社会見学のつもりからe-コマースのスペシャリストに
まずキャリアについてお伺いしたいのですが、意外なことに大学では考古学を学ばれたそうですね。
高校卒業後、考古学者になるつもりで北京大学に留学しました。考古学に興味をもったのは、司馬遼太郎さんの著書を読んでシルクロードに行ってみたいと思ったのがきっかけです。授業はおもしろかったのですが、3年生になると発掘調査のために中国の農村で1年ほど暮らすという実習があり、その生活がハードで体を壊してしまいました。大学卒業後はシルクロードの文物がたくさんあるフランスへ渡ったりもしましたが、2年くらい社会経験を積んでからまた考古学の研究に携わろうと、社会見学のつもりでデルに就職しました。それがそのまま居付いてしまったという感じです(笑)。
IT企業を選んだのは、父がPC雑誌に携わっていた関係で実家にパソコンが何台もあり、幼い頃から親しんでいたことが大きいかもしれません。なかでもデルは特徴のあるパソコンメーカーとして印象に残っていましたし、当時CTO(注文仕様生産)でダイレクトモデルを市場に出していたので興味もありました。
レノボ・ジャパンに入社される前は、どのようなご経験をされましたか?
デルには約6年いました。個人営業や電話セールスなどから始まって、2年目から自分の希望もあって広告事業に移り、新しい顧客層を獲得するためのオンライン広告の担当になりました。オンライン広告は、お客様がバナーをクリックしてサイトから商品を買ってくださるので、効果がダイレクトに伝わってきます。立ち上げの時だったのでかなり自由にやらせていただき、2年目くらいからYahoo! JAPANやmsnのトップ画面の広告需要も増えて、成長期におもしろい仕事をさせていただいたと思います。
その後、徐々に製品系の部署に移っていき、「ビヨンドザボックス」というプロジェクトに携わりました。パソコンの箱売りだけでなく、周辺機器や提携プログラム、サービスなどを付帯して販売するプロジェクトです。当時は誰もデルが箱物以外伸ばせると思っていなかったので、広告のノウハウによって実現できたのはよかったと思います。とくに周辺機器とサービスが大きな成果でした。デルにはパソコンのリテラシーが高いお客様が多いので、その方たちに響くような提携ネットワークを作って周辺機器の売り上げを増やしたり、個人のお客様に対して保険の感覚でワランティを売ったりしました。今はどの会社もやっていますが当時は新しかったんですね。また、デルはグローバルなサポートが売りでしたので、海外でパソコンを落としたり壊したりしても現地でサポートを受けられます。そういったことも広告的な手法を使って伸ばせました。
マーケティングの知識も業界の知識も不足したままデルに入ったので、もっと学びたいという気持ちが強かったのと、何かしらITのエキスパートになりたいと思い、IT専門調査会社のIDC Japanに転職することにしました。IDCの仕事は調査報告書を作るのがメインで、3ヶ月のうち1ヶ月は調査のために国内を旅していました。様々な場所を訪れることができて楽しかったですし、製品系の知識をもっている方と触れ合え、世の中がこの先ITでどう変わっていくかといった話をたくさん聞けたので刺激になりましたね。
IDCには2年4ヶ月いて、日本マイクロソフトに移りました。それは、自分でビジネスをドライブしたくなったことと、ユーザー側を変えるようなビジネスをマイクロソフトが立ち上げようとしていたからです。ここでは主に「Office 365」というクラウドサービスのチームで、eコマースサイトの拡販やマーケティングを担当しました。お客様が直接マイクロソフトのサイトから購入するので、顧客データの把握からフォローアップまで、お客様とダイレクトな関係を築けるのがeコマースの醍醐味です。リアルタイムで喜びの言葉やお褒めの言葉をいただけるので、すごく励みになりました。
カスタマーセントリック(顧客中心主義)でお客様と長いお付き合いを
レノボ・ジャパンでのお仕事を教えてください。
レノボ・ジャパンには、「これからeコマースを盛り上げるので一緒にやらないか」というお話をいただいて、転職を決めました。最初の1年はストアマネージャーとして、レノボドットコム全体の製品計画やキャンペーンなどに携わりました。その後、実行系から計画系の部署に移り、2年ほど前からアジアパシフィックe-コマース事業部で、シニアマネージャーとして他国も合わせて直販を見ています。アジアパシフィック地域では日本が一番大きく、2番目がオーストラリアとニュージーランド、次に香港、韓国、台湾、シンガポール、インドと続いています。どの国も担当がひとりしかいないので手伝わなければならないことがたくさんあり、各国を回りながらサポートをしています。基本はプランニング担当なのですが、それだけでは現場のビジネスが伸びないので、各国のニーズを拾い、やりたいことを形にしてあげる、いわば何でも屋さんです(笑)。現在、8か国ほど担当しており、昨年は半年ほど日本を留守にしていました。相手に求められているのがわかりますし、私自身、自分が必要だと思われているとやる気が出るタイプなので、とてもやりがいがあります。
いろんな国の方がいて、考え方の違いなどで摩擦が起きることはありませんか?
