現在の売上を「自分はいくらにしたいのか」。
過去や目先のプロジェクトだけを見るのではなく、視線を「3年先」へ向ける。
描いたビジョンを起点に、ロジックとデータ、そしてパッションを重ね、ストーリーのある戦略へと落とし込む。
成田氏が目指すのは、一人ひとりが目指す姿を描き、周囲を巻き込みながら成長を生み出していく「意思のある組織」です。
そして、まずは自らがそれを体現し、「ここへ進む」と力強く旗を掲げ、組織を前へ動かしていく。その姿勢こそ、成田氏のリーダーシップの本質なのかもしれません。
グローバル企業での豊富な経験を経て、現在ブルーベル・ジャパンのCCOとして変革を牽引する成田浩明氏に、ブランド・人・組織を成長へ導くリーダーシップについて伺いました。
「世界は違って当たり前」——幼少期の海外経験が育んだ価値観
まず、成田さんのキャリアの原点からお聞かせください。幼少期は海外で過ごされたそうですね。
はい。父の仕事の関係で幼少期をカナダで過ごし、現地の小学校へ通っていました。授業は100%英語で、一部フランス語も学ぶ環境でした。その後、日本に帰国してからも英語教育を続け、日本人だけでなく、さまざまな国籍や文化的背景を持つ友人たちと、小学校から高校まで同じ時間を過ごしました。
今振り返ると、「Diversity(ダイバーシティ)」という言葉を意識する前から、多様な価値観があることが当たり前の環境で育っていたのだと思います。
大学ではマーケティングとの出会いが、大きな転機になったそうですね。
早稲田大学では経済や経営を中心に学んでいたのですが、その中でマーケティングの授業を受けたことが大きな転機でした。
教授が、「なぜ今、あなたは、数ある商品を目の前にして、そのお茶を手に取ったのか」という話をされたのです。
私たちは自分の意思で商品を選んでいると思っていますが、実はテレビや店頭、広告などで何度もそのブランドに触れていて、その記憶が無意識のうちに積み重なっています。
そして喉が渇いた瞬間、そのブランドを自然に選んでいる。
その話を聞いたとき、「なるほど、マーケティングとはこういうことなのか」と衝撃を受けました。経済学としてアダム・スミスやケインズなども学んでいましたが、「見えざる手」という概念が、実は日常の消費行動にも存在していると知ったのです。
人の心の中にブランドを自然と届け、無意識のうちに選択につなげていく。
「そんなことができる仕事があるのだ」と純粋に格好良いと思いました。
そして、消費者として商品を選ぶ側ではなく、そのブランドをつくる側に立ちたいと思うようになりました。

「100点では足りない」——ロレアルで育まれた、挑戦し続ける姿勢
新卒で外資系大手のロレアルに入社され、マーケティング職に就かれています。
大学でマーケティングを学ぶ中でもその思いは強くなり、最終的には事業会社でキャリアをスタートしたいと考えました。
私は物事をロジカルに考える一方で、右脳的な感覚や直感も大切にしたいタイプです。ロレアルではよく「詩人と農夫」という表現が使われますが、マーケターには感性と論理の両方が必要だという考え方があります。
すべてがルールや数字だけで決まるのではなく、最後は人の感覚や熱量でプロジェクトを前に進める。そのような、どこかラテン的なカルチャーの方が、自分には合っていると感じました。
入社後は、ランコムでキャリアをスタートされたのですね。
はい。ランコムで最初に担当したのは、目元のメイクアップ、特にマスカラです。
当時は「ランコムといえばマスカラ、マスカラといえばランコム」と言われていた一方で、私が入社した2011年頃には、カテゴリーの勢いが少し落ちていました。
まずは、商品理解を深めるために、当時は、毎日のように自分でマスカラをつけていました。左右の目に違う商品をつけて、粉落ちはどうか、繊維は落ちないか、つけたときに痛くないか、時間が経つとどう変化するかを確認していました。
会社に来てからつけ直すこともありましたので、デスクで新卒の男性社員が必死にマスカラを塗っているので、周囲の先輩方からすると、かなり印象的だったと思います(笑)。
少しでもお客様や美容の専門家と同じ目線で話せるようになりたかったのです。
周囲の協力もあり、結果的に最初のマスカラのローンチは、目標としていた販売本数を上回ることができました。
その後は、プロダクトマーケティング以外の業務にも広がっていったのですね。
