扱う商材を変えながら「新規事業開発としてのEC」をずっと続けてきた
MHD モエ ヘネシー ディアジオに入社するまでのご経歴を教えてください。
子ども時代は、毎日、友人たちと一緒に遊びのルールを考え出して遊んでいました。たとえば、各自が持ってきた枝からゴルフクラブを作って、近くの空き地でゴルフをしたりしていました。ある意味で新規事業開発と近いことを実はしていたのかもしれません。大学時代はテレビ局でアルバイトをしましたが、コンテンツづくりよりも、面白いコンテンツを広める方に興味を持ちました。特に映画が好きで、多いときは週10本も映画を見ていました。そんな影響もあり卒業後はTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に入社しました。ちなみに、好きな映画を1つだけ挙げると「ブレードランナー」です。何度か観ることで毎回違ったことに気付き、製作者は初めて作品を観る人間より何十倍、何百倍も想いを込めていることを感じられて印象に残っています。
CCCでは、映像作品のバイヤーを担当しました。コンテンツメーカーと交渉してビデオを仕入れ、どの店舗に何本配荷するかを各店舗に提案する仕事です。当時、TSUTAYAは全国に約1100店舗ありましたが、この全店舗に各作品の必要本数を提案していました。新作だけでなく過去の名作を含めた作品をVHSからDVDへフォーマット変更させるということで提案、導入できたことは今思えばとても貴重な経験でした。CCCで6年ほど働いた頃、ECビジネスが盛り上がってきました。オンライン上で映画をお勧めすれば、消費者の皆さんにより直接的に伝えられる、と気付きました。しかも、売場づくりやマーケティングもネット上でより主体的に実現できます。そう考えて、楽天に転職しました。
楽天では、楽天ブックス事業のバイヤーを担当しました。当時は日本のコンテンツメーカーが、日本発のECサイト代表として楽天をずいぶん支援してくれました。その追い風を受けて、いろんな新しいことに挑戦できました。バイヤーを数年務めた後、事業開発部長となり、三木谷社長の直下の部署で利益改善を担当し、その成功に貢献できました。また、三木谷さんに毎日のように英語でプレゼンテーションしていた経験を通じて、もっと英語を活用できる業務にチャレンジしたい、という意識も高まっていきました。その流れでシンガポールやマレーシアに異動させてもらうことができ、シンガポール版・マレーシア版のマーケットプレイスづくりを手掛けました。マレーシアでは60名ほどのマレーシア人部下をマネジメントし、英語力やマネジメント力を磨く貴重な経験をさせていただくことがきました。帰国後、それまでの経験を活かしつつ新しいことに挑戦したいと思い、VFジャパン(ティンバーランド)、次いでアメアスポーツジャパンのECディレクターを務めました。そして2022年、MHD モエ ヘネシー ディアジオに入社しました。
なぜMHD モエ ヘネシー ディアジオを転職先に選んだのですか?
私が一貫して関わってきたのは「新規事業開発としてのEC」です。私は、草創期の立ち上げを経験させてもらえることが多く、楽天も、VFジャパンやアメアスポーツジャパンも、業界のEC化率がまだ低い段階で入社して、EC化率を高めるのが私の役割でした。今小売業でEC化率が最も低いものの1つが、食品・飲料です。ですから、食品・飲料業界のECをやりたい、という想いがありました。つまり、私は扱う商材を変えながら、EC新規事業開発をずっと続けてきたことになります。
MHD モエ ヘネシー ディアジオを選んだのは、新しいチャレンジの要素があったからです。これまでの3社はいずれも、オフラインからオンラインへのチャネルシフトを狙っていました。しかし、MHD モエ ヘネシー ディアジオは、オフラインでの販売がうまくいっており、それほど急激にECにチャネルシフトしようという優先度はそれほど強くありません。これは私にとって新しい挑戦であると感じました。お客様のECをサポートして盛り上げることも私の業務範囲に入っているのも面白いですね。
ブランドを傷付けない限りは、皆さんの想像よりもずっと自由でチャレンジしやすい会社
MHD モエ ヘネシー ディアジオのECディレクターの役割を教えてください。
前提として、簡単に弊社の説明をします。MHD モエ ヘネシー ディアジオは、ラグジュアリー市場をリードするLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン グループのワインズ&スピリッツ事業を担うモエ ヘネシーと、スピリッツを中心に多数の洋酒ブランドを持つディアジオとの合弁会社です。ドン ペリニヨン、クリュッグ、モエ・エ・シャンドン、シャンドン、ヘネシー、オールドパー、ジョニーウォーカーなど、歴史と伝統のあるシャンパン・ワイン・スピリッツのラグジュアリーブランドを多数保有し、世界を代表する優れたポートフォリオを駆使して、高級洋酒マーケットをリードし続けている洋酒輸入販売会社です。
