経営者として、「ポートフォリオの選択と集中」でビジネスを伸ばしてきた
シック・ジャパンに入社するまでのご経歴を教えてください。

高校までバレーボール部でセッターをしていて、他のメンバーを活かしながらゲームをプランニングし、勝利を目指す役目を担っていました。振り返ると、このときから経営のようなことに興味があったのだと思います。大学時代は、何度もバックパッカーとして海外を一人旅しました。たとえば、1カ月くらいかけてオーストラリア中を巡ったのをよく覚えています。日本とは異なる文化や英語に興味を持ったのはこのときです。思えば、その後ずっと外資系企業で働くことになったきっかけも、大学時代にあります。
大学卒業後、ジョンソン・エンド・ジョンソンに入社しました。最初の約5年は営業の経験を積みました。そこでの現場経験はその後のいろいろなところで活きています。経営者の今も現場の営業からお客さま情報をヒアリングする必要があり、そのときに営業の気持ちや目線がよく分かるのは私の強みのひとつです。最初に営業を経験しておいてよかったと思います。
でも、当時の私はどうしてもマーケティングをグローバルな環境でやりたかった。そこで、営業で売上全国1位になるなどの結果をしっかり出した上で、米国サンダーバード国際経営大学院を受験して合格し、2年間休職して自費で留学しました。サンダーバードでは、毎週数冊の英語の本を読みながら、3週間に一度のテストをクリアし続ける、というハードな生活を2年間続けました。この経験のお陰で、今は何があっても乗り越えられる気がします。このとき、マーケティングだけでなく経営にも興味を抱き、経営者という新たな目標を持つようになりました。
帰国後、ジョンソン・エンド・ジョンソンでまずは予定通りプロダクトマネージャーとして、スキンケアブランドのマーケティングを経験しました。そこでビューティーには人を変える力がある事に興味を抱き、化粧品No.1メーカーで自分を磨きたい、と思うようになり日本ロレアルに移りました。
フランス企業のロレアルは、ディスカッションや変化に柔軟かつ迅速に対応していくことをより大切にします。その社風の違いに最初は戸惑いました。昨日はAと決まったのに、今日はBになる、ということが頻繁に起こったからです。しかし、そうやって話し合いを重ねながら変化し続け、本当に良いものを作っていくこだわりを学びました。このリーダーシップの在り方が、今も私のベースとなっています。
ロレアルでは、一般消費者向け化粧品のグループプロダクトマネージャー、マーケティングマネージャーを経験して結果を出した頃、留学時に興味を持った経営者への道を目指したいと思うようになり希望を出していました。ある時上司から、皮膚科医が推奨する一般消費者向け化粧品部門の事業部長に挑戦するチャンスをもらう事が出来ました。その後、ロレアル台湾での一般消費者向け化粧品部門の事業部長、帰国後は美容室向け製品部門の事業部長を務めて事業拡大に貢献しました。
ロレアルで11年間のキャリアを重ねた頃、より大きな規模で経営経験を積みたいと思うようになり、ヘンケルに移りました。そこではビューティーケアビジネスの日本兼韓国の代表を5年間務めて、ビジネスをターンアラウンドして急成長させることが出来ました。
その後、一つの会社を経営してみたいと思い、シック・ジャパンの代表取締役社長となって今に至ります。
事業部長や代表として、どのようなことを成し遂げてきましたか?