マスカラを担当した後は、新設されたプロモーションチームに異動、その後、再びプロダクトマーケティングに戻り、今度はスキンケア、特にエイジングケアを担当しました。
ランコムを代表する美容液であるジェニフィックを起点に、ブライトニングやエイジングケアの製品をどう組み合わせて使っていただくか。単品を売るだけではなく、ブランド全体としてお客様と長く関係を築くマーケティングを考えるようになりました。
メイクアップからスキンケアへ移ったことで、ご自身のマーケティング観にも変化はありましたか。
大きく変わりました。
お客様への理解だけでなく、チャネルや現場への理解も深まったと思います。特に、美容部員の皆さんがどのような情報を必要としていて、どうすれば自信を持って商品を紹介できるのかを強く意識するようになりました。
美容部員の方々は、常に多くの商品と、多くのお客様に向き合っています。その中で、複雑なテクノロジーや成分をそのまま説明しても、なかなか伝わりません。
難しい内容をいかに分かりやすく整理し、お客様の心に届く一言へ変換できるか。そのための言葉を現場に渡すことが、マーケティングの重要な役割だと考えるようになりました。
マーケティングにはロジックや戦略が必要ですが、それだけでは人は動きません。
「成田さんがそこまで言うなら、もう少し頑張ってみようかな」と思ってもらえるような、人と人とのウェットなつながりも非常に大切です。
最もお客様に近い場所で販売してくださる美容部員の皆さんが、商品に納得し、本当に売りたいと思ってくださらなければ、ある一定のラインを超えて売れることはありません。
どれほど優れた製品でも、現場の方が心から良いと思わなければ、お客様には届かない。そのことを、この時期に強く学びました。
その後は、デジタルやCRMの領域にも進まれました。
当時は、デジタルマーケティングという言葉がようやく広まり始めた頃でした。
業界全体としても、「何か新しいことをしなければいけない。ただ、何をすればいいのかは誰にも分からない」という空気がありました。
ロレアルにも、まずはやってみようという風土があり、私はデジタルとCRMを担当することになりました。
それまでのプロダクト中心の仕事から離れ、デジタルマーケティングとは何か、顧客との関係をどのように構築するのかを学びました。
どのような場をつくり、誰に来てもらい、どのようなクリエイティブを生み出し、どの媒体で発信すればターゲットへ届くのか。誰も正解を持っていない中で、一つずつ試しながら形にしていきました。
ロレアルでのご経験を通して、最も身についたものは何でしょうか。
アンビションを持ち続ける姿勢です。
ロレアルには、100点を取ったときに、「なぜ105点を取れなかったのか」と問うような文化があります。
125点を目標にして、結果が110点だったとします。本人としては15点届かなかったことが悔しい。しかし会社から見れば、もともとの基準である100点は超えている。
少しトリッキーではありますが、常に今の自分より高い目標を掲げ、そこへ向かって全力で取り組む。たとえ目標に完全には届かなくても、当初の自分では到達できなかった場所まで成長できていれば、それは価値のあることだという考え方です。
成長したい人にとって、ロレアルは非常に刺激的な環境だと思います。
何より幸運だったのは、当時出会った上司の存在です。群を抜く聡明さと先見性、そして野心を持つ素晴らしい指導者に恵まれたことに心から感謝しています。妥協のない厳しい指導を受け続けたおかげで、マーケティングに限らず幅広い経験と知見を得ることができ、今の自分があるのだと確信しています。いただいた教えを何度も反芻しながら、いつかその存在に追いつけるよう日々努力を続けています。

「ブランドを伝える」から、「製品をつくる」へ——マース ジャパンで広がったマーケターとしての視野
その後、ペットフードなどを扱うFMCG業界のマース ジャパンへ転職されています。
商品の単価も違いますし、流通チャネルも、お客様も、組織もまったく異なる環境だからこそ、自分が通用するのかを試してみたいと思いました。ラグジュアリーブランドで培ったマーケティングの経験が、日常的に購入される商品やマスマーケティングの世界でも通用するのか。それを確かめる意味でも、非常に魅力的な挑戦でした。
マース ジャパンでは、マーケティングだけでなく製品開発にも深く携わったそうですね。
はい。それまでのキャリアでは経験したことないチャレンジでした。
