INTERVIEW
企業インタビュー

 企業インタビュー
ル・クルーゼ ジャポン株式会社 竹本 エリ

マーケティング×経営 ~マーケティング戦略を語る Vol.9

ル・クルーゼ ジャポン株式会社

マーケティングディレクター

竹本 エリ

ル・クルーゼは1925年、北フランスの小さな村、フレノワ・ル・グランで始まりました。以来、フランス伝統の丹念な製法を守りながら、常に革新的なアイデアをもとに、高品質な製品を作り続けています。その手作りの風合い、機能美を追求したシンプルなデザイン、鮮やかなカラーと遊び心。全てに、美食の国のエスプリが息づいています。

公開日:2014年12月11日
(インタビュー実施時の御所属・役職名にて
記載させて頂いております)

世代を越えて楽しめる それがル・クルーゼブランド

まずは、ル・クルーゼブランドの特徴を教えてください。

cg_056_03ル・クルーゼは、カラフルな鋳物鍋を柱にしたキッチンツールのブランドです。日本でも南部鉄器などの鋳物の製品はありますが、そのほとんどが素材のままの色です。それに、これほど鮮やかな色を付けるという発想は、フランス発のブランドならではだと思います。

ル・クルーゼは、1991年に日本で販売され始めて以来、「カラフルでおしゃれ」というイメージで市場を開拓し、百貨店、直営店など売場を増やしながら、社員数も増えて年々成長してきました。しかし、それだけではいつか頭打ちになるだろうという懸念がありました。私が2011年にマーケティング担当として着任した際に、「ル・クルーゼブランドの価値を一度再認識し、今後どのようにして売上に繋げていくか、という課題があることを感じました。

課題をクリアするために、どういった試みが必要だとお考えになりましたか?

まず行ったのが、ブランドガイドラインの策定です。策定にあたり、ル・クルーゼというブランドを見直すためのワークショップを行いました。マーケティング部メンバーだけでなく、営業やリテール、財務などさまざまな部門から代表者に集まってもらい、ル・クルーゼのブランドイメージやパーソナリティについて徹底的に話をし、なりたい方向性を模索しました。そこで出たコメントとして、「お洒落」「洗練された」「温かみのある」「おもてなしの心」というキーワードがありました。人物像として「自分の感性を大切にし、ライフスタイルを確立している人」「こだわりをもっているけれど、尖っていない人」「温かみがあり、人との繋がりを大切にしている人」ということでした。それはフランス人のライフスタイルイメージそのもので、彼らは食べるのに何時間もかけて、コミュニケーションを楽しみます。人生を楽しんでいます。また、ル・クルーゼブランドには職人技や伝統があるというような強みもあり、お洒落なだけでなく機能性もある、世代を超えて楽しめる製品を提供するブランドだという共通認識を、あらためて持つことができました。

改めて言語化されたキーワードをまとめ、ブランドエッセンスを抽出し、それらをさらに具体化して、ル・クルーゼのDNAとなるガイドラインをまとめました。これを、製品開発や販促物、ウェブサイトや接客に至るまで、あらゆるビジネス活動のタッチポイントにおける指針にしたいと思っています。このガイドラインは、時代に応じて少しずつ進化していくものでしょう。しかし、ブランドを形づくる根幹は変わらないもの。他の国もほぼ同じですが、特に日本ではル・クルーゼブランドに対しては前述のようなイメージを持たれています。それは過去からの現在までのブランド戦略において構築されたイメージであり、それがル・クルーゼそのものなのだと思います。

限定商品はコンセプトを明確にしてあえてターゲットを絞る

では、もう一つの課題である新しい市場の開拓についてはどのような試みを行ったのでしょうか?

cg_056_05ガイドラインを策定し、ブランドエッセンスが固まったところで、新たなマーケティング戦略構築に着手しました。当時のル・クルーゼは勢いのある成長期を経て、主力製品であるお鍋の売上げが落ち着いてきたころでした。お鍋は、一度買うと長く使い続ける製品ですから、リピーター購入者がいても、成長期のころと同じような売れ方ではなくなるのは当然です。そのなかで、新しい切り口や伝え方を模索していました。どうしても過去の成功体験である「お洒落なイメージを喚起すること」に依存してしまい、ブレイクスルーできないでいました。そこで、次の2点をマーケティング戦略の軸に設定しました。まず一つ目は、主力製品の鍋をより多く買っていただくこと。二つ目は、お鍋以外のカテゴリーを伸ばしていくことです。当時はちょうど、食器カテゴリーが伸び盛りでした。食器類の売上げが会社全体の成長率を支えていたので、それ以外も含め成長性のあるカテゴリーにも投資することにしました。

