コンセプトを絞り込み、素材や製造方法にも徹底的にこだわり抜いた「厳選素材 フルーツグラノラ」
「厳選素材 フルーツグラノラ」とはどのような特色のある商品なのでしょうか?
栄養や美味しさはもちろんですが、一言で言えば、素材の産地や加工法などすべてに徹底的にこだわったグラノラです。「グラノラ」とは、小麦やオーツ麦などの穀物に蜂蜜などのシロップや植物油を混ぜてオーブンで焼き、食べやすい大きさに砕いたものにフルーツやナッツを加えたものですが、この「厳選素材 フルーツグラノラ」は、高品質なものにアンテナが高く、多少価格が高くても「自然な素材を使っていて栄養たっぷりのもの」、「加工度が低くて、素材そのものの味が楽しめるもの」を食べたいと考えている女性をターゲットに、「一歩先をゆく付加価値」をつけるべく開発してきました。
たとえば、シリアルの原料であるオーツ麦はヨーロッパの良質なものを選定し、加工方法も一般的にはつぶして焼き上げるところを、そのままの形を維持しながら膨らまして焼き上げるという工夫を凝らしています。そうすることで香ばしさが格段にアップするのです。フルーツは、ユーザーからのアンケート結果をもとにクランベリー、いちご、レーズン、りんご、バナナという人気ランキング5位までのフルーツをすべて入れました。素材そのものの味が楽しめるよう自然な形をそのまま生かしてカットを大きめにし、たっぷりと入れたことで、味の満足度や見た目の美しさもアップしています。弊社としても自信作だったのですが、発売2週目にして想定の3倍という売れ行きを見せています。
どのような経緯で「厳選素材 フルーツグラノラ」の開発はスタートしたのですか?
グラノラは2012年に競合他社が大きく拡販し始めたのですが、実はケロッグも、グラノラ自体は1990年代から販売していました。「ケロッグならではのグラノラを作るにはどうすればいいか?」とコンシューマー分析を始めたのが、「フルーツグラノラ」シリーズのラインナップを拡充するきっかけになりました。そうして、「脂質やカロリーが高いがゆえに、食べたいけれど食べられない」という方のために「フルーツグラノラ ハーフ」を、「手軽に少しでも多くの食物繊維をとりたい」という方に向けて「フルーツグラノラ 食物繊維4倍」を生み出し、さらに今回の「厳選素材 フルーツグラノラ」の開発に取りかかったわけです。
具体的には2013年の夏、私が入社してすぐに「厳選素材 フルーツグラノラ」のコンセプト開発に着手しました。日本におけるシリアル食品(グラノラを含む)の市場は、近年拡大傾向にあります。2012年から2013年の1年で14%もの成長を遂げており、2014年には30%ほどの伸びを見込んでいます。海外では朝食で当たり前にシリアル食品を食べる文化がありますが、日本ではまだまだその文化が浸透していません。日本でシリアル食品を「朝食アイテムとして食べる」世帯は、たったの35%。パンの場合が81%ですから、いかに低いかがわかるでしょう。私たちのミッションは、マーケットリーダーとしてこの浸透率を2020年までに50%に伸ばすことです。そこで、膨大な定性および定量データをもとに、「100世帯中35世帯しか食べていないシリアル食品を、残りの65世帯にどう食べてもらうか」の研究を突き詰めていきました。ターゲット層を特定し、彼らが自分にぴったりだと思うコンセプトの開発に注力しました。複数のコンセプトを用意し、消費者の購入意向などを調査するコンセプトテストを2回ほど経て、候補の中から脈があるものを選び出し、さらにブラッシュアップを重ねていきました。そういったプロセスを経て、ようやく「厳選された上質な素材」というコンセプトが決まったわけです。
開発にあたっては、どのような点が大変だったのでしょうか。
やはり、本当に美味しいと思えるクオリティまで持っていくことですね。社内向けに「厳選素材 フルーツグラノラ」の発表をしたのは2014年の5月ですが、製品開発は2013年の秋から半年以上かけて行いました。「まぁ、こんなものかな」という気持ちで作っても良い結果にはつながらず、すぐに撤退となってしまいます。「マーケティングが間違えば、会社全体が間違う」とチームメンバーに言い聞かせ、議論と試作を尽くしました。その中でもうひとつ大変だったのは、コスト管理です。良質なものを使うからといって、コストを度外視するわけにはいきません。高品質で美味しいフルーツをふんだんに使えるよう、サプライヤーを探し回り、価格交渉を何度も重ね、さらには調理方法や処理方法を工夫するなど、一つ一つの工程にかかるコストも文字通りすべてチェックしていきました。
そうして、美味しさ、コストともに妥協を許さなかった「厳選素材 フルーツグラノラ」は、ユーザーテストでも「口の中に広がる自然な香ばしさが違う」「生のフルーツを食べているくらい新鮮」「素材の味がしっかりわかる」と大好評を博することになったのです。正直、ほっとしましたね。
