
※インタビュー実施時の御所属・役職名にて記載させて頂いております
ルイ・ヴィトン ジャパン株式会社
Head of Human Resources 松下 奨平 氏
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日本電気株式会社(NEC)
HRビジネスパートナー統括部長 森本 雅之 氏
AI時代、人の価値はどこにあるのか?
~人とAIはどう共に働き、成長するのか~
生成AIの急速な進化は、私たちの働き方だけでなく、人事の役割そのものを大きく変えようとしている。
採用、育成、タレントマネジメント、サクセッション、スキル分析──。
これまで人が担ってきた領域にAIが入り始めた今、人事にはどのような変革が起きているのか。そして、人にしかできない価値とは何なのか。
ISS Consulting創業30周年記念Talk Sessionに先立ち、開催された「Prelude Discussion」では、この問いをテーマに、日本を代表する企業で人事を牽引する二人のリーダーを迎え、それぞれの企業で進むAI活用の実践と、その先に見据える人事の未来について語り合った。

ルイ・ヴィトン ジャパン株式会社
Head of Human Resources
松下 奨平 氏
大学卒業後、新卒でLVMHグループの人事としてキャリアをスタート。セリーヌ、ロレアル、ケリンググループなど、国内外のラグジュアリーブランドにおいて一貫して人事領域に携わり、採用、人材開発、組織開発、タレントマネジメントなど幅広い経験を積む。約5年前にルイ・ヴィトン ジャパンへ復帰し、現在はHead of Human Resourcesとして日本における人事戦略全般を統括している。ルイ・ヴィトンが属するLVMHグループは、75を超えるメゾンを擁する世界最大級のラグジュアリーグループであり、それぞれのブランドが独自の文化と高い自律性を持ちながら事業を展開している。そのような環境の中で、人と組織の成長を支える人事として、ビジネスと人材をつなぐ役割を担っている。

日本電気株式会社(NEC)
HRビジネスパートナー統括部長
森本 雅之 氏
大学卒業後、日本電気株式会社に入社。携帯電話事業の人事を皮切りに、事業部人事として評価・報酬、組織開発、タレントマネジメントまで幅広い領域を担当。アジア・パシフィック地域HRBPとして海外事業の人材戦略を推進した後、帰任後はAI創薬やデータ利活用など新規事業を担うグローバルイノベーションビジネスユニットの人事部長として、先端領域に適した組織設計と人材ポートフォリオ構築を主導する。その後HRBP組織の変革をリードし、事業成長に直結する人材・組織戦略の実装を加速。ビジネスリーダーとともに意思決定を行う“伴走型BPモデル”を確立し、ジョブ型人材マネジメントの実質運用に取り組む。全社横断の人事改革において中心的役割を果たし、NECの第二フェーズを支える人事リーダーとして活躍。2023年より現職。

ファシリテーター
ISS Consulting
代表取締役社長
関口 真由美
外資系・日系グローバル企業を中心に、長年にわたり人材紹介業の運営に従事。これまでに2000社を超える企業成長とリーダーシップ強化を採用の側面から支援。ダイヤモンド社より『外資系トップの仕事力シリーズ』など、経営者の思想やビジネス論に関する書籍も上梓。近年は「CxO Dialogue Series」や人事リーダー向けセミナーの企画・運営を通じ、経営・人・社会をつなぐ対話の場づくりにも取り組んでいる。
2社の実践から見る、AI時代の人事の現在地
AIはもはや、未来の話ではない。
すでに企業の現場では、顧客接点、人材育成、採用、サクセッション、キャリア支援といった領域に入り込み、人事の役割そのものを変え始めている。
今回のPrelude Discussionでは、ルイ・ヴィトン ジャパンとNEC、それぞれ異なる業界の人事リーダーから、AI活用の具体的な実践が語られた。
CHAPTER 01|Louis Vuitton:AIが変える、”経験と勘”に頼らない採用
CHAPTER 02|Louis Vuitton:AI時代だからこそ、人事に求められる”人間の判断”
CHAPTER 03|NEC:”6万人”を支えるHRBP サポートAI
CHAPTER 04|NEC:AIが見つける、埋もれたタレント
INSIGHT 01|人の判断を支えるAI~データ活用と公平性の両立
INSIGHT 02|AIによって、人事は”管理する仕事”から”人を育てる仕事”へ変わっていく。

