「美しさ」というのは内面から発するもの
アヴェダとはどのようなブランドでしょうか
アヴェダは1978年に、ホースト・レッケルバッカーによって創業されたブランドです。初期から非常に成功したブランドでしたが、世界展開を進める目的もあり、1997年にエスティ ローダーグループの一員となりました。日本で展開を始めて10年になります。
アヴェダは非常にユニークなブランドです。「美しさ」は内面から発するものだと考えて、健康的な美しさを目指すと同時に、企業体として環境に負荷をかけないという環境保全をブランドの根幹に据えています。製品の原料、輸送、販促、梱包に至るすべての過程にそれを反映しています。美容効果の高い自然素材の研究を行い、原料はできるだけ自然界由来、植物原料を用い、さらにオーガニックで栽培した植物原料の比率を高めています。アロマ(香り)は天然のエッセンシャルオイルのブレンドで作られています。
また、地球環境保全に対する活動をするNPOや草の根運動などの支援も行っています。キャンドルの売り上げを「きれいな水」のために活動しているNPOへの支援に充てたり、毎年4月を世界中で環境への啓蒙月間としていて、世界中のアヴェダ関係者が活動を行ったりしています。
なぜ「環境保全」をブランドの根幹に据えているのでしょうか。
創業者のホーストはもともと美容師でした。彼はまずお客様に安全、安心な製品・サービスを提供したいと考え、そのためには美容師自身も安全、安心なものを使って健康でなければならない、健康・安全な製品のためには、その原料が作られる土壌・地球環境も健康でなければならない、だから地球環境へのアクションが必要である、と創業当初から説いていました。しかも同時にビジネスを成長させ、利益を上げる、ということを重視しました。“環境保全とビジネスの両立”という非情に難しい選択をし、実現したのです。環境配慮については日本の私達も徹底しており、印刷物なども本来なら艶のある紙や発色の良いインクを使用すべきところを、再生比率の高い紙を使用したり、ベジタブル・インクを使用したりしています。梱包材や販促商品もいかにきれいに、というだけではなく、環境に負荷を掛けていないかを重視します。
私は他の化粧品メーカーでもマーケティングを経験してきました。特に高級化粧品の世界では、製品効果の追求はもちろんですが、いかに見栄えを良くして人目を引くか、いかに高級感あるように見せるか、などでしのぎを削っていましたから、アヴェダに転職してきた当初は戸惑いもありました。重点を置くポイントが全く違うので。しかし環境に最大限配慮するという、通常のマーケティング活動からすると大きな“制約”がある中で、いかにこの素晴らしいブランドの製品を魅力的に伝えるかに知恵を絞る面白さもありました。このブランドのユニークさに自分自身チャレンジしてみようと思いました。それまでに化粧品については“やり尽くし感”があったのですが、アヴェダには単なる化粧品を超えた違うビジネスと意義があると感じました。環境配慮とビジネス成長の両立というこのブランドの取り組みは、世界を変えることさえできると思っています。
“自分のための商品だ!“と思ってもらえるような商品を着実に作っていきたい
アヴェダ製品の開発や製造についてお聞かせください。
製造はほぼ100%米国で行っていますが、日本市場向けの製品開発リクエストを本社に提案し、実際に開発されて市場に出たケースが多くあります。日本向けに開発された製品がグローバルに展開されることが多々あり、アヴェダグローバル売上の1/4にまで達していることから、日本の消費者レベルは非常に高く日本向けに開発したものは世界で通用するという認識は本社でも浸透しています。
たとえば2003年に日本女性用に開発した、ダメージヘア用のヘアケアシリーズ“ダメージレメディ”は現在グローバルでもトップ製品です。また、日本の美容師とのコラボレーションで開発された、ラベンダーオイル配合のスタイリング製品“ライトエレメンツ”も髪をまとまりやすくし艶が出る、とアジア市場で非常に成功しています。
またグローバル開発の製品でも“自分のための製品だ!”と思ってもらえるような製品の打ち出し方を着実にしたいと考えています。例えばストレスフィックスシリーズというボディケア製製品がありますが、これは日本のお客様にも非常に好評です。
製品の開発や製品展開を行う上で大変だったことは何でしょうか。
