マーケティング思考で人事課題を解決する
メルカリに参画するまでのご経歴を教えてください。
実用的な経営学、特にマーケティングを学びたいと思って、慶應義塾大学の商学部に入りました。特に記憶に残るのは、1年休学して実行した世界一周旅行です。初めての海外一人旅でした。好奇心と偶然の出会いを大切に、途中で友だちになったイスラエル人の家を訪ねたり、昨日知り合った旅仲間としばらく行動を共にしたりと、自由に動きました。まだインターネットは普及していなかったため、旅先で一緒になる人たちの口コミが重要な情報源でした。自分が行動を起こすことで、興味と仲間のつながりが広がっていき、その仲間たちがまた新たな情報とチャンスをくれたのですが、それはいま思えば、仕事とまったく同じ構造です。この旅を通じて、周囲と情報を共有しながら、互いに助けたり助けられたりするマインドを学べたことが、新卒で入るP&Gの組織にフィットする上で役立ちました。
P&Gには、職種別採用で人事として入社しました。というのは、「人事でもマーケティングの考え方を活用している会社」と聞いて、直感的に面白そうだと思ったからです。最初は、エンジニア部門の新卒採用担当に就きました。当時のP&Gは、まだ採用人気の高い企業ではありませんでした。上司から渡されたミッションは、「(限られた予算で)働きたい企業ランキングのトップを取り、国内で最も優秀な人材を採用する」というもの。マーケティング思考を駆使して、いくつもの施策を検討し、辿りついたのが「インターネットを活用した採用活動の強化」でした。当時は理系大学生がいち早くeメールを使いだしたタイミングでした。ところが、どの企業もまだ、メールやインターネットを活用した施策には力を入れていませんでした。私たちはこれを絶好のチャンスと捉え、どこよりも早くメール・ネットを駆使した採用マーケティングを実施。採用担当からの定期的なメルマガ発信やネット経由の応募に一本化したところ、ブルーオーシャンで優秀学生がどんどんやってくるようになりました。さらに、翌年に他部門の新卒採用にも応用し、より大きな成功を収めることができました。ネット施策と並行して、マーケティングやファイナンスなどビジネススキルを学べる「P&Gビジネススクール」を始めたことで、これまではP&Gに来ないような優秀学生にまでリーチを広げられたのも、よかったのだと思います。
その後、GEに転職したのですね?
はい。最後の1年はHRBPも兼務したのですが、P&Gではずっと採用を担当していました。採用以外の業務も経験してみたいという想いが強くなって、2001年に日本GEに移りました。入ってすぐ、HRリーダーシッププログラムに参加しました。このプログラムでは、人材育成の観点から、2年間に多様な3つのポジションをローテーションすることになっており、私は、最初は日本で営業育成に携わり、次にアメリカ・カナダでファイナンス業務を経験。最後にタイで工場人事を担当しました。アメリカ・カナダでは「もっと積極的にアピールしなさい」と上司からフィードバックをもらいましたが、タイ工場では国民性・文化・タイ語を勉強し、現地社員に対して、ソフトな対応を心がけました。日本、アメリカ・カナダ、タイ、4カ国で、それぞれ違う経験を積めました。
プログラム卒業後は、日本GEプラスチックスの営業部門を改革するシックスシグマ・プロジェクトの営業ブラックベルトを経て、人事に戻り、日本GEプラスチックス栃木工場の工場人事マネジャーを担当しました。実は、ここは私が赴任したタイ工場のマザー工場で、タイ工場をはじめとする海外拠点への移管がかなり進んだ後のタイミングでした。そのため、工場としての今後の存続を不安視する声も多く、メンバーのモチベーションが下がっていました。それを顧客志向の生産拠点として復活に導くのが、私の大きなミッションでした。
私は、工場の経営陣と共に、日系メーカーの新製品開発を担う「スペック開発センター」になろうと工場のメンバーたちに呼びかけました。また、「プラントスター」と呼ばれる現場のベテランメンバーを連れて、タイ工場に視察にも行きました。そこで、プラントスターたちの意識が劇的に転換したのです。驚きました。彼らはまず、タイ工場の若いメンバーたちの技術を見て、自分たちの技術力の優位性に気づき、同時に、その若者たちが、目をキラキラさせながら自分たちに教えを請う姿を見て、彼らに負けていられないと思うようになっていました。帰るときには、「日系メーカーの高い要望に応えて、海外の工場がまだやっていない新しい挑戦に取り組むのが自分たちの存在意義だ」と考えるところまで変わりました。プラントスターたちが工場の他のメンバーに刺激を与えて好循環が生まれ、工場全体の雰囲気、生産性が大きく改善し、難易度の高い新製品の量産化にも成功しました。これは私の大きな成功体験で、人事がいかに組織のパフォーマンスに貢献できるか、社員のマインドセットや組織のカルチャーにポジティブな影響を与えられるかを体感できました。