面白いことに、私が事業部長や代表に就任したすべてのビジネスは苦戦していた状況で、ターンアラウンドや変革をしていくケースでした。そこで私が一貫して行ったのは主に二つです。
一つ目は、「ポートフォリオの選択と集中」です。最も可能性の高いブランドや製品を絞り込み、全員がそのブランド・製品を伸ばすことに集中する方針で、何をやって、何をやらないかをはっきりさせました。このようにして苦境の中からビジネスを伸ばすことに成功しました。
二つ目は、「企業風土改革」です。苦戦している中でも戦略通りに動いた結果、小さくても成果が出た事は承認してチームでお祝いします。成功体験をして初めて、どんな行動を取ったから成功したかを皆で言葉にしていきます。そこで出た共通言語を目指す企業文化に紐づけていくのです。このように、ビジネスで一番重要な「人」が最良のパフォーマンスを発揮できる環境(企業文化)を作り出しビジネスを継続的に成長させる事が出来ました。
これからのシックは「最も革新的なビューティーグルーミングカンパニー」を目指す
シック・ジャパンについて教えてください。

シック・ジャパンは、全世界50カ国以上でビジネスを展開しているエッジウェルパーソナルケアグループの一員です。シックは2021年にブランド創業100周年を迎えました。日本市場でも60年ほど前からビジネスを行っており、国内に強固なリレーションを築いてきました。当グループにとって、日本はアメリカに次ぐ世界第2位の市場で、日本のビジネスはグローバル全体の鍵を握る重要な存在となっています。シック・ジャパンは日本国内での高い認知度(シェアNo.1)とエッジウェルグループ内での高いビジビリティ(売上No.2)を兼ね備えたユニークな外資系企業ではないかと思います。
国内ウェットシェービングの金額シェアの調査によると、シックは27年連続でシェアNo.1を維持しています。2022年度※は、国内ウェットシェービング分野の販売金額シェアで、シックは2位の企業の27.8%を大きく引き離す50.8%という圧倒的No.1シェアを達成しました。また、私たちは男性用カミソリに加え、シェービング剤でも国内シェアNo.1を維持し続けています。近年ではその技術とノウハウ、マーケティング力によって女性用カミソリの分野でも国内マーケットを切り開き、他社の追随を許さない圧倒的シェアを誇っています。
(※インテージSRI+調べ、全国全チャネル、2022年度(2021年10月-2022年9月)、ウェットシェービングカテゴリー=男性用替刃式カミソリ+女性用替刃式カミソリ+使い捨て(除く軽便)+シェービング剤の販売金額において)
シックのパーパス・ビジョン・ビジネス戦略を教えてください。

エッジウェルパーソナルケアグループは、グローバルで「Make Useful Things Joyful(役立つことをもっと楽しく)」というパーパスを掲げています。ポイントは「Joyful」にあります。単に役立つ製品を作るだけでなく、エッジウェル製品を通して、お客さまに美しくなっていただき、楽しくワクワクする人生を送っていただくことが大事だ、というメッセージが込められています。日本法人の私たちも、シックの提案するグルーミングを通して、お客様がより美しくなり新しい自分を発見したり、理想の自分に近づく事でワクワク感と幸せを感じられる毎日をお届けすることを存在意義としています。
それから、私たちが今最も重視しているのが、「最も革新的なビューティーグルーミングカンパニー」というビジョンです。今後のシックは、既存のウェットシェービングだけでなく、スキンケアを含めたトータルグルーミングを提供するブランドを目指します。
「革新的」もキーワードです。シックはもともと、創業者ヤコブ・シックが充填式レザーを発明したことに端を発しています。発明家が作り出した企業なのですね。私たちはそのDNAを受け継ぎ、イノベーションにこだわっていきます。
具体的なビジネス戦略としては、短中期的にはシックブランドに集中して行きます。第一に、コアビジネスであるシェービング製品の成長を最大化します。まだ市場としては小さいですが、男性のボディ用シェービングカテゴリーなどは大きな成長の余地があります。こうした領域でも積極的にイノベーションを起こし、ビジネス拡大を狙います。第二に、コアビジネスを超えた拡大として、シェービング周辺のスキンケアの新製品を増やし、伸ばしていきます。その上で第三に、中長期的にはシックブランドが現在カバーしていない新規グルーミングカテゴリーや新規チャネルにも挑戦する事でポートフォリオをバランスよく強化して成長していくつもりです。
ビジネス上のシックの強みを教えてください。