もう毎日です(笑)。話し合いをして、落としどころを見つけて……ということを1日何十回も繰り返しています。たとえば、「As soon as possible」という表現ひとつとっても、日本人は数時間以内と感じ、インド人は1?2日に感じるとった認識の違いがたくさんありますから、そういったこともきちんと受け止めながら忍耐強く話をしています。話し合いでは最初に目的をはっきりさせ、「なぜそれをやりたいのか」をお互いに理解することが大事ですね。相手を知らないということを認め、なるべく先入観を持たずに話を聞くことです。話していくうちに相手の意図がわかり、落としどころが見えてきますから、とにかく具体的に聞いていきます。
外資系企業にいると、日本以外の国の人々の考え方とどう折り合いをつけていくかが極めて重要になってくるのですが、それが日本人に一番欠けているというか、これから鍛錬していかなければいけない部分だと思います。意見が分かれても目指しているものは同じはずなので、喧嘩をしても目標に立ち戻るよう仕向けていくことです。絶対に折り合えるはずですから、それだけを信じてやり始めるのが大事だと思います。
レノボ・ジャパンの優位性はどのようなところでしょうか?
製品チームがしっかりしているところです。もともと「ThinkPad」という大きなブランドがあり、その開発拠点である大和研究所があるというように、製品を何よりも大切にしているので、他社との吸収や合併においても製品セントリック(製品中心主義)がポイントになります。ハードウェアのメーカーとしては非常に特徴的ですね。また、それぞれの国のニーズに合わせた製品を出し、市場に合わせた戦略をうまく進めていること、世界1位のシェアを誇り、グローバル規模でお客様に安定した製品供給と製品開発で還元できるというのも優位性に挙げられると思います。
今年はビジネスの成長ももちろんですが、お客様を中心に考えたサービスの向上を推進する「カスタマーセントリック」の方針を打ち出しています。セールス系以外のすべての社員にお客様満足度のKPIに対する評価が付くことになったので、皆で貢献しなければいけません。
お客様に満足していただくところにフォーカスしたのはなぜでしょうか?
お客様に満足していただき、ファンになっていただくことが、結局は販売に繋がっていくからです。ネット世代のミレニアルズも出てきて、リアルタイムにフィードバックを付けることが当たり前の時代になったので、それをどの場面でも実現したいんですね。つまり、ハードウェアを取り巻くすべてのIT技術でお客様に貢献しようということです。レノボに対して「こうして欲しい」と言ったことへのフィードバックが、わりと短期間で何かの形で実現すれば、お客様が品質の向上に参加しているという実感をもてますし、長くお付き合いできるきっかけになるのではと思います。TwitterやFacebookでインタラクティブに話すこともできますし、ダイレクト事業部ではチャットもできますから、コミュニケーションできるプラットフォームはたくさんあります。
eコマースは事業としては小さいのですが、カスタマーセントリックのプロジェクトではeコマースのさまざまな顧客調査や、そこでもらえるフィードバックを重視しているので、販売とは違った意味でお客様の声を直接聞くことができる重要な部署になってくると思います
異なるカルチャーを受け入れながら成長を続ける
レノボ・ジャパンはどのような会社でしょうか?