具体的にはどのような活動を行われたのですか?

cg_056_08ル・クルーゼでは定番の赤やオレンジのお鍋に加え、アパレルのように季節ごとの新色を出します。私も入社時に驚きましたが、毎年いくつも新色を出し、それが売れて、予想外に忙しいビジネスでした(笑)。ただ、それまでは「今年の新色です」と店頭に配荷しても、思うように売上が取れないシーズンもありました。まさにアパレル商品と同じような現象です。そこで、ただ「新色です」で終わらせず、具体的なテーマや背景、使用シーンなどコンセプトをしっかり構築し、提案することで、よりコレクションとしての完成度を高めました。

例えば2014年の秋冬コレクションは、「モーブピンク」という限定色が特長です。シックでブドウのような深いピンクのお鍋と、それにコーディネートする同じく深いピンクの食器類を商品開発チームが提案してきて、「これにはワインが合う」と思いました。日本では年々ワインの消費量が増えてきているという時代背景もありますし、ワインバルも流行しています。そこで、ワインバルでよく目にするようになった小さめサイズのココットを中心としたプロモーションをしようと提案しました。通常のお鍋は20cmや22cmが主流ですが、それよりも小さい、タパス料理に適しているサイズです。当時、小さめのお鍋は主に業務用(飲食店などの店舗向け)でしか流通させていなかったのですが、一般家庭でも需要はあるはずだと考えました。流行りのワインバルで使われているのを見て、自宅でも使ってみたいと思っている人は少なくないでしょうし、小さめサイズだから一人暮らしにもちょうどいい。ホームパーティのようなシチュエーションにもぴったりです(特に女性は色々なメニューを少しずつ食べたいですから)。ワインを飲まない人にも、提案するシーンがお洒落なら充分にアピールできると思いました。それに、ル・クルーゼには、すでに広く普及している定番商品があります。ですから、限定商品を出すときには多少明確にセグメントしたターゲットに深く刺さるようにコンセプトを設定しようと判断し、「ワイン&テーブル」というコンセプトで進めることにしました。

ワイン大国フランスのブランドということでコンセプトとの親和性も高く、トレンドや市場の動きを考えても勝算はありました。お鍋だけでなく、ワインオープナーなどまだ認知度が低いなワインアクセサリーも、テーマに併せて世界観をつくるよう一緒に店頭に並べ、「ワイン&テーブル」は充実した売り場になりました。実際、コレクションの売れ行きは良く、胸をなで下ろしましたね。何が一番売れたか? 目論みどおり、小さめのココットです(笑)。実際、小さいサイズで価格帯も抑えられ、リピーターの方のコレクションとしてもお求めやすい状況を作れたことも功を奏しました。

コンセプトをつくることがマーケティングの要となったわけですね。具体的にはどのような効果があったのでしょうか。

cg_056_09消費財メーカーの世界では当然のことなのですが、キッチンウェア業界では、どうしても見た目の要素やブランドの力が強く、あまりストーリーを深掘りするような必要性はありませんでした。それを、明確なコンセプトをつくることで、雑誌などのメディアに取り上げられやすくなり、他社メーカーや飲食店など、タイアップパートナーを見つけやすくもなりました。さらに、テーマが明確なので百貨店での売り場拡大にも貢献できたというメリットもあります。百貨店も、トレンドをいつも意識しており、感度の高いお客様に対して常に新しい製品を提案しています。その際に、それを使うシーンを具体的にイメージさせることはプラスになります。今回、売り場で「ワイン&テーブル」というコンセプトを表現することで、百貨店にいらっしゃるお客様にも分かりやすく、喜んでい頂けました。

ほかに、限定品ではなく定番品として同じようにターゲットセグメントで成功している例が、「Le Creuset Baby」や「le Creuset Black」の立上げです。
「新しい命の誕生をお祝いする」「育児が楽しくなるように」という思いで、まず日本で立ち上げたのが「Le Creuset Baby」シリーズです。もともとあまり売れなかった小さいサイズのお鍋が、ベビーラインの一環で赤ちゃんの離乳食用として提案をしたところ、ギフトを中心に売れ始めました。大変なお子様の食事作りも、ル・クルーゼなら気分が上がる、そして子供が喜んで食べてくれると、ますます嬉しくなります。
そして、男性向けに展開している「Le Creuset Black」は、それまで業務用で流通していたマットブラックやネイビーカラーのお鍋や食器を中心に、TNSフライパンやワインアクセサリーなど男性が好きそうなアイテムを併せて提案しています。男性モデルやファッションコラムニストなどを起用したイベントを実施したり、オンラインメディアでの告知など、こだわる男性層への認知をじわじわ広げて、新しい市場を切り拓いていこうとしています。「Le Creuset Black」は、男性だけではなく、かっこいいテイストが好きな女性層にもうけているんですよ。

