お客さまの反応が直接受け取れる距離でマーケティングに携わりたい
スターバックスに入社するまでのご経歴を教えてください。
高校生のとき、自ら希望してニュージーランドに1年間留学しました。英語が好きで、思い切って飛び込んでみたんです。田舎の学校でアジア人は私だけ。最初は英語が全然通用しませんでしたが、1年後には皆と仲良くなっていました。帰国後は青山学院大学に進学して、フランス文学を学びました。別の言語を覚えたくなったからです。
大学卒業後はIT業界に進みました。国内大手ソフトウェア企業に入社して、パッケージソフトをお客さま企業に導入するコンサルタントになりました。この会社で社会人として鍛えられましたが、もっと身近なものを扱うビジネスに就きたいと思うようになり、国内の化粧品メーカー・輸出入会社に転職しました。好きな英語を活かして海外と関わる仕事をしたい、という想いもあったからです。
二社目では国際事業部に所属して、化粧品の輸出入に携わりました。輸入業務では、イタリアや香港の大規模な化粧品展示会に出向いて、優れた商品を自ら発掘し、契約・値付け・輸入・販売のすべてを担当しました。輸出業務では、日本で開発・OEM製造された商品を、アジア各国に拡販する仕事をしていました。この会社では5年ほど楽しく働いたのですが、より本格的にマーケティングを学びたいという想いが強くなり、2012年に日本ロレアルに転職しました。
ロレアルでは、はじめに「ヘレナ ルビンスタイン」のマスカラを担当するプロダクトマネジャーになりました。グローバル本社と密にコミュニケーションを取りながら、新商品をローンチするローカルマーケティングが主な仕事です。ブランドイメージに妥協のない会社で、さまざまな面でタフな環境でしたが、それだけに学ぶことが多くありましたね。
次に「シュウ ウエムラ コスメティックス インターナショナル」に異動しました。日本発のブランドであるシュウ ウエムラでは、スキンケアやメイクアップの新商品開発を担当しました。まず最新グローバルトレンドを理解しながら、新商品のコンセプトを創出します。それからラボと協力して具体的な処方を開発し、パッケージ開発チームとともに包材を作り上げます。そして、完成したものを世界各国のローカル・マーケティングチームに、ローンチプランとともにお渡しする、というのが商品開発の大まかな流れです。シュウ ウエムラは「コラボレーション」に積極的なブランドでもあり、日本文化を代表するような大きなアーティストや企業とのコラボレーションに参画し、たくさんの刺激を受けました。
その後、2018年にスターバックスに入社して、現在に至ります。
なぜスターバックスに入社したのですか?
化粧品メーカーよりも、さらに幅広いお客さまの日常に近いところで働きたい、と考えたのが最大の動機です。自店舗で、お客さまに直接商品を届けている会社のマーケティングに興味がありました。さらに、商品だけでなく、商品を通じて体験や幸せを届けようとしている会社で働きたいと思うようになりました。
スターバックスはその条件に当てはまるイメージがありましたが、本当に実行できているのか、その文化があるのか、自分の目で確かめたいと思ってお店に足を運んだある日、私の目の前で、小さなお子さんがビバレッジを落としてしまう場面に遭遇しました。すると、すかさずアルバイトの方であろう若い男性がやってきて、何事もなかったかのようにこぼれてしまったところをさっと片付け、その子に新しいビバレッジを笑顔で渡していました。これがスターバックスの日常なんだ、と当時とても驚いたことを覚えています。いち店舗の日常にもこんなふうに企業の文化が浸透しているのはなぜなのか。その秘密を知りたくて入社を決めました。
魅力は反応の大きさ。店舗でお客さまの反応を直接受け取れることが「やりがい」につながる
どのような仕事をしているのですか?
2018年の入社時から、インテグレイテッドマーケティングプランニングチームでシニアスペシャリストとして働いており、2021年11月からはチームマネージャーを務めています。
このチームの主な仕事は、シーズナルプロモーションのコミュニケーションプランニングです。スターバックスは、ウィンター・バレンタイン・サマー・ホリデーなど、年間9種類程度のシーズナルキャンペーンを行っています。マネジメントに携わる前は年間3~4種類、マネージャーとなった今は年間1~2種類のシーズナルキャンペーンのコミュニケーションプランニングに携わっています。具体的には、各プランナーは他部署と協業しながら発売の1年ほど前からトレンド分析を行い、プロモーションのコンセプト開発をリードします。コンセプトに沿った商品開発が進むと、再びプランナーが今度はマーケティング部署内のPRやSNSの担当者とともにビジネスを最大化するためのコミュニケーションを開発します。オンライン・オフラインのさまざまな手段を検討しながら統合されたメッセージを運ぶプランに落とし込み、ローンチを迎えるという流れです。マネージャーとして、メンバーのローリングアサインやエグゼキューション含めて管理する役割も担っています。
スターバックスでマーケティングを行う魅力を教えてください。
最大の魅力は「各種コミュニケーションや施策への反応の大きさ」ですね。
たとえば、スターバックス日本上陸25周年を迎えた2021年、各地のパートナー(従業員)が地元のお客さまを想い考案した「47 JIMOTO フラペチーノ®」は、発売初日からの1週間で延べ約250万人のお客さまにお楽しみいただきました。このような大ヒットともなれば、SNSなどの反響はとても大きいものです。日々、本当に多くのお客さまに商品を楽しんでいただけている、という実感がメディアを通じても得られますし、直接店舗に行けば、リアルな反応をいつでも自分で目にすることが可能です。
