シャンパンの日本トップシェアを誇る王道ブランド
モエ・エ・シャンドンについて少し教えてください。
「モエ・エ・シャンドン」(以下モエ)は、1743年にフランスで創業した世界有数のシャンパンブランドです。「シャンパンの魔法を世界中に」という願いのもと、祝福と称賛のシンボルとして270年にわたり愛飲されてきました。シャンパンはセレモニーや記念日などで飲むことの多いお酒ですが、なかでもモエは特別な日に飲みたい、世界で最も愛されているシャンパンといえるでしょう。メモラブルであり素敵なモーメント作りに貢献できる、ライフスタイルに関わっていくお酒でもありますね。
モエはシャンパンとしては世界でもトップですし、日本でもシェア(ボリューム)1位を誇っています。当社にはモエのほかにドンペリニヨン、ヴーヴ・クリコ、クリュッグ、ルイナールと、全部で5つのシャンパンブランドがありますが、その中でも最も大きなブランドです。
歴史のあるブランドですが、その強みは何でしょうか?
絶対的な王道感でしょうか。日本に入って10年以上経つのですが、モエのメゾンは歴史あるブランドとして、Heritage(伝統)を守りながらこだわりの製法でシャンパン造りをしています。ロゴなど昔から持っている「顔」が引き継がれていることからも、ブランド力は非常に高いといえるでしょう。
モエには「SUCCESS(成功、達成を祝福すること)」「GLAMOUR(華やかで社交的な場にふさわしくあること)」、「GRANDEUR(比類なき壮大さ)」「GENEROSITY(寛容な分かち合いの精神)」の4つのDNAがあります。「SUCCESS」は、モエは成功の瞬間を彩る象徴であることの意味合いがあるのですが、もともとモエが大きくなったきっかけのひとつとして、ナポレオンがモエを飲んで戦いにいくと必ず勝てたというモエが勝利の美酒になった逸話があります。唯一負けたエジプト遠征ではモエを飲んでいかなかったという話が残っています。ナポレオンは、他にも、お母様にモエロゼを200本プレゼントしたというエピソードが残っており、こういった歴史的な背景もサクセスに結びついています。「GRANDEUR」は壮大、スケールの大きなことをするということです。大きなメゾンでないとノンヴィンテージのシャンパンのクオリティを保つことはできませんし、実際フランスのエペルネ(シャンパーニュ地方の地名)にある畑は1190ヘクタールもある壮大さで、シャンパーニュ地方で最大の敷地面積を誇っています。また、メゾン設立250周年記念のときにコルクの形をした気球を飛ばすなど、モエだからこそできる壮大な企画もありました。「GENEROSITY」は自然に反せず、環境保全を意識し、世の中に貢献できるものであることが重要だということです。メゾンでは高品質のシャンパンを提供するためのブドウの品質管理はもちろん、農薬を使わない対策といった環境保全への取り組みにも積極的です。最後に「GLAMOUR」ですが、シャンパンを開けるときってワクワクしますよね。華やかで社交的であることの象徴なのですが、ル・マン24時間レースではモエがシャンパンファイトで使われますし、国際映画際のレッドカーペットにもモエは欠かせません。そういった特別なシーンでモエが取り上げられるというのは、グラマラスで魅惑的なシャンパンであるというブランドの証です。
ワインのメーカーである「メゾン」はどんな存在ですか?
