世界経済がますます密になり、市場のグローバル化がすさまじい勢いで進行していく昨今、「グローバル人材」という言葉が日々新聞や雑誌の誌面を賑わしています。グローバル化の激流の中で、私たち一人ひとりが主体性をもったビジネスパーソンとして自身の能力や資質を最大限に発揮するにはどうしたらよいのでしょうか。ISSでは、この問いかけをテーマに、実際にグローバルなビジネス環境の第一線で活躍されているビジネスリーダーにご講演いただく「グローバル人材セミナー」を開催しております。7月14日(木)、GEエナジーの堀江渉氏をスピーカーとしてお招きし、『グローバルカンパニー GEエナジーの役割』について語っていただきました。
グローバル人材とは? ?グローバルカンパニー GEエナジーの役割?
■GEエナジーについて
GEエナジーには3つの部門があります。1つは発電・水事業のパワー&ウォーター部門で、発電や水処理の機械、プラントの製造販売を行います。2つ目がそれに付随するエナジーサービス事業です。スマートグリッドなどの送電サービスほか、多くのサービスビジネスがあります。そして3つ目がオイル&ガス。石油・天然ガス事業者への機器、サービスの提供を行います。私が所属しているのはパワー&ウォーター部門で、アジア・パシフィックの責任者を務めています。
今、アジア・パシフィック、中東、アフリカといった地域はぐんぐん経済成長しています。当然、そうした地域では電力需要も急拡大していて、中国の電力需要の1年間の増加分は、イギリスの年間需要に匹敵します。2030年までに世界の電力需要は現在の2倍になるだろうと言われています。これは、この先20 年で地球を1つ作るのと同じです。その中でどういう戦略で事業を展開していくかが問われてきます。
■グローバルカンパニー GE
GEはご存じのようにアメリカで生まれた企業ですが、今アメリカ国内が占める人員や売り上げは半分弱で、今後も減る傾向にあります。今は特に、南米やインド、中国を含むアジアで、人数・組織・ビジネスが違ったレベルで伸びています。
これだけの規模で、すべてのビジネスを同じようにやるのは無理な話です。従業員は世界で30万人いますので、同じことをやれと言ってもできません。それでも、30万人をできるだけ同じ方向に向かせることはできます。ですから、基本的に組織や社内プロセスは、最大公約数的に共通化できるものを軸にしています。1つはゴール、目標ですね。その年の事業計画や、中期戦略計画のゴールと、それを達成するための戦略に関しては、まったく妥協せずに非常に強く、深く共通化を図ります。また、年間を通して行うオペレーション・メカニズムは同じで、たとえば1月には世界中で人事評価のプロセスを行いますし、中期計画のスケジュールも同じになっています。 企業活動のベースには「インテグリティ」があります。30万人が世界中で働く企業の最大のリスクは信用です。それはとても崩れやすいもので、インテグリティを軽視したためにつぶれた企業は過去にいくつもあります。ですからGEではインテグリティの上に企業価値を置いています。
GEは企業価値をとても重要視しますし、企業価値に合ったリーダーを育てていくことに力を注ぎます。GEのリーダーにふさわしい人材を外から連れてくることもしますが、育てたリーダーが会社を創っていくと考えています。そして、リーダーを通じて全従業員が企業価値を共有し、それを土台にして企業を運営していきます。
GEに限らずグローバルカンパニーの特徴として、いくつかの相反するものを抱えながら運営されていることが挙げられます。たとえば、グローバル化するためには地域化、ローカライゼーションが不可欠になります。なぜなら、顧客が持つ地域毎の特性があるからです。日本人顧客のことは日本人が一番よく知っています。だから地域化しなければならないのです。GEエナジーのトップも私に「アメリカの本社を見るな」と言います。本社を見ながら仕事をしていては、地域での競争に負けてしまうからです。
また、製造業の場合、工場を含めた資本をできるだけ集中化したいと考えますが、そのことと市場の多様化とのバランスをどうとるかが大きな課題です。事業ポートフォリオにしても、効率を考えれば集中化したいですが、リスクは分散したいのです。それで、他社とのアライアンスやジョイント・ベンチャーが増えることになります。