CHAPTER 01|
Louis Vuitton
AIが変える、”経験と勘”に頼らない採用
ルイ・ヴィトンでは、生成AIブーム以前からAIを採用プロセスに取り入れ、ハイパフォーマーの特徴を分析してきた。
レジュメや適性検査に加え、面接時の表情や視線、声のトーンや話すリズムといった多面的なデータをAIが解析。過去に高い成果を上げた社員との共通項を抽出することで、従来の経験や勘だけでは見抜けなかったポテンシャル人材の発掘につなげている。
その結果、これまで採用対象になりにくかったスポーツ選手など異業種出身者の採用にも成功し、実際に店舗でトップクラスの成果を上げるケースも生まれている。
一方で、松下氏は「AIはあくまで意思決定を支援する存在」と強調する。AIが導き出した結果をそのまま採用判断に用いるのではなく、ブランドとの親和性や人柄、価値観など、最後は人が見極めることが不可欠だという。
AIが評価の精度を高め、人事は”人を見極める”という本来の役割に、より深く向き合う。ルイ・ヴィトンの取り組みは、その象徴的な事例といえる。
CHAPTER 02|
Louis Vuitton
AI時代だからこそ、人事に求められる”人間の判断”
AIが急速に進化するなか、ルイ・ヴィトンでは「AIを使うこと」以上に、「AIをどう使うか」を重視している。
例えば採用広報や候補者へのメッセージ作成では、AIは短時間で完成度の高い文章を生成できる。しかし、そのままではルイ・ヴィトンならではのブランドの世界観やラグジュアリーならではの表現が失われてしまうことが少なくないという。
だからこそ、AIが作成したアウトプットをそのまま採用することはない。人間の経験に基づき精査し、アウトプットを疑い、人事が「ブランドらしさ」という視点で内容を見極め、必要に応じて磨き上げていく。その最終判断こそが、人にしか担えない価値だと松下氏は語る。
AIは分析や提案を高速化する。一方で、人事には、ブランドを理解し、人を理解し、最終的な意思決定を行う役割がこれまで以上に求められる。
AI時代の人事とは、AIに定型業務を任せるのではなく、人間がAIのアウトプットを解釈し、人にしかできない判断をすることが求められる。そして、戦略的な人事課題やクリエイティブな業務、付加価値の高い人材育成や組織開発へ、より多くの時間を使う仕事へと進化していくのである。

CHAPTER 03|
NEC
“6万人”を支えるHRBP サポートAI
NECでは、人事に蓄積された膨大なデータをAIが横断的に分析し、会社と社員一人ひとりに最適な配置や育成を実現する「HRBP サポートAI」の構想を進めている。
評価履歴やスキル、キャリア志向、異動履歴など、長年蓄積してきた人事データをAIが分析することで、従来は人事担当者が把握しきれなかったグループ約6万人の社員一人ひとりに対し、より精度の高い支援が可能になりつつある。
現在は、適所適材を実現する配置案や育成計画のレコメンドやAIによるキャリア相談などを運用している。将来的には、入社から退職まで、一人ひとりに専属のHRBP サポートAIが伴走する世界を目指しているという。
一方で、森本氏は「AIが答えを出すのではなく、本人や職場上司、そして人事がより良い意思決定を行うためのパートナーである」と語る。AIによって人事の視野は飛躍的に広がる。しかし、その情報をどう解釈し、どのようなキャリアを描くかをともに考えることこそ、人事にしかできない価値なのである。
CHAPTER 04|
NEC
AIが見つける、”埋もれたタレント”
「この人は、なぜ候補に入っていなかったのだろう。」
NECでは、サクセッションプランニングにもAIを活用している。
事業戦略から逆算し、将来必要となるスキルや経験を定義。その条件をもとにAIが社内人材を分析することで、これまで人事や現場では気づけなかった人材を候補として抽出できるようになった。
実際には、事業部が推薦する候補者だけではなく、他部門や異なるキャリアを歩んできた社員がAIによってリストアップされるケースも少なくないという。従来の人脈や認知の範囲を超えて、新たな可能性を持つ人材と出会えることが、大きな価値となっている。
森本氏は、「AIが選ぶ」のではなく、「AIが新たな選択肢を示してくれる」と表現する。AIによって候補者の幅は広がる。しかし、最終的に誰に未来を託すかを決めるのは人である。
AIは、人の判断を置き換える存在ではない。人では見つけられなかった可能性を可視化し、人の意思決定をより豊かにする存在へと進化している。

