化粧品は使い続けられてこそ価値がある
まず、メルヴィータのブランド特性を教えていただけますか?
メルヴィータは、1983年にフランスで誕生したオーガニックコスメブランドで、オーガニックの基準ができる前からあるのです。フランスには世界基準ともいわれるオーガニック化粧品の認証機関「ECOCERT(エコサート)」がありますが、その認定基準は実はメルヴィータの製造基準を大いに参考に作られています。当時、エコサートを設立するにあたり、専門家を集めた諮問機関のリーダー格のひとりが創業者のベルナー・シュビリアで、業界の第一人者として選ばれました。ベルナーは人の肌に一番効くのは植物由来のオーガニック化粧品であると強く信じ、それを愚直に形にした人物です。業界全体の発展にも理解があり、エコサートの基準を作る際、企業秘密ともいえる自分たちの基準をそのまま渡したのです。ですから、メルヴィータが最初にエコサートの認証を受けたブランドの1つなのです。
メルヴィータはオーガニックコスメのブランドではありますが、機能性も限りなく追い求めています。オーガニックというと「肌にやさしいけれど効果がない」「匂いが苦手」といったネガティブなイメージもあるなかで、全く逆の製品特性を持っている稀有なブランドといえるでしょう。
メルヴィータを代表するアイテムはありますか。
アルガンオイルですね。お客様の満足度も高く、リピート率もトップクラスのベストセラーです。この製品はアルガンツリーの実を潰した100%オーガニックのオイルで、私たちの想いを象徴するものです。もちろん他社にもアルガンオイルはありますが、メルヴィータは素材を作るところからはじまります。生産農家と契約してモロッコに広大な農園を持っています。そこで品質の良いアルガンを育て、低温圧搾法でオイルを抽出し、丁寧に輸送して精製、私たちの手元に届けるという、製造から製品化までを一貫して行っており、その技術は他社より優れていると思います。アルガンオイルは3500円なのですが、この価格でこのクオリティを出せるブランドはほとんどないでしょう。これは「化粧品は使い続けられてこそ価値がある」というベルナーの考えに基づいていて、無理なく使い続けられる価格でいかにクオリティの高いものを作るか、という理念を体現しているからです。メルヴィータのどの製品にも同じ思いが込められています。
アルガンオイルはユニークな製品で、ブースターとして化粧水の前に使っていただくことをお勧めしています。オイルを化粧水の前に使うと、化粧水が弾かれてしまうのではないかとみなさん思われるのですが、実は肌への浸透がとてもいいんです。もちろん、いろいろな使い方ができますが、ブースターとしての使用をブランドとして勧めているところは他にはひとつもないですね。新しいブランドはなかなか勝てないので、他社とは違うところに着目するのが、私たちのひとつの工夫といえるでしょう。
ブランド哲学のひとつである「共存共栄、利他主義」とはどういうことでしょうか?
これは「自分だけが良ければいいのではなく、世の中はみんな繋がっていて、他の人がハッピーになれば自分もハッピーになれる」という意味です。その哲学が最もよく表れている製品もアルガンオイルですね。アルガンオイルは植物100%で、何と合わせても相性が良いから、他のブランドの化粧水と組み合わせて使っていただいても効果が高いんです。お客様の肌が美しくなるなら他のブランドの売り上げに貢献してもよい、というのがベルナーの考えです。その姿勢は店舗の場所にも表れていて、例えば阪急の梅田本店ではフロアの真ん中にメルヴィータがあるんです。ラグジュアリーブランドやナチュラルコスメの間にあって、他ブランドとの懸け橋になっている。実際、ラグジュアリーブランドの化粧水とメルヴィータのアルガンオイルを一緒に使っているお客様もいらっしゃいます。
グループ会社であるロクシタンとの違いはどんなところですか?
