自分の足で立つことにやりがいを感じる
N&O Lifeを始めるまでのプロフィールを教えてください。
京都で生まれ育ち、大学院卒業までずっと京都にいました。学部時代は工学部で物理を専攻し、大学院は機械系に進みましたが、コミュニケーションを大切にする仕事をしたいと思い、就職は文系に舵を切りました。外資系コンサルティングファーム、外資系金融企業などを中心に受けました。そのような時に「メーカーでもP&Gだけは受けてみたほうがいい」と先輩にアドバイスをいただき、P&Gの説明会に行ったのですが、その説明会が本当に面白かったんです。面接やインターンシップでは「私もこうなりたい」と思うような社員の方々と何人も出会い、志望度が一層高まりました。P&Gに入れなかったらどうしようと、本当にドキドキしたのを覚えています。
内定が決まった後、大学院の最後の1年間は、仲間たちと一緒に大学内の就活セミナーの集客・実行サポートを行う学生ベンチャーを運営しました。当時はヒルズ族がブームになっていて、私も起業家に憧れを抱いていたからです。後ほど改めてお話ししますが、これは大きな経験になりました。このときの起業がなければ、私は独立していなかったかもしれません。
P&Gでのキャリアを教えてください
ホームケア領域でファブリーズやジョイなどのブランドマーケティングを担当しました。P&Gでは、「消費者ベースの意思決定」を重視するマーケティングを徹底的に叩き込まれます。マーケティングは意思決定の拠りどころが難しいのですが、当時の上司は、常に消費者の視点に立った意思決定を重視していました。私は今も、このマーケティングスタイルを貫いています。
消費者ベースの意思決定に欠かせないのは、「消費者理解力」です。これは簡単に言えば、リサーチの数字の裏に隠された事実や心理を読み取る力です。たとえば、「新聞を読んでいますか?」というアンケートを取ると、実際よりも多くの人が「読んでいます」と答えがちです。なぜなら、あまり新聞を読まない人も、「読んでいない」とは言いたくないからです。こうしたことを一つひとつ的確に想像し、理解することが大切なのです。これができないと、消費者の本当の想いを読み間違ってしまい、消費者ベースの意思決定はできません。私は、年間100名以上の主婦の方々と1on1でインタビューするなかで、この力を磨いてきました。この量のインタビューを2、3年続けると、主婦の皆さんの考え方のパターンが読めてくるのです。こうなれば、リサーチ結果の裏側を読み間違えることは少なくなります。
もう1つ大事なのは「コモンセンス」、平たく言えば「普通に生活すること」です。一人の消費者として、テレビやインターネットを見て、欲しい商品を買い、今は何が流行っているのかを知ることは欠かせません。もちろん、数字を読み取る左脳のロジカルシンキングも必要ですが、消費者に寄り添い、消費者の感覚を直感的に理解する右脳力もバランスよく求められるのがマーケティングなのです。
なぜ独立を決断したのですか?
