インドでもロシアでもベルギーでも楽しく働いてきた
BMW Group Japanの社長に就任されるまでの経歴を教えてください。
ドイツの大学時代、私は友人たちとともにコンサルティングカンパニーを経営し、ドイツのさまざまなクライアントにイノベーティブな提案をしていました。BMWは、そのクライアントの1社でした。BMWとは、入社前からつながりがあったのです。その後、国際ビジネスの学位を得て、1995年にBMW AGに入社しました。自動車業界を志望していましたから、BMWを受けたのは必然のことで、BMWのマネジメントトレーニープログラム(次世代リーダー選抜育成プログラム)に選ばれたときは、自分は世界一の幸せ者だと思うほど嬉しかったのを覚えています。
マネジメントトレーニープログラムでは、最初に2週間、組立ラインで貴重な現場経験を積んだ後、次の3カ月はエンジニアリング部門でゼロ・ディフェクト(不良ゼロ)プロジェクトに携わり、最後に9カ月ほど、セールス&マーケティング部門でMINI向けのセールスチャネル開発を行いました。入社2年目からはプロダクトマネジャーとなり、アフリカ及びカリブ海地域などを担当しました。市場が違えば、売れ筋の製品や販売戦略は異なります。例えば、アフリカは道路事情があまり良くありませんから、ラフロードパッケージが欠かせません。そうした事情や制約が関わってくるなかで、BMWのコアモデルをどうやって導入していくか、いろいろと知恵を絞りました。
大きな転機となったのは、2004年からBMWグループ・インドの新規立ち上げに関わり、2006年にその社長に就任したことです。それまではドイツ本社にいたのですが、インドに移ったことで180度視点の変換が起こりました。それまで上司はいましたが、社長に就任したことで、身近に意見を仰げる存在がいなくなったように思います。そこから私の考え方やものの見方は確実に変わったのです。特に私がそれ以来、一貫して大切にしているのは、「チームの強さ」です。ミッション・ビジョンを明確にして、チームで共有し、全員で同じ方向に向かってチャレンジすることを重視してきました。結局、チームの強さこそが、ビジネスの結果に直結するからです。
その後、日本に来るまでに、BMWグループ・ロシアとBMWグループ・ベルギーの社長を経験してきました。未知のマーケットに入り込むのは、さまざまな要素が絡み合った複雑な経験で、いつも臨機応変な対応が求められました。例えば、インド、ロシア、ベルギーでは、お客様の反応も、パートナーのマインドセットもまったく違います。少しだけ紹介すると、インドの方々はあまり直接的に発言しないのですが、逆に、ロシアのお客様はいつも直接的で、Noであれば、はっきりNoと言う方ばかりでした。ただ、インドで、お客様が私の家に朝の7時に来て、お客さまが新規で購入した車に一緒に乗り、お客さまの車の問題を分からせようとしたということがありました。私は、実際にお客様の車に乗り、その場で修理工場に電話しました。このようなことは日本などではまず起き得ないことでしょう。私は未知の土地、未知の文化のもとで新たにチャレンジするのが大好きですから、インドでもロシアでもベルギーでも楽しく働き、楽しく暮らすことができました。2014年、日本にやってくることになったときも、私はやはり興奮しました。どんなことが待ち受けているか、まったく予想がつかなかったからです。
「変革の旗手」として日本にやって来た
これまで日本で注力されてきたことを教えてください。
私の日本でのミッションは、「変革を起こすこと」です。日本法人が、いま変わらないと、今後のBMWは日本で成功することができません。世界を見渡すと、10年前には業界の覇者だったような会社が、ビジネスと組織を変革しなかったために急速に衰えた事例がいくつもあります。ビジネスと組織に最も必要なのは変革なのです。私は、日本でのビジネス成功のために、変革の旗手として日本にやって来ました。4年経ったいまも旅の途中ですが、おかげさまで、私の変革に付いてきてくれる社員がたくさんいます。
具体的には、「ストラテジー・ハウス」の実現に注力してきました。「ストラテジー・ハウス」とは、カスタマー・パートナー・アソシエイト(社員)の全方位に魅力的な会社となり、プレミアムなオートモーティブカンパニーであり続けるというビジョンとそれを支える4つの施策をハウスとそれを支える柱にみたてたものを呼んでいます。
1つ目の柱は「最高のディーラー、リテールパートナーの構築」で、ディーラートレーニングやアフターサービスの改善はもちろんのこと、特にディーラー施設の「リノベーション」を積極的に行ってきました。2014年の就任以来、4年間ですでに約66%のリノベーションを実施し、施設のデザインを一新してきました。2020年までに、これを100%にすることを目標としています。