メルヴィータは自分の肌をもっと綺麗にしたいという方が基本的に買う、ロクシタンはどちらかというと香りを楽しみたいとか生活を楽しくしたいという方やギフトとして買う方が多いですね。飛行機の機内販売でもメルヴィータは30代の女性が自分のために買う、ロクシタンは男性がお土産のために買う、というように購入層も分かれています。とはいえ、ロクシタンもメルヴィータも新しい価値を創造するという点では共通のDNAを持っています。
一つひとつ積み上げ、チームでブランドを成長させる
マーケティング戦略についてお聞かせください。
メルヴィータの世界観はフランスから来ていますが、それをどう日本人に合わせてアレンジするかは私たちに任されているので、グローバルブランドのなかでは非常に自由度があると思います。ブランドの世界観を伝えるための戦略としては、いかに新しいお客様にブランドの価値をわかっていただくかを、さまざまなチームがいろんな角度から創り上げています。とくにブランドの世界観は、直営店のビジネスモデルでは非常に大切なことだと思っています。例えば量販店などに製品を置くという時点で、その製品が持っているストーリーはなかなか伝えられなくなってしまう。直営店で自社スタッフが生産者の思いや使い方を含めて、その製品の価値を伝えることが重要です。
販売戦略については、「立ち上げ期」、「成長期」、「成熟期」の3段階に分けています。現在は「成長期」に入って2年目と個人的には位置付けています。「立ち上げ期」は広告予算もほとんどない状態でブランドを創っていかなければならなかったので大変でしたが、ターゲットとしているお客様のショッピング動線を調べ、その中に店を開いていきました。フランスでは箱形の路面店が多いのですが、日本では2面開口のオープンな構造にして、お客様が入りやすく、気軽にトライアルできるような雰囲気づくりを心がけています。同じようにどのターゲット層がフィットするのかも模索しました。メルヴィータのターゲット層は25?39歳くらいなのですが、最初は25?30歳くらいが一番熱いターゲットと想定していたんです。リサーチしてみると、もう少し上の年齢層がフィットしやすいことがわかりました。それは、多くの女性が結婚や出産などを経験する30代で食など安全に対する意識がガラリと変わり、オーガニック化粧品の価値を理解してくれる人が急増することがわかったからです。その層にアプローチできるよう、今フォーメーションを変えています。
直営店だからこそできることは何でしょう。
何といってもお客様の反応をすぐに得られるのが直営店のメリットであり強さだと思います。何か企画をやるとその日から売り上げが変わりますし、お客様の声もスタッフを通じてすぐに入ってくる。自分たちがやっていることのフィードバックが得られやすいということに大きな意味があります。
また、直営店では立地やインテリア、スタッフ、すべてを含めてブランドが持つ価値やストーリーを創り出しています。この世界観のなかでオーガニック化粧品の良さをお客様に伝えていき、その認知が日本市場のなかで広がれば、私たちのブランドの立ち位置が追い風の中に変わると思います。オーガニックコスメはおしゃれだけど肌には効かない、においが好きではない、というイメージで、どちらかというと今は向かい風の中にいますが、私たちは最終的にはそれが追い風になると信じていて、立ち位置をひっくり返す作業を地道に続けているところです。
先程「グローバルブランドのなかでは非常に自由度がある」とおっしゃっていましたが、具体的なエピソードがあったら教えてください。
アルガンオイルはあまりにもユニークで少しハードルが高かったので、気軽に買える比較的安いプライスポイントの「タッチオイル」を作りました。しかし、販売してみたら地味で全く目立たない。見た目がシンプルすぎて、なかなか手に取っていただけなかったんです。そこで出したのが「スリーブ」です。見た目が華やかでプレゼントにも適していますし、自分用にも欲しくなる。裏側に効果や使い方の説明も記載したことで、製品の満足度も上がりました。これはチームのひとりが試行錯誤しているなかで出たアイデアなのですが、最終的にはこの製品でトライアルが増え、新規のお客様も増えて今に繋がっています。チームのみんなが苦しみながら新しい使い方を考えたり、足りない要素を補ったりすることを一つひとつ積み上げることでブランドとして成長しているのです。そこがメルヴィータのおもしろいところでもあります。