ローカル市場でのマーケティング施策を実行するだけではなく、仕事の半分ほどは製品開発に関わっていました。
例えば、日本のお客様の志向を考えながら、どのような肉や魚のフレーバーが好まれるのか、どのような商品であれば受け入れられるのかを検討します。
その考えをR&Dのチームへ伝え、試作品を作ってもらい、パッケージを設計し、テストを重ね、最終的に市場へ投入していく。
一つの商品が生まれるまでのプロセスを、かなり上流から経験できたことは、とても新鮮でした。
一つのアイデアを商品として成立させるには、魅力的であることに加えて、安全で、安定して生産でき、適切な価格で提供できなければなりません。
マース ジャパンでは、そうした製品の裏側まで見ることができました。
「何をするか」ではなく、「何をしないか」——パリで磨かれた経営視点
その後、マース ジャパンを離れ、再びラグジュアリー化粧品の世界へ戻られました。
マース ジャパンではマスマーケティングや製品開発という貴重な経験をしましたが、自分が本当に好きなのは、顧客一人ひとりの購買行動を見ながら関係を築くマーケティングだと気づきました。CRMを活用し長期的な関係をつくるスタイルです。
そのため再びラグジュアリー領域へ戻りたいと考え、ちょうど広いスコープのポジションを提示いただいたクラランスへ転職しました。
クラランスでは、どのような領域を担当されたのでしょうか。
メイクアップ、スキンケア、フレグランスを含めた製品全体に加え、デジタルやEコマースも担当しました。さらにストアデザインにも関わり、カウンター設計まで携わりました。規模が比較的小さい分、領域が広く、現場との距離も近かったです。
その後、クラランスからロレアルのパリ本社へ移られた経緯は?
以前ロレアルに在籍していた時の同僚が推薦してくれたことがきっかけです。また、家族とのライフステージの変化に差し掛かっていたことも大きかったです。自身の幼少期の海外経験が人生に影響を与えていたため、自身の子どもにも同様の機会を与えたいと考えていた矢先のお話だったので、それも最終的な選択に影響しました。
当時のロレアルのパリ本社では、なぜアジア人材が必要だったのでしょうか。
市場の成長と多様化により、現地理解が不可欠になったためです。また、ゾーンの役割として、本社と各国をつなぎ、地域全体の最適化を図ることも重要視されはじめていました。
ブランドはビオテルムをご担当されました。同ブランドでの経験を通じて、どのような経営視点や強みを培われましたか?
アジアでは男性向けに集中すべきと本社に提案し、議論を重ねて方向転換しました。常にGM視点でブランドの成長を考え、各国の強みを俯瞰する中で、ロジックと感性、そして人を動かすストーリーテリングの重要性を学びました。
そして、パリからの帰国後は、日本でフレグランスのGMに就任しました。成長市場であり、新しい挑戦でした。
GMになって変わったことはありましたか?
責任の重さです。売上だけでなく、組織や現場の生活も背負う立場になりました。最初のミッションは、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった、メゾン マルジェラの成長を一過性で終わらせないことでした。リテール強化と本社への働きかけで、持続的成長の基盤を整えました。
その後、ランコム・ヘレナルビンスタインのGMに着任されています。
新卒時代に関わった大切なブランドに責任者として戻れたことは感慨深く、非常に充実した時間でした。着任早々、率先して着手したのはオフィススタッフと美容部員のモチベーション向上でした。両ブランドともビジネス状況はタフでしたが、チーム一丸となって普遍的なブランドへの誇りと確かな製品力を武器に、今まで行っていなかった仕掛けを積極的に行いました。
また、フランス本国とのリレーションシップも根本から見直しました。日本の声を効果的に伝えて、新製品・企画・ビジュアルなど、日本の影響力を強化することに努めました。仲間と呼べる素晴らしいメンバーと仕事が出来たことを心から感謝しています。

50年の歴史を、次の成長へ——「ブルーベル2.0」に向けたトランスフォーメーション
ロレアルでGMを経験された後、ブルーベル・ジャパンへの転身を決めた理由を教えてください。
これまで培ってきた化粧品やラグジュアリービジネスの知識を、幅広く活用できる機会だと感じたことが一つです。
