バイスプレジデントActive Global Support ONE Service事業本部長
草川 浩好氏
1971年に大手外資系ハードウエアベンダーに入社。その後一貫してIT業界に携わり、エンジニア、プロジェクトマネージャー、コンサルタント等幅広く経験。2009年VP、PM-グループヘッドとしてSAPジャパン入社。2014年4月より現職。
サポート事業本部 副本部長
竪谷 幸司氏
1998年SAPジャパンへActive Global Supportマネージャーとして入社。以後一貫してサポート部門に携わり、マネージャー、ディレクター職を経て2011年より現職。
技術力とサポート力で、クライアントのビジネススピードを最速にしたい。
まず、簡単にお二人のプロフィールをお聞かせ下さい。
草川氏
1971年から、IT業界一筋で仕事をしてきました。いわゆる“技術屋”として、お客様窓口を担当したことを皮切りに、ずっと技術畑を歩んできました。エンジニアとして、新しい技術を身につけることに喜びを感じて働いてきた、というのが私のキャリアの基本的な生い立ちですね。その中で、事業を有効に機能させるためのインフラ技術や、開発の方法論も勉強しましたし、コンサルティングの手法も学んできました。長くこの業界におりますので、現在IT業界で使われている技術の、どこかに必ず絡むような仕事をさせてもらってきました。その経験が、年齢とポジションが上がるにつれて、役に立っていると思います。
竪谷氏
私は1998年に入社してから、一貫してSAPのサポート部門におります。その間、サポート業務は時代に合わせて変化してきたと言えます。入社当初は、お客様にトラブルが起きたら対応するという、いわゆる通常のサポート業務を担当していました。しかしここ数年でその業務は全て中国に移管され、現在では、我々はより積極的に、トラブルの前に対策を講じて、お客様のプロジェクトをサポートするという方向性に変わっています。それがSAPのサポートの特色と言えますね。「問題が起きたら直す」ではなく、表面化した問題に加えて「お客様が抱えている悩みや課題を解決する」ことこそ、本当のサポートだと考えています。その体制を作っていくことも、私の仕事です。
ここ数年で、御社を取り巻く環境や、業界全体がどのように変化してきたのでしょうか。
草川氏
業界全体として大きな変化が4つあると考えています。まずクラウドサービスの浸透が挙げられます。企業における大規模データの保管や顧客管理といった“パブリック”な面と、“プライベート”な面との両方で、まだ発展途上ではありますが、浸透してきています。2つ目がインターネットユーザーの大幅な広がりです。一説によると、世界中で500億個の機器がインターネットに接続されているとも言われています。そして3つ目が企業のITへの投資に対し、より「速く」、より「大きく」リターンが求められるようになったことですね。国内だけを見ても、よりビジネスに直結したものにシフトしてきています。そして4つ目が、日本企業のグローバル化です。海外に子会社を置くことを含めたビジネス展開をしていきたいという企業が多くなりました。
竪谷氏
これらに共通するポイントは、ビジネススピードが非常に速くなったということです。クラウドの普及もインターネットユーザーの拡大も、スピーディにビジネスを進めたいという考えの表れです。ですから、我々にもスピードが求められています。これまでのように、システムを注文してから実際に使えるまで1年から3年ほどかかり、完全に完成するまでそのシステムが使用できない、というあり方自体が問われているのです。お客様からすれば、すぐに使いたいんですよ。様々な業界で、多種多様なシステムが使用されていますが、必要になってから使用できるまで数年も待っていては、その間に他社がサービスを開始してしまいます。従来のスピード感のままでは、お客様からは受け入れらないのです。
御社のインメモリーデータベース「SAP HANA」は、高速で安定したパフォーマンスが魅力だと思いますが、その強みを教えて下さい。
竪谷氏
SAP HANAの強みは、ただ単に処理が早いデータベース(以下DB)というだけではなく、トランザクションの処理だったり、分析系の処理だったりが同じDBでできるということが挙げられます。今までは、お客様がいろんなデータを、複数の機器で分散して保管していました。分析用、トランザクション用、あるいは画像データなどです。SAP HANAなら、それら全てを混在させて、本当の意味で社内の全てのデータを一カ所に置くことができる。そうすると、システムそのものがシンプルになり、データ処理にかかるコストも削減できます。今や、データはビジネスにとって欠かせない存在です。一カ所に集めたデータを、シンプルな形で、スピーディに活用していく、SAP HANAはそのためのプラットホームという位置づけです。
