いち早くダイバーシティを体感する
新卒で入社した丸紅でのご経験を教えて下さい。
大学時代はヨット部に入り、ヨットばかりしていました。練習は大変でしたが、海を中心とした生活に魅了されて、どっぷり浸かっていました。何よりも素晴らしい仲間に恵まれて充実した四年間を過ごせました。恥ずかしい話ですが、就職活動時も部活を優先したかったので、就職活動にはあまり時間をかけず、海外に赴任できて、若いうちから活躍できるチャンスが多く、一緒に働きたいと思える方が多い会社がよいとシンプルに考えました。この3つの条件にあてはまったのが、丸紅だったのです。
入社後は鉄鉱石ビジネスの担当となり、オーストラリアから鉄鉱石を輸入する配船業務などに携わりました。最初の頃はどの業務も新鮮で、「これが貿易か!」と感激する日々を過ごしていました。又、長期契約に基づく伝統的なトレードビジネスでしたので、顧客への安定供給と供給サイドの情報提供を完璧に遂行する事を求められました。お蔭様でビジネスの基礎を徹底的に叩き込まれました。充実した日々を過ごしていたのですが、どこかで「モノやブランドをベースに主導権を持つ方がほうが自分には合っているかも…」と思い始めました。その後、入社4年目に、アメリカ・サンダーバード国際経営学院に1年間留学し、MBAを取得しました。修了後、もう一度アメリカに戻って今度はニューヨークに赴任し、1年2カ月ほど鉄鉱石の新規開拓営業を経験しました。MBAはビジネスを系統立てて学べた良い機会でしたが、ネットワーキングに注力しました。大学教授から転身して起業を目指す者、海軍出身者、セネガル政府関係者等、様々な生徒がいて大企業出身者は半分位しかいませんでした。当時の親友は今では公私における大きな財産です。ニューヨーク赴任時はアメリカ中の電炉を訪問し、どんどん飛び込んでいくのが面白かったです。いずれも充実した日々でした。
ニューヨークからの帰国後も、引き続きトレード業務をしながら順調な生活をおくっていましたが、何もかもリセットしてみたい気持ちが強くなり、退職を決心しました。転職先も決まってないのに大企業を辞める事で、当時周囲からはびっくりされました。しかし、自分自身にとって絶対に必要なリセットだと確信していたので、逆にワクワクしていましたね。退職後1年ほどは、インド、タイ、オーストラリアに住んでいる親友の家を拠点に旅をしました。大学を卒業し就職してから仕事生活にどっぷり浸かっていた自分にとって、旅で得たものは計り知れないです。大げさですが、人生観も変化しましたし、自分らしく生きる事こそ成功だと思えるようになりました。その後、2003年にロレアル(日本ロレアル)に入社したのです。
日本ロレアルには12年在籍していますが、いかがでしたか?
転職の際、私は2つのことを重視しました。1つ目に、先ほどもお伝えした通り、ブランドビジネスをしたかったので出来ればメーカーが良いと思っていました。2つ目に、これまでの経験から、自分は大組織のなかで自分を活かすほうが向いているし、当時は大企業のほうが学ぶことが多いと考えていました。この2点を満たす会社を探しているうちに、縁があったのがロレアルだったのです。良く考えれば、放浪直後の自分を採用してくれた日本ロレアルの器の大きさに大感謝ですね。
入社前に噂は聞いていたのですが、ロレアルは、良い意味で「ダイバーシティ」がある会社で、型にはまることがなく、目標を達成する為にはどんどん戦略が変わっていく会社でした。私は、そうした刺激的な環境だからこそ入社を決めたのですが、現実は私の予想を上回るものでした。
たとえば、ロレアルの経営陣は、絶えず面白いアイデアを求めていて、ベストなアイデアが出たと思ったら、迷わず意思決定を覆しました。日本人の常識では考えられないスピードやタイミングで、フレキシブルに方針を変更するのです。信じられませんが、販売直前の製品を販売延期するといったことも行いました。ベストを尽くすためには、一切妥協しないのがロレアル・ウェイでした。その精神は強烈でした。あるとき、上司に相談したら、「もっと良い製品を提供できるのなら、そちらにするのが当たり前だろう」と言われました。それは正論なのですが、そのやり方に慣れるのには三年程時間がかかりました。最初の三年間は入社した事を後悔することも珍しくありませんでした。但し、その社風がわかってからは、自分から面白い化学反応が起こるような発言やアイデアを主体的にどんどん出すようにしていきました。そうしたら、自然と周囲から信頼が得られるようになったのです。化粧品をまったく知らなかった私にとって、こうして小さな信頼を少しずつ築いていくことが重要でした。