エッジウェルパーソナルケアグループにとって、日本がアメリカに次ぐ世界第2位の市場であることが、シック・ジャパンの大きなメリットになっています。グループ内でのビジビリティが非常に高いですね。私の直属上司はエッジウェルパーソナルケアグループのロッド・R・リトルCEOで、二人で毎週話す機会があります。直接二人でビジネス方針の意思決定が出来るスピードは強みだと感じています。こういうグローバル企業は珍しいのではないでしょうか。例えば、シック・ジャパンは今、ビューティーグルーミングカンパニーに変革する為に日本本社のオフィスで大規模リノベーションを進めています。こうした改革も以前の会社では意思決定まで半年はかかっていましたが、現在は直接グローバルCEOと話しが出来るので、会議中の3分で決まりました。
新製品開発も、むしろ日本がグローバルをリードしています。なぜなら、売上が高いことも理由ですが、欧米人と日本人・アジア人は肌質が全くといってよいほど違うからです。シェービングもスキンケアも、日本やアジアの特質に合わせた製品開発が欠かせないのですね。日本向け・アジア向けの新製品を作る上で、私たち、シック・ジャパンの意見が極めて大切なのです。私はこの特徴を活かして、行く行くは日本法人をアジアビジネスのイノベーションハブにしたい、と構想しています。日本だけでなく、アジア全域にビューティーカテゴリーの大きなチャンスがあるからです。
シックに入社すれば、きっとエキサイティングな日々を送ることができる
シック・ジャパンの社風や魅力を教えてください。

私たちは今、次の4つのバリューを掲げています。「People first」「Move forward」「Listen up speak up」「Own it together」の4つです。今後、私たちはこれらのバリューを何よりも大事にします。
「People first」の根底には、「成功は人によるものである」という考え方があります。日頃から社員の行動を承認し、戦略に基づいた結果が出た際には全員でセレブレーションをする事で、人がパフォーマンスを発揮しやすい環境を作っていこうとしています。
「Move forward」とは、起業家精神を持つ、ということです。私たちは新しい事に挑戦する際に、シェービングシェアNo.1という過去からの成功(コンフォートゾーン)を出ていく必要があります。これまでの固定概念や枠を壊して、失敗を恐れずにイノベーションを起こしていく社風を強化していきたいと思います。
「Listen up speak up」とは、何事も皆がオープンに話し合って耳を傾ける文化を指します。シックには、既にListen up speak upの文化が根付いています。そのため、良い情報も悪い情報も、私のもとにいち早く届くのですね。特にネガティブ情報を隠さないので、大きな問題になる前に手を打つことができる。これはシックの素晴らしい点だと感じています。
「Own it together」も、シックの素敵な社風のひとつです。ワンチームになる、ということです。私は2022年8月に代表取締役社長に就任して、はじめに全社員と1on1で対話しました。その場で、多くの社員が「最も革新的なビューティーグルーミングカンパニー」を目指す、という今後のビジネス方針に強く共感してくれました。既にビューティーを意識して見た目から変わってきている社員もおり、私は全社一丸となってビューティーグルーミングカンパニーへと変わっていける、という感触を早くも得ています。今後はさらに社内コラボレーションを増やし、チーム一丸となって成長していきます。
これら4つのバリューを実践で体現していくことで、自然と強いリーダーシップを開発出来る魅力がシック・ジャパンにはあると思います。
どんな人を求めていますか?
第一に、パーパス「Make Useful Things Joyful」やビジョン「最も革新的なビューティーグルーミングカンパニー」に共感し、情熱を持って取り組んでいただける方です。第二に、会社のバリューやカルチャーにフィットする方です。シック・ジャパンが現在、変革のステージにいる事を考慮すると、特に「Move forward」することができる方、起業家精神を持ち自ら変化して周りを巻き込みながら変革に向かっていける方ですね。先の読めない時代なので、全てを決めてから動くのではなく、状況に応じて変化しながら学んで前に進んでいける方です。第三に、ビューティーを強化していく方向性なので、グルーミングやビューティーに関する経験と専門性を持っている方には是非来てもらいたいですね。
そして最後に、私が進める変革のスピードについてきていただける方ですね。今の時代、市場やトレンドの変化は速いです。それにあわせて、私はとにかくスピーディーに物事を進めていきますが、信じてついてきてください。エキサイティングな日々を送り、ともに成長出来ればと思います。
Photo by ikuko
Text by 米川青馬
Edit by ISSコンサルティング