メゾンはお母さんみたいな存在ですね(笑)。ブランドをもっている人たちがメゾンであり、それをローカルで担保しながらいかにコミュニケーションするかというのが各国のマーケティングチームの役割なので、ある意味、私たちは子供といえるでしょう。もちろん、メゾンに対し「こういうことをやりたい」と提案することはできますし、フレキシビリティはあるのですが、たとえばラベルなど決して変更できないもの、絶対キープしなくてはいけないものもあります。エペルネ(シャンパーニュ地方の地名)のメゾンへ行っていただくとわかりますが、圧倒的なステイタスや伝統を感じます。セラーが限りなく大きいですし、お城のような造りで歴史と伝統をしっかり継承している。本当によく270年も保ってきたなと尊敬しますね。
次なるターゲットはラグジュアリーミレニアルズ
御社のマーケティング戦略についてお聞かせください。
当社のマーケティングは少し特殊なのですが、ひとつはお店に対し、モエを置いてもらえるきっかけになるようなプロモーションを作っていくこと、もうひとつはPR活動をとりまとめることです。プロモーションではメゾンが年1回、その年のプランを全世界に向けて発信するので、それをローカライズして日本のマーケットにフィットさせ、イベントやキャンペーンなどをプランしていきます。モエにとって今年はチャレンジの年になるのですが、ブランドとしての価値をさらに上げるというのが大きな課題になっています。
また、一番のミッションとしては、ターゲット層をより若い世代へリーチを広げていくことです。今、モエを飲んでいただいているお客様の平均年齢は38歳ですが、新たなターゲットとして追加したいのが「ミレニアルズ」と呼ばれる1980年代から2000年代前半に生まれた世代です。そのなかで、お洒落にお酒を楽しむ若者層を私たちは「ラグジュアリーミレニアルズ」と呼んでおり、今後ターゲットにしたいのはまさにそこですね。現在のお客様の平均年齢とそれほど離れているわけではないのですが、私たちのようなブランドは浸透するのに時間がかかるので、遅くなりすぎないうちに次の世代を追いかけていきたいと思っています。現在、モエをご愛飲いただいているお客様がシニア世代になってから若者にコミュニケ―ションをとろうとしても、もう遅いですから。
そのためには、この王道感をどの世代にも受け入れてもらえるよう、常にアクセシブルであり続けなければなりません。ずっとモエを飲んでくださっている方に今後も飲み続けてもらいつつ、若者にも手軽に楽しんでいただきたい。そうなりますと、世代によってコミュニケーションの手法も変わりますから、常に市場を見ていかなければいけない。親近感のあるブランドにはなりたいとは思っていますがDNAも忘れてはいけないので、コミュニケーションをするときはかなり気を付けています。デジタルなオペレーションも違う手法でアプローチしていくことが課題になっていますし、王道ならではのエッジさと、歴史があることで古臭いと思われないようにしなければならないので、その辺のプレッシャーはありますね。
パイオニア精神のDNAをもつブランド
10年でこれほどまでにモエが浸透した最大の理由は何だと思われますか?
20年くらい前は、お店でシャンパンをグラスでオーダーするのが難しい時代でした。シャンパンは泡なので、その日のうちにグラスで7杯くらい出ないとロスが出てしまうんです。とはいっても、グラス売りで気軽にシャンパンを楽しめるようにならなければ、客層は広がっていきません。そこで、営業もそれこそ足をヘトヘトにして一軒一軒回ってセールスしていったんです。それに合わせてマーケティングも「最初の1杯はラグジュアリーにシャンパンを飲もうよ」「モエから乾杯していきましょう」といったメッセージで仕掛けをし、市場にコミュニケートしていきました。そうするうちにシナジーが生まれて、シャンパンのグラス売りが浸透していったのです。
モエで印象に残っているプロモーションはどのようなものですか?
私がモエの担当になったのは昨年9月でまだ日が浅いのですが、昨年末にキャンペーンが新しく変わりました。そのキャンペーンを、いかに大きくするかというところでチームの力が発揮できたかなと思います。営業も頑張りましたし、店頭での展開はもちろん、百貨店などのマーチャンダイジングもガラッと新しいものに変えて露出ができました。実は百貨店の客層を考えたとき、若者向けのものが本当に受け入れられるのか少し不安だったのですが、ビジュアルのインテグレーションがうまくいったので良かったです。昨年11月以降の新しい取り組みは結果的には数字も上がったのでスタートとしては成功したと言っていいかなと思っています。新しいターゲット層のなかで認知度を高めなければならなかったので、YouTubeを使ったり、モエ独自のWEBのプラットフォームを使ったり、あとは今インスタグラムが流行っているので、インスタグラマーの方とコラボレーションしたりといったデジタルのアクティベーションを増やしました。
ブランドとして昨年良かった点としては、新商品を2つ発表するなどニュースが多かったことですね。新商品では、氷を入れて楽しむ画期的なシャンパン「アイス アンペリアル」が話題になり、チャネルを広げるという意味でもアプローチアブルでした。モエのようなブランドはヴィンテージが切り替わるとき以外、新商品が出ることはあまりないので、大きなメゾンでもプロダクトイノベーションはなかなかできないんです。モエにはパイオニア精神のDNAがありますから、新商品を出したり、新しいコンセプトを打ち出したりということは非常に大事にしています。
LVMHグループに属していることのメリットは何でしょう?