次に、GEキャピタルの人事ディレクターやアジアパシフィック人材・組織開発リーダー、日本GE人事部長を経験した後、2015年にマレーシアに赴任しました。マレーシアでは、ASEAN地域の人材・組織開発ディレクターとなり、2年後にはGEオイル&ガス(現:ベーカー・ヒューズ・GEカンパニー)のアジアパシフィック・シニアHRビジネスパートナー(事業人事責任者)となりました。マレーシア時代は、アジア新興国の事業成長の支援とやる気のある若いチームメンバーのキャリアと個人としての成長を後押しできたのが特にやりがいがありました
そして、2018年12月にメルカリに入りました。「日本発の世界的なマーケットプレイスを創る」というチャレンジに、自分も参加したいと思ったからです。
創業時からグローバル視点で動いてきた
メルカリはどのような会社ですか?
ごくシンプルに言えば、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」という壮大なミッションを実現するために、「Go Bold ―大胆にやろう」「All for One ―全ては成功のために」「Be Professional ―プロフェッショナルであれ」の3つのバリューを、全社員が本気で大切にし、実践している会社です。実際に3つとも、社内の会話で日常的によく出てきますし、人事施策や評価などにも3つのバリューが色濃く反映されています。
メルカリは、山田進太郎(代表取締役会長兼CEO)の世界旅行をきっかけに始まった会社です。山田は世界旅行を通じて、国によってものの量や質に大きな差がある一方で、どの国でもスマートフォンが普及する可能性を感じ、「スマホを使って、世界中でものが循環する仕組みを創れるのではないか」と考えました。つまり、メルカリは途中から世界を目指すようになったわけではなく、そもそもの発端から、グローバル視点でビジネスを展開してきています。いまちょうどアメリカでビジネスを急拡大中ですが、それも最初から視野に入っていたことです。現在は並行して、スマホ決済サービス「メルペイ」にも力を入れています。
3つのバリューをもう少し教えてください。
「Go Bold ―大胆にやろう」には、2つの重要な意味合いがあります。1つは、インパクトの大きなイノベーションに向けて、臆することなくチャレンジすること。もう1つは、失敗を恐れず、むしろ数多くの失敗から学びながら、諦めずにやりきることです。例えば私たちは、相当早い段階で、人とテクノロジーに対する大規模な投資を決断しました。この決断があったからこそ、メルカリは明確に差別化されたサービスを実現し、一気に飛躍できたのです。現在は、US事業とメルペイ事業に対して、大きなリスクを取って取り組んでいます。これらの行動が、私たちが言うGo Boldの典型例です。
メルカリでは社員向けサーベイを実施しており、外部調査企業から「こんなに高い数値は見たことがない」と言われるくらい高い社員満足度数値がでています。一方で、「Go Boldを体現できていますか」という問いに対しては、まだまだ改善の余地があるのが事実です。ただ、これは山田自身も言っていますが、人間は、自然な状態ではなかなかGo Boldになれず、その結果の数値とみています。そのため、社員たちがお互いに背中を押し合い、チャレンジを奨励しあう文化をさらに強め、社員がよりGo Boldになれる環境づくりを進めていきたいと考えています。
「All for One ―全ては成功のために」のOneは、One Teamではなく、「One Goal」「One Mission」です。全員が力を合わせて、ある1つのゴールやミッションに向かうという意味なのです。先日、社内でAll for Oneを象徴する出来事がありました。新プロジェクト推進のために、緊急で大きな組織変更が必要となったのですが、急な話にもかかわらず、ミッション達成には不可欠という理解のもとマネジャーも現場も柔軟な対応をしてくれ、無事に新プロジェクトを推進することができました。普通ではなかなか実現しにくいことだと思います。ですが、メルカリでは、会社全体の成功という1つの目標を共有しているため、誰しもがスピード感を持って変化を受け入れ行動ができるのです。
