GSKの存在意義が私の想いと合致していた
グラクソ・スミスクライン(GSK)に入社するまでのご経歴を教えてください。
大学は玉川大学に進みました。トータルな人間性をはぐくむ「全人教育」を行っている大学で、勉強はもちろんのこと、学びの一環として、ボランティアや農業、学園内の掃除なども継続的に行うところでした。卒業後は、3年ほど玉川大学の教務部に務めました。教務として、教授の皆さんのフォローや学生対応を担当しました。私はこの7年で、まさに人として必要なことを学ぶことができました。
ただ一方で、専門性を磨きたいという気持ちが次第に強くなりました。具体的には、私は以前から、料理の先生をしていた母についてホテルに出入りすることが多く、そのうち女性が活躍するホテル業界でエキスパートを目指したいと思うようになっていました。そこで一念発起して、米・ヒューストン大学大学院のホスピタリティ・マネジメントコースに進学。日本好きの教授をはじめ、世界各国からの多くの友人との出会いに恵まれ、グローバルな環境で、ホスピタリテイ・マネジメントを学ぶことができました。
卒業後は、帰国して、当時セゾングループの傘下にあったインターコンチネンタルホテルズも含むすべてのセゾングループのホテルを統括する会社に入社。人材開発チームの一員として、インターコンチネンタルホテルをはじめとする新規ホテルの開業、全国のグループホテルの経営を人事面から支援しました。人事という仕事に出会ったのはこのときです。
また、インターコンチネンタルホテルよりマスタートレーナの認定も取得。そのノウハウをコンサルタントして、他企業の人材開発・育成にも携わりました。さらに、週1日は短大の講師として、ホスピタリティとインターナショナル・プロトコール(国際的な基本儀礼、マナー)を教えました。ここで多くの学生の相談に乗り、キャリアカウンセリングを行ったのも良い経験になりましたね。「一人ひとり違っていいんだから、自信を持ってチャレンジしてみよう」という私なりのキャリア観が定着したのは、この頃です。
セゾン・西武グループでは8年ほど働きました。あるとき、キャリアを改めて見直す機会があり、さらに人事スキルを高めるには、制度開発や組織デザインなどを経験したり、もっとビジネス全体を見るポジションに就いたりする必要があると気づき、1998年にモトローラに移りました。当時のモトローラはあらゆる面で革新的で、人事制度も先進的でしたし、人材育成の面でもとても優れていました。私はそれを学ぶべく、HRビジネスパートナーとして入社しました。たった1年半ほどでしたが、とても勉強になりました。
ただそのとき、セゾン時代にお世話になった専務からお誘いをいただきました。海外で人気のシネマコンプレックスを日本に広めたい、ついてはその企業の社長が人事のトップを探しており人事部の立上げからやってもらえないか、という内容でした。多くの方にとってそうだと思いますが、組織の立上げができるというのは魅力的です。私は1999年、ユナイテッド・シネマ・インターナショナル・ジャパンに飛び込みました。人事部は私1人、社員は約200名です。5年後、私が離れるときには、ユナイテッド・シネマ・インターナショナル・ジャパンとユナイテッド・シネマ(ユナイテッド・シネマ・ジャパン、角川書店、住友商事とのJV)も含めた2つの企業に勤務する社員は1200名ほどとなっていました。私は、その人事組織を作るプロセスをすべて担いました。特に重視したのは、社長・経営陣・人事チームの意思統一です。ユナイテッド・シネマの価値は何か。人事の役割は何か。そうしたことをこまめに話し合い、みなで一丸となって同じ方向を目指しました。それが功を奏したのか、ユナイテッド・シネマは順調に成長し、組織構築も比較的スムーズに進みました。私はそれを見届けて、IT業界に戻ろうと、ウインドリバーに転職しました。
ウインドリバーは、組込みシステムにおける世界的リーディングカンパニーです。ここでは、日本だけでなく中国・韓国・台湾・シンガポール・インドを含むアジア6カ国の人事・総務マネジメントをし、各国の採用や組織づくりをリードしました。最初は各国の組織に入っていくのが大変でしたが、幸運なことに、インドと韓国のリーダーがモトローラ出身者で、彼らが味方になってくれたことです。それが追い風となり、次第にうまく回っていくようになりました。ウインドリバーで特に学んだのは、カルチャー・習慣などのダイバーシティを人事制度に反映する必要があるのだということです。たとえば、インドには多様な宗教があり、各宗教の祭日を踏まえた休日づくりや複雑な税に応じた手当支給等も欠かせません。また、当時のインドと中国は売り手市場で、良い人材を採用するには競争力のある給与・福利厚生が重要でした。こうしたことを本社に掛け合うのも私の重要な仕事でした。