また、本社のフランス人を筆頭に、さまざまな国のメンバーが集まっており、真に多様性を体現している会社でした。たとえば、会議を開くと「なぜそれを実行するのか?」という根本的な疑問に、さまざまな意見が出てきました。ものの見方が一人ひとりまったく違うので、当然のことです。いつもそうした感じでしたから、結論に導いていく訓練の連続でしたし、結論が出ないまま会議が終わることも決して珍しくありませんでした。議論には時間と労力がかかりましたが、さまざまな見方、考え方が集約された結論が一度出ると、一気に力強くビジネスが進んでいきました。こうして私は、いち早くダイバーシティを体感したのです。この経験は今も活きていて、私は会議などの場では、気軽に意見できる雰囲気づくり、自然に話し合うなかからさまざまな意見が立ち上がってくる場づくりを常に心がけています。
ロレアルでは、新規チャネル開拓のトレードマーケティングマネジャーからスタートして、ロレアルパリの営業マネジャー、台湾支社のマーケティングマネジャー、ロレアルパリのゼネラルマネジャー、ケラスターゼというヘアケアブランドのゼネラルマネジャーを経験しました。
なかでも印象深かったのは、台湾支社で働いたことです。台湾支社では、日本では展開していない「ガルニエ」というブランドのマーケティングマネジャーを担当しました。台湾で体験できてよかったことの1つは、ロレアルブランドの価値の高さです。日本ではロレアルはまだまだ大きな存在ではありませんが、グローバルでは間違いなく化粧品業界のリーダーなのです。台湾でも私たちがマーケットリーダーで、私たちの手で市場を動かすことができましたし、妥協せずに質の高い製品を生み出し続けるロレアル・ウェイが尊敬されていました。それを確認できたのは、私にとって大きなことでした。もう1つ良かったのは、自分だけがマイノリティである環境を体験できたことです。私は、日々のフィードバックを重視するマネジメントスタイルを採っており、そのスタイルは台湾でも変えませんでしたが、台湾人にはどこまで言ってよいのか、どうやって伝えたらよいのかという点については十分に気を配りました。たとえば、台湾人には厳しいことも含めて、総じてストレートに伝えて大丈夫なのですが、必ず1対1でフィードバックしなくてはなりません。台湾には面子を大事にする文化があり、みんなの前では個別のフィードバックをしないほうがよいのです。こうした異文化コミュニケーションを経験したことで、ダイバーシティへの理解が一層深まったと感じています。
キャンプ人口を増やすことが一番の使命
コールマンの事業と、今後の方向性について教えて下さい。
ご存じの方も多いと思いますが、コールマンは総合アウトドア用品メーカーです。テント、スリーピングバッグ(寝袋)、ライト、クーラーボックスなど、実に数千点の商品を揃えています。コールマンは1900年頃にアメリカで創業し、まだまだキャンプやアウトドアの市場が小さかった頃から良い製品を作ることを心がけ、長い間アウトドアコミュニティを育んできた会社です。そして、製品とキャンピングスタイルの両方で、数多くのイノベーションを起こしてきました。一例を挙げると、日本にドーム型テントを持ち込んだのも、キャンプにクーラーボックス・チェア・テーブルを使う文化を持ち込んだのも私たちです。コールマン ジャパンが設立されたのは、1976年です。昔も今もアウトドア好きの社員の集まりで、外資系企業としては勤続年数がかなり長く、ブランドをこよなく愛する社員が多いのが特徴です。
私達のミッションは、より多くの方にキャンプを楽しんで頂く事です。そのためにはアウトドアマーケットをもっと大きくする必要があります。実は、日本では1990年代後半にキャンプブームがあり、1997年には、日本のキャンプ人口は1600万人にまで達したと言われています。しかし、その後は減り続けました。ここ数年、キャンプ人口は再び増えてきているものの、現在は800万人ほどに留まっています。これをさらに増やしていくのが、私たちの一番の使命です。そのためには、50代、60代や20代の皆さんにキャンプに親しんでいただく必要があります。なぜかといえば、日本では教育目的のキャンプが多く、30~40代の親御さんが中学生くらいまでのお子さんを連れて、キャンプに出かけるケースが多いからです。しかし、お子さんが中高生になると、親御さんもお子さんも徐々にキャンプに行かなくなってしまう。他方、アメリカでは60代、70代になっても夫婦でキャンプに出かける文化があります。私たちは、日本にもそうした文化を根づかせることができたらと考えています。
