「信頼と尊敬」に基づく企業文化が深く根づいている
現在に至るまでのご経歴を教えてください。
高校ではテニスばかりしており、大学でもテニスに力を入れていました。テニスは、コートに入ったらすべてが選手に任されるスポーツです。試合中にコーチのアドバイスは得られないため、自ら状況を理解、決断し実践しなくてはなりません。分析力と決断力が鍛えられました。大学ゼミでは、欧米文化を中心に学び、特に、アメリカ人教授による三島由紀夫研究が深く印象に残っています。
大学時代は学校の先生を志望していたんですが、一度広く社会を見ようと思い直し、会社内で教育を担当する人事の仕事を選ぶことにしました。新卒で入った会社を経て、1996年に日本ヒューレット・パッカード(HPE)へ転職しました。それからHPEの人事部門一筋で働いています。
1996年から2000年までは、C&Bアナリストを担当しました。当時HPEに入社して驚いたのは、「信頼と尊敬」に基づく企業文化「HPE Way」が深く根づいていることです。20代の若手社員であっても、「君がそう言うのならやってみるといいよ」と言って、信頼して任せてくれる。その代わりに、貢献への期待とプレッシャーも大きいのがHPEの特徴です。信頼されたからには、信頼に応えなくてはならないんですね。良い意味での緊張関係がある会社です。
C&Bアナリストとして、私はいくつかの制度を作りました。1つが「在宅勤務制度」です。実はHPEには、20年以上前から在宅勤務制度があるんですね。この制度は、規程化までに1年かけて複数件のパイロットラン(試験運用)を行いました。当時は現在のようなネットワーク環境はありませんから、各ご家庭にお邪魔して、PCの設置場所からネットワークケーブル、電話、などIT環境の検討や調整、試験運用にご協力いただいた社員と一緒になって準備しました。
2000年からは10年ほど、HRゼネラリストでした。HRゼネラリストとは、ビジネスに直接的に貢献するHRです。今で言うHRBPやM&A、アウトソーシングなどに幅広く携わりました。HRゼネラリストで重要なのは、会社や部門の方針を深く理解することです。たとえば、新たなビジネス戦略のもとで新組織を立ち上げるとき、HRゼネラリストの出番がやってきます。ビジネス戦略をよく咀嚼しながら、人事戦略やフォーメーションを企画し、経営陣・新組織トップ・新組織の皆さんとともにゴールを目指して進んでいくのです。
HRゼネラリストは業務量が多く、限られた時間で付加価値の高い成果を出すスキルが鍛えられました。ときには、コンフォートゾーンから外れることもありましたね。たとえば、アジア&パシフィック担当ビジネス人事になったときは、英語力が足りず、自分が思い描いていたような活躍ができなくて打ちのめされました。悔しくて、英語力向上のために自己投資しました。当時の経験が、自分の血肉になっています。少し前に、グローバルの人事リーダー達と共にアセスメントを受けたんですが、面白いことに、日本の私も含めて、北米・南米、ヨーロッパ、アジアのチームメンバーが似通った回答傾向になっていました。世界中に散らばっていても、一緒に働いていると思考や解決のアプローチなどが似てくるんですね。知らないうちに、私も彼らと遜色なく働けていることに気づかされ、嬉しかったです。自身の成長を感じました。
ただ、当時は働きすぎだったことも確かですね。あるときから、ワークライフバランスを大事にするようにもなりました。
マネジャーになってからはいかがでしたか?
