アウトプットドリブンな上司との出会い
日本マイクロソフトに入社するまでの経緯を教えてください。
大学では、社会心理学を学ぶ一方で、陸上部に所属して110メートルハードルに一生懸命取り組んでいました。就職活動時の企業選びの条件は、その社会心理学の学びを活かして人事スペシャリストになれることと、社会人になっても陸上を続けられることの2つで、両方とも叶えられるのが旭化成でした。旭化成という会社には良い人が多く、カジュアルな社風で働きやすかったです。そんな社風が私に合っていました。
もう25年以上前のことですが、いち早くビジネスパートナーを大切にする方針を採っていて、どうやればもっと効率よく成果を出せるかをいつも考えている上司と出会えたことが、いまに活きていると感じています。とにかくアウトプットドリブンな、厳しい方でした。
ただ、その方をロールモデルとしていたために、いつの間にか私自身も部下に厳しく接するようになっていました。そのことをはっきり自覚したのが、ジョンソン・エンド・ジョンソンで働いていたときです。あるとき、360度サーベイを受けたところ、仕事への評価は高いけれど、「上司(私)が好きか、信頼できるか」という項目で、好き/嫌い、信頼できる/信頼できないが混じっていたのです。さらに、自由記述欄には、さまざまな意見が書かれていました。それを受けて、アジア&パシフィックのタレントディレクターに、「エグゼクティブコーチングを受けてみては?」と提案されました。私は、オーストラリア人のエグゼクティブコーチに、次々に鋭い指摘を受けました。実際、彼の言うとおりで、当時の私には、他責の傾向があったのです。いま振り返れば、早いうちにこのことに気づけてよかったと思っています。それ以来、私は常に自分にエグゼクティブコーチをつけるようにしてきました。
その後、私は日本ヒルティで初めてカントリーHRのヘッドになりました。これ以降、アストラゼネカでも日本マイクロソフトでも、私の主なミッションは「カルチャーチェンジ」です。旭化成の人事課長のように、会社をアウトプット、インパクトベースの組織に変えていくのが、一貫した私の役割なのです。ヒルティの場合、リヒテンシュタイン本社を中心としたグローバルの価値観や企業戦略は素晴らしく、日本ヒルティもチームワークや仲の良さは抜群でしたし、誰もがお客様のために一生懸命頑張っていました。ただ、日本ヒルティは、それが売上・利益に十分つながっていなかったのです。私の仕事は、日本ヒルティをパフォーマンスオリエンテッドのカルチャーに変えることでした。たとえば、営業はフットワークの軽い若手が向いていると判断して新卒採用をスタートしたり、新規事業の立ち上げに合わせて必要な人材を採用したりしていきました。
次のアストラゼネカでは、まず人事部門を思いきって改革しました。優秀な人材を得るために、大阪が本社にもかかわらず約半数は東京で採用するなど、いろいろと工夫しました。また、新社長が私をパートナーとして認めてくださって、何から何まで腹を割って議論することができたこともあって、会社の改革に力を入れることができました。朝の7時半くらいから毎日、電話が掛かってきましたけどね。
日本マイクロソフトの「カルチャーチェンジ」
なぜ日本マイクロソフトを選んだのですか?