草川氏
これまでは、大量のビッグデータを処理するDBと、普段仕事で使うDBとは別々にされていました。しかしそれでは、異なるシステムで、データを何度かやり取りしながら一つのまとまったデータを作らなければならない。これでは時間も手間もかかります。しかしSAP HANAならそのやり取りがなく、全てSAP HANA上で実現できます。そうすると分析や処理のスピードが上がるだけでなく、刻々と変化するお客様のニーズに素早く応えることもできます。また、加工したり分析したりする前の大量の情報を、いろいろな角度から見ることもできるようになり、そこから新しい発想が生まれてくることも期待できます。
「ONE Service」は、新たな挑戦でもある。
ではそのSAP HANAという優位性を用いながら、御社ではどのようなサービスを提供していきたいとお考えでしょうか。
草川氏
まずは、お客様のビジネススピードに対応していくことです。そのためには、我々社内の課題も改善していかなくてはなりません。典型的な部分では、これまでサービスの提供が複数の部署から行われていました。しかしそれでは各部署としてのベストソリューションをご提供させて頂き、個々の悩みを解決していても、SAP全体としてのベストソリューションとは言い切れないかもしれない。複雑化してしまっている社内のシステムを一つにまとめ、シンプルにすることで、お客様の速いビジネススピードに対応しつつ、ベストなソリューションを提供したいです。これが、弊社が新たなビジネスとして進めている「ONE Service」の狙いの一つにもなっています。
竪谷氏
お客様の立場からすれば、何に困っていてどう解決したいか、今後どういうビジネスをしていきたいかが問題です。どのサービスやシステムで解決するか、という選択よりも、どうやって解決できるかが問題なわけです。そのためには、様々な方法の中からどう解決していくのがベストな選択肢なのかを一緒に考え、的確にお伝えしなければならない。そのためには「ONE Service」として一つの組織で、一つの顔で、一つのメッセージでお客様とおつきあいしていくべきだと考えます。いわば、主治医のような関係ですね。
「ONE Service」では、お客様が持つ様々な資源を統合的に管理し、業務の効率化を図るために、お客様と一緒に「ベストプラクティス」を作っていこうというアプローチをしています。これまでSAPが行ってきたERPでは、SAP SE本社がドイツをベースに、長年欧米で培ってきたキャリアの中で作り上げた標準のソフトを提供して「これがベストプラクティスです」と、そのままお客様にお使いいただいていました。この「標準のソフト」とは、欧米を基点とした数多くの、大規模な企業に向けて考えられてきたものです。これがアジアのマーケットにおいて、本当にベストプラクティスなのかと考えたとき、地域や業種によって、業態も契約形態も違いますから、アジアにはアジアのベストプラクティスがあるのではないか、という考えに至ったのです。
そこで、お客様のニーズを取り込みながら、少しずつ機能を充実させる“アジャイル”という手法での開発にシフトすることになりました。そういう試みが、今までのSAPには足りていなかった。これまでのEPR会社という単純な枠組みから抜け出す、我々にとっての大きなチャレンジでもあります。
実際に、「ONE Service」はいつ頃から始められたのでしょうか。
草川氏
日本では2014年の1月から検討を開始しました。組織的にスタートしたのが4月です。韓国も1月、中国は2013年からです。グローバルな分析で出た結果により、このONE Serviceの提供は中国を始めとした北アジアでやることがベストだと判断されました。そこで、中国、韓国、そして日本。この3つの北アジアを中心に、まずはやっていこうということになりました。
なぜ北アジアかというと、グローバルで活躍する大企業のほとんどが、中国で子会社を作っているからです。今後マーケットとして伸びていくところにこそ、ニーズが一番あるのではないかと考えました。さらに中国、韓国、日本の3カ国は、比較的似たビジネス環境です。まずはここで対応して、結果を出す。SAPグループ全体として、ゆくゆくはグローバルにも展開していきたいのです。ドイツ本社が、アジアが一番モデルケースとして適していると判断したということです。
具体的には「ONE Service」ではなにが変わったのでしょうか。
草川氏
1つ目は社内のシンプリケーションです。契約書や単価、営業の窓口や担当するチームも、全てを「ONE」にすることです。枠組みや体制も、お客様に訴求するポイントも一つにして、全てをシンプルにしましょうということです。
