ナイキは自分の発想を実現できる会社
Q:まず、みなさんの経歴と現在の仕事内容について教えてください。
小林氏
大学までずっと陸上をしていたので、卒業後は日系スポーツ用品メーカーに就職しました。そこで11年ほど営業から商品企画まで経験し、7年前にナイキに転職しました。ナイキではまずサッカーと野球のフットウェアのマーチャンダイジングに携わり、その後ライフスタイル系フットウェアのマーチャンダイジングに異動しました。それからフットウェア全体のビジネスディレクターを経て現在はスポーツウェアのGMをしています。
甲田氏
私は最初、日系生命保険会社に就職したのですが、自分のやりたいことではないのではと考え退職し、海外留学をしました。その経験を活かそうと、帰国後は大手外資系ハードウェアメーカーで秘書業務と人事に携わりました。しかし、組織が大きかったことと、ホワイトカラー的な体質が肌に合わず(笑)、2年でナイキに転職しました。ナイキを選んだのは、スポーツかエンタテインメントの仕事をしたかったのと、マイケル・ジョーダンが大好きでナイキの広告に惹かれていたから。「ジャパンタイムズ」の求人広告を見て「これだ!」と思ってすぐに応募しました。入社して最初に就いた仕事は、アパレルのプロダクトチームのアシスタントです。1年半後にマーケティングに呼ばれてからは広告とブランドマネジメントをやり、いまはブランドコネクションといって、日本企業でいう広告宣伝部のディレクターをしています。ナイキの広告に惹かれて入った人間が広告の仕事をするなんて、できすぎのような気もします(笑)。自分で口にはしなかったものの、そういう思いが周囲に伝わっていたのかもしれませんね。
ゲーリー氏
私はアメリカ出身で、以前はアメリカのカジュアルファッションブランドで働いていました。95年にそのブランドが日本のマーケットに進出するのに合わせて、私も日本に来ました。本来は半年間のアサインメントでしたが、それからずっと契約を更新して日本に居続けることに(笑)。結局、13年勤めた後、アメリカ系ラグジュアリブランドに5年いて、その後ナイキに入社しました。まだ入って1年程度ですが、ナイキはすばらしい会社だと思いますね。働いている人たちがとてもフレンドリーで温かい。誰かが困っているとみんなが助けてくれる社風がありますね。
小西氏
私は、最初に就職したのがナイキです。NIKEブランド発祥の地であるオレゴンの大学に通っていましたし、バスケットをしていたので、ナイキはとても身近な存在でした。卒業して帰国後、ナイキの求人広告を見て応募し96年の1月に入社しました。入社時はファイナンス担当ディレクターのアシスタントをやっていましたが、社内にフットウェアの開発チームがあることを知り、そのチームの人たちと話をするうちにどうしても靴づくりをしたくなり、希望を出して開発に移りました。
98年にフットウェアの開発がアメリカ本社に一元化されたときも、どうしても本社で働きたい、という希望が認められて本社に行きました。アメリカではランニングフットウェアのチームに入り、3年半ぐらい仕事をしましたが、90年代にナイキを劇的に成長させたレジェンダリー(伝説的)な人たちがまだ現場に残っていて、一緒に働けるだけで幸せでしたね。デザインレビューという会議で、憧れのデザイナーが新しいフットウェアのデザインをコンセプトから説明していくのを見させてもらったときの感動はいまでも鮮明に覚えています。
そのままアメリカで仕事を続けることもできたのですが、ずっとナイキで働き続けるためには日本市場を知っておく必要があると考えて、2001年にナイキジャパンに戻り、ライフスタイルのフットウェアを担当しました。ところが半年くらい過ぎた頃にアメリカから誘いがあり、再び向こうで仕事をしました。現在は日本に戻り、フットウェアだけではなく、アパレルも含め企画・販売する商品のプロダクトのチーフをしています。
他ではできないことをやるのがナイキのDNA
Q:仕事をしていてナイキらしさ、魅力を感じるのはどういうところですか。
小林氏
ナイキでも部署やポジションによって仕事の仕方は変わると思いますが、「ナイキだから」ということを大切にするのはどこでも同じですね。カッコイイとかオモシロイということも含め、他のスポーツウェア・メーカーにはできないことをやるのがナイキのDNAで、それが僕の仕事観にもなっています。転職してきて最初にこの会社が好きだなと思ったのは、プロジェクトを終えた後の反省の仕方がとても短くて深いこと(笑)。失敗したときは反省して問題点をしっかり分析するけれど、プロダクトが悪いとか、マーケティングが悪いと責任を押し付け合うようなことはしない。みんなで意見を出しあって結論が出たら、じゃあ次はどうするって、すぐに前を向く。欠点を叩いている暇があるなら長所を伸ばそうよ、という会社なんです。後ろ向きのことに時間を使わないし、それがナイキの機動力に繋がっている。前向きさはナイキの大きな魅力だと思います。