同時に、ブルーベル・ジャパンにはフレグランスや化粧品だけでなく、ファッション、アクセサリー、フード&ビバレッジなど、自分がまだ十分に経験していないカテゴリーもあります。そのポートフォリオの広さにも魅力を感じました。
また、ブルーベル・ジャパンは今、長い歴史を大切にしながら、会社をモダナイズし、次の成長に向けたトランスフォーメーションを進めるタイミングにあります。
これまで身につけてきた、アンビションを持って高い目標を掲げる姿勢や、戦略的に物事を前へ進める経験を生かせるのではないかと考え、入社を決めました。
成田さんのタイトルCCO(チーフ・コマーシャル・オフィサー)は、どのような役割なのでしょうか。
日本国内のコマーシャルビジネス全般を担当しています。
フレグランス&コスメティックス、ファッション&アクセサリーといった各事業に加え、横断機能としてEコマース、デジタル、CRM、トレーニング、ビジネスデベロップメントまで包括的に見ています。
コマーシャル領域では、トラベルリテールのGM、シガービジネスのGM、そして私の3名が、それぞれの領域を担っています。
入社前に抱いていたブルーベル・ジャパンの印象と、実際に入社してからの違いはありましたか。
想像していた以上に、ブランド、カテゴリー、販売チャネルの幅が広い会社でした。
これまで私が経験してきた百貨店、駅ビル、ショッピングモール、ブティックに加え、ブルーベル・ジャパンにはさらに多様な販路があります。
例えば、同じフレグランスでも、百貨店で接客を受けながら購入したいお客様もいらっしゃるし、セレクティブ・パフューマリーやコスメショップで比較しながら選ぶ方、表参道などのエリアで複数の店舗を巡る方もいます。
ブランドを扱う数だけでなく、お客様との接点の多さにも驚きました。
就任後の約100日間は、どのようなことに取り組まれたのでしょうか。
最初の100日では、ブルーベルが今後どこを目指すのか、ビジョンと戦略をできるだけ早く整理し、社員の皆さんへ共有することに力を入れました。
ブルーベルは、日本で約50年にわたりビジネスを続けてきた会社です。まだ日本で香水が一般的ではなかった時代から、フレグランスというカテゴリーを守り、育て、広めてきた立役者の一つだと思っています。
その歴史や強みを大切にしながら、これからの市場に合った会社へ進化させていく。いわば「ブルーベル2.0」に向けた基盤づくりの100日でした。
ブルーベルが持つ、最も大きな競争優位性は何だと捉えていますか。
海外のブランドを日本へ導入し、成長を支援できることです。
特に、まだ規模が小さく、日本では十分に知られていないブランドの可能性を見いだし、適切なチャネルやマーケティングを組み合わせながら育てていく。そこにブルーベルの根本的な強みがあります。
フレグランスで築いてきた存在感は、今後も非常に重要です。一方で、メイクアップ、スキンケア、ファッション、アクセサリー、フード&ビバレッジなどにも可能性があります。
フレグランスを大切にしながら、ポートフォリオ全体の戦略を明確にし、各カテゴリーをバランスよく成長させたいと考えています。
ポートフォリオ戦略では、どのようなことを重視していますか。
ブランドごとに、最も適したお客様との接点を見極めることです。
ブルーベルは幅広いチャネルを持っていますが、単純にすべてのブランドを同じように展開すればよいわけではありません。
どのようなお客様へ、どのブランドを、どの品ぞろえで、どのチャネルから届けるのか。ブランドとチャネルの組み合わせを、これまで以上に細かく設計していく必要があります。
「ブルーベル2.0」のトランスフォーメーションを進める上で、最大の課題は何でしょうか。
変革のスピードを落とさず、同時に社員の仕事をよりシンプルにしていくことです。
新しいプロジェクトを始めようとしても、既存の仕事で手いっぱいであれば、取り組む余地は生まれません。
これまでの方法が間違っていたということではありません。しかし、新しい成長を実現するためには、既存業務の一部を見直し、より効率的な方法へ変える必要があります。
日々の仕事を簡素化しながら、新しい取り組みに使える時間とエネルギーを生み出す。その両方を同時に進めることが、大きなチャレンジです。
現在、どのような新しい事業機会が生まれていますか。
既存のポートフォリオの中にも、まだ十分に可能性を引き出せていないブランドが数多くあります。
同時に、海外ブランドが日本進出を検討する際、ブルーベルを有力なパートナーとして思い浮かべてくださるケースも多く、日々さまざまなご相談をいただいています。