大切なのは、「実際に会って、顔を見てとことん話をすること」。良質なコミュニケーションが、より良いマーケティングを生み出す。
パッケージを作る際にはどのような工夫をされたのでしょうか。
パッケージには苦心しました。スーパーの売り場を思い浮かべていただくとわかると思うのですが、グラノラのパッケージはフルーツがぎっしりと描かれたものが主流です。しかし、「今までと違うグラノラ」を掲げている私たちがそれと同じようなパッケージを作っていては意味がありません。高品質なものにアンテナが高い女性が、パッと手にとるような「高級感もありつつ、今までと違う」というメッセージがまっすぐに伝わるパッケージでないといけないわけです。
まさに「毎日やり直し」。とにかく、「何を一番伝えたいのか」「何をやりたくてこの要素を選んだか、捨てたのか」ということをチームメンバーにひとつずつ確認し、気づきを得てもらうようにしましたね。場合によっては、時期尚早でもあえて定性調査をすることもありました。「何が言いたいのかわからない」「おいしくなさそう」などと酷評されることで、コンシューマーと自分の感覚の大きな乖離に気づけますから。ケロッグには“Consumers will tell”、すなわち“消費者が教えてくれる”、という言葉があるのですが、それを実践してきたというわけです。
メンバーと一緒に試行錯誤を重ね、マット白地の余白を立たせた今の洗練されたデザインのパッケージに着地したとき、ようやく「私向け」「食べたくなる」の声をたくさんいただけました。ここに至るまで何回も作り直しましたが、「パッケージをバイヤーに見せたらオーダーが跳ね上がった」と営業から聞いたときは苦労が報われましたと感じましたね。
販売戦略についてはいかがでしょうか?
今年6月からはこの「厳選素材 フルーツグラノラ」だけでなく、ケロッグすべての製品の箱に栄養バランスのチャートを記載することで、「ケロッグのシリアルは栄養的にも朝食にふさわしい」ということをお伝えする試みを行なっています。店頭も盛り上げつつ、テレビでインフォマーシャル(information+commercialの造語。商品の情報や特長を詳しく伝えるCM)も放映し、「自分や家族が食べたいものを選ぶことができる幅広い製品ラインアップ」を訴求したり、実際に試食・体感してもらう接点を増やしたりと、マルチな取り組みをしています。
また、営業や工場との協力も不可欠です。新製品は、元棚であるシリアル食品売り場に置けばいいというものではありません。シリアル食品のコーナーは通路の内側にあることが多く、目的買いのお客様しか立ち寄らない、ともすればただの通路になってしまう場所です。いかにエンド(棚の端の売り場)に置くか、アイランド(島のように大きく作った売り場)に積むかがポイントになるのですが、「厳選素材 フルーツグラノラ」は営業が非常に頑張ってアピールしてくれたこともあり、いいポジションを獲得することができ、発売前に品薄になるのでは、と思うほどの事態になりました。ですがこのとき、お盆休みの時期にもかかわらず、工場のスタッフが夏休み返上で24時間フル稼働してくれたおかげで、お客さまのオーダーに応えることができました。
社内の協力体制をスムーズに得られていると感じますが、どのような工夫をされたのでしょうか
私はこの1年間、とにかく「会って話す」ことを重視してきました。私が着任した当時は一方的にメールを送って連絡を済ませるような場面も見受けられましたが、今ではチームメンバー全員がFace to faceでコミュニケーションをとることを強く意識してくれています。違う部門の人とも同様です。日本ケロッグは高崎に工場があるのですが、特に大事な話をするときはマーケティングのメンバーが工場に足を運び、顔を見て話を進めるように、と徹底しています。「可能な限り伝えたい人の顔を見て、情熱をもって話し、わかるまで説明して、フォローアップし続けることが大事」と。営業に対してもそうですし、開発チーム、アジア・パシフィックやアメリカのグローバルチームのメンバーに対しても同じです。今や毎日、あちこちで活発な議論が行なわれていますね。
製品が売れないとき、営業とマーケティングは、ともすると敵対関係になってしまいます。「マーケティングがあんな製品を開発したから」「営業が売ってくれなかったから」と。けれど、それはコミュニケーションが足りていないからに他なりません。日々のコミュニケーションを重ね、「こんな製品、どう思う?」「商談でこんな反応だったよ」といった相互の声かけが増えていけば、自然と売れる製品が生み出され、各人にオーナーシップも生まれてくると考えています。成功して皆で喜びを分かち合えたら本当に最高です。
チーム全体の総力を引き出せる人と、ケロッグブランドを育てていきたい
今後の課題について、どのように捉えていらっしゃいますか?