自然界由来成分、植物原料にこだわることはブランドの最も大切にしている部分ですが、それと同時に求められる製品効果を高いレベルで実現することの難しさは感じることがあります。日本市場に適した製品を開発したいと思っていますが、日本の消費者、美容師に「受ける」製品を開発しようとすると、例えば発色の良さ、即効性の高いものが求められがちです。が、アヴェダでは化学的な原料を使用しないためにそれが難しい場合もあります。そういう場面は、むしろチャンスととらえてアヴェダが大切にしているものを守って、それを美容師の方々に伝えようと思っています。
また、米国本社との相互理解の難しさはあります。日本の消費者はディテールへのこだわりが強く、どう使うかというシーンの演出、使い方に関する情報、使用効果についてのきちんとした情報を準備することが重要です。
たとえば、“インバティ”という頭皮用美容液を売り出す際に、日本では、ちょうど頭皮ケアやヘッドスパが流行っていたことから、製品を頭皮に塗布した上でもともとアヴェダにある頭皮マッサージもできるブラシで頭皮を軽くマッサージすることを提案し、自宅でのヘッドスパというシーンを演出しました。しかし米国本社は、製品力が優れているのに何故そんな細かい情報やマッサージまで必要なのか理解できないというスタンスだったのです。ちなみにこの製品の使い方情報やブラシマッサージ提案は、日本発信でアジア他国で今や広く用いられています。本社には日本市場・消費者特性・必要な情報基準を理解してもらうため、データ、トレンド、実例を示したり、本社からのビジター来日時には美容室でのヘッドスパ体験をしてもらうなどしています。
アヴェダのマーケティング戦略についてお聞かせください。
現在サロン流通の他、ショップ5店舗、そしてオンラインでも販売展開しています。どの流通も着実に成長させることを目指しており、それぞれに合ったマーケティング活動を行っています。例えばメインの流通であるサロンでは、お客様はサロンに「製品を買い」に来るのではなく、「サービスを受け」に来られています。サービスを受けて良いと感じていただきご家庭用に購入いただくことが必要です。ですから直接お客様に関わる美容師やスタッフのニーズに応え、サロンを成功させるためにいかにアヴェダを活用できるか、ということを打ち出して彼らを巻き込むことはマーケティングにとって非常に重要です。
そこで重要なのは、美容師やスタッフがアヴェダの製品についてお客様に説明しやすいツールや仕掛けの提供、トレーニング・プログラムなどです。例えばお客様がカラーリングで待っている時間などにハンドマッサージなどしながらクリームの説明をしたり、ケアの大切さを説明したり、どのようにアヴェダの製品を使うと効果的か、などをスムーズに行えるような情報提供や技術提供を行っています。
また美容師は本来、スタイルを作りたい、美しさを提供したいと思っています。それに加えて時代のトレンドにあった美容師でありたいという気持ちがあります。アヴェダは一見「優しいブランド」イメージがあると思いますが、実はトレンドセッティングにも強いブランドです。本社のクリエイティブ・チームはいつでも時代の“Cutting Edge(最先端)”であることを意識していて毎年2回スタイル・コレクションを発表し、2年に1回大きな“ヘアショー”を米国で開催します。昨年は日本から100名のサロンの方々と一緒に参加もしました。ここでは新しいテクニックを紹介したり最新のトレンドを見てもらったりします。また日本でもカットやカラーリング、ヘッドスパや家庭でのケアに至るまで、美容師のニーズに応え、またクリエイティビティを刺激するトレーニングを実施したり、ホームケア用製品をお勧めしやすくするリテール・セミナーを開催したりしています。
さらに、ハイタッチ戦略、つまりアヴェダの素晴らしさをわかってもらうための体験機会の創造も重要視しています。1つの例ですが、アヴェダのヘアショーではまずショーのスタートにステージで、ブラジルの先住民族“ヤワナワ族”の酋長によるプリミティブなパフォーマンスがありました。アヴェダはこの民族のコミュニティから原材料を調達しています。先住民はどんどん都市化して村を離れる傾向にありますが、彼らはアヴェダとパートナーシップを組むことで、自分の土地に暮らしながらオーガニックな原材料を栽培することで自然や文化を守ることができるのです。こういった点をショーの最初に見ていただくことでアヴェダブランドの深さとそのストーリーに触れてアヴェダで働くことの意義がどこにあるのかを感じてもらっています。
