ユニリーバのHRBPは
第三者視点からビジネスリーダーと共に
人と組織を強くする仕事
外資系企業で働くことに不安や恐怖心があった
ユニリーバに入社するまでの経緯を教えてください。
大学卒業後、日本航空(JAL)に入社しました。最初の2年は空港旅客スタッフを、次の3年は客室総合職として、主に国際線の客室乗務員を務めました。実際に現場を体感しないと現場の苦労はわかりませんし、この5年の経験は貴重な経験でした。しかし、当時は正直言って焦っていました。大学の同期がどんどん成長していく一方で、この現場経験は果たして自分のキャリアになっているのだろうかと疑っていたからです。その後、客室乗務員部門の人事・総務部門に配属となった時に、ちょうどJALの経営が破綻し、稲盛会長体制となりました。その経営変革のなかで、経営理念や意識・価値観の統一が、経営と組織を大きく好転させる力を持っていることを、私は身をもって知ったのです。ちょうど人事職に就いていた私は、人事が社員の意識や価値観に関与し、ある面で経営を左右するほどの力と責任を持っていることを知り、人事の道を究めたいと思うようになり、転職を決心しました。2011年のことです。
転職先は三菱マテリアルテクノで、ここで2年ほど、給与計算、制度運用といった守りの人事オペレーションを学びました。その後に縁あって、2014年にユニリーバ・ジャパン・ホールディングスに入りました。ユニリーバでは、まず2年ほど中途採用担当として経験を積んだ後、2015年からR&D部門とマーケティング部門のHRBP、人事マネジャーとなり、いまに至ります。
なぜユニリーバを転職先に選んだのですか?
ちょうどその頃、HRBPという職種があることを知り、現場に対してポジティブな影響を及ぼすことができることに面白みを感じました。そこで、HRBPにチャレンジできる会社を探していたというのが第一の理由です。第二に、転職活動をするなかで、ユニリーバに「Be Yourself」を大事にする文化があると知ったことです。社会人になってから“自分らしく”働いた実感のなかった私にとっては、自分らしさを引き出し、尊重してくれることが魅力的でした。第三に、最終面接で現在の上司である取締役 人事総務本部長の島田由香に会い、「人事から世界を変える」をミッションに仕事をしていると聞き、衝撃を受けたことです。彼女のような上司がいるところでHRプロフェッショナルになりたいと思い、最終的に入社を決断しました。ただし、当時は正直ビジネス英語にも自信が持てなかったですし、外資系というと厳しい成果主義、パフォーマンスカルチャーのイメージもあったため、不安や恐怖心がありました。それでも挑戦したいという思いが勝り、入社しました。
ビジネスリーダーと対等な立場で議論する
ユニリーバのHRBPについて詳しく教えてください。
まずHRBPの業務範囲から説明すると、ショートタームの仕事とミドル・ロングタームの仕事に大きく分けることができます。ショートタイムの仕事には、担当部門内の採用・異動・休職・退職に関して部門のリーダーと連携して対応していくことや、チーム間・メンバー間で日常的に起こる問題に対処すること、メンバーのレーティング(人事評価)やサクセッション・プラン(後継者育成計画)に関するディスカッションなどがあります。たとえば、採用に関しては中途採用では書類審査や一次審査を担当しますし、新卒採用ではWEBインタビューの審査や2次選考などにも関わっています。実際は日々、こうしたショートタイムの業務に多くの時間を割いています。
一方、ミドル・ロングタームの仕事とは、中長期的にどのようなビジネス戦略を採り、そのためにどういった人材を採用するか、そしてどのような組織を作っていくのかを、担当部門のビジネスリーダーと議論することです。ビジネスリーダーからは、「私とは違う意見を聞きたい」「プロフェッショナルな見解が欲しい」とよく言われます。つまり、人事視点から、ビジネス戦略・採用戦略・組織戦略に意見することを求められているのです。もちろん、最初から鋭い意見を述べることができたわけではありません。正直に言えば、HRBPになった当初は、そこまでの期待はされていなかったと思います。しかし、少しずつ信頼を得て、最近はビジネスリーダーと対等な立場で議論することを期待されています。責任もやりがいも大きな仕事です。
HRBPに必要な能力は何だと思いますか?