しかし、この頃から、家族の病気が悪化し、入退院を繰り返すようになり、各国を飛び回る働き方が難しくなっていきました。日本に軸足を置いて働くため、2007年ネットアップに転職し、人事リーダーを務めました。ネットアップは、当時アメリカで急成長を遂げた成功企業として注目されており、最も働きがいのある企業(Great Place to work)として有名でした。ここで4年にわたって働けたことは、私の大きな財産の1つです。最も働きがいのある企業と言われるだけあって、社員間の信頼や絆が強く、ダウンサイジングやM&Aですらチャンスと捉え、全員で乗り越える力強さを備えた集団でした。強い信頼関係で結ばれたチームは、どんな困難にも挫けずに立ち向かうことができる。そのことを実感した日々でしたね。
ただ一方で、私の家族の病気はさらに悪くなり、仕事と看護・介護の両方で奮闘する毎日でした。その影響から、人のいのちに関わる仕事がしたいという気持ちがどんどん強くなり、その結果として、私は2011年にマイラン製薬に移りました。世界最大手のジェネリックおよびスペシャリティ医薬品企業です。私は人事・総務・広報の役員として、グローバル化、M&A、組織統合、組織移管等に携わりました。また業界活動を通し、ジェネリック医薬品の普及にも取り組みました。激動の8年間でした。
その後、2019年にGSKに入社しました。
GSKは、より多くの人々に「生きる喜びを、もっと」を届けることを存在意義とする企業です。その想いが私自身の想いと合致しており、また、革新的で価値の高い製品を開発する力を持つ点に魅力を感じて入社を決意しました。
自分らしくいきいきと
成長を実感しながら働ける職場を提供する
GSKはどのような会社ですか?
GSKは、常に先進的な医薬品やワクチンの開発を目指すグローバルヘルスケア企業で、50年以上も呼吸器領域のリーディングカンパニーとして患者さんに貢献しています。またスペシャリティケアやワクチン領域においても、業界をリードしています。さらに、日本ではグループ会社が扱っている「シュミテクト」「ポリデント」「ポリグリップ」「カムテクト」「ボルタレン」などコンシューマーヘルスケア製品は多くの方がご存知ではないかと思います。また今後はこれらに加えて、オンコロジー領域(腫瘍学)における研究開発にも注力していく予定です。
隈部さんはどのようなことに取り組んでいるのですか?
私の最大のミッションは、社員全員がこれまで以上に働きやすく、成長しやすいカルチャーと環境を共につくっていくことです。具体的には、GSKでは「Modern Employer」というコンセプトを打ち出しています。私たちは、すべての社員が「自分らしく(be you)」「いきいきと(feel good)」「成長を実感(keep growing)」しながら働ける職場を提供するのが、Modern Employer=現代的で先進的な企業だと考えています。
「自分らしく(be you)」でいえば、たとえば、私たちは2019年に「テレワークチャレンジデイ」を実施しました。ある1日、正社員・契約社員・派遣社員含む本社所属社員、約1200名のうち1000名以上が在宅勤務をしました。経営会議もリモートで行い、人財本部メンバーも、テレワークチャレンジデイの取材アテンド担当者を除きほぼ全員がテレワークを行いました。「全員テレワークでも案外働けるね」「ここを改善するともっと良いよね」といった社員の声が数多く届きました。今後もテレワークを推奨して、より多くの社員に自分らしい働き方を実現してもらいたいと思っています。
また、インクルージョン&ダイバーシティの推進も「自分らしく(be you)」の一部です。この点では、グローバルや他社と連携した社員向けLGBT+の啓発活動(社内勉強会の開催、社内SNSを通じた情報提供など)を行ったり、経営層も含めた全社員がダイバーシティの重要性について学ぶe-Learning研修を必須で受講したりしています。これらの取り組みの結果、私たちは2019年、職場におけるLGBTに関する取り組みの評価指標である「PRIDE指標」で最高ランク「ゴールド」を受賞しました。