「ストーリー」と「実際に使う」という行動を結びつける
アヴェダのよさを感じてもらうためにほかにはどのような試みをされているのでしょうか。
たとえば、アヴェダ日本上陸10周年を迎えた際にはメディア、消費者、美容師それぞれに向けてアヴェダを体験していただく様々なイベントを行いました。エッセンシャルオイルを自分でブレンドしてオリジナル・バスソルトを作ったり、ハンドマッサージやヘアスタイリング、頭皮マッサージなどを実際に体験していただくことでアヴェダのよさを再認識いただけたと考えています。また、エピソードを通じて実感してもらう試みも行いました。たとえば、キャンドルの売り上げがマダガスカルの子供たちの暮らしに繋がっている、というエピソードを映像とともにお伝えしたうえでキャンドルに火を灯していただく。そのキャンドルの香りからマダガスカルを感じてもらおうと。知らなければそれは単なるキャンドルですが、知ることでキャンドルにまつわる「ストーリー」と「実際に使う」という行動が結びつくんです。知識としては知っていても実際に体験してもらうことがとても重要だと思いますね。
また社内の話になりますが、アヴェダではミーティングの前にウェルネスと言って、参加者みんなで香りをとって呼吸を整えるなど、ちょっとした健康に良い活動をしてからはじめるという習慣があります。心身のバランスをとるための製品を提供するためには、まず自分たちの心身のバランスが取れていないと消費者にはよさが伝えられませんから。これは日本だけではなく本社でもミーティング前や休憩時間にやっている習慣です。いろいろ試行錯誤ではありますが、アヴェダの良さを伝えていければと思っています。
なぜアヴェダは日本で成功したのでしょうか。
製品・ブランドの素晴らしさはもちろんですが、日本の市場としっかり向き合ってきたことにあると思います。日本独自のサロン展開に力を入れ、日本のサロン、消費者にアヴェダを理解してもらえるよう活動してきました。サンプリングをしたり実際に体験してもらったりして製品の価値を理解してもらう。また「あなた」の場合はこういう風に使ったほうがいい、とか、ちょっとした工夫を提案するなど、「うちのサロンのお客様のための製品」「自分のための製品」であると感じてもらってきたことが成功につながったのではないでしょうか。
またアヴェダブランドの性格上、認知度や売り上げを伸ばすために焦ってサロン数を急拡大しなかったこともブランドの質を保つことにつながったと思っています。ナチュラル、オーガニックに対して時代的には追い風があります。ですから一気に広げようと思えばできるのかもしれませんが、長く持続するブランドにするため着実に一店一店に手間をかけブランドを理解してもらい、着実に成長することが大切だと思っています。
エスティ ローダーの他ブランドとアヴェダで協働することはあるのでしょうか。
エスティ ローダーの他のブランドは百貨店中心に展開していますので、アヴェダがショップ展開を始めた時には、他ブランドの持つ店舗デザイン、スタッフのトレーニングなどのノウハウが役に立ちました。ファッションショーのバックステージサポートを社内のメイクアップブランドと協働することもあります。プレステージブランドだけが集まっている会社ですので、質の高さの基準が高く、“伝える人間の質の高さ”が必要であり、そのための人、トレーニングを会社として重視しています。“Bring the best to everyone, we touch(ふれあう一人一人に最高のものを)”をミッションとしています。年に数回ブランドを超えた社員が集まる機会がありますが、いつでも必ずトップから「今も、カウンター越しにお客様に対応しているスタッフがいます。その人々をサポートするための仕事をしましょう」と語られています。
最後に、渡辺さんにとってブランドとは何かお聞かせください。
“ライフスタイルの提案”ということでしょうか。アヴェダを使うことで、その人のライフスタイルとか、考え方、行動まで変えてしまうようなところがあるのです。アヴェダは「内側からの美しさ」を提案し、そのホリスティックな製品は髪や肌だけでなく心身のバランスや健康までアプローチしています。このアプローチは環境保全にもつながっていますし、消費者の「自分がしていることが何かいいことにつながっている」という意識になり、ライフスタイルがより良いものになっていく。ヘアケア、ボディケアだけに終わらない提案を行っていくのが私たちの仕事だと考えています。