ゲーリー氏
本当にみんなとてもポジティブでチャレンジングだと思います。きちんとラーニングをして、スマートリスクを取っていきましょうって決めて、あとはJust do it !(笑)。それにみんなそれぞれの切り口を持っていて、意見を出しあう。だから社員同士でいいコラボレーションができるんだと思います。
あと、私がナイキに入社していちばん驚いたのは、一人ひとりにいろんな可能性があって、それを自分の意志で選ぶ自由があることです。それも国内だけじゃなくてグローバルにある。すごい会社だと思いますね。
小西氏
個人の発想やアイデアを尊重し、ちゃんと聞いてくれる文化があり、またそれを奨励しているのは魅力の一つですよね。発想があれば部門の壁どころかポジション・国境も関係なく興味を持ってくれるので、ものづくりをしている私がマーケティングのアイデアを出してもちゃんと聞いてくれる。そしてそれが良い発想であれば、すぐにプロジェクトを組んでやろうということになる。そういう自由闊達さがナイキの魅力であり強さだと思います。
あと、仕事をしながら学びなさいという文化ですから、何かチャレンジをした結果、失敗をしても、この失敗からこれを学んだので次はこうしますというところまで言うと、拒まれたり怒られたりすることはないですね。
小林氏
失敗そのものより、そこから何も学んでいなかったり、次に活かすプランを持っていなかったりすることのほうが問題ですよね。提案も持たずに報告に行くと何やってるんだ!となりますよ(笑)。失敗に学び、それを活かした上で提案すれば、それに対してアドバイスはあっても却下はありません。
甲田氏
広告でも、ゴールに向かうステップが定型化されているわけではないので、自分の創造力を最大限に発揮してしっかりプランを出せば、方向性が間違っていない限り却下されることはないですね。とにかく、チャレンジさせてもらえるし、自分の考えが仕事に結びつく。だから仕事が面白くてしょうがない。これだけ自分の発想を仕事に反映してそれを実現できる会社って、そうはないと思いますね。
Q:グローバルでお仕事をされることも多いと思いますが、心がけていることはありますか?
小西氏
グローバルチームに対してプレゼンをしたり、レポートをしたりするときは、相手に応じて伝え方を変えるよう心がけています。デザイン系の人とサイエンス系の人では全然違いますから、ビジュアルが多いほうが伝わりやすいのか、数字を多くしたほうがいいのか、相手に合わせて見てもらえるようにしています。またグローバルチームにメールを打つときには部下もCCに入れて送ることで自分がどうやってコミュニケーションしているかを見せるようにしています。その通りにするように、という指示はしていませんが、見ている人はちゃんと見ていてそこから学んでくれていますね。
甲田氏
グローバルとの関係の中でいちばん意識しているのは、日本のインサイトを常に共有していくことですね。海の向こうにいて日本のマーケットを実際に見ていませんから、いくら私たちがこれをやりたいと言っても、わからないんですよ。ですからマーケットの資料を送ったり、実際に日本に来てもらったりして、日本の消費者に対する理解を深めてもらうようにしています。特に広告の場合は感覚に頼る部分が大きいので、欧米人と日本人の美意識の違い、表現の微妙なニュアンスの違いなどをうまく伝えなくてはなりません。それに消費者の変化が早いので、1年前に伝えた内容はもう使えなくなっているんですよね。
小林氏
広告の場合はゴールが抽象的だから伝えるのも共有するのも難しいですよね。ビジネスだと数字だとかグローバルで共通しているものだから、ある意味分かりやすいですが、広告の場合は「なにがカッコいいか」ですからね。バックグラウンドによって感じ方は全然違う。ト
甲田氏
この表現は日本人には強すぎる、といった文化的なバックグラウンドをちゃんと伝えるというのは重要ですよね。非常に大変ですが(笑)。例えば女性の筋肉の見せ方一つでも全然違うんですよ。アメリカでは筋肉を鍛えた強い女性が好まれますが、日本ではボディビルダーのようにポーズをとって筋肉を強調するよりも内面から出てくる精神的な強さが好まれる。ニュアンスの問題なんですが、それが後々、キャンペーンがうまくいくか、いかないかを左右するんです。ですから、少しでも日本の消費者に受け入れられるキャンペーンや広告を作る為の前準備としてのコミュニケーションを非常に大事にしています。特に相手はデザイナーやクリエーターですから、彼らとの共通語を早く見つけ、彼らが理解できる言葉で伝えることが重要だと思います。大変ですが、日本の消費者に受け入れられる広告にするために、常に新しいインサイトを伝えるよう努力しています。