ISSコンサルティング主催キャリアセミナー
『グローバルで活躍するビジネスリーダーとは』セミナーレポート
講演&パネリスト |
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グローバルで活躍できるビジネスリーダーに求められる『リーダーシップ』とは何か。現在グローバル企業で活躍されている3名のリーダーから、これまでの経験から学んだグローバルで活躍するためのキャリア観・仕事観、そしてリーダーに求められる力とは何か、を講演いただきました。
「リーダーシップを構成する3要素」
私は大学院で人材マネジメント、組織行動学などの理論を学びました、そして今の自分の専門領域はリーダーシップ開発及び人材採用だと考えています。アメリカで高等教育を受け、中国で人事業務に携わり、GEで仕事をした後、Googleの日本での急拡大の時期を経て、アジア・パシフィック地域で人材育成に携わって10年余り経験を積んできました。私の軸となる考え方は学んできた理論と実践を結びつけること、あくまでやりたいことをやるという点、また組織をよく観察して実行に移すという3点です。
海外で教育を受けたり、仕事をしたりしていましたが、当初はそもそも「グローバルとは何か」がよくわかっておらず、日本と世界という関係性で見ていましたが、Googleに入って初めてGlobe(地球儀)がぐるぐる回っているイメージを抱き、世界(グローバル)の中の日本という意識に立つことができるようになりました。また、グローバルな仕事をする前提として暗黙のルール(基準)があることに気が付きました。それは英語力、リーダーシップ、専門性を持つことです。実は100年以上の歴史あるGEと西海岸の新興企業Googleとはある意味正反対の企業ですが、こういった求められる資質は共通だったのです。グローバルな企業で働くためには日本は特殊である、という考えから離れて世界を俯瞰して観ること、ポジティブに物事を捉える志向性、とにかく話すこと、しかも論理的に思考し話すことなどが大切です。さらに頭の使い方、思考方法としては原因と結果を考えること、プロコン(pros and cons=賛否、損得、プラス面マイナス面など)を意識すること、「こうなったら、こうなる」といつも将来のシナリオを予測すること、さらに上のレベルではそれらをパラレルに思考することが求められると考えています。
さて、そのグローバルで働くにあたり求められる資質の一つである「リーダーシップ」が本日のテーマですが、私の考えるリーダーシップの条件の1つ目は①自己認識力です。自己認識力とは自分を知ることです。これは自分とは誰か、自分の強みはどこか、弱点はどこか、自分のやりたいことは何か、そして自分の価値観などをしっかり把握していることです。優れたリーダーは皆、自分のことをしっかり理解している。だからこそ補完的に自分にない部分を持った人を集めてチームを作れます。自分がわかっていないとエゴや自己過信などが成長を妨げます。これらは実務の中で身に付けなければならないことです。
次に②ビジョン構築力が重要です。ビジョンは小さくても構いません。たとえば1年後、2年後の自分を意識してみます。どんなビジョンを自分の将来にもったとしても、やりたいことを100%達成するのは困難でしょう。しかし明確なビジョンに向かって困難があっても諦めずに続けることが大変重要だと考えます。
そして3つ目は周囲を③巻き込む力であると考えています。周りを巻き込むにはコミュニケーション能力が求められます。聞く力、質問する力、そして自己主張する力の3つが求められます。人を巻き込むタイプになってゆくことでリーダーシップが養われます。
こうした3つの点をそれぞれレベルアップすることが重要です。私はGE時代に”ストレッチ“という表現を学びました。ストレッチ(引き延ばす)には2つの要素があります。まず、既にできていることを次のレベルを上げて実践すること、そしてやったことのないことにチャレンジすることです。ストレッチは楽しくもあり苦しくもある、ちょうどスポーツと同じです。しかしこれを何度も繰り返すことで自分をより良いリーダーシップの持てる人間に高めて行くことができると思います。
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安田 真一 氏
タイコ エレクトロニクス ジャパン合同会社
電力製品本部本部長
私はまず明電舎でスイッチギア(変電所用)の設計を5年経験した後、ロボット製作の企業ABBで自動車の塗装機の開発に携わり、ここではアジア全体の自動車塗装ビジネスを管理する立場で8年間仕事をしました。次にGEへ移って東芝との合弁事業ではガスタービンの100人規模の補修工場の責任者を経験しました。この2回の転職は企業環境の変化などが原因でしたが、現在の会社には、はじめて自分のキャリアを考え転職しました。というのはGEでは自分のキャリアは自分で作るということが強く奨励される企業風土だったからです。そんな中で、それまではR&Dやマニファクチュアリング、エンジニアリングの畑をずっと歩んできたので次はコマーシャルやビジネス・デヴェロップメントなどを経験したい、またどこまでそういった分野で自分が通用するかをチャレンジしてみたいと強く感じました。ただ、その時点ではGE社内には適切なポストがないことがなく外部にそれを求めて現在の会社に転職したのです。
