現場の思いをひたすら探り続ける人事
アメアスポーツに入るまでの経緯を教えてください。
私の大学時代は就職氷河期で、約100社を受けて、何とか4社の内定をいただきました。その中から選んだのが日立製作所でした。人事部の配属になって、工場・研究所・本社・海外プロジェクトなどで実力を磨きました。日立の人事部、特に事業部人事は極めて厳しい世界で、たとえば給与なら絶対に1円の狂いも許されません。何千名もいる所員の給与を、毎月一つの間違いもなく計算するのが、私たちの使命の1つでした。何から何までこのレベルを求める職場で大変でしたが、いま振り返ると、得がたい経験を積むことができたと思います。なぜなら、給与の1円のズレが、間違いなく全体に影響を及ぼすからです。根底の部分を適当に済ませてしまうと、会社全体がおかしくなっていくのです。それを20代のうちに知ることができたのは幸運でした。日立には今でも大変感謝しています。
結婚を機に転職活動を行い、2010年にグラクソ・スミスクライン(GSK)に入社しました。入社当時、私はAPACという言葉も知りませんでした。そのくらい、外資系企業のことがわかっていませんでした。ですから、カルチャーショックは大きかったです。APAC上司のシングリッシュ(シンガポールの英語)がまったく理解できなかったことも重なり、最初の1-2年はほとんど落ちこぼれでした。しばらくしてようやく、「外資系企業では、こちらからアウトプットを主体的に出さなくてはならない」と気づきました。そして、あるプロジェクトを任された時、「日本はこういう状況だから、これがベストだ」と、自分なりの見方でレポートを仕上げて上司に提出したところ、「望むアウトプットがやっと出てきた」と言ってもらえました。それで何とか、上司に見放されずに済みました。
ただ一方で、日立時代のやり方が役に立った部分もおおいにありました。日立時代の私はいつも現場を回って、従業員の細かな疑問に答えたり、小さな悩みを解決したりしていました。GSKでも、私は同じように、営業の現場に顔を出しました。そうすると、徐々に現場で顔を覚えられ始め、情報が集まるようになっていきました。この情報の量と質で人事部内での評価が上がっていきました。また、日立時代に鍛えられたオペレーション能力で、東日本大震災の復興支援ボランティアプロジェクトや救援物資プロジェクトなどを実務家として仕切ったのですが、これらも周りから認めていただける一因となりました。
この頃から、私なりの人事のスタイルができ上がっていきました。一言で言えば、私は徹底的に現場の意見を吸い上げる人事になろうと思ったのです。
GSKで数年働いた後、私はフランス・EDHEC Business Schoolに1年通いましたが、ここで私は、戦いのフィールドを変えることを試みました。ディスカッションでは、英語ネイティブの周囲のメンバーにほとんど敵わない。そのことを早々に悟った私は、そこでは勝負せず、その代わりに毎週末、宿題を徹底的に調べて細かなレポート・プレゼン資料を用意するようにしました。これは誰もが面倒くさがることで、その資料はクラスメイトにとても喜ばれました。こうして自分なりの存在価値を出すことで、無事にMBAを取得することができました。
帰国後、ジョンソン・エンド・ジョンソンに入り、ヤンセンファーマのHRBPとなりました。ここでもこまめに現場を回り、少しずつ現場との信頼関係を築いていきました。そのうち、現場のビジネスと組織に精通するようになり、担当組織のマネジャーが「組織を変えたい」と言ったときに、具体的な解を提供できるようになりました。
そして、2018年にアメアスポーツジャパンに入社し、HR Directorとして人事を担当しています。弊社代表取締役社長 岸野の人をとても大切にする姿勢に共感し、入社を決めました。
マネジャートレーニングとキャリアプランニングに力を入れたい
アメアスポーツのビジネスについて教えてください。
私たちアメアスポーツは、「Salomonサロモン(マウンテンスポーツブランド)」「Wilsonウィルソン(ボールスポーツ用品ブランド)」「ATOMICアトミック(ウィンタースポーツ用品ブランド)」「ARC’TERYXアークテリクス(アウトドア用品ブランド)」「SUUNTOスント(スポーツ計測器ブランド)」「Precorプリコー(エクササイズマシンブランド)」「ARMADAアルマダ(スキー用品ブランド)」の7ブランドを抱えるスポーツ用品・機器業界のグローバル企業です。ブランドの思い、フィロソフィーを大切に、所有ブランドを増やし、ブランドポートフォリオを創ってきました。その結果、現在ビジネスは全体的に成長を遂げています。特にアークテリクスとプリコーの伸びが大きく、サロモンなども好調です。
ビジネス拡大が成功している理由は大きく3つあります。1つ目は、アークテリクスが品質の高いプロダクトを提供することにこだわっており、それが日本のマーケットにもじわじわと認められてきているからです。2つ目は、2020年東京オリンピックを前年に控え、日本全体のスポーツ熱が高まっていることがあります。フィットネスクラブ増加時に、エクササイズマシンのリーディングブランド「プリコー」を選んでいただけており、プリコーのビジネス拡大につながっています。3つ目は、ブランドポートフォリオの優位性で、一定コアファンをもつスキー・ラケット・野球などの商品があり、7ブランドがお互いに補完し合い、コラボレーションしながらビジネスを成長させています。
人事として今後の戦略をどう考えていますか?