2つ目の柱は「優れたブランド、顧客体験、プロダクトポートフォリオ」で、私たちは日本市場で売れる商品を選んで輸入し、日本で成功を収めるため、市場にアジャストすることにも細心の注意を払っています。今年から来年にかけて、かつてないほどの製品攻勢をかけ、X2、X7、8シリーズといった独創的かつ革新的な商品を次々に導入し、強力なマーケティングを行っています。また、日本の著名人とコラボレーションするといった日本市場に合わせたマーケティング戦略も重視しています。
3つ目の柱は「デジタル・インフラ」で、例えばお客様向けには、車内からテレサービスに電話すると、スタッフが近くのおいしいレストランを探して、お客様のナビに転送したり、自分の車両の位置情報を友人の携帯電話に転送したりできる「コネクテッド・ドライブ・サービス」を展開する一方で、社内向けには、ディーラー向けの新システムなどを次々に開発してきました。
そして4つ目の柱が「人」で、社内のカフェテリアを改善したり、働き方改革の一環として21時以降はオフィスを閉めるようにしたり、新入社員研修の拡充を進めたりしてきました。たとえば、新入社員研修では、新入社員たちがBMWの製品やブランドをより深く理解するためのトレーニングや関連施設への見学プログラムを新たに導入するなど、さまざまな工夫を凝らしてきました。
私たちの現在のミッション・ビジョンを実現するには、ディーラー、ブランド、プロダクト、インフラ、人のすべてを大事にすることが欠かせない。私たちはそう考えているのです。
不和を恐れずに果敢に挑戦できる方を求めている
働く職場としてBMWの魅力を教えてください。
いくつもありますが、最も魅力的だと思うのは、BMWのコアバリュー「責任、感謝、透明性、信頼、オープン・マインド」の1つ、「透明性」です。私たちは「本音」を大切にしており、何かを隠してしまうとうまくいかなくなることを知っています。いつも透明性を高く評価しており、まず経営層から率先して、さまざまな情報の見える化を進めてきました。また、社員のスキルに見合ったジョブを提案する努力なども重ねてきました。社内の透明性は高くなればなるほど、社員のオープン・マインドに拍車がかかり、ひいてはミスが減り、生産性が高まっていきます。2015年から2017年の間に、弊社の生産性は15%高まり、2017年の従業員調査では全項目が上昇しました。このすべてが、透明性を高めてきた成果だというつもりはありませんが、一定程度、透明性が関係していると考えています。透明性は、BMWの大きな特長の1つだと自認しています。興味のある方は、ぜひ確かめに来ていただけたらと思います。
これから何を実現したいとお考えですか?
まず2020年までに、さらに変革を進めていきます。ディーラー施設のリノベーションをコンプリートし、新たなITインフラを構築し、人事の仕組みを変え、よりカスタマーオリエンテッドなマーケティングを実現します。
そのための施策の1つに、「新入社員たちとの朝食会」があります。2、3ヶ月に一度、新入社員たちと朝食を一緒に食べることで、私も社員の1人であることをわかってもらうとともに、彼らから斬新なアイデアをどんどん吸い上げる場です。また、その場を通じて社員同士がつながり、ネットワーキングしてもらうことも重要だと考えています。また、ボトムアップで組織の活性化を図る目的で、部門横断的にあつまった若手中心のボランティアグループであるチェンジエージェント(change 2 success)も立ち上がっています。私は、サステナブルな変革には、組織の下からも変化を起こすことが欠かせないと考えています。例えば、社員が少額の費用で気軽に専用のアプリからBMWの車を借りられるカーシェアプログラムは、彼らが生み出したもので、私には思いつけない素晴らしいアイデアです。それ以外にも彼らは、社内に社員がリフレッシュできるクリエイティブスペースを創るなど、さまざまなアイデアをどんどん実行しています。私は、いつも本気をぶつけてくる彼らが大好きです。彼らのパワーが、組織変革の重要なドライブの1つになっています。
どのような方を求めていますか?
何事も自分で考え、挑戦していけるクリエイティブな方、自らキャリアを築ける方、貪欲に学び続けたい方、そしてビジネスと組織の成長に貢献したい方です。
なかでも重要なのが、「チャレンジする姿勢」です。日本では和を大切にするあまり、変革を好まない傾向にあるように感じます。そのために、実践できていない変革がたくさんあるのが現状です。逆に言えば、変革は常に和を壊すのです。私は、チャレンジによって不和を起こすことこそがビジネスを成長させる鍵だと考えていますから、不和を歓迎しています。私がいる限り、チャレンジして失敗した人にペナルティを課すことはありません。むしろ問題は、和を尊重しすぎて挑戦しないことや、うまくいっていないことを認めないことです。私は第一に、不和を恐れずに果敢に挑戦できる方を求めています。
また、BMWはグローバルカンパニーですから、英語が話せることも大切です。今後は、本社や海外法人に、あるいは世界中のBMW社員が集まってトレーニングを受ける場に、日本法人からもっと多くの社員を送り出したいと考えています。そうしたことをチャンスだと思える方を歓迎しています。