私は4年半でP&Gを辞めたのですが、実は入社3年目くらいから、徐々に独立を考えるようになりました。一番大きかったのは、大学院のときに学生ベンチャーをともに立ち上げた仲間たちが、一足先にベンチャー企業を立ち上げたことです。その勇気ある決断が羨ましかったのです。
さらに言えば、その学生ベンチャーが、私にとって大きな原体験となっていました。学生ベンチャーを経験して、自分は大きな責任やリスクを抱えながら、しっかりと自分の足で立つことに何よりもやりがいを感じるタイプだということがよくわかりました。学生ベンチャー時代、何人もの起業家の方々とお会いしましたが、皆、とても魅力的でした。人には言えないような苦労を経て成功している分、自信に満ちているのです。覚悟のほどがまったく違うのです。「最終的には私もああなりたい」と思うようになりました。私は、その目標を実現するためにP&Gを辞め、その一歩を踏み出したのです。
P&Gを辞めた後は、1年弱ほど、その学生ベンチャー時代の仲間たちが立ち上げたWebメディアビジネスのベンチャー企業に参画しましたが、せっかく起業するなら、自分の一番好きな領域で勝負したいという想いが強くなりました。一番好きな領域は、やはり「マーケティング」と「消費財」です。そう考えていたときにYCPグループに出会い、そのグループの一員として、2013年に消費財メーカー「N&O Life」を立ち上げたのです。
「ブランド作り×Web×海外」を重視
N&O Lifeのビジネスについて教えてください。
N&O Lifeでは、made in Japanのオーガニック・ナチュラル商材を、日本での展開はもちろん、海外展開も積極的に進めています。現在は、赤ちゃんの肌に合う国産オーガニックスキンケア「ALOBABY(アロベビー)」、ママの美しさを引き出す国産オーガニックスキンケア「SINCE beauté (シンスボーテ)」、ジャムやフルーツ菓子の「セルフィユ軽井沢」の3ブランドを展開していますが、いずれもナチュラルな国産素材にこだわった商品を揃えているのが特徴です。このmade in Japanの優れた商品を海外にどんどん紹介したいというのが、私の根本にある想いです。ですから、今後は国内だけでなく、海外でも積極的にビジネスを展開していきます。現在の海外売上比率は10%程度ですが、5年後には50%にまで高めたいと考えています。
ビジネス面での特徴は、「ブランド作り」と「Web」の2つを重視している点にあります。実は、この2つを兼ね備えた消費財メーカーは意外と少ないのです。その点、N&O Lifeは、私がP&Gで培ったブランドマーケティングのノウハウをベースにしながら、Webを徹底的に研究してビジネスを進めています。この両方に強いライバルは少ないという実感があります。その証拠に、私たちのビジネスはここまで急成長を遂げてきました。特に、2013年の創業当初から展開するアロベビーは、オーガニックミルクローションが2016年8月から大手ECサイトの国内ベビーローション&オイル部門で12週連続ウィークリーランキング第1位に輝くなど、すでにベビースキンケアの日本トップブランドの1つとなりつつあります。また、2014年末に経営譲渡を受けたセルフィユ軽井沢、2016年に始めたシンスボーテの売上も順調に伸びています。
Webは、海外展開を進める上でも重要だと考えています。なぜなら、特に中国をはじめとするアジアではWebの進化が速いからです。たとえば、中国では「聚美优品(ジュメイ)」「小紅書(RED)」といったECサイトやECアプリなどの大プラットフォームがいくつもあり、皆がそうしたプラットフォームを利用して商品を購入しています。こうしたことは、日本にいるだけではまったく知ることができません。さらにECサイトだけでなく、SNS、SEO、SEM、キュレ―ションサイトなどのトレンドをしっかりと学び、それぞれの役割をきちんと設定した上で、各国でのマーケティングの最適解を求めていくことが大切なのです。Webに強いことが、弊社のような新しい会社がグローバルに成長できるための必須条件だと考えています。
どのようなことに苦労されましたか?
もちろん、現在の急成長が簡単に実現できたわけではありません。最初に、わずか半年間でアロベビーを立ち上げたのはとても大変でした。マーケット調査、ブランディング戦略の企画・立案、OEM先の選定、ネーミング・ロゴ・パッケージデザインの制作、価格設定などを、すべて手探りのなか、急ピッチで進めました。私もブランドマーケティングを経験していたとはいえ、価格設定やOEM先の選定は未知の領域でしたし、マーケティングだけでなく会社全体の予算を配分するノウハウも十分ではありませんでした。Webについても知らないことばかりで、SEO対策の重要性すらろくにわかっていませんでした。こうしたすべてを、試行錯誤しながら学んできたのです。