もともとル・クルーゼファンの方や、シンプルにル・クルーゼのデザインや色が好きだというお客様には、そのままの魅力で購入していただけますが、まだル・クルーゼに興味を持っていらっしゃらない方にも、いかに分かりやすく価値や情報を届けるか、日々考えています。

カテゴリーリーダーとして市場の拡大を目指していきたい

ル・クルーゼは競合他社との「差別化」についてどのように考えていますか?

cg_056_04一番の差別化ポイントは「色」や「バリエーションの豊富さ」ですが、その見た目だけではなく、機能面でも差別化を見出そうとしています。まず「味」の違いですね。ル・クルーゼで炊くお米は美味しいと評判で、実際に炊飯器を捨ててしまわれたお客様もいらっしゃるほどです。野菜も同様に、甘くおいしく調理することができます。しかし、それはあくまで評判やお客様のコメントの話で、立証するものはありませんでした。そこで、新たなマーケティング戦略を考えるための一環として、食材が美味しくなるというエビデンス(根拠)を、実験により追求して数値化することにしました。

野菜の味が甘くなる、というコメントもよく頂いていたので、これに関しても仮設を立証するべく調査をしました。食品の旨味や甘みなど「五味」を測定する検査機器を使って、同じ調理条件のもと、アルミやホーロー鍋、他の鉄鍋で野菜を蒸してみると、予想通り、一般の人でもはっきりと感じられる差異があり、ル・クルーゼのお鍋のほうが「甘さ」「旨み」において高い結果となったのです。やはり、ル・クルーゼは素材の味を引き出す力を持っていたということで、メンバー一同、嬉しくなりました。このような実験は、食品メーカー時代の経験が役立ちました。

こうしたデータをもとに、2014年から「野菜あまうまプロジェクト」を立ち上げ、野菜をもっと手軽においしく食べていただくためのコミュニケーション活動をしています。ウェブサイトにもレシピを掲載したり、チラシやPOPなど販促物を制作したり、野菜のレシピ本を出版したり、百貨店や得意先様のイベントでも試食イベントなどを通じて、多くの人に味の違いを体感して頂いています。本当に、にんじんやブロッコリーが甘くておいしいんですよ。ル・クルーゼの良さを実感してもらうためには、実際に触れて、体感していただけるイベントが欠かせません。色が味覚にもたらす効果も大いにあります。私たちは「野菜あまうまプロジェクト」をはじめ、競合他社と比べても機能面で優れているというところを打ち出していくことで、さらに新しいお客様を獲得していこうと取り組んでいます。

ただ、私たちが意識しているのは自社のことだけではありません。ル・クルーゼは、鋳物鍋という市場の中で高いシェアを誇っています。カテゴリーリーダーとして、鋳物鍋の良さをもっと多くの人に伝えるために何ができるかも考えています。私たちがすべきことは、「鋳物のお鍋は料理を美味しくする」ということを、もっと多くの方に認識して頂くことだと思います。そのためには、百貨店などの店頭で「鋳物フェア」をやっても良いと思うのです。まずは鋳物製品の特長をアピールして、そのうえでお好きな製品をお客様に選んで頂ければ良いのです。百貨店の方には、「そんなことを言われたのは初めてです」と驚かれましたが、必要なのは、鋳物のお鍋の需要を奪い合うだけではなく、カテゴリー市場そのものを広げていかなければならないということです。カテゴリーリーダーとしては、やはりそれが使命だとも思っています。その中で、ル・クルーゼは確固たる優位点を明確に打ち出して、今後も活動をしていきます。

世界2位のマーケットで自由にイノベーションを起こせる会社

ル・クルーゼで活躍できる人はどのような人でしょうか?