「Be Professional ―プロフェッショナルであれ」は、簡単に言えば、全社員が主体的でアジャイルにプロとして行動するということです。近年採用に力を入れ、従業員数はグループ全体で約1600名規模になり、さまざまな仕組みや制度を整えるタイミングになってきています。人事ではいま、経営層との距離が近い、全員が主体的に考えてすばやく動く、といったスタートアップの頃の良さを残しつつ、社員たちを細かいルールで縛ることなく、10人で20人分のパワーを発揮するにはどんな仕組み・制度がベストなのかを試行錯誤しています。
US事業とメルペイ事業の現状を教えてください。
2019年、US事業はスケールアップフェーズに入りました。2018年までに、USの経営メンバーに、シリコンバレーの有名企業で活躍してきた優秀な人材を迎えいれ、彼らが主体となり、アメリカのお客さまが使いやすいプロダクトを開発してきました。その結果、多くのお客さまから、極めて使いやすいという評価を得ることが出来るようになり、準備は整ったといえます。テレビCMをスタートし、配送業者と連携した出品物の梱包・配送代行サービスを展開するなど、US事業において私たちは攻めに転じている最中です。
メルペイ事業では、「信用を創造して、なめらかな社会を創る」というミッションのもと、スマホ決済サービスを展開しています。この事業で重要なのは、単なる決済ビジネスで終わらず、将来的に「データビジネス」を見据えているということです。例えば、個人がメルカリで買ったものをメルカリで売るとき、買ったときの情報をそのまま使えるようにすると、よりスムーズに売買することができます。そのとき、メルペイの存在が活きるのです。また、個人情報に配慮しつつ、お客さまの承諾をしっかり得る前提にはなりますが、メルペイで蓄積したデータをマーケティングに活かすこともできます。さらに、すでにメルカリで展開している「月イチ払い(締日から1カ月後までに一括で支払うサービス)」などにも可能性が潜んでいる。仕掛け次第で、メルペイにもメルカリにもさらなる成長のチャンスがある、と考えています。
いまのメルカリは「課題解決遊園地」
どのような人事施策を進めているのですか?
大きく2つの施策に注力しています。1つは、採用から「成長支援」へのシフトです。連結の従業員数は2018年に前年の2倍ほどの約1600名規模となりました。2019年はこれまで採用したメンバーを育成することにフォーカスします。そのために、人事の新しい機能としてHRBPとオーガニゼーション&タレントディベロップメントを新設しました。もう1つは「グローバリゼーション」です。なぜなら、すでに社員の約10%はノン・ジャパニーズだからです。特にエンジニア部門はノン・ジャパニーズ比率が30%ほどになっており、メルカリ流で言語の壁をクリアする方法を早急に考える必要が出てきています。
この2つの流れを象徴するGo Boldな事例があります。2018年度、私たちは44名の海外新卒採用を実施しました。その3/4が、実はインド人でした。30名以上のインド人新人社員が、一気に入社したのです。同時に、私たちはインド勤務経験のあるメンバーを採用し、研修担当に就いてもらいました。そのメンバーの存在もあって、海外新人社員の育成は順調に進んでいます。こうやって試行錯誤しながら、私たちはいま成長支援とグローバリゼーションを強化しています。
その他に、攻めの人事の一環として「ピープルアナリティクス」や「社内SNS」もさまざまな形で活用しています。シニアマネジャーの内部登用比率を高める方策をデータドリブンで考えたり、社内SNSでハイパフォーマーのSlack利用方法を社内に広めたり、といったこともしています。
どのような人材を求めていますか?
ミッションと3つのバリューに共感し、フィットしていただける方です。例えば、メルカリにはまだ明確な承認フローがありません。自分のアイデアを形にするために、誰の承認を得ればよいか、誰を巻き込めばよいかといったことから、自分なりに考え、行動に移せる方でなければ、活躍するのは難しいと思います。最近多いのは、既にグローバルに展開している組織やオペレーションを経験された方が「自分で仕組み・制度を創ってみたい」とメルカリにやってくるパターンです。こうした方々は大歓迎ですね。
先日、メルカリ社内で、「いまのメルカリは『課題解決遊園地』だ」という言葉を聞いたのですが、まさにその通り。課題解決が何より楽しいという方には、たまらない環境だと思います。この言葉にワクワクする方、ぜひ一度お会いしましょう。もっと詳しくご説明します。