正直なところ、はじめ、私の仕事、つまりカルチャーチェンジの必要性などまったくないのではないかと思いました。完成している会社に見えたのです。ですから、最初はお断りするつもりでいました。ところが、何人もの方に会っていくと、誰もが優秀でチャレンジャー精神に溢れ、仕事や判断のスピードが速いことがわかってきました。会社も変わっていこうとしていることが見えてきました。それで、ここなら確かに私がチャレンジできることがあるのではないかと思い、入社を決断しました。
実際、チャレンジすべきことは想定以上にたくさんありました。端的な例を挙げると、日本マイクロソフトはいま、従来のライセンスビジネスからクラウドビジネスへ軸足を移そうとしている最中です。ライセンスビジネスというのは、「1ついくら」のビジネスです。対して、クラウドビジネスでは、お客様のビジネス・組織のスタイルやご要望に合わせたサービスを提供しなくてはなりません。この2つのビジネスでは、売り方がまったく違うのです。クラウドビジネスでは、お客様のインダストリーやビジネス、組織の特徴を踏まえ、最適なソリューションを提供しなくてはなりません。また、ライセンスビジネスでは、マイクロソフトは長く横綱の地位を確保してきましたが、クラウドビジネスでは後発のチャレンジャーです。そのため、メンバーにはPDCAを高速で回し、新たなことにどんどん挑戦していくマインドセットが必要です。
売り方やマインドセットを変えるのは決して簡単ではありません。シニアリーダーを変え、メンバーを適所に配置して、ディベロップしなくてはなりません。また、まだまだ女性社員比率が低く、女性社員の採用も急務です。さらに一方では、日本マイクロソフトをもっとインターナショナルにする必要もあります。たとえば、日本はこれまでグローバルに向けてあまり発信してきませんでしたが、これからは世界中のマイクロソフト社員とより積極的にコミュニケーションを取る必要があると感じています。このように見ていくと、私の仕事、つまりカルチャーチェンジの余地はいくらでもあるのです。
HRビジネスパートナーについてはどのように考えていますか?
マイクロソフトのHRビジネスパートナー(以下、HRBP)は、一般的なHRBPと比べると、ビジネスリーダーをより前面に出す役割になっています。なぜなら、あくまでも経営イシューの1つとして、ビジネスリーダーが人・組織について考え、語ることが慣例になっているからです。HRBPの最も大きな仕事は、そのビジネスリーダーをサポートすることです。組織のトップとして、チームに、今後どんな組織をつくっていきたいか、どんな人材育成をしていくのか、語っていただくのをサポートします。具体的には、人事の専門家ではないビジネスリーダーたちに、限られた時間で人事分野への理解を深めていただき、人材育成・組織づくりを自分ごととして考えていただくように促すのです。しかし、人事関連の専門用語は決してわかりやすいものではありません。そうした概念を極力省き、できるだけわかりやすい説明を用意する必要があります。実際にやってみるとわかりますが、これは難易度の高い仕事です。
ただ、マイクロソフトにはこの点で力強い味方があります。さまざまなビッグデータと、それを利用するためのシステムが揃っているのです。これらを使いこなせば、チームの現状、また、どの部署にどんな人がどれくらい存在するかといったことが、すぐさま数字で視覚的にわかります。マイクロソフトのHRBPは、このビッグデータという宝の山を使いこなしながら、ビジネスリーダーたちのHR理解を日々高めています。
また、私が日頃HRBPの皆さんに伝えているのは、トラブルシューティングの仕事をあまり増やしてはならないということです。トラブルシューティングは相手に感謝されることもあって、役目を果たしているような気分になるのですが、それはHRBPの本分ではありません。ある程度は仕方ありませんが、HRBPがトラブルシューティングばかりしていては本末転倒です。それよりも、ビジネスリーダーとのディスカッションで自分からプロアクティブに提案できるようになり、ビジネスリーダーのサポートに力を尽くすことが重要なのです。
新たなカルチャーに適した人材を求めている
どのような方を求めていますか?
先ほどお伝えしたとおり、マイクロソフトはいま、ビジネスチェンジに合わせてカルチャーチェンジを進めている最中です。ですから、新たに目指すカルチャーに適した人材を求めています。具体的には、特定のインダストリーやビジネスに詳しいソリューション営業経験者や、新たなことにどんどん挑戦していけるマインドセットの持ち主を多数必要としています。また、先のことを予測しながら計画して物事をすすめることができる方を求めています。
また、人事に限って言えば、アウトプットやアウトカムへの意識が高い方を求めています。たとえば、効果のあるトレーニングは何か、誰をどこに配置すれば成長するのかといったことを見極められる能力が重要です。個人的には、本当に効果のあるトレーニングはかなり少なく、結局は困難な状況に置かれない限り、人は成長しないと考えています。
そうしたことを厳しく判断できる方に仲間になっていただけると嬉しいです。