弊社は2020年に売上200億を目指し、各ブランドのサスティナビリティを保ちたいと考えています。
そのためには、今後は、「マネジャートレーニング」「サクセッションプランニング」「キャリアプランニング」などに力を入れたいと考えています。ビジネス拡大とともに、組織が順調に拡大してきました。これからは、組織・マネジメント面の整備をしていくフェーズです。なかでも、私は社員教育に力を入れています。
たとえば、「サクセッションプランニング」においては、新たなマネジャートレーニングを通して、サクセッションプランニングを社内に浸透させていき、各ブランドのフィロソフィーを引き継ぐ後継者育成をしていきます。
まだまだ何も出来ておらず、すべきことが沢山あるのですが、一歩一歩進めていきたいと思います。
また、アメアスポーツの社員は、心からブランドを愛している人が多いです。各ブランドのフィロソフィーが引き継がれているのはその為ですが、各社員が自分の長期キャリアを考える機会も創出していきたいと思っています。
最も求めているのは交渉力の高いマネジャー
どのような社風の会社ですか?
先ほどもお話ししましたが、いずれかのブランドを純粋に深く愛する社員が多いですね。現在、営業は顧客担当制で、各営業が各ブランドを横串で扱っていますが、それにもかかわらず、特定ブランドについては誰にも負けないという想いで頑張っている社員が少なくありません。人事から見ても、本当に素晴らしい、頼もしいと思います。
また、これは自然なことですが、ほとんどの社員がスポーツ好きで、休日には一緒になってランニング・ツーリング・山登りなどをすることが多いですね。
これから入社する方は、現時点でいずれかのブランドを愛している必要はありませんし、スポーツが大好きでなくても大丈夫です。とはいえやはり、何かしらスポーツに興味を持っていただき、みんなと一緒に走ったり、山登りしたりすることにもチャレンジしていただけたら嬉しいです。
どのような方を求めていますか?
特に求めたいのは、「交渉力の高いマネジャー」です。なぜなら、どの外資系企業もそうかもしれませんが、APACとの交渉が日本法人のビジネスを大きく左右する部分があるからです。APACを上手に説得し、同時に日本でのビジネスを勧めやすくしてくれるマネジャーは、すぐに周囲からも尊敬を集められるでしょう。私たちが最も必要としているポジションです。
ただ、マネジャーでもメンバーでも、やはり私たちのブランドやスポーツへの興味・情熱はある程度持ってきていただけたらと思います。ブランドの想いに共感できない方は、活躍するのは難しいのではないかと思います。各ブランドにスペシャリストが何人もいますから、彼らに学びながら、ブランドの知識を深めてください。知識を深められる環境は、これ以上ないほど整っていますから。
また、大きな組織ではありませんから、一人ひとりに任される部分が大きく、たとえばマーケターなら一人でマーケティングプロセスを一通り推進できる力が欠かせません。ブランドはそれぞれ強烈な特徴・強みがあり、情報もどんどん入ってきますから、一定以上のスキルさえあれば、基本的には働きやすい職場だと思います。なお、出身業界にはまったくこだわっていません。どの業界出身の方でも対応できるはずです。