第一に、「自分の意見をシャープに持つことができる力」です。なぜなら、ビジネスリーダーとの議論で「No」と言うためには、意見のシャープさが欠かせないからです。ビジネスリーダーに従うのは簡単ですが、違う意見を言ったり、時には反対することは難しいのです。
たとえば、私はこれまで、担当部門の全社員あるいはマネジャー層を対象にしたワークショップや研修をいくつも実施してきました。しかし、ビジネスリーダーがこうした活動の価値をいつも理解してくれるとは限りません。「そのワークショップよりも、いまは売上を上げることの方が先決だ」「その研修を行う意味がよくわからない」と言われることは、珍しくありません。そのとき、単に「わかりました」と引き下がるのではなく、「●●の理由で、このワークショップを行うことが、いまこの部門にとって極めて大切なのです」と考えを伝えビジネスリーダーを説得することが、私に求められているのです。
なお、余談ですが、こうしたワークショップの一例に、「パーパス・ワークショップ」があります。2010年から、ユニリーバはグローバルでサステナビリティを戦略の中核に置き、社会的意義(パーパス)を持つビジネスとして「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を推進してきました。同時に私たちは、従業員一人ひとりの人生の目的(ライフパーパス)も大事にしてきました。一人ひとりが自分なりの人生の目的を探究し、自分の可能性を広げることが、仕事のパフォーマンスを高める上でも重要だと考えてきたのです。そこで2017年から始めたのが、従業員が自分のライフパーパスを探究する「パーパス・ワークショップ」です。2017年は管理職から展開し、2018年からは全従業員を対象に実施する予定です。
第二に重要なのは「内省力」です。内省力とは、一言で言えば「気づきの力」です。内省力の高い人は、1つの事象を自分なりに受け止め、解釈し、多くの情報を捉えて、そこから自分を変革する問いを導き出すことができます。そして、自分をどんどん変えていけるのです。この内省力があるかどうかを面接で見極めたいと思ったときは、価値観に関する質問を投げます。すると、ある程度の内省力のある方は、自身の価値観や信念、スタイル、世界観をすっと話してくれるのです。
この内省力はHRBPだけでなく、ユニリーバの従業員全員に求められる力です。以前、社内のハイパフォーマーに集中的にインタビューしたことがあるのですが、そのときにわかったのは、ハイパフォーマーは一様に、ピンチをチャンスと考える「ポジティブシンキング(前向きな思考)」、社会・世界・地球のために活動する「コンパッション(思いやりの心)」、そして高い「内省力」を持っているということです。この3つを兼ね備えていると、自分なりの判断基準で新たなアイデアを考え、リスクをチャンスと捉えながら物事をドライブしていくことが出来ると考えています。ユニリーバ・ジャパンでは従業員がそれぞれの内面としっかり向き合い、本質的な変革を推進することが出来るよう「ユニリーバ・ジャパン・Uリーダーシッププログラム(UJUL)」を2014年から実施しています。これは、最近は日本にもかなり広まってきた「マインドフルネス」や「U理論」をいち早く取り入れた独自のプログラムです。
第三に、「コーチング」のスキルもあった方がよいでしょう。なぜなら、HRBPの仕事の1つは、担当部門のビジネスリーダーやマネジャーから、さまざまな相談を受けることだからです。対話のなかから相手が求める本質的なニーズをつかみ、何を伝えればよいか、どういったコーチングをすればよいかがわからなければ、HRBPは務まりません。たとえば、私がHRBPになり、ちょうどコーチングを学んでいた頃、1人のマネジャーから自分にメンターをつけて欲しいと要望されました。私は言われた通りにメンターをつけようとしたのですが、このことを上司の島田に相談すると、「別の案も考えてほしい」と言うのです。そこで、改めてそのマネジャーと話してみると、その価値観・世界観に根本的な原因があることがわかってきました。結局、そのときは、メンターをつけることよりも、内省を促すことの方がずっと必要だったのです。HRBPには、このように一人ひとりの本質的な悩みに対峙し、対応するスキルがなくてはならないのです。このようなコーチングスキルを身につけ、またファシリテーションスキルを磨かいていくことも必要となっています。
そして第四に、「一人ひとりを深く知る力」です。結局、HRBPとは、担当部門の全員を深く知った上で、第三者視点からビジネスリーダーとメンバー一人ひとりに関わっていく仕事です。私たちは誰しも、思い込みに捉われるものです。その思い込みから脱するためには、誰かが外部視点から耳の痛いことを言わなくてはなりません。それが私たちHRBPの役目です。彼らの耳の痛いことを臆せずに言うためには、その人を普段からよく見ることが大切なのです。わかりやすい例を挙げると、多くのビジネスパーソンが「失敗したら評価が下がる」と思っています。しかし、ユニリーバではチャレンジを奨励し、失敗も含めて積極的に評価しています。なぜなら、減点主義のもとでは、安心安全な場は生み出せないからです。こうした環境をもっと活かしてもらうために、私たちは日々、一人ひとりをよく観察し、「失敗したら評価が下がる」と思い込んでいる従業員に対しては、その思い込みをなくすよう働きかけています。
最後に、ユニリーバのHRBPとは何かを教えてください。
短くまとめると、ユニリーバのHRBPは、十分な内省力とコーチング力、ファシリテーション力を備え、担当部門の全員を深く知った上でメンバー一人ひとりの可能性を最大化させ、自分の意見をシャープに持ちながら第三者視点からビジネスリーダーと対等な立場でパートナリングする仕事です。
内省力、楽観性、思いやりが重要だ
ユニリーバで活躍できるのはどのような方ですか?
先ほどハイパフォーマーの条件をお話ししたときの繰り返しになりますが、内省力が高く、社会的意義を重視していて、何事にも積極的で、自分の行動に対する恐れがない人です。なぜなら、そうした従業員が、アウト・オブ・ボックス・シンキング(常識外の思考)とポジティブなリスクテイキングを実行できるからです。
ただし、大前提として、「インテグリティ(誠実さ)」「レスポンシビリティ(責任)」「リスペクト(尊敬)」「パイオニアリング(先駆的)」というユニリーバの4つのコアバリューに対する共感が欠かせません。コアバリューへの共感がなければ、たとえハイパフォーマーの条件を満たしていても、この組織では活躍できないと思います。
最後に、ご自身がユニリーバでどう変容したのかを教えてください。
入社前には「負けたくない」という気持ちが強かったのですが、入社後にコーチングやファシリテーションを学び、内省を深めていったことで、本質的な“自分らしさ”を見つけることができ、その執着は手放せたと感じています。今は仲間と楽しく協働して、一人ひとりのエンジンに火をつけられる存在、周囲のポテンシャルを開花させられる存在でありたいという想いが強くなりました。また、もともとの強みだった分析思考と、ユニリーバで身につけた右脳的思考の両方を活かせるビジネスプロフェッショナルでありたいとも思っています。