cg_056_06まず、常に前向きに考えて行動できる人。どこの会社もそうですが、困難や問題が起こっても、ごまかすことなく、真摯に受け止めて改善策を見出す。落ち込んでも、深刻にならずに真剣になる。その二つは違うと思うんです。ル・クルーゼというブランドは、情緒的ベネフィットを与えるブランドですから、働いている人がいつも口角が下がっていたり、落ち込んでいたり、キリキリしているとお客様を幸せにも出来ないと思います。ル・クルーゼのお鍋がきっかけで、夫婦喧嘩していたのに仲直りしたというエピソードも、お客様から聞きました。そんな効果のあるお鍋、他にあまり無いですよね(笑)。そのように常に前向き考えられるために、やはり自信を持つことと、自身も変わっていける柔軟性や余裕を持つことが必要かと思います。「一人でも多くの方に知ってほしい、使ってほしい!」という強いPR精神も必要ですね。
また、ビジネス全体の効果や影響を考えられる人は、次なるリーダーの候補だと思います。今は組織や担当も細分化されていますが、自分の仕事範囲だけでなく、部署の枠を超えて利益を考えられる人や、相手を尊重しつつ幅広い知識や視野をもって行動できる人が、今後もっと必要とされるでしょう。そして、与えられた仕事をきちんとこなす人は、次なるチャンスを手に入れる可能性が高くなります。ブランドとビジネス、両方をバランスよく考えられる人ほど活躍できる。そんな会社だと思います。

では、最後にル・クルーゼで働く魅力、御社への転職を希望する方へメッセージをお願いします。

ル・クルーゼのスタッフはみんな真面目で明るく、基本的には楽しんで仕事をしている人が多いです。少なくとも、外から見るとそのように見えるようで、お客様からもよく言われます。私が初めて入社した時も、入口でスタッフの方が明るく挨拶をしてくれて、とても印象が良かったのを覚えています。みんなブランドが好きで、女性も多いせいか明るい。それは、ブランドと製品の魅力がもたらしているものだと常々感じています。料理や食は、人を幸せにするものです。そのなかでも、機能が優れているだけでなく「ファッション性」があるから、少し一般的なメーカーとも違う雰囲気があります。素晴らしい価値を持つ鍋を扱い、楽しく料理をするという価値をお客様に提供できる弊社の仕事は、とても魅力的だと自負しています。

日本は、グローバル全体で売上2位のマーケットです。私たちが提案した商品が海外に進出することもしばしばあります。日本の食文化の広まりによって日本発の製品が海外へ広まったり、日本限定だったピンクの鍋も、今や世界で大人気になったり。面白い提案をすれば、それが世界に飛び出していく。そんな醍醐味も味わえるのがル・クルーゼです。

また、SNSなどの口コミや会員調査レポートを見ても、お客様はとても高い評価をしてくれています。それが、「いいものを提供している、お客様を幸せにしている」という思いを強め、働くうえでの心地よさにもつながっていますし、逆にご不満な点が挙がれば、真摯に受け止めて改善の努力をします。お客様との距離が短いので見えることも多く、特に人と接するのが好きな人には、とてもよい環境だと思いますよ。

ル・クルーゼは2015年に90周年を迎えるにあたって、まだまだ進化しようとしています。自由度が高く、幅広いミッションを任せてもらえやすい環境なので、ぜひ一緒にいろいろなことにチャレンジしていきましょう。

ル・クルーゼ ジャポン株式会社
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ル・クルーゼ社は1925年にフランスで創業され、それ以来、機能的かつ美しいキッチンウェアを作ることをモットーに、さまざまな種類の鋳物ホーロー製品を生み出しています。1991年には日本支社を設立し、鋳物ホーロー鍋の魅力を世界中に伝えるべく、さらに積極的にグローバル化をはかりました。1992年には、世界でもっとも優れたワインオープナーと評価されている「スクリュープル」をアメリカのハーレン社より買収し、1999年にはストーンウエアの発売を開始するなど、“キッチンからテーブルまで”をコンセプトに、テーブルウエアをトータルにコーディネートのできるブランドとして成長しています。

ル・クルーゼ ジャポン株式会社
マーケティングディレクター
竹本 エリ氏:

上智大学外国語学部卒業。ディズニー・ジャパンにて出版部、宣伝部、マーケティング部を通じてライセンス事業に従事し、ブランドマネジメントの基礎を徹底的に学ぶ。その後CS放送局JSPORTSにて様々なスポーツコンテンツの認知や接触を広める宣伝販促グループのリーダーを務め、ハインツ日本では商品開発、調査、プロモーションなどマーケティング活動全般に携わる。2011年より現職。ル・クルーゼブランドのさらなる価値向上および普及を目指し、新規カテゴリーの積極展開や「野菜」をテーマとしたコミュニケーション活動を行っている。

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