また、最初の1、2年は、なかなか売上が上がらない時期が続きました。しかし、そこで諦めずに、ECでの戦い方を研究し、ブランドマーケティングの方針を調整しながら進めてきた結果、ある時期から急速な勢いで口コミでの評判が広まったのです。たとえば、インスタグラムでは数多くの写真が「#アロベビー」に紐づけられるようになりました。子育て中の皆さんは特にWebをよく見る層なので、Webの影響が大きいことも追い風になっています。
こうしてアロベビーが一定の成功を収めたことで、2016年には産前産後のママ向けの国産オーガニックスキンケアブランド「SINCE beauté (シンスボーテ)」も始めました。実は、ママだけをターゲットにしたスキンケアブランドは、世界でも他に例がありません(少なくとも、私は見つけられていません)。出産前後は特殊な時期で、ママは妊娠線や抜け毛など、特有の悩みをいくつも抱えています。こうした悩みに向き合うブランドとして、シンスボーテを立ち上げたのです。他にはない商品が多いこともあって、好評をいただいています。
一方の「セルフィユ軽井沢」は、すでに15年の歴史があるブランドで、私たちは2014年末に経営を譲渡していただきました。デパート・ショッピングセンターなどにいくつかの店舗を持つブランドで、国産のナチュラル素材を使ったジャム・ディップ・ドレッシング商品を提供しています。「オーガニック」「made in Japan」という面で他の2ブランドと共通しており、私としては同じように積極的な海外展開、Web販売を手がけていきたいと考えています。ただ、セルフィユ軽井沢に関しては店舗販売も大事だと思っていますし、そこは新たなチャレンジとして楽しんでいます。
セルフィユ軽井沢は、2016年秋にある部分を変えたことで売れ行きがかなり良くなってきました。それまで、セルフィユ軽井沢は高級感のある「瓶詰め」にこだわっていたのですが、特に女性が持ち歩くには少々重かったのです。そこで、商品を軽くすると同時に、どのようなシーンでも買っていただけるように商品ラインナップを見直したところ、売れ行きがよくなりました。消費者理解力が大事なのだと改めて理解した一件です。こうした経験のおかげで、食品や店舗のマーケティングにもかなり詳しくなりました。
消費財界のユニクロを目指す
今後のビジネスの目標はどのようなものですか?
最終的には、日本の誇れる消費財メーカーになりたいと考えています。たとえば、ユニクロは今や日本の誇れるファッションブランドで、made in Japanの商品を世界中に広めています。私はN&O Lifeを消費財界のユニクロのように育て上げたいと考えています。そのくらい、「日本のモノを世界へ広めたい」という気持ちが強いのです。海外展開に関しては、YCPの海外プラットフォームを最大限に活用しています。現在、YCPは東京のほかに、上海・シンガポール・バンコク・香港・ニューヨーク・ロンドンに拠点を構えていますが、すでにそのアジアの4拠点から海外ビジネスをスタートしています。また、売上に関して言えば、現在は10億円規模ですが、3年で50億円、5年で100億円を目標にしています。また、海外売上比率は3年後に30%、5年後に50%に高めたいと考えています。
どのような方を求めていますか?
N&O Lifeのビジネスの考え方や社風は、基本的にP&Gを模範にしています。具体的に言えば、「オーナーシップ・リーダーシップ」「チャレンジング」「向上心」「フェアネス」をキーワードに置いています。ですから、仲間に求めているのは、いつもオーナーシップ・リーダーシップを持ち、チャレンジ精神や向上心を忘れない方です。そうした方をフェアに評価するのが、N&O Lifeの姿勢です。
たとえば、フェアネスを実現するために、私たちは徹底的な「360度評価」として「フィードバックレビュー」という制度を導入しています。現在、N&O Lifeの社員は15名ですが、年に2回、一人ひとりの定性評価コメントを全社員から集めます。そして、そのコメントを私が編集し、全員の前で発表するのです。もちろん、私も社員全員から評価を受けます。こうして公平な評価を行うとともに、全員が全員から学び合う相互ラーニングを深めているのです。また、このフィードバックレビューを実施すると、いつもチームワークが一気に高まります。皆が本音をぶつけ合うからです。このフィードバックレビューを素直に受け入れていただける方なら、きっと私たちと一緒にやっていけるでしょう。
最後に読者へメッセージをお願いします。
成長期に入っている日系消費財ベンチャー企業は、決して多くないと思います。成長期ということもあって、新商品・新ブランド立ち上げプロジェクトが始終いくつも動いており、現在は5名のマーケティング職全員が新商品・新ブランドの創出に関わっています。また、先ほどもお伝えした通り、この規模の会社としてはほかにないほど海外展開に力を入れています。女性社員も数多く活躍しています。新ブランド・新商品立ち上げプロジェクトや海外向けビジネスにどんどん取り組んでいきたい方には、N&O Lifeで活躍の場が数多くあります。