その中から、日本市場との相性や成長可能性、既存ポートフォリオとのバランスを見ながらブランドを選定し、どのように日本で事業を立ち上げていくかを考えます。
既存ブランドの成長と、新しいブランドの導入。その両方で、常に新しいプロジェクトが動いている状況です。
成田さんの入社によって、社員の皆さんにも変化への期待が生まれているのではないでしょうか。
そうだったら嬉しいですね。新しい風や、会社が変わっていく感覚を持っていただけるといいなと思っています。
これまで50年間にわたり築かれてきた知識や経験、ブランドとの信頼関係は、ブルーベルの大切な財産です。そういった点をリスペクトしながら、新しい考え方や仕組みを取り入れる。社員の皆さんと一緒に、次のブルーベルをつくっていきたいと考えています。

「意思のある組織」へ——成長を生み出す、ロジックとパッション
成田さんご自身は、どのようなリーダーシップスタイルだと捉えていますか。
アメーバのようなリーダーシップかもしれません。
自分の中に一つの決まった型があるというより、その時々の組織が必要としている形に、自分を適応させようとする傾向があります。
今のブルーベル・ジャパンでは、「私たちはこちらへ進む」と、自信を持って方向を示すリーダーが求められていると感じています。
未来が100%成功するかどうかは、誰にも分かりません。しかし、少なくとも目指す方向を明確にし、全員が同じ方向を向くことはできます。
今は、その方向性を示し、皆さんが安心して前へ進める状態をつくることが、私の役割だと考えています。
社員の皆さんに、具体的にどのような変化を期待していますか。
まず、成長意欲を持ってほしいと伝えています。私は「growth spirit」と呼んでいます。
周囲の企業が新しいことに挑戦し、お客様のニーズも変化している中で、自分たちだけが同じ場所にとどまっていれば、相対的には後退していきます。
現状維持は、停滞、あるいは敗北につながると考えています。だからこそ、一人ひとりに「もっと成長したい」「今より良くしたい」という意識を持ってほしいと思っています。
成長意欲に加え、ROIの意識も重視されているそうですね。
ええ。自分が行っている投資や施策が、お客様にどのような価値をもたらし、会社のビジネスにどのような影響を与えるのか。それを自分の言葉で説明できるところまで考えてほしいと、繰り返し伝えています。
例えば、メディアへの投資、限定ショップの出店、イベントの開催など、アイデア自体は魅力的でも、それだけでは十分ではありません。
その施策によって、どれだけ多くのお客様に喜んでいただけるのか。どのような購買行動につながり、どれだけブランドや会社の成長へ貢献するのか。そこまで考え抜く必要があります。
単純な費用対効果だけではなく、「自分が担当するブランドやチャネルを通じて、どうすればお客様へより大きな価値を提供できるのか」を考える習慣を身につけてほしいと思っています。
抽象的な「成長」を、日々の仕事にはどのように落とし込んでいるのでしょうか。
まず、自分が担当するブランドやチャネルについて、3年後のビジョンを語れるようになることに取り組んでいます。
例えば、現在の売上を100としたときに、3年後にいくらにしたいのか。「いくらになっていると思うか」ではなく、「自分はいくらにしたいのか」を明確にします。
チャネルについても同様です。現在、百貨店で100の売上があるのであれば、3年後に百貨店というチャネルがどのように変化し、その中で自分たちは誰をターゲットに、どれだけの売上をつくりたいのかを考えます。
過去の実績や、目の前の3か月のプロジェクトだけを見るのではなく、視線を3年先へ向ける。その癖をつけてほしいと考えています。
必ずしも、すべてのブランドを大きくする必要はないのでしょうか。
まさに。3年後に規模を縮小する、あるいは日本市場では大きな成長が見込めないという結論でも構いません。
重要なのは、自分が担当しているブランド、商品、チャネルが、この先どうなるのかについて、自分なりの見解を持つことです。
そして、その見解をロジックとデータに基づいて説明し、周囲を説得できる状態まで考えてほしいと思っています。
その上で、「このブランドには大きな可能性がある。3年後には3倍、5倍、10倍にしたい」という意思を持つ人が現れたら、会社としてそこへ戦略的にリソースを集中し、一緒に成長させていきたいと考えています。
