語学とビジネスの交差点で見つけたキャリアの道筋

まずは、学生時代からこれまでのキャリアについて教えてください。
もともと語学が得意で、英語とスペイン語が好きだったことから、フランスで4年間言語を学びました。大学卒業後はニュージーランドに1年ほど滞在し、帰国後にビジネススクールへ進学。最初は国際業務に携わりたいと思っていたのですが、自分の未来のキャリアプランを具体化する中で、マーケティングやファイナンスなど幅広く学べるビジネス分野に惹かれました。
さまざまなインターンを経験されたと伺いました。
はい。最初のインターンシップは世界中の雑誌や新聞をフランスの報道ネットワークに配信する企業で、営業の基礎を学び、輸入業務にも携わりました。その後、グローバル企業のMarsで1年間、購買部門のインターンを経験。POS資材や印刷物、店舗用デモンストレーターの選定や価格交渉を行い、マーケティング部門のサポートもしていました。その後、クラフト・モンデリーズでの長期インターンを行ったことがキャリアの起点となりました。ここでトレードマーケティングとしてビスケット、チョコレート、コーヒーといった食品カテゴリーに携わりました。フランス国内でもトップクラスの人材が集まる企業で、非常に厳しい環境ではありましたが、多くを学ぶことができました。
厳しい環境の中で、どのように成長を感じましたか?
最初の6ヶ月は本当に大変でしたが、その経験が今の自分の礎を作ったと思います。優秀な上司と同僚に囲まれ、スピード感のある現場で適応力と実行力を磨くことができました。
私は常に「人」に寄り添うことを意識して仕事をしてきましたので、営業チームとの密なコミュニケーションを通じて、現場のニーズを理解し、それを仕事に反映できたのが強みだったと思います。その姿勢が評価され、インターン後に正式に採用されました。
「人」に寄り添う姿勢は、どこから来ているのでしょうか?
家庭の影響が大きいですね。両親から「人を尊重し、大切にしなさい」と教えられました。もともと人と関わるのが好きですし、その価値観がキャリア選択にも自然と反映されたのだと思います。
その後、7年在籍されたモンデリーズからグループセブに転職されています。
当時、モンデリーズ社は頻繁にM&Aを繰り返していて、比較的短期間に組織が再編されていました。私自身は様々な環境下でキャリアを積むことができましたが、業界や仕事をチェンジするグッドタイミングだと思いました。ちょうどプライベートでも第一子が生まれたことも影響がありました。
次に進むなら営業だけでなく、より幅広い視点でビジネスをドライブする仕事をしたいと思っていました。そんな時、グループセブから声がかかり、家電業界においては、これまでのFMCG業界では経験のなかったパートナーシップ型のビジネスに携われることができると感じ、挑戦を決めました。
グループセブに入社されてから、HRへキャリアチェンジされたのですね。
はい、入社当時は営業としてフィールドからキーアカウントマネジメントを経験し、マネージャー、ダイレクターに昇格しました。その後、2021年にコロナ禍もあって自身のキャリアを見直すことになります。元々、人に関わる仕事に興味がありましたが、当時のビジネススクールではHuman Resourcesはあまり注目されていなかったのです。ある日、HRディレクターに「営業出身者はHR業務に挑戦できますか?」と相談したところ、「Is this about you?」と聞かれて。「Yes!」と答えると、彼女は本当に前向きに応援してくれたのです。
HRへの転身と、世界へ広がる視野

HRに異動されるにあたって、どのような準備をされたのですか?
まず、フランスで1年間、労働法や社会法を学び直しました。フランスのHRは労使関係が非常に重視されるので、知識の裏付けが必要だと思ったのです。結果として、社内でもHRへの転向への支援を得ることができました。
初めてのHRポジションはどのような仕事でしたか?
セールス&マーケティング部門のキャリアマネジメント、タレントディベロップメントなどを担当するタレントマネジメントのポジションです。営業出身でマーケティングにも近い立場にいた私のバックグラウンドが評価され、チャンスをもらえました。
その後、グローバルチームへと異動されたそうですね。
はい、フランスのビジネスユニットから本社のグローバルチームに移り、世界中のセールス&マーケティング人材300名のタレントマネジメントを担当しました。50カ国以上と関わり、特に現地のジェネラルマネージャーとの連携が多かったです。
ここでローカルとグローバル、働き方の違いについても学ぶことができました。一番の違いは「視座の高さ」です。ローカルでは市場と近い分、スピード感がありますが、グローバルではより戦略的に、規模の大きい視点で物事を考える必要があります。また、英語での業務が主になり、関与する人数も数百から千人規模へと広がりました。
多国籍チームとの仕事はいかがでしたか?
何よりも「適応力」が求められました。異なる文化・言語・職種の人々と協働する中で、相手の立場を理解し、自分の考え方を柔軟にすることが大切だと実感しました。
多国籍チームと働く中で、いつか海外で働けたらと漠然と思っていた矢先、APAC地域のHR Vice Presidentとして香港赴任の話をいただきました。想定外でしたが、それだけ評価してもらえたこと、そして社内でも異色なキャリアパスの成功例として次の挑戦を後押ししてもらえたことが大きかったです。
日本での挑戦と未来への布石

