経営のプロに求められるのは組織を活性化して数字を出すこと
大学を卒業してP&Gに入社されましたが、入社の決め手となる理由を教えてください。
就職先を決めるにあたっては、5つのクライテリアを考えていました。自分がやりたい仕事ができそうな会社か、仕事にやりがいが感じられそうか、英語を使ってビジネスをする環境があるか、ある程度の規模があって成長余力が残されているか、そして社風が自分に合うかです。それらをクリアしたのがP&Gでした。当時は、日本ではまだ小さな会社でしたが、本体がしっかりしているので成長が十分に期待できましたし、入社後に4?5カ月、アメリカで英語の勉強をさせてくれるということも魅力的でした。
P&Gではどのような仕事をなさいましたか?
最初はブランドアシスタントとして、洗剤のブランドを担当しました。市場の分析、消費者の分析、プロモーションのプランニング・実行が主たる仕事でした。マーケティングのことは何も知りませんでしたが、研修とOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で覚えました。その後、メディア部門のトレーニーを多少経験し、スキンケアのアソシエイト・ブランドマネージャー、ブランドマネージャーを経て、コスメティックやペーパー製品を担当するマーケティングマネージャーになりました。
P&Gには約11年いましたが、やるべきことを一生懸命やれば結果はついてくる、と言うことを学びました。また、ビジネスを行う上ですべての基礎となる論理的思考を身につけられましたし、英語とマーケティングの基礎も学ぶことができました。
1996年にジョンソンに移られました。経緯と背景をお聞かせください。
P&Gではマーケティングのことはしっかり学ぶことが出来たのですが、仕事は分業化されておりました。もっと、会社全体を見渡すような仕事をしたいと考えたとき、転職を意識するようになりました。
ジョンソン株式会社を選んだ理由の一つは、会社の基本理念がしっかりしていて共感できることでした。たとえば「会社の活力や強さの源は社員にある」として、社員を大事にしています。また、環境問題や地域コミュニティ活動にしても、お題目だけで終わらせずに真剣に取り組んでいる。どれも当たり前のことなのですが、それを真摯に実行しているところが素晴らしいと思います。
それから、当時のジョンソンはよりグローバル化への転換を図ろうとしている時期にあり、日本の社長として、初めてアメリカ人が就任していました。そういう転換期にある会社は、仕事のやり方も変わっていくので面白いと思いましたし、また、入社直後から経営委員会のメンバーの一員として加えてもらえるということでしたので、新しい会社づくりに参画できることも魅力に感じました。そうした環境下で自分の力を試したいと考え転職に踏み切りました。入社してから5 年間はマーケティングディレクターを務め、次に営業のディレクターを3年務めました。その後アメリカの本社でアジアパシフィック地域担当のマーケティングディレクターとしての経験をつみ、その後、大学でエグゼクティブプログラムを学んだ後、2005年から日本法人の社長を務めています。
ジョンソンの事業内容と今後の戦略についてお聞かせください。
当社は、家庭向けクリーニング用品、食品保存用品、殺虫剤などの世界的メーカーであるSCジョンソン社(SC Johnson & Son, Inc. 本社:アメリカ)の日本法人です。1962年に日本でのビジネスをスタートして以来、〈カビキラー〉や〈クルー〉〈パイプユニッシュ〉といった家庭向けクリーニング用品の製造販売を主たる事業に、中規模カテゴリーの中で消費者満足度の高い商品を開発し、結果として高い市場シェアを獲得してきました。
今後は、グローバル・マーケティング戦略のもとで、参入するカテゴリーの幅を広げ、事業領域を拡大していこうと考えています。といっても、日本独自の製品が多いので、それについては日本独自のマーケティング戦略でマネージしていきますし、SCジョンソンのグローバルで共通の製品カテゴリーについてはグローバルなやり方を適用するという、複線型の事業戦略になっていきます。
これまででターニングポイントとなるような経験はありましたか?
いくつかありますが、最初のターニングポイントは、P&Gで吸収合併した新化粧品のブランドマネージャーになったときでしたね。吸収合併前は、当然別会社だったので、同じ会社でありながら、転職しているような状況でした。当然のことながらバリューやカルチャーが違うし、仕事のやり方も違うので非常に大変でした。私は思ったことを何でも口にする性格で、自分が信じていること、正しいと思うことを通すタイプなので、結構ぶつかって、たたかれたりもしました(笑)。でも、全く違う環境の中で試行錯誤しながら組織を一新し、ビジネスを成長軌道に乗せた経験が、今のベースになっていると思います。
ジョンソンでは、グローバル化の波の中で、もまれながら成長したと思っています。また、営業ディレクターのときに、営業活動をより効率的・効果的に行うための新しいPDCAを基本にした先進的なプロセスをスタッフと共に作ったのですが、これは、新しい会社づくりのいい経験になりました。
仕事で高いアウトプットを出し続ける努力がキャリアパスを広げてチャンスを引き寄せる
経営者としてのミッションは何でしょうか?
ジョンソンの考え方に沿って事業を行い、消費者のニーズを満たし利益ある事業とその成長を実現することです。それを果たすために、目標の達成状況や社内の動向を正確に把握し、社員とコミュニケーションをとりながら軌道修正を行うようにしています。いま何をするべきなのか、それがどういう状況にあるのかといったことを常に把握していなければトップとしての責任を果たせませんから、できるだけ自分のほうから社員に声をかけ、考えを伝えたり、社員の考えを聞いたりするようにしています。社員みんなの考えを吸い上げることのできる経営者になりたいと思っていますし、それができれば社員にとって働きがいのある会社になると思います。
コミュニケーションで気をつけていることはありますか?
「いい質問」を社員にすることですね。いい質問とは、答える側が自分の意見を正直に言えるような質問です。こちらにはそういう意図がなくても、社員は私が言うことを「社長の発言」と取るでしょうから、「社長がこう言ったからこうしよう」とならないよう、「自分はこう思うから、こうやる」という社員の自主的な行動につながるように、社員の考えを引き出せる質問をするよう心がけています。もちろん、社員全員が同じベクトルで考えることが重要なので、会社の具体的目標と戦略を常に明確に伝えることよう努力しています。
鷲津さんがお考えになるプロフェッショナルとは?
自分のやるべきことを、それ以上に行う気概を持っている人がプロフェッショナルだと思います。仕事に限らず何をやるにせよ、常にバーを高くセットして、それをクリアするために死に物狂いになれる人。うちの社員にはそういう人がけっこう多いですよ。現状とあるべき姿のギャップを考え、それを埋めるための努力を怠らない。そういう姿勢を持ち続けられることも、プロには必要だと思います。
経営のプロに求められるのは、組織を活性化すること。同時に経営的な数字も実現すること。結果を出すためにやるべきことを考え計画し、その計画をきちんと実行すれば結果はついてくるはずです。結果がついてこないのは、すべきことが実行できていないから。その原因をロジカルに突き止めて対処することが経営者の責務だと思います。
30代、40代で経営者になることを目指している人たちにメッセージを。
本当に能力のある人ならば、自分で会社を起こせば経営者になれます。既存の会社で経営者を目指すのであれば、自分が今携わっている仕事で、上司より良いアウトプットを常に出すように努力することが大切でしょうね。まず、目の前にある自分のやるべきことに集中し結果を追求すること。そして自分に任された仕事を常に高いレベルでやり続けてこそキャリアパスは広がっていくもの。努力の結果としてそういうチャンスが巡ってくる。見るべき人は見ているものですから。