グローバルなキャリアを考えたことをきっかけに、新たな環境、新たな道にチャレンジ
これまでのご経験について教えてください。
もともと建設・建築業界を志望してゼネコンに就職したのですが、多くの取引先の経営者と関わるうち、経営に興味を持ちビジネススクールに通うことにしました。その頃は、20代半ばでしたから、周りは皆、目上の方々ばかり。後に世界的企業の社長にまで昇りつめた人物もいて、人との出会いが大きかったです。自分の可能性を思いきり試したい時期でもあり、29才になって経営コンサルの世界へ飛び込みました。
入社したアクセンチュアは規模も大きく、多様な経営課題に取り組める環境がありました。まずは業界の本を読みあさり、専門家に話を聞きに行き、睡眠時間をけずって情報収集。アウトプットが出ない時は、違う業界事例を参考にしたり、分野の違う専門家に話を聞いたりして、本質を見ようと努めました。ブレイクスルーするまで何回も何回も壁にぶち当たり、誰かに助けてもらい、何かにヒントを得て、突然、新しい景色がひらけてくる。多くの気づきがあった5年間でした。自分ひとりではイノベーションは生まれない。多くの人と関わりながら、イノベーションはつくられていくものだとあらためて学びました。
デルに入社したきっかけを教えて下さい。
もともとグローバルなキャリア志向を持っていました。ある時、ハードワークを続けてきた自分をふと振り返りました。この辺りでワークライフバランスを考えてみようと―。当時のデルでは、大企業向けビジネスユニットのアジア支局が日本にありました。アジア・パシフィック&ジャパン(APJ)という体制のもと、日本、中国、インド、韓国、オーストラリアの5カ国を統括した営業企画マネジメントの採用があり、関心を持ちました。決め手となったのは、意志決定の速さと多様性を受け入れる社風です。面接時、当時のAPJ部門のトップが来るというので畏まっていたのですが、「Hi!」と面接室に陽気な女性が入ってきて、「あなただったらどうする?」と、闊達なディスカッションの場をつくってくれたのです。面白い会社だとおもいました。オファーの返答がきたのも、他のどこよりも速かったです。コンサルティングをやっていると、結構、ズケズケともの申す癖がついているので、こういうフラットな社風だったらやっていけるんじゃないかなと。入社してからも、印象通りオープンでスピードの速い会社でした。
単に働くだけでなく、人間的にインスパイアされ成長できる会社です。
デルに入社して印象深かったことは?
今思えば初歩的な失敗で恥ずかしいのですが、エンタープライズ製品マーケティング部門の責任者に就任した当初、私の意見がハードランディングしてしまい、APJのメンバーと険悪な雰囲気になってしまったことがあります。日本市場でのエンタープライズ製品の販売加速は急務だったため、抜本的な変革を始めた矢先でした。オーストラリアから来日したマーケティングのヘッドから、「田尻が正しいことを行おうとしているのはわかる。しかし、敵をつくるのはどうかと思う。彼らも感情的になったわけではなく、仕事としてやっているのだから。味方は多ければ多いほどいいものだ」と言われました。ローカルの動きに対してAPJの動きが遅く、私の言動はかなりアグレッシブになっていたのだと思います。しっかり反省をして、私自身のやり方を変えました。議論の先の答えが見えていても、拙速に進めるのではなく、お互いが腹落ちするまで話をする。そんな当たり前のことに改めて気付かされました。リーダーシップとはどうあるべきかを考えさせられた経験でした。私を、プラス方向にインスパイアしてくれた上司に本当に感謝しています。
なお、こうした気付きができたのも、毎年、会社の制度としてきっちりとキャリアプランをつくっているからだと思います。人としてどう成長できるか、「去年の田尻より、今年の田尻はどうか?」という大テーマがあって、キャリアを話し合える環境はよいと思います。360度評価を踏まえて「Keep, Stop, Start」の3つの視点で自身の自己変革プランの策定と実施が求められます。事業だけでなく人としてもスピード感をもって成長を求められる。デルの特徴でもあり、魅力でもあるでしょうね。
入社後のキャリアについてお聞かせください。
APJ地域のストラテジストとして、営業のリーダーと組んで営業改革を行いました。日本でテストを行い、他の国にも横展開していく流れです。その後、デルのソリューション事業の戦略策定と実行支援を担いました。日系企業のお客様の海外進出をサポートするために、デルのグローバルなインフラを活用したITアウトソース事業などを拡大しました。
また、日本法人の経営企画室に異動後は、「SecureWorks」の買収にともなう日本の戦略策定及び、その組織の策定とコア人材の採用までを担うなど、当時の日本法人社長と二人三脚で様々な組織変革に取り組みました。
なお、実は、当時の社長からその右腕的な役割をオファーされたものの、一度はお断りしました。もともとグローバルなキャリアを構築したかったので、日本に特化したロールに二の足を踏んだのです。しかし、その後、これまでのコンサルやリージョナルの経験では、事業の手握り感がなかなか得られなかったのも事実なので、結局、恐る恐る今度は私からお伺いを立てました。怒られる事なく快く了承を頂きました(笑)。デルでは、人材交流という観点から社内異動が積極的に勧められますし、非常にフレキシブルだと思っていましたが、あらためてそれを実感した出来事でした。
その後、現在のマーケティング部門へ異動した理由は、マーケティングへの純粋な興味に加えて、私はいつか多くの人をインスパイアしながら事業をドライブできるビジネスリーダーになりたいと考えております。そのキャリアパスとして営業側から上がっていく人が多い一方で、マーケティングで活躍されている方も多いので、これまでのプランニングなど自分の得意な分野を活かせる道から広げて行こうと考えたからです。
トップシェアを誇る商品力とバックアップ体制で、マーケティングがますます面白くなる
デルだからできるマーケティングの醍醐味とは?