香港での経験を経て、日本への赴任が決まった経緯を教えてください。
グローバルやアジアでの経験を重ねる中で、私のキャリアは少しユニークなものとなり、会社としても「新たな機会を与えたい」と考えてくれていたようです。ちょうどその時、日本法人の社長職の話をいただきました。営業と人事、両方の経験を活かし、日本で情熱とビジネス成長を加速することがミッションでした。
実際に来日したときの印象としては、フランスと日本の間には相互の尊敬と親しみがあり、似ているな、といったものでした。そして個人的にも、家族にとっても日本への赴任は大きな喜びでした。ただし、仕事の面では文化の違いやビジネスの難しさも感じました。それでも、「変革できる」と信じていたので、前向きな気持ちでいっぱいでした。
日本法人の現状と、改革において強化したいと思っていることを教えてください。
グループセブ ジャパンは今年で設立50周年を迎えました。1975年に参入して以来、ティファールブランドは日本の市場やお客様のニーズを的確に捉えてきたと自負しています。この実績があるからこそ、未来にも大きな期待を持っています。
一方で日本市場は、グループセブ グローバルの中では上位に位置しながらも、規模としてはまだ小さな存在です。現在調理器具はリーダー的立ち位置にいますが、小型家電分野はまだ発展途上。つまり、伸びしろが大きいのです。また、オフライン中心だった販売チャネルも、EC市場の成長にあわせて強化すべきだと考えています。
具体的にはどのような戦略をお考えですか?
カテゴリーの拡大が大きな鍵です。世界中に自社工場を持っている私たちは、地域特有のニーズに合わせた製品開発が可能です。たとえば、日本ならではの調理法や暮らし方に合った商品群を、ますます積極的に展開していきたいと考えています。
日本市場に根ざした開発戦略

今後の日本市場における戦略はどのようなものになりますか?
これまでグループセブは、グローバルのポートフォリオを各国に展開する、いわゆる「インターナショナル・プッシュ型」の戦略が中心でした。しかし今、私たちは大きな転換点を迎えており、より各国のお客様のニーズに沿った製品開発を重視していく方針です。
特に、日本のように独自の文化や生活習慣を持つ国においては、より一層「ローカル・インサイト起点」の製品・サービスの開発に注力していきます。
日本には、日本ならではの住環境や食文化、家電に求められる仕様があります。たとえば、コンパクトな住宅での使い勝手や、和食に特化した調理機能、梅雨の湿気対策など、海外製品のローカライズだけではカバーしきれないニーズが多くあります。今後は、日本専用の製品をますます開発・投入し、現地ニーズにしっかり応えるブランド展開を加速していきます。
日本独自の製品開発はすでに行われているのですか?
地域密着型のプロダクトとして、日本市場向けにデザインされたエッグロースター(卵焼き器)や、特別仕様の電気ケトルなどがあります。こうした製品は、国際ブランドの枠を超えた「日本の暮らしに最適な道具」として、お客様にご好評をいただいています。
日本ではT-fal(ティファール)とWMF(ヴェーエムエフ)を展開されていますが、ブランド戦略に違いがあるのでしょうか?
大きな違いがあります。ティファールは、いわば「日常使いの信頼ブランド」であり、広いカテゴリーとチャネルを通じて、さまざまなお客様に向けて幅広く展開しています。あくまで「毎日の生活を支えるブランド」として、量販店からECサイトまで多様な接点を持っています。
一方WMFは、ドイツ発のプレミアムブランドで、高品質な調理器具・キッチンウェアに特化しています。現在日本では、百貨店や直営店など、限られたチャネルで厳選された商品を販売しています。マーケティング戦略も、ブランドコンセプトも、そしてオペレーション上のチーム体制までも、ティファールとは異なる運営をしています。
変化を恐れず、挑戦する――グループセブに根付くアントレプレナー精神