もともと、いろんなトライアルができるというブランド特性もあります。メルヴィータとロクシタンともに年間のプロモーション回数が多いんです。年間でメルヴィータが11回、ロクシタンは15回あるのでとても大変なのですが、締め切りに追われる作家と一緒で何か出さなければいけないと思えば何かしら産み出せる(笑)。それが百発百中当たることはありませんが、年に11回もやっていると結構当たります。そういう意味では、加速度的に新しいことを積み重ねられる環境があるんです。プロモーションの回数が多いのにはふたつ理由があって、季節感を非常に大切にしているブランドだということ。もうひとつはロクシタングループに入ったことによって製品開発の力が押し上げられ、新製品を次々と出せるようになったことです。私たちと同じようなビジネスモデルをやりたいと思っている会社はいくつもあると思いますが、これを製造の過程からすべてできる会社はなかなかないと思います。グループ全体の競争優位性のひとつでしょうね。
ブランドの成長過程に出合えるのはとても貴重なこと
メルヴィータがロクシタングループにいたからこそできることは何でしょう。
ふたつありまして、ひとつは新しいことにどんどんトライするDNAが移植されていること。これが成長を加速させていると思います。もうひとつは、リテール事業のノウハウが注入されたこと。メルヴィータはフランスではリテールがそれほど強くなかったので、バリューチェーンを含めてロクシタンが持っているものが加わったことが大きいです。日本でお客様に製品の良さを伝えるスタッフのノウハウもロクシタンから来ています。グループ全体でいうとアントレプレナーシップをとても大切にしているので、他社がやっていることをフォローするのではなく、自分たちで市場を切り拓き、新しい価値を提供していくことですね。
全体の責任者としてブランドの成長をどう感じていらっしゃいますか?
私たちのブランドがここまで来たのはチーム力の賜です。アイデアがひとつずつ積み重なって今の形になっている。それもひとりがリードしたわけではなく、いろんなところでいろんな人たちが良いアイデアを出してくれています。離職率も非常に低く、チームが安定しているのもブランドの成長に欠かせない要素かもしれません。
個人的にはトライ&エラーを繰り返すことが重要で、諦めなければ目標に到達できると信じています。日本市場にメルヴィータを出したときからチームでいろいろ考えて今に至っているのでとても手応えを感じていますし、最初の2年くらいは結構苦しみましたが、そのときに諦めないでみんなで必死になってブランドを成長させてきたことは貴重な経験だったと思います。
メルヴィータではどんな人が活躍していますか?
ロクシタングループのコアバリューでもあるアントレプレナーシップとチームワークが大事です。成果に責任が負える人でありチームで働ける人ですね。まだまだ小さなブランドなので、それぞれが自分の責任のなかでトライしながら進めていかなければならない。それは決して個人プレーではなく、チームで1+1が2以上になるような効果をみんなで考えながらやっています。そういう働きのできる方が活躍していますね。
私が仕事をする上で一番大切にしていることは、身近な人が幸せになるためにできる限りのことをすること。私がなぜこの仕事をしているかといえば、一緒に働いている人たちを幸せにしたいからです。それが私の存在価値だと思っていますし、働いている人たちがハッピーでなければ何のためにやっているのかわかりません。一生懸命仕事をしている人の努力を、いかに成果に変えていくかを私たちは考えなくてはいけないと思っています。働いている人がハッピーで、さらにメルヴィータの製品を買ってくださる方がハッピーになってくれることが何よりも嬉しいですね。
お客様から「メルヴィータを使ったら肌が綺麗になった」と言っていただけるのが私たちの最高の喜びであり、人を喜ばせることがこの仕事の醍醐味です。メルヴィータの哲学に共感していただける方、チームとしてみんなで創り上げていくことに共感していただける方に集まっていただきたいですね。ブランドの価値を創っていく過程に出合えることって少ないと思いますから、是非チャレンジしていただきたいですね。
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