2つ目は、ハイスピードに、しかもそこまで高額ではなく、且つ品質を保ったままお客様にサービスを提供していくことです。そのためには、1つのソリューションに対し、社内の組織をまたいで取り組む必要があります。私たちはお客様に製品をご購入いただいているので、長くお付き合いをして、製品をお使いいただいている間中サポートしたい。先ほども言った“主治医”のような存在でありたいのです。お客様に信頼していただけるだけの形態がとれるかどうかが問われている。もちろんそのための変革も行っているところです。
3つ目が、Co-Innovation。私たちが持っていないソリューションで、複数のお客様からニーズがありそうな物に関しては、お客様と共同で、新しい製品、新しい機能を追加していくことも前向きにやっていきたい。そしてそれをSAP HANA上で行っていくことが、弊社にとってもお客様にとっても大きなメリットになると考えています。
その3つが、ONE Serviceの柱になっていますね。
Co-Innovationで、一番大変なところはどこでしょうか。
竪谷氏
やはり、個別開発にならずに、できるだけベストプラクティスにしたいという部分です。お客様のニーズに答えながらも、個別のニーズだけに応えすぎないようにしなければならない。そして、どれが本当に、世界中で必要とされているのかも判断しなければならない。例えば保険業界で、小売業界で、自動車業界で、いろんな分野で様々なニーズがあるなかで、Co-Innovationすべきは何なのか。そこをどう絞り込んでいくかも、今後我々が苦労する点だと感じます。
草川氏
そのための費用を、どのくらいお客様とシェアしていくのかというのも、大きな課題ですね。例えば、アジアの3つの国でそれぞれお客様を見つけて、たまたま同じようなタイミングで開発を望まれているとすれば、3社に共同開発に参加していただくことで、お客様の負担も私たちの負担も減る。さらに、アジアの3カ国で開発を進めていければ、少なくともアジアでのベストプラクティスとして認定もできます。そのように、今後もいろいろなCo-Innovationの形が出来ていくと思いますが、できるだけ、特定のお客様に偏りすぎないように考えています。
SAPで活躍できる人は、「チームワーク」と「専門性」両方を大事にできる人
大きなチャレンジを行っている御社で、今活躍されている方、そして御社が求める人材像とはどのような人でしょうか。
草川氏
守備範囲が広い人が活躍されていますね。ITの技術を持っている人、SAPの技術にどこかで携わったことがある人、カスタマーフェイシングができる人などです。我々が絶対に求めるのは「やる気」ですね。SAPはONE Serviceを初めとして、今まさに大きく変わろうとしています。変化には、やる気が絶対必要です。前職の経験にこだわらず、上手く活かすことに積極的な人ほど、より早くSAPの戦力になれます。今年採用の方の中には、採用直後からリーダーを任されている人もいますよ。
今まで業界で言われてきた、開発エンジニア、プロジェクトマネージャー、コンサルタント、サポートエンジニアのような、そういった細かい業務分担は今後無くなっていくと考えています。エキスパートとしての知識は必要ですが、専門家であることに強いこだわりを持つ方は、今のSAPには合わないかもしれません。SAPのONE Serviceという一つのチームで自分の幅を広げたいと思える方に来てほしいと考えています。
竪谷氏
SAPの凄さの一つは、組織力です。例えば、前線で働くコンサルタントを支援する、もの凄く力強い組織が後ろで支えています。我々は、一個人に依存するクオリティのサービスは提供したくありません。ですから、前線が困ったら必ず助ける部隊がある。そんな部隊が世界中にあるのです。その組織力の中で必要なのは「transparent(率直)」になることです。過去の経験からいっても、自分がtransparentになれなければヘルプされません。自分がtransparentになって、ちゃんと説明して、ヘルプを求めるから周りのチームがしっかり応えてくれるのです。
SAPはグローバル企業ですから、多種多様な価値観や文化の方々とコミュニケーションをとらなくてはなりません。専門性を使いながら、多様性を受け入れていける方は活躍されていますよ。ダイバーシティの中で働くことの面白さに興味があることも大切です。例えばアメリカ人の「品質への期待」と、日本人の「品質への期待」は全く異なります。ものの考え方の違いや、その土台である文化の違いを理解しながら仕事を進めることができれば、その人にとって新鮮で、有益な経験ができるはずです。
最後に転職を考えていらっしゃる方にメッセージをお願いいたします。
草川氏
今回のONE Serviceで、より強く、チーム力が出せるようになってきたと感じます。SAPは大きな改革へ挑戦しています。目指す方向へ共感して下さり、やる気を持って共に戦ってくれる方をお待ちしています。