戦略にはストーリーが必要です。
そのストーリーを支えるロジックやデータがあり、最後に本人のパッションが加わる。そこまで揃うと、私も「それなら一緒にやろう」と強く思えます。
ロジックだけで正しさを説明されても、人を巻き込み、大きなことを成し遂げるところまでは進みにくいと思います。
「私はこのブランドをこうしたい」「この可能性を信じている」という熱や意思を、もっと表に出してほしいですね。
社員の皆さんの中には、すでにそうした思いがあるはずです。それを明確な数字や言葉にし、周囲と議論できる環境を、今まさに整えているところです。
成田さんが描く、3年後のブルーベル・ジャパンの姿を教えてください。
ブランド側とリテーラー側の双方から、今以上に信頼される専門家集団になりたいと考えています。
日本でブランドを大きくしたいと考える海外企業から、「ブルーベルにお願いすれば間違いない」と思っていただける会社。
同時に、百貨店、ショッピングモール、不動産会社、ブティックなど、日本国内のリテーラーの皆様からも、「ブルーベルからは毎回面白い提案が出てくる」と期待される会社です。
例えば、売り場の一角に空きが出たときに、「まずブルーベルに相談してみよう。声をかけなければ、良い提案を逃してしまう」と思っていただける存在になりたいですね。
日本市場を理解し、海外ブランドと国内の売り場をつなぐ、唯一無二の存在を目指しているのですね。
そうです。
日本のお客様や市場、チャネルを誰よりも深く理解し、世界から新しいブランドを見つけ、日本へ導入し、継続的に成長させる。
その仕事を、どこよりもうまくできる会社を目指しています。
ブルーベルには、約50年にわたって積み重ねてきた経験と信頼があります。すでにできていることも多くありますが、さらに精度を高め、再現性のある形へ進化させたい。
社員一人ひとりが意思を持ち、ロジックとパッションをもって未来を語る。その力が集まれば、ブルーベルは次の50年に向けて、さらに強い会社になれると考えています。

苦しさと楽しさの先に、成長がある——次世代へ伝えたい「自分を鍛える環境」の選び方
若手ビジネスパーソンへメッセージをお願いします。
根性論のように聞こえるかもしれませんが、苦しさと楽しさが混在する場所に、あえて自分を置いてみてほしいと思います。
仕事をしていれば、うまくいかないことや、大変だと感じることは必ずあります。ただ、苦しいからといって、その環境がすべて悪いとは限りません。
「難しいけれど面白い」「大変だけれど、もっとやってみたい」と感じられるのであれば、そこには大きく成長できる可能性があります。
私自身も、そうした環境の中で考え、試行錯誤し、人に助けてもらいながら、想像していた以上に多くのスキルや視点を身につけてきました。振り返ると、いつの間にか鍛えられ、以前よりもずっと強くなっていたという感覚があります。
苦しさがあっても、すぐに環境を変えるのではなく、そこにある可能性を見極めることが大切なのですね。
そう思います。
もちろん、苦しいだけで、楽しさや成長の実感がまったくないのであれば、転職も含めて環境を変えることを考えた方がよいと思います。心身を壊してまで耐える必要はありません。
一方で、逆境に直面すると、それまで以上に考えますし、自分に足りないものとも向き合います。楽な環境では身につかなかった力が、そこで育つこともあります。
自分は何を得たいのか、何のために頑張るのかを考えながら、少し難しい場所へ踏み出すことが大切だと思います。
成田さんは、日本だけでなく、さまざまな国や地域でキャリアを築いてこられました。若手の方々にも、海外へ視野を広げてほしいとお考えですか。
グローバルな視点を持つことは大切ですが、単に海外で働けばよいということではないと思っています。まずは、自分が日々暮らしている日本の良さを知ってほしいですね。外から日本を見ることで、初めて気づく魅力がたくさんあります。
そして、日本人の良さをもっと海外へ広めてほしいと思っています。日本の市場や文化を深く理解した上で、その価値を自分の言葉で世界へ伝えられる人が増えてほしいです。
苦しさと楽しさの両方を味わいながら、人と関わり、世界へ視野を広げていく。その先に、自分でも想像していなかった成長が待っているのではないでしょうか。
ありがとうございました。

Photo by ikuko
Interviewer 関口真由美
Text&Edit by ISSコンサルティング 安齋陽子