これまでグローバルなビジネスというのは意識したことがなかったのですが、過去に海外向けの製品を日本で生産するという立場では世界と関わっていたのかもしれないな、ということをちょっと、感じた出来事が最近ありました。現在の会社ではアジアのビジネスの中心が上海で、そこで研修を受けに2週間前に出張したところ、たまたま一緒に研修を受けていたシンガポールの同僚から、雑談の中で私が過去に関係のあった日系企業に売り込みをかけているが、コネクションがなく難儀している、という話が出ました。そこで急遽、かつての人脈に声をかけて事情を伝え、私も直接シンガポールに行き、その企業との接触の機会を作りました。私の過去の経験が新たな商談につながる機会を生んだわけです。これも過去の海外向けの製品の生産に携わっていた経験が役立ったのかなと思わせる事例でした。また、この際には、ほとんど初対面のシンガポールのチームと、接触するチームのメンバー、プロポーザル詳細からアプローチの方法までが非常に素早く検討、実行されました。この経験から再確認したのは、チームでプロジェクトを実施する際には、全員がリーダーシップを持って同じ目標に向かって進むことができれば対等な関係性の中で仕事を進め得る可能性がある、という点でした。つまりリーダーシップは上下関係でなくても、物事を前に進めようとするパッションとオーナーシップがある人物がいれば、ポジションに関係なくリーダーになりえますし、全員がそうなら、全員がリーダーになることも可能なのではないか、と私は感じています。
さて私の考えるリーダーシップの構築要素の一つとして、まず①先を見通すための努力をするという点を上げたいと思います。次に何が起こるのか常に考え、仮説を立て、それを検証してアクションに繋げていく。その努力を怠らないことがリーダーシップに必要だと考えています。たとえば株価、円のレート、経済指標などの社会環境といったマクロな指標を正確に予測することは大変に難しいと思います。ただ、会社の置かれている状況、会社内の力学、競合との関係、そして既存の製品性能や市場の変化などなど、それらがプロジェクトに及ぼす影響といった、自分の活躍するフィールドでのミクロな読みはリーダーとしては極めて重要です。たとえば売上げが伸びないときに、仮説として、「製品が悪い」「価格が高い」「顧客接点が少ない」と挙げてみる。そして、それらの仮説を検証するために、数字を見ながら、関係者に直に聞いてみる。問題の所在を明らかにして、解決策を講じる。アクションの中で先を見通す感覚というのは養われるのではないか?と自分自身も期待しています。もちろん先を見通すのは非常に難しいことだと思いますが、見通そうと努力することは心がければできると思います。
2番目に②仕事がしやすい環境つくりの重要性を強調したいと思います。ここでも私はリーダーシップとは上下関係ではなく対等な関係の中で発揮されるべきだと思うのです。誰にとっても上司はクライアントでしょうが、私は部下もクライアントだと考えています。一緒に仕事をする人々、部下たちが働きやすい環境に気を配ること、時にはパーソナルな面までも含めて心地よい職場環境を整備することは必須であると考えています。
最後に、3番目に③フェアな判断を下すことが重要です。上司の意向でも、時にはそれに流されずにあくまでフェアな判断に徹すること、これがリーダーシップには必要だと考えています。
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音部 大輔 氏
ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社
副社長兼リフレッシュメント担当マーケティング本部長
リーダーシップというと、自分の上司や組織の上層部のことだと考えがちですが、私はリーダーシップとは全ての人が持つべき資質だと考えています。身近な例でいえば、飲み過ぎた翌日に自分にとってきついオプションを自ら選択できる、つまりちゃんと早く起きて会社に行く、ということもリーダーシップです。そもそも、自分自身をリードできなければ人をリードすることなどできるものではありません。
リーダーシップを構成する条件としてまず必要なのは①すべて自分のせいにすることです。「部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任」は、そもそもカッコ悪くて論外でしょう。失敗の言い訳はいくらでも作れます。上司、部下、他部署、取引先、競合他社や社会環境のせいで失敗したのだという説明をするのは難しくありません。でも言い訳は次の成功を担保してくれるものではありません。失敗を自分のせいにすることで、失敗を自分の管理下に置けます。失敗が管理できれば、成功も管理できます。失敗を管理できないとなると、成功も管理できません。
2番目に②ビジョンを示す、という点を上げたいと思います。“自分はこうなりたい”という意図を明確にすることです。歴史上のリーダーとして坂本竜馬が取り上げられたりします。誰も彼に日本の洗濯を頼んでいませんが、彼はやってしまいました。図々しさに通じるところもあるかもしれません。でもそれでいいようです。ビジョンとは自分がどうしたいか、です。では、どういうビジョンが望ましいか。聞いて、読んですぐにわかる。簡潔で説明を必要とせず、同意したくなる。それはいいビジョンです。ビジョンが組織になかなか受け入れられないと感じることもあるかもしれません。それは組織が弱いからだ、と思われることもあるでしょう。でもそれは、ビジョンが弱いから、あるいは難しすぎるから、組織に浸透しないのかもしれません。それぞれの組織に馴染みやすいビジョンの構築が必要です。
そして3番目に③組織を育てることです。これは組織自体を育てる部分と、人を育てる部分とに分かれます。組織を育てるにはハードウェアとしての組織構造の構築と、ソフトウェアとしての組織内の文化や価値基準の確立、の2つがあります。毅然とした成果主義にするのか、年功組織の調和を尊重するのか、といった判断などは組織文化の醸成につながります。人を育てるというのは個人を育てる側面と集団としての次世代を育成する面とがあります。次世代育成には一貫した客観的な評価基準を確立し、それを指標にすることが重要です。
失敗を自分のせいにし、ビジョンを持ち、組織を育てる意識に立つことで求められるリーダーシップを得られると私は考えています。