貢献できるソリューションをいくつも生み出しています。たとえば、「IBM Watson for Drug Discovery」は、これまでの文献データを大量に読み込んで、そのデータからWatsonが独自の仮説を立て、新薬開発に必要な「化合物のタネ」を見つけ出すソリューションです。Watsonは単に化合物のタネを見つけ出すだけでなく、その発見の根拠となる仮説や分析結果も同時に提示するため、研究者はその成果をもとにすぐさま研究に入れるようになっています。こうしたソリューションを生み出すときに重要なのは、データ量と専門家の知見です。すでにIBM では数千億円の投資をしてデータ会社を買収し、これらのソリューションの更なる実用化を日々努めております。
カテゴリー3は「今まで実現できなかったこと」をWatsonで実現するソリューションで、すでによく知られた事例では、東京大学医科学研究所が、がん治療に必要不可欠なゲノム解析にWatson for Genomicsを活用しています。そのほかにも、私たちは国立循環器病研究センターと連携し、循環器疾患の発症リスクの予測や重篤化を防止する健康改善、治療モデルの構築に向けて、Watsonを使った循環器病予測プロジェクトを開始しています。さらに、予防医学にWatsonを活用するプロジェクトにも力を入れています。
以上の説明でも明らかだと思いますが、IBMは決してWatsonだけが秀でているわけではありません。Watsonをはじめとする最新テクノロジーに加えて、社内外のリソースを組み合わせて優れたソリューションを開発するコンサルティング力と、そのソリューションを実現するプラットフォームの力があるからこそ、私たちは多くの方々に選ばれているのです。
「積極的に何でもやってみる」人が伸びている
どのような方が日本IBMで活躍できるのでしょうか?
職場としてのIBMの強みは、一言で言えば「やりたいことができる」ことです。IBMをコグニティブ・コンピューティングの実験場として捉え、IBMから世界を変えるような革新的なソリューションを発信したいというモチベーションが高い方であれば、きっとエキサイティングな仕事ができるはずです。
また、そうしたモチベーションに加えて、積極的に何でもやってみようとする姿勢があるとなお良いでしょう。私の周りを見る限り、やってきた仕事を断らず、むしろ安請け合いする位の果敢さでやってみようとするメンバーのほうが伸びています。結局、物事は何事もやってみないとわからないのです。手前味噌ですが、たとえば私が大学で学んだのは会計学で、2000年頃まではバイオサイエンスやゲノムの知識はまったくありませんでした。それが、たまたまライフサイエンス業界の担当となり、今では大病院の医学部長や製薬メーカーの研究所長などと医学・薬学について話ができるまでになっています。何事も好奇心を持ってチャレンジしてみなければわからないですし、そうやってチャレンジすることが大切なのです。やりたいことがある方には、実験のチャンスはいくらでもご用意します。ぜひ一緒に面白い発想をして、イノベーションを起こしていきましょう。