社長として、どのような組織づくりを目指していますか?
私一人で何かを成し遂げるのではなく、メンバーを信じ、それぞれが活躍できる環境をつくることが何より大事です。「適材適所」を実現しながら、組織としてのエネルギーを最大化する。そしてポテンシャルをひき出すこと、それが私の役割だと思っています。
日本法人の組織や働く人々について、どのような印象をお持ちですか?
私はこのチームをとても誇りに思っています。現在活躍しているメンバーたちは、日本市場での成長を実現しており、非常にプロフェッショナルで、粘り強く、真摯に仕事に取り組んでいます。組織には、ファミリー的な一体感と、シンプルで風通しの良い関係性が根付いており、問題があれば対話で解決する文化があります。これは、グループセブらしさでもあります。
一方で、効率性という観点では、改善の余地も感じています。成功体験に基づいた「こうあるべき」という姿勢が根強く残っており、変えること自体に慎重になる傾向があります。これは「保守的」とも言えますが、それは決してネガティブな意味ではなく、組織の安定性を重視する文化的な背景だと理解しています。
日本法人には30年以上勤務するベテラン社員も在籍しており、その経験や企業文化を受け継ぎながらも、時代に合わせて進化していこうという意識をもっています。社員同士のリスペクトもあり、組織としての一体感を強く感じます。
そうした文化の違いに、どのように向き合っていますか?
本社から来た立場として、日本の文化や働き方を最大限リスペクトしながら、「日々の小さな変化」を促進していくことが自分の役割だと考えています。
日本という国は、歴史的に大きな転換期には驚くほどのスピードで変革を遂げてきました。戦後の経済復興や90年代の構造改革など、その力は世界が認めるところです。ただ、日常レベルでは「今うまくいっているから変えなくていい」という意識が根強く、小さな改善が後回しになることもあります。
だからこそ、私は「小さな変化の積み重ね」――つまり、現場の負担を最小限にしつつ、少しずつ良い方向へと「CHANGE」していく――そうしたマネジメントアプローチが、最も日本らしい、そして最も有効な改革方法だと信じています。
具体的には、どのような「CHANGE」が重要だと考えていますか?
まず大切なのは、「挑戦すること」が許容される環境を作ることです。これはフランス的な価値観かもしれませんが、私たちの企業文化の中には、「失敗は学びである」という強い価値観があります。失敗を恐れて何も変えないよりも、小さくてもトライし、そこから学ぶ姿勢を大切にしたい。
たとえば、ある業務プロセスにしても、「その報告書は本当に必要か?」「そのデータは今も意思決定に役立っているのか?」と、既存の習慣や形式に対して疑問を投げかけること。それが、「クリティカル・アイ(批判的視点)」です。これは否定することではなく、価値を見極め、進化させるための前向きな問いかけです。
「批判的」と聞くと、否定的な印象を持たれることもあるかもしれません。でも、“クリティカル”とは、「現状を冷静に見つめ直し、改善の可能性を探る」こと。つまり、前向きな見直しの視点なのです。
実際、日常業務においても「この方法は本当に必要か?」「もっと良い方法はないか?」と常に自問し、小さな変化を積み重ねていくことで、組織は自然と進化していきます。日本では「大きな改革」よりも、「小さな改善の積み重ね」による変化のほうが文化的にも受け入れられやすい。だからこそ、この姿勢は非常に重要だと思います。
グループセブのCore Value(行動指針)の中で、最も大切にしているのはどのようなものですか?
私が最も大切にしているのは「アントレプレナーシップ(起業家精神)」です。これは企業としてのDNAにも根ざしています。そもそもグループセブは、165年以上前に「調理の習慣を変えたい」と願った一人の起業家の思いから始まりました。
そしてそのイノベーションとイニシアチブの精神は、今もなお私たちの価値観の根幹をなしています。
全てが細部に至るまで体系化され、明確に定義されているわけではないのが強みとも言えます。この自由があるからこそ「自分の判断で動く余地」が大きく、社員一人ひとりが主体性を持ち、ステップアップや成長、挑戦につながっているのです。
私自身のキャリアにもアントレプレナーシップが表れていると感じています。私は営業からキャリアをスタートし、そこから人事、グローバル、そしてアジア地域のHR Vise Presidentを経て、今では日本法人の社長という立場にいます。このような横断的なキャリアを築けたのは、まさに弊社が「やってみたい」と手を挙げた人にチャンスを与える会社だからこそだと思います。
多くの企業では、部門をまたぐキャリアチェンジは難しいことが多いかもしれません。でも、ここでは「挑戦したい」「学びたい」という思いがあれば、それを支援する文化があります。それこそが、私たちの考えるアントレプレナーシップの本質であり、社員一人ひとりの成長と企業の進化を支えるエンジンになっています。
グループセブ ジャパンで活躍している人材に共通する特徴はありますか?
一言で言えば、「自ら考え、行動できる人」です。役割の枠を超えて、自分にできること、会社にとって価値のあることを考え、取り組める人。日々の業務の中で「これは本当に意味があるのか?」「こう変えたらもっと良くなるのではないか?」と自問し、そこから一歩踏み出せる人が、グループセブでは間違いなく輝いています。
そして、そうした人たちが互いに尊敬し合い、協力し合えるチーム文化が、今のグループセブ ジャパンの大きな強みだと思います。
新たに仲間となる人材には、どのような人物像を求めていますか?
まず、自分自身の視点や経験を通じて、企業に貢献したいという熱い思いを持っている人。そして、決められた枠を超えて、自ら考え、提案し、行動できる人。弊社は、成長を志す人、学ぶことに貪欲で、多様性にオープンな人材を歓迎します。自分の意志で変化を起こしたいと考える方には、最適な環境だと思います。
また、グループセブ ジャパンでは、グローバルネットワークのメリットを享受しながら、日本に根差したローカル戦略を実行することができます。そして、多国籍チームとの連携や、学びの機会、キャリアアップ――様々な機会があります。成長を加速し、変化を楽しみ仲間と楽しく働ける職場環境づくりが、私は何よりも大切だと思っています。
是非そういった理念に共感いただける方にJoinしていただきたいです。
ありがとうございました。
Photo by ikuko
Text&Edit by ISSコンサルティング