私が入社を決めた直後にNECさんとのジョイントベンチャーの話が決まり、環境的にかなり大きく変わったんですね。レノボはほかにもIBMさんやモトローラさんなどと合併を繰り返していますので、そのたびに違う会社のカルチャーが入ってきます。新しく入ってきた人たちと一緒にやっていくためにはお互いを尊重することが大切ですし、そのためにはビジネスの仕組みをある程度変える必要もあります。そういう意味でも、ダイバーシティがかなり進んでいると思います。
とはいえ、レノボはまだ成長段階の会社という気がしますし、社員の男女比率で言うと、とくに管理職は女性が少ないです。そこは会社としても注力していきたいところなので、あとはチャレンジする人がいるかどうかですよね。レノボの良いところは機会がオープンなので、社内公募など外資系によくある応募制度もありますし、きちんとした経歴とアピールするものがあれば希望する部署に行けます。また、会社としての大きな方向性はあるのですが、自分がよいと思うことを主張することに対しても寛容です。そういったコンセンサスが日本だけではなくて他の国にもあるので、レノボという会社全体のカルチャーだと思います。
働き方に対してもフレキシブルで、ここ数年は週に1回の在宅勤務を推奨しています。オンライン会議などのシステムも整っていますし、ITテクノロジーを使って社員のワークライフバランスをとろうという意味では、お子さんがいる女性でも働きやすい環境だと思います。もちろん男性にとっても、在宅勤務をすれば家でお子さんと一緒に昼食をとることもできますよね。いろんな働き方ができると逆に集中力が増すという面もあると思います。たとえば、家で仕事をするときはレポートなど集中して考えたい仕事を詰め、そこから1週間のスケジュールを効率的に組み立てていくというように。
御社ではどのような人が活躍できますか? 求める人材像を教えてください。
第一に、人ときちんとコミュニケーションがとれる人ですね。どこの部署にいても業務の流れはそれほど単純ではありません。グローバルからの指示で方針が変わることも頻繁にありますし、それに伴ってやり方も変えていかなければなりません。そのためには話し合いが必要になりますから、コミュニケーションがうまくとれる人、必要なときにすぐに集まって、決めるべきことを決めて進めていける人でないと難しいと思います。
また、レノボは動きが速い会社で、たとえば業績評価も四半期が大きな区切りになっているので、その流れのなかできちんと成果を出せる人が必要です。ですから、自分が会社にどういった貢献ができるのかを見極め、スピーディな流れのなかで早く結果を出すことに的を絞ってやれる人が良いと思います。こう言うと難しく聞こえるかもしれませんが、実際にやってみるとそんなに難しいことではありません。たとえば先程の「カスタマーセントリック」でも、お客様対応において自分の部署で改善できる点は何かを考えることは誰にでもできます。そういう視点でものを考えて動くことができれば、プロジェクトに貢献できるということです。会社のなかでひとつずつ方向性が生まれていくことに対して「自分には何ができるか」を常に考え、対応できる人を求めています。
最後に、転職活動をしている方にメッセージをお願いします。
入社して2?3年後の自分を想像できる会社を選ばれると良いと思います。会社の事業内容はもちろん、応募するポジションにおいて自分に何ができるか、どのように成長していけるかが想像できること。そのためには、ある程度目標を据えておくことです。しっかりした目標があったほうが、自分を見失わないで仕事をしていけるでしょう。とくに30代後半になってくると、「管理職を目指すのか」「インディビジュアルコントリビューターを極めていくのか」といった方向性をきちんと決めていないと、やはり転職の際に困ると思います。転職はチャンスですから、自分の価値を見極め、次にどうなりたいかを考えておくとよいと思います。
A・Y 氏 プロフィール
北京大学卒業後、デルに入社し、セールスに携わり、後にオンライン広告に携わる。ITのエキスパートを目指しIDC Japanに転職し、日本全国を回り調査報告書の作成を行う。その後日本マイクロソフトにてOffice365のマーケティングを担当。現在はレノボ・ジャパンにてeコマース事業部シニアマネージャーとしてAPACを担当。