1つ目は、スピード感です。私たちは歴史的にダイレクトビジネス(直接販売)で成長してきました。時間・日・週単位で各種KPI(重要業績評価指標)のターゲットが設定されており、それを毎週見直してアクションを取っていく。トライアンドエラーを繰り返し、徹底的にパフォーマンスをあげることを目指していく。多くの関連部署と連動していくので、非常にダイナミズムがあり、相当に鍛えられます。
2つ目は、新しい挑戦ができることです。前述のようなスピード感はあっても、KPIでガチガチに縛られては面白くない、と思われるかもしれませんが、逆です。IDC(第三者的な市場シェアの評価機関)によると、コンシューマーやスモールビジネスの直接販売の市場では、私たちはトップシェアを継続しているとの評価を得ています。それなりのスケールがあるため、KPIを達成しつつ、その何%かをテストに割ける体力があります。特に、アドテクの進化が早いのでこの点は重要です。マーケターとして、世の中にいち早くキャッチアップできるのは魅力だと思います。
3つ目は、お客様と向き合えることです。私たちは現在、直接販売だけでなく、家電量販店様を介しての販売数も急速に伸ばしています。店頭に来られるお客様がご購入時に重視されるのはサポートです。そうしたお客様向けに、サポートを国内標準とし、ソフトウェアの導入支援なども行っています。また、カタログなどもグローバルの標準ではなくサポートの詳細が分かるものに変更しています。よく外資系のマーケティングと言えば、本社からの統制が強く、裁量がない、ということを聞きます。デルでは、常にお客様の声に耳を傾ける姿勢がグローバルで浸透しています。お客様の声を聞き、良い製品・サービスを正しく伝えていく土壌がそこにあります。
最後は、イノベーティブな製品を扱えることです。例えば、フラグシップモデルである世界最小の13インチノートPCの「XPS13」です。フレームレスディスプレイを世界で初めてノートPCに採用し、13インチサイズの画面を11インチサイズの筐体に搭載し世界最小を実現しました。世界中で好評を博しています。
2015年10月に、そのXPS13の新製品発表会の際に、初めて製品デザイナーを日本に呼び寄せPRを行いました。XPS13は、デザイン面でも世界的に評価されており、日本でもグッドデザイン賞に選ばれています。デルはグローバルでデザインセンターを設立し、製品デザインに力を入れており、XPS13以外にも多くの魅力的製品を揃えています。ウィンドウズOSでスタイリッシュなパソコンと言えばデル、となることを目指しています。
具体的な取り組みを教えてください。
私たちのチームは、3つに分かれています。
1.マーケティング戦略と数字のデリバリを担う部門
2.メディア視点からの戦略策定と実行を担うメディア部門
3.お客様データを活用した戦略と実行を担うCRMの部門
これからのイニシアティブとしては、「1」ブランドイメージの向上、「2」マーケティングテクノロージーの積極的活用、「3」新規顧客獲得のドライブを掲げています。「1」については、PC業界が冷え込んだ2年前は投資することが厳しい状況でしたが、最近では、テレビCM、電車広告などのブランドイメージ改善への投資や口コミによるファン獲得を狙った、デルアンバサダープログラムなど新しい取組みを次々とスタートしています。
[2]については、アメリカ本国で行われているアドテクノロジーの研究を日本法人でも取り入れ、投資効率を上げていこうと思っています。たとえば、お客様の購入ステップ(カスタマージャーニー)も非常に多様化しています。Eメールを貰ってすぐに買うのではなく、その後、他のメーカーサイトを検索し、アフィリエイトサイトなどを見て決める、或いは、決めかけたけど、フェイスブックで友人の投稿に感化されて、また考え直す、というような、多様なパターンがあります。どこに投資をすると一番効果的なのか、もっと精緻に分析できるようにしていきます。また、検索やリスティング広告の他に、例えば動画広告を出してブランドリフトを狙ったり…。今まで通り一辺倒だったものが、よりリアルタイムに、よりお客様の属性に合わせた形で、テーラーメイドされたマーケティングを目指しています。
「3」の新規顧客の獲得については?
新規顧客を簡単に獲得しようと思えば、値段を安くすればいいのですが、それをやればブランド価値を棄損します。「安かろう、悪かろう」ではなく、いかにファンの方を増やすかが肝だと思っています。そのためには、私たちの製品の良さをきちんと伝えていくことが重要だと考えます。どのようなプロファイルのお客様がいて、どんなニーズをお持ちなのか?コスト重視なのか、コストではなくまずは製品の信頼性なのか、またはデザインなのか?そうしたお客様を推定していく上でもCRMが重要だと考えています。今期から私たちの事業部門は、米国本社へ直接レポートになり、投資意思決定の速度が更に上がりました。米国で実績が出始めたCRM施策をベースに日本市場にあわせたものにアップグレードする投資プロジェクトなど、様々なCRMへの投資支援を受けています。
最後に、どのような人材が活躍できるか教えてください。
デルではインスパイリング・リーダーと言っているのですが、話を聞いているだけでワクワクする、この人と一緒に働きたいと思わせる上司や仲間が活躍している会社です。そんな中、マーケティングで活躍できる人物像は、数字に強く、イノベーティブなアイデアを出せる一方で、真摯に人の話を聞き、周りと協調ができる、バランス感覚に優れた人です。