まず、製品単体のブランド想起率が低いことですね。コーポレートブランドである「ケロッグ」の想起率は高いのですが、プロダクトブランド、つまり製品名までリーチできていません。お客様に、「シリアル食品といえばケロッグ」とイメージしていただけても、「コーンフロスティ」や「オールブラン」といったブランド名までは想起されない、ということです。欧米では「スペシャルK」など、ブランドとしてしっかり確立しているものもあります。今後は日本でも、プロダクトブランドを育てていきたいと思っています。
また、「どう伝えていくか」という点も課題です。現状では、「おいしい」「栄養バランスがいい」という機能的な価値までしかうまく伝わっていないのですが、今後は他のブランドとの差別化を推進するためにも、情緒的な価値(「このブランドを使っている、持っていると他のブランドの場合には感じないこんな気持ちになる」ということ)までも訴求していかなければならないと考えています。
これら2点はいずれもお客様とのコミュニケーションの課題です。この課題を解決するために、今年からブランドコミュニケーション、媒体、PR、デジタルなど、担当ごとにばらばらだった代理店に一斉に集まってもらい、ワークショップを開催するようになりました。「ブランドの2015年のコミュニケーションをどうするか」、戦略や戦術をパートナーとして議論するのです。この試みが実を結べば、コミュニケーション全体がうまく機能するようになり、より多くのコンシューマーにケロッグのブランドや、その魅力が伝わるようになるのではないかと期待しています。
ケロッグでは、どのような人物が活躍されていますか?
「あの人と働きたい」と思われる人が活躍していますね。言い換えれば、周囲に目や耳を傾けて学ぼうというオープンで積極的な姿勢があり、さらにはチーム全体の総力を引き出せる人です。自分のためではなく、ただ「この商品で多くの人に喜んでもらうためにはどうすればいいのか」と無心に汗をかいて頑張っている人のもとに情報は集まってきますし、周囲も力になってくれます。
ケロッグはローカルの自由度が高く、「厳選素材 フルーツグラノラ」や「フルーツグラノラ ハーフ」のような日本法人オリジナルの製品開発も任せてくれます。設備投資にも積極的ですし、グローバルのケロッグ全体で「成功体験をシェアしよう」という文化もあります。その根底には各地域の食文化へのリスペクトがあるのでしょう。海外発の製品もすべて日本人の口に合うように開発し直しますし、「本社の言うとおり」ではなく「日本のお客様にベストなものを私たちが生み出す」ことが重要なのでモチベーションも高まります。なにより、毎日やることがたくさんあるので、飽きるということはないのではないでしょうか(笑)。
最後に転職を考えていらっしゃるかたにメッセージをお願いします。
食と人が好きな方、そのうえで、もっと喜んでほしい、というパッションを持って、お客様のインサイトを徹底的に考え抜ける人に来て欲しいと思っています。マーケティングはお客様のニーズを見ることしかしていない、と言っても過言ではありません。
ケロッグでは部門を越えたクロスファンクションでの経験ができますし、グローバルに働くチャンスもあふれています。チャレンジ精神さえあったら、こんなに色々なことができる会社はないと思います。ブランドは差別化されたユニークな価値の塊です。製品やコミュニケーションを通じてこの価値を伝えていくのが私たちの仕事です。上手に育てればブランドは子どものようにぐんぐん成長します。ぜひ、一緒にケロッグブランドを育てていきましょう。