INSIGHT 01|
人の判断を支えるAI
データ活用と公平性の両立
AIは”判断”を代替するのではなく、
人の判断を支える存在である。
AIは膨大なデータを分析し、人では気づけなかった可能性を示してくれる。
しかし、両社が共通して語ったのは、「AIが答えを出す」のではなく、「AIを活用して人が判断する」という考え方だった。
NECでは、人材データを分析する際、社員の同意を前提としたガバナンスを徹底するとともに、「特定の個人の評価や配置案」など倫理的に問題となる質問には回答しない仕組みを構築している。
一方、ルイ・ヴィトンでは採用プロセスにAIを導入し、適性検査やコンピテンシー分析を活用することで、面接官の主観やバイアスを補完。従来は経歴だけでは評価されにくかったアスリートなど、多様な人材の可能性を見出す採用へとつながっている。
両社に共通するのは、「AIは判断を支援する存在」であり、最終的な意思決定は人が担うという考え方である。
INSIGHT 02|
AIによって、
人事は”管理する仕事”から
“人を育てる仕事”へ変わっていく。
AIが定型業務やデータ分析を担うようになることで、人事はこれまで以上に、人と向き合う時間を確保できるようになっている。
だからこそ今、人事に求められているのは、制度やオペレーションを運用することではない。人材育成や組織開発、心理的安全性の醸成、そしてマネジャーの育成など、人にしかできない役割へと、その価値が大きくシフトし始めている。
ルイ・ヴィトンでは、マネジャーを”People Developer(人を育てるリーダー)”へ進化させることを掲げ、AIコーチングとしてマネジャーやスタッフに伴走し、能力開発を促進することに動き出している。一方、NECでは、AIによって分析業務を効率化し、その時間を組織変革や人材育成、創造性を引き出す対話へと振り向けている。
両社に共通していたのは、AIは人を置き換える存在ではなく、人がより人らしい仕事に集中するためのパートナーであるという考え方だった。
AIが高度化する時代だからこそ、人事に求められるのは、「AIを使いこなす力」だけではない。
人の可能性を信じ、育て、挑戦を後押しすること。
そして、AIによって生まれた時間を、人と向き合い、人の成長を支えることへ投資すること。
AI時代だからこそ、人事の本質は変わらない。
人を理解し、人を育て、人の可能性を最大限に引き出すこと――その役割は、これからさらに重要になっていく。

9月10日、本対談はさらに深まる。
今回の「Prelude Discussion」では、AI活用の具体的な実践事例を通じて、AI時代における人事の役割や、人にしか生み出せない価値について、多くの示唆が共有されました。
しかし、この議論はまだ始まりに過ぎません。
2026年9月10日に開催するISS Consulting創業30周年記念Talk Sessionでは、本対談を起点として、AIと人が共に働く時代における組織のあり方、人材育成、そして人事が果たすべき役割について、さらに議論を深めてまいります。
AIが進化する時代だからこそ、人の価値とは何か。
その問いについて、ご参加いただく皆様とともに考え、未来への示唆を見出す機会となれば幸いです。

Photo by Ikuko
Text&Edit by ISSコンサルティング 安齋陽子