私が入社後最初にお客さまからの大きな反応を得られたのは、2019年の「ふたごのイチゴ」です。2018年に大人気だった、イチゴのあらゆるおいしさを詰め込んだ #STRAWBERRYVERYMUCHFRAPPUCCINO®(#ストロベリーベリーマッチフラペチーノ®)を、翌年“レッド”と“ホワイト”の“ふたごのイチゴ”として、再販しました。過去反響のあった商品を再販することも、2種同時に発売すことも、スターバックスでは異例のチャレンジでした。発売当時、「#ふたご飲み」が、InstagramやTikTokなどSNSで広まり、お客さまからとてもポジティブな反応をいただけたことを実感しました。
また、2022年のサマーシーズンには「Yori Dori Midori (ヨリドリミドリ)」をテーマに、いろいろな“ミドリ”を楽しんでいただくため、サステナブルな地球の未来への想いを込めた商品やサービスを展開しました。おいしい“ミドリ”、まるで完熟したメロンのおいしいところだけを食べているような『The メロン of メロン フラペチーノ®』は大きな反響をいただきました。
スターバックスのマーケティングの特徴を教えてください。
大きな特徴が2つあります。
1つ目は「パートナー」の存在です。スターバックスでは、各店舗で日々生まれるお客さまとパートナーとのつながりの瞬間を最も重視しています。社員もアルバイトも全員がスターバックスの存在意義や価値観に共感しながら、店舗に訪れてくださるお客さまとの関係を大切に築いています。ですから、パートナー自身の想いを尊重し、彼らのモチベーションを高めるのがマーケティングの肝だと考えています。店舗のパートナーがコンセプトに共感してくれた新商品は、必ずビジネスの最大化につながります。パートナーの存在は、それくらいブランドに直結しています。私はコンセプトを考えるとき、「お客さまと直接対話をしてくれるパートナーが心から紹介したくなるものを」という想いを常に念頭に置いています。
2つ目は、すべてのマーケティング活動の根底にスターバックスの理念と行動規範である「Our Mission and Values」があることです。私たちは商品や施策を通じて、お客さまと世の中にポジティブな影響をもたらすことをいつも意識しています。新商品や新たな施策は「Our Mission and Values」をベースに企画し、私たちはシーズナルキャンペーンのマーケティングをしながら、お客さまとパートナーとともにブランドを大切に守り、育てていると思っています。2022年のクリスマスシーズンは、寄付プログラムである「Be a Santa Donation」を展開しました。シーズン期間中のビバレッジの売上の一部から、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえと協力し、地域の子どもたちにスターバックスのフードなどのセットをクリスマスギフトとしてお届けするキャンペーンです。このように、スターバックスはコミュニティとの関わりを大切に、できることから一歩ずつ、社会に前向きな変化をもたらすために今何ができるか、を常に考えできることから実行しています。
マーケティングの際に注意していることは何ですか?
反応が大きいからこそ、発信の仕方や内容の細部にまで気を配っています。2022年には、前年の「47 JIMOTO フラペチーノ®」の中から、お客さま・パートナーの声をもとに3種類の商品を全国で再販しました。各地域の情熱や想いが詰まった「JIMOTO フラペチーノ®」の再販ですので、コミュニケーションにはいつも以上に細部まで気を配り、丁寧に進めることが必要でした。
それから、スターバックスを利用するお客さまはありがたいことにとても多様なので、ペルソナ設定は難しいですね。たとえば、お住まい、ご来店頻度、利用される時間帯などで嗜好や考え方は一定ではなく常に移り変わります。年齢層も幅広く、ターゲット設定は簡単ではありません。定量的なデータや調査結果だけでなく、現場である店舗で目にする感覚や店舗のパートナーからの意見も含めて、お客さまの像を正しくアップデートし続けられるよう努めています。
「好奇心の尽きない人」「未経験のことにチャレンジしたい人」と一緒に働きたい
今後、どのようなマーケティングをしたいですか?
おかげさまで、スターバックスは今では多くの方の生活の一部、一種の社会インフラとも言えるまでのブランドになりました。とても幸せなことである一方で、「景色」であってはならない、という想いも強いです。これからも常に半歩先のライフスタイルを提案し、ポジティブな発信を続け、お客さまにポジティブな影響をもたらせるように、世の中をワクワクさせられるようなマーケティングを続けていきたいです。
どのような人がスターバックスで活躍できますか?
私の所属するインテグレイテッドマーケティングプランニングチームで言うならば、「好奇心の尽きない人」「未経験のことにチャレンジしたい人」と一緒に働きたいですね。チームには、店舗から異動経験のあるメンバーもいて、店舗パートナーの気持ちを実体験として理解しているため、とても心強い存在です。一方で、私のような飲食業界未経験者でも迎えてくれる環境があります。社内の複数部署との調整や交渉も多いので、芯の強さを持ちながらも、時と場合に応じて柔軟に対応できることが求められていると感じます。
マネージャーの立場としては、新しいメンバーにも、どんどん役割や機会を持って挑戦してほしいと考えています。メンバーの成功と成長を一緒に喜べる瞬間が何よりも嬉しく感じます。
Photo by ikuko
Text by 米川青馬
Edit by ISSコンサルティング