「いきいきと(feel good)」の面では、ワークライフバランスの相談窓口を設置しました。また、ワークライフバランスに関するマネジャー研修やライフプランニングセミナーを実施しています。社外講師を招いての研修やセミナーだけでなく、社員自身ががトレーナーになり社員をトレーニングするレジリエンス・トレーニングも今年から開始しました。こうして社員の心身の健康を大切にするのは、Modern Employerの義務の1つと捉えています。
「成長を実感(keep growing)」という意味では、ジョブポスティング制度の活用促進などに努めていますが、なかでも重視しているのが、パフォーマンスを重視したカルチャーです。私たちはその為、2018年から個人評価のレーティングを廃止しました。ピープルマネジャーからメンバーへのフィードバックを増やすことがその目的です。この新しい評価制度のもとでは、マネジャーはメンバー1人ひとりの働きぶりや様子をこまめに観察・察知して、フィードバックすることが欠かせません。また、ピープルマネジャーの対話の質を向上させることが重要です。そのために、私たちはピープルマネジャー向けのフィードバック研修を推進しています。研修では、私をはじめとする経営メンバーがモデルとなって、「良いフィードバック」「悪いフィードバック」の事例を演じ、ピープルマネジャーに「良いフィードバックとは何か」「自身のフィードバックは良いのか」を考えてもらっています。また、参加者同士で対話のロールプレイもしていただいています。練習をすれば、必ず対話の質は高まります。こうした地道な努力が実を結ぶと考えています。
フィードバックの基準は、4つの価値観と期待される行動 (Our Values & Expectations)です。GSKの4つの価値観である「患者さん中心」「品位ある行動」「相手を尊重する姿勢」「透明性の高い活動」のもと、社員が期待される行動「Courage」「Accountability」「Development」「Teamwork」を発揮するカルチャーをつくっています。GSKは、社員1人ひとりが自身の役割をよく理解し、オーナーシップとリーダーシップを発揮して、失敗を恐れずに行動し、チーム一丸となって目標を成し遂げることを求めています。マネジャーは、それを実現するために各メンバーへのフィードバックを行っています。
人財本部はどのように変革しているのですか?
人財本部でいま特に注力しているのは、デジタルやAIを活用した人事機能のシンプル化や見える化の促進です。そのために避けられないのが、データを駆使できるcapabilityの向上です。近い将来、人事メンバー全員がデジタルツールを使いこなし、データ分析に基づいたタレントと組織戦略を立てられる集団になる必要があります。
また、現在GSKはグローバルで「フューチャーフォーカスプロジェクト」という、人事AI活用プロジェクトを進めています。近々、GSKインドから人事に関するデジタルの専門知識を備えたメンバーを日本に招いて、いろいろとノウハウを共有する予定です。
加えて、HRビジネスパートナーの専門性をさらに磨く必要があると感じています。これからもチェンジエージェントとして変革のエンジンとなり、ビジネスリーダーの信頼のおけるパートナーとして、高い成果を上げ続ける組織づくりを加速していくことが求められているからです。
チームで助け合いながら高い目標に挑戦したい方
どのような方を求めていますか?
一言で言えば、チームで助け合いながら、高い目標に挑戦したい方です。
例えば、今年発売した慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬のプロジェクトが記憶に新しいです。この薬剤の承認を得て発売を成功させるために、社内の多くの部署が関わり、クロスファンクションでOne teamとして取り組みました。何年もかかる臨床試験や複雑な承認申請、医療従事者への情報提供準備など、関係者全員が各自に与えられた責任を果たし、互いに助け合いながら、しっかりとバトンをつないでいった結果だと思います。
このように他部門とシームレスに連携してチームで動ける方、こうしたプロジェクトに参加したい、そして我々のミッション「生きる喜びを、もっと」の実現にパッションをもち共に取り組むみたいと思う方なら、きっとGSKで活躍できるに違いありません。