大きなグループに属していることで、トレーニングがしっかりしていたり、メゾンとの連携体制がしっかりしていたりといったグローバルとしての強みはありますね。また、グループ会社としてのロイヤリティも高いと思います。それは、Heritage(伝統)を守りながら新しいものを生み出していくパイオニア精神をそれぞれのブランドがもち、昔からのお客様を大切にしながら新しいターゲット層を開拓していく。つまり、マスでありながらラグジュアリー感を保っているブランドがLVMHグループには多いということです。自社のブランドを愛している社員が多いですし、他のブランドの担当者と会話をしても違和感のない方が多いので、グループ全体が同じ価値観をもっているという印象があります。
当社に関していえば、もともとモエとドンペリニヨンが基幹商品だったこともあり、モエには特別な思い入れを感じてくださっている取引先も多いです。そういう意味でもロイヤリティが高いのかなと思います。そういったブランドに対してのロイヤリティや共感性が生まれる根源は、単純なことですがやはり日頃、親しんでいるからでしょう。モエに限らず他のシャンパンもそうなのですが、気分がいいときに飲みたくなるお酒の代表ですし、人と人とを繋いでくれるブランドだということを私自身とても誇りに思っています。
歴史あるブランドをさらに大きくする使命がある
今後ブランドマネージャーを募集する際、求める人材はどのような人でしょうか?
まずコミュニケーション能力の高い人ですね。メゾンとの絡みや営業との絡みが複雑なので、しっかりコミュニケーションできる方でないと、ご本人も辛いかなというのはあります。メゾンとのコミュニケーションがきちんとでき、メゾンのやりたいことを理解して、それを日本に伝えることがとても大切です。
それから、自分で物事をハンドリングできるプロジェクトマネージメント能力のある人です。当社はプロジェクトが多いので、ひとつのプロジェクトを進めている間にも次のプロジェクトのことを考えなくてはなりません。デッドラインは確実に決まっているので、スケジュール管理などをしっかりマネージメントできることが非常に重要です。
ブランドマネージャーの魅力と、御社で活躍できる人はどんな人かを教えてください。
歴史あるブランドをどう広げていくか、大きくしていくかを考え、具体的に形にしていくことができるのがブランドマネージャーの醍醐味ですね。ブランドそのものは変えられないので、そこからどういう風にコミュニケーションしていくかといった部分が非常にチャレンジングです。ですから、アイデアを提案するのが好きな方のほうが楽しめると思います。ブランドが大きい分アクティベーションは多いので、イベントの切り口やメディアの使い方など、クリエイティブに考える能力のある方は大きな強みになるでしょう。これは個人的な印象なのですが、アイデアがどんどん出る方ってわりと何にでも長けているように感じます。アクションやレスポンスが早かったり、資料をまとめるのも早かったりしますし、「こういう風にやりたい」というイメージがクリアにある方のほうが、仕事を一緒にやりやすいですね。
また、お酒が弱い人は当社にも結構いるので大丈夫なのですが、飲食そのものに興味がないと楽しめないかもしれません。モエというブランドを使ってドリンクオケージョンを広げていくことを考えなくてはいけないので、飲食を楽しめる方のほうが面白味が広がっていくでしょう。あとは好奇心が旺盛なことでしょうか。ラグジュアリーのブランドとはいえ、自分たちが入手した情報やインスピレーションをもとにプロジェクトを進めていくので、好奇心をもって常に流行に目を光らせている方が活躍できると思います。
当社ではスキルフルな方が多いですし、周りをポジティブに巻き込む能力に長けている方も多いので、今お話したような方なら良い刺激を受けながら楽しんで、活躍することができますよ。