私が今最初に手掛けているのは、「ネット上で正しく、魅力的な商品情報が手に入るEC」です。もちろん販売も行っていますが、オフラインからのチャネルシフトを狙うのではなく、あくまでも自然な形でピースを埋めるためのECを構築しています。ドン ペリニヨン、シャンドン、ヘネシーなどのことを知ることができ、買おうと思えばネットで買える、という状態を作りたいですね。現代は、やはりオンラインで情報を探す人がたくさんいらっしゃいます。さらにコロナ禍では、これまでオフラインで買っていたものを、オンラインで購入する人がさらに増えました。私としては、消費者のニーズに合わせて正しい情報がオンラインで見つかるようにしたい、さらには購買できる場所も広げていきたい、と考えています。
その上で今後は、オンラインでしかできない興味喚起にも力を入れていきたい、と考えています。私が過去に在籍した2社はファッションブランドでしたが、ファッションのように質感やサイズを実際確かめたいという人が一定数いらっしゃる状況とは違い、お酒はネット上でもリアルの店舗と同じ、もしくはそれ以上に商品の価値を伝えることが可能だ、と感じています。飲み方や楽しみ方も、いろんな角度から提案することができます。
MHD モエ ヘネシー ディアジオで働く魅力について教えてください。
最大の魅力は、やはり先人たちが創り上げてきた偉大なブランド群です。先人たちは、長い歴史の中で比類なきブランド群を構築してきました。私は時々、弊社のブランドをサグラダ・ファミリアのようだなと思うことがあります。そして、サグラダ・ファミリアはまだ完成しておらず、今参加した建築家や工事に関わる人々は、その世界感に自分の色を加えていくことで作品の価値をより高めることに貢献していると思うのです。
同じように、ブランドの世界観を守りながら、一方で日本人がモエ・エ・シャンドンやジョニーウォーカーを飲む意味付けや提案をしていきたい、と思っています。また、今必要とされているECを考え創り上げれば、ブランド価値をさらに高めることが可能だ、と考えています。そうやって「偉大なブランドに自分らしく関わっていける」というのが、MHD モエ ヘネシー ディアジオで働く最大の魅力だと思います。
実際、グローバル本社にも丁寧に働きかければ、提案に耳を傾けてもらえる社風です。ブランドを傷付けることをしない限りは、おそらく社外の皆さんが想像するよりも、ずっと自由でチャレンジしやすい会社です。
「社内への丁寧なコミュニケーション」ができる方を仲間に迎えたい
どのような人を仲間に求めていますか?
MHD モエ ヘネシー ディアジオは、“Crafting Experiences=体験を創り出す”をミッションとし、5つのバリュー(価値観)を企業理念として掲げています。Sharing(共有)、Elegance(洗練)、Epicurism(エピキュリズム)、Integrity(誠実さ)、Spirit of Conquest(開拓者精神)。私たちはお客様へ最高の体験を提供すべく、歴史あるブランドを守りつつ、新たなブランドの成長にも情熱を傾け、挑戦をし続けています。この5つのバリューに共感していただける方に来ていただきたいです。
その上で、私がEC部門の仲間に求めたいのは「社内への丁寧なコミュニケーション」です。なぜなら、私たちがやろうとしていることを、社内全体にしっかり理解してもらうことが重要だからです。たとえば、ECが従来のビジネスを邪魔するものではないこと、むしろ従来のビジネスを後押しすることを伝えることが大切です。こうした説明を怠って、社内の誰かが知らないままにECを推し進めようとすると、実現が難しくなるのです。新しい取り組みをスムーズに行うためには、社内の味方づくりのための働きかけが肝要だと思います。普段から関係づくりをしておけば、いざというときに議論しやすくなります。こうしたコミュニケーションができる方に仲間になっていただけると嬉しいです。
あとは、熱意と好奇心と主体性です。こちらから会社を動かしていく必要がありますから、ECへの熱意や好奇心が強いことは大切です。それから、ECを実現するために何をどうすればよいのか、自分で考えて動く働くことが好きであればあるほど自分で働きやすい環境を作っていけると思います。
働く環境としてはいかがですか?
弊社は、コロナ禍にリモートワークを導入するのがかなり早かったですね。働き方はずいぶんフレキシブルで、現在もリモートワークが十分に可能です。私自身、オフィスワークに加えてリモートワークも活用して、妻とともに2人の子育てをしています。そういうフレキシブルな働き方が可能な会社なんですね。子どもの幼少期に一緒にいられるのは、本当に嬉しいことです。
ですから、同じように子育てや介護などで働く時間が制限されている方でも、ご自身で働き方をプロデュースできるモチベーションの高い方がいれば、ぜひ仲間になっていただきたいです。オンラインでも工夫次第で丁寧なコミュニケーションは可能ですから。
インタビューを終えて
聞き手:コンサルタント 安齋 陽子
日本でECが本格的に始まって約20年、今では多くの人が便利に利用するECですが、その担う役割は日々変わってきています。岡本氏はECの役割を、魅力的な商品情報を発信しつつ、オフラインと共存しながら自然な形でピースを埋めること、と語られました。表面上のスキルではなく、むしろ重要なのは、社内外における丁寧なコミュニケーションという視点が新鮮に感じました。岡本氏の持つ温かくオープンマインドな雰囲気を楽みながらのinterviewでした。
Photo by ikuko
Text by 米川青馬
Edit by ISSコンサルティング