ビジネスの課題として、日本はキャンプのトライアルのハードルが高いことです。アウトドア用品を一式揃えて、車に積み、皆で遠くまで出かけなくてはなりません。こうして一度キャンプを経験すると、その楽しさを知ってリピーターになる方が多いのですが、一度やってみるまでが大変なのです。私たちは、そのハードルを下げるためにさまざまなチャレンジを行っています。たとえば、できるだけ安く揃えられるエントリー者用の製品を開発したり、コーポレートサイト内に全国のキャンプ場を紹介するコーナーを作って、家の近くでもキャンプができることをお伝えしたりしているのです。また、日本全国に直営店を展開し、そこにワクワクするキャンプ空間を疑似的につくって、アウトドア用品に気軽に触れられる機会を増やすことにも取り組んでいます。
さらに、今後は「企業ブランディング」にも力を入れたいと考えています。製品数も流通も多いコールマンは、65%という「知名度抜群のブランド」なのですが、一方では「強みがどこにあるかわからない」という欠点があります。そこで、私たちは既存ビジネスをブラッシュアップして、強みを明確にすると同時に、コールマンという会社のブランディングをより一層強化したいと考えています。
大きな変化を楽しめる方が向いている
コールマンの社風や職場の特徴を教えてください。
先ほどもお伝えしましたが、コールマンはアウトドア好きの集まりで、プライベートでもよくキャンプに行っては、キャンプ場にコールマン製品を使っている方々が多いのを見ては喜んでいるメンバーばかりです。私は、それがこの会社の長所だと考えています。なぜなら、楽しく働かなければ、生産性は決して上がらないと思うからです。
働く上での私のモットーは、‘成長‘出来る事です。先ずは自分自身が喜び、そして一緒に働く皆さんも喜ぶ「win-win」をいくつも達成することです。私自身もコールマンのメンバーも、楽しくて思わず時間を忘れるようなときをできるだけ長く過ごせたらと思っています。もちろん課題はたくさんあるのですが、それも極力楽しくクリアしていくのです。たとえば、先に少し触れましたが、私たちは日本全国に直営店を展開しています。当初、ECビジネスの比重が年々増していく中、アメリカ本社はこの戦略に懐疑的で、何度も「No」と言ってきました。それに対して、私たちは戦略面でのメリットをしっかり伝えるとともに、ファイナンス面などでもプラスがあることを事実ベースで丁寧に、且つ、何度も説明していきました。その結果、現在ではアメリカ本社も、直営店ビジネスを積極的に応援してくれて、関わる全員が笑顔で働けるようになりました。外資系企業は本社の意向で方向性が変わってしまうという有りがちな評判で不安に思う方は多いと思いますが、経営者を含む利害関係者のサポートが必要なのは外資系も日本企業も同じですね。勿論、外資の場合は、日本に住んでいなくて、異なる価値観の方に説明をする必要があるので、議論の展開を予測する事が比較的重要ですが、鍛えられますよ。又、成功と失敗を繰り返していけば、いつの間にか駆け引きが楽しめるレベルになります。
それから、コールマン ジャパンには日本独自の製品がいくつもあります。なぜなら、高温多湿で雨が多い日本では、アメリカと同じ仕様の製品を使えないケースが多いのです。たとえば、アメリカで販売されているテントでは、日本のキャンプ場では決して快適には過ごせません。そこで生地を変え、機能性を高めたオリジナル製品を出しているのです。アメリカ本社も日本市場のユニークネスを知っていますから、独自製品やアレンジ製品を作ることを後押ししてくれています。面白い事に、今は、アメリカ本社と一緒に日本向けの製品を海外で展開していく仕組みを作っています。世界中のアイデアを、各マーケットに落とし込んでいく事が出来るのもコールマンの醍醐味ですね。
どのような方がコールマン ジャパンに向いていますか?
もちろん、キャンプが好きであることも重要ですが、それ以上に、「オーナーシップ」を持って、主体的に「変化を楽しめる」ことが求められる職場です。なぜなら、アウトドアマーケット自体が大きな変化の時期を迎えており、今後はキャンプ人口を増やすために、さまざまなチャレンジをすることが欠かせないからです。そのために、私はこれから組織をもっとフラットにしていきたいと考えています。いくつものプロジェクトを立ち上げ、ポテンシャルの高いメンバーに次々に任せていくことを狙っています。そして、下のほうから今以上に意見や変化の波が出てくるような組織にしたいのです。アウトドア好き、または、興味を持っている方、自らコールマンの組織やアウトドアマーケットに変化の渦を起こしたいと思う方に来ていただけたら、嬉しい限りです。