さらに、グローバル化して規模が大きくなれば、スケールメリットを享受できる半面、動きが鈍くなって市場のスピードについていけなくなります。図体が大きくても敏捷で小回りがきく組織をどう実現するのか、という問題もあります。我々は地域のラインとビジネスのラインがタッグを組むマトリックス組織で、その問題を解決しようと試みています。
こういったチャレンジを抱えながら、グローバルカンパニーは進んでいるわけです。
■グローバルカンパニーで働くことの魅力と、そこで活躍できる人材
「グローバル人材」と言われて反射的に思い浮かべるのは、「リーダー」「リーダーシップ」という言葉です。リーダーシップは、グローバル人材の1つの大きな要素だと思います。
GEにはいろいろな人がいます。人種や国籍のことだけでなく、文化的バックグラウンド、考え方、表現方法など、本当に多様性があります。そういうものと触れ合うことで、自分も人間としての成長を図っていることが大きな魅力のひとつです。たとえば、グローバルカンパニーでの会議風景を思い浮かべてください。インド人は周りが止めるまで、とにかくしゃべり続けます。イギリス人は理屈っぽいことを賢そうに言います。アメリカ人は声が大きいですね。では日本人はというと、黙っています。手を挙げて発言を求めるのですが、それを無視して皆が話し続けるので、結局発言できずに会議が終わってしまいます。笑い話のようですが、本当です。そして、そういう土俵の上で日々、仕事をしていくわけですから、周りに協力を求めたり、皆をまとめて同じ方向に向かわせたりするには、リーダーシップが絶対に必要なるのですね。
リーダーは職級・職階ではなく、誰でもなれるものです。「こうしたい」「こうすべきだ」と自分の考えをしっかりと持ち、それを周りに訴えて巻き込み、変化を起こせる人がリーダーです。ジェフ・イメルトに「あなたの一番大事な仕事は何ですか?」と尋ねたことがありますが、彼は「変化を起こすこと(Make a Change)」と答えました。GEではそういうリーダーを求めていますし、育てようとしています。
トレーニングに関して言えば、GEは年間10億ドルを社員の教育・トレーニングに使っています。これだけのお金を人材育成に投入している企業は、ほかにはないでしょう。GEで働くことの意義、魅力は何かというと、そういう環境の中でリーダーシップを身につけられることだと私は思っています。
GEで求められる人材とは
GEの評価は公明正大で、ものすごくオープンです。評価の軸は2つで、1つはパフォーマンス、仕事の成績です。もうひとつはグロース・バリュー(Growth Values)といって、どれだけバリューを実践したかについて、外部志向、明確でわかりやすい思考、想像力と勇気、包容力、専門性の項目で評価されます。
では、GEで活躍できる人、求められるのはどのような人材かというと、ひとつは多様性をた楽しめる人だと思います。国際貿易をしていればインターナショナル企業ですが、その中心にある文化は1つだけです。ところがグローバル企業には、それこそ 20, 30 40もの文化があり、それがぶつかり合うところに価値があります。多様性を自分たちの強みにできるのがグローバル企業なのです。そういう多様性を面白いと思える人は、ぜひチャレンジするとよいと思います。
また、GEには「どうせ空振りするなら大きな空振りをしろ」という考えがあります。新しいことでもリスクを取って挑戦し、変化を恐れない姿勢が評価されます。それから、大きな視野を持って考え、行動に移せる人。どんなに素晴らしいアイデアでも、行動に移さなければダメです。
そして、どんな相手ともコミュニケーションを取れる人。単に自分の主張を押し付けるのではなく、相手の文化や習慣、考え方を理解したうえでコミュニケーションできることが大切です。先ほど言った包容力ですね。私はチーム編成をするとき、自分にないものを持っている人を入れようと考えます。違っていることはとても価値のあることで、それを認め合うことが大切です。
完璧な人間はどこにもいません。大切なのはどういう意識、姿勢でビジネスに向かっているかだと思います。自分を知り、学び続ける姿勢、成長し続ける姿勢を持ち続けられる人が、グローバルカンパニーではリスペクトされるのです。
「経験を積む最高の方法は失敗をすることだ。失敗を避ける最高の方法は経験を積むことだ」。これは私の大好きな言葉で、私自身もこの考えで経験を積んできました。失敗の数では負けない自信があります。とにかく、やらなくては経験を積めませんし、失敗から学ぶこともできません。