2010年頃にマネジャーとなってからは、日々、メンバーを通じて成果を出すことの意義と難しさを実感しています。先ほども触れたとおり、HPEが最も重視することの一つは企業文化(カルチャー)であり、弊社の創業者は「人間というのは誰でも例外なく会社が働きやすい環境を整えたら、お客様や社会のためにいい仕事をしようとする」と 謳っています。この理念が今日もシッカリと企業の根幹に根差しており、そこから、社員の自律性と主体性を促す環境が作り上げられてきています。社員の育成の理念においても、社員自身の自律性と主体性の重視が根幹にあります。主体は社員個人にあり、会社や上司はその環境を整える役割を担うんです。キャリア開発のベースにあるのは、「Employee Owns, Manager Supports」という考え方。HPEのマネジャーの最も重要な役割の一つは、部下を信じて任せ、見守り、支援することなんですね。実際のマネジメントは決して簡単ではありません。信じて、任せて、フォローする、というマネジメントを実践し、いまも追求しつづけています。
2016年からは、人事統括本部長として人事部全体を担当しています。私が、この責任ある立場に立って最も重視しているのは「インテグリティ(誠実さ)」です。人として誠実でありたい、と常に思っています。ただ一方で、HPEは「アジャイル(俊敏)」でもあり、うまくいかないと見れば素早く方針を切り替える会社です。アジャイルでありながら誠実であるのは、ときに難しいことですが、そうしたなかでも一貫性を持ったマネジメントを心がけています。
お客様のDXに必要なすべてを兼ね備えている
HPEの事業戦略と強みを教えてください。
弊社のビジネスの最大の特徴は、ソリューションポートフォリオの幅広さと奥行きです。サーバー、システム、データストレージ、ネットワーキング、ソフトウェアなどの全領域に厚みのある製品・サービスを展開しており、お客様にend-to-endでソリューションを届けることができます。HPEは、エッジコンピューティングやオープンソース、AI/ディープラーニング、ブロックチェーン、IoTなど、お客様のデジタルトランスフォーメーションに必要なすべてを兼ね備えています。ソリューションサービスも、コンサルティング、運用サポート、ファイナンシャルサービスなどが全方位で揃っています。さらに、最近は多くのサービスを「aaS (as-a-service)」でラッピングしてお客様へご提案差し上げています。
なかでも、自社でハードウェア製品群を取り揃えていることにより、ハードウェアの能力を熟知していることが、HPEの大きな強みとなっています。お客様の声を製品設計・開発部門にフィードバックしながら、より優れたハードウェアの開発を日夜進めています。
キャリア開発のベースには「Employee Owns, Manager Supports」がある
人事戦略と社風について教えてください。
先ほどもお伝えしたとおり、私たちは「信頼と尊敬」に基づく企業文化を大事にしており、キャリア開発のベースには「Employee Owns, Manager Supports」、つまり“キャリア自律”があります。私たち人事部門は、“自律”をベースとした社員の成長と成功を支える人事のしくみと環境づくりを常に意識しています。個人の自律を重視することにより、社員と会社が性善説に基づき成熟した関係を構築し、より自由で創造的に仕事をすることが可能になると考えています。また、私たちはチームワークも大切にしています。チームを大事にする意味や価値を知っているメンバーが揃っており、あちこちで助け合いが起こっている会社でもあります。
ネクストノーマル時代、どのような対応を行っていますか?
冒頭でも触れましたが、弊社では1990年以降ワークプレイスの改革に継続的に取り組んできています。2007年には、現在のテレワーク制度「フレックスワークプレイス制度」をすでに導入していました。このフレックスワークプレイス制度は、制度面、インフラ面の整備を進めながら定着を図って参りました。2011年の東日本大震災が転機となり、制度利用の浸透が加速しました。近年では 『健康経営』 が注目を集めており、弊社でも働き方改革につづく施策として社員の皆さんが健康に働ける環境づくりに注力しています。
一方で、リモートワーク主体の働き方の難しさも感じています。特に課題となっているのが、「つながり」と「帰属感」の醸成です。オフィスという同じ空間にいないために、マネジャーもメンバーも、お互いの空気感を捉えにくくなっています。私も含めて、マネジャーは1on1などのタッチポイントを増やし、各メンバーの状況や状態などをつぶさに把握する努力をしているところです。話しを聞くと、社員の皆さんが、様々な不安を堆積しているようにも映ります。「今後のキャリアはどうなるのか?」「マネジャーは自分の働きぶりを理解してくれているだろうか?」といった不安を抱え、悩んでいるのです。
今般の新型コロナウイルス感染拡大をはじめ、働き方改革や社会から要請される変革にどのように対応していくべきか、コロナ禍での対応を通じて、HPEではあらためて企業文化に基づいた価値観の転換が必要と考えています。社会的な変化を許容し、社員の皆さんが働きがいを感じ、会社が持続的にビジネス成長を遂げるために、今後は個人の自律とそれに基づく個々人の成長、また様々な属性(価値観や家族構成)を持つ社員個々人に対し、どのように多様な選択肢を用意していくかがカギとなると考えています。
どのような方が活躍できる会社ですか?
例えば、緊急の事態であっても、アジャイルかつフレキシブルに状況に適応して、さまざまな制約の中で自分なりに新たな方法を見出す姿勢を持った方なら、HPEで間違いなく活躍できます。
一つの例なのでが、2020年のファミリーデーはオンラインで開催したのですが、そのなかに障害者雇用メンバーの皆さんが自らセミナーを行うプログラムがありました。担当したメンバーの皆さんは、多くの社員とそのご家族に楽しんでもらうために、ツールの使い方を主体的に学び、スキルを高めていきました。現在のスキルや能力以上に、このような自律的なスタンスと行動力を備えていることが最も大切です。HPEの企業文化に応えるべく、果敢にチャレンジする方に入社していただけたら嬉しいです。