メーカーの人事への再チャレンジ
3Mに入社するまでの職歴を教えてください。
大学時代、「社会人になってから活かせることを学ぼう」と思い、企業における人事の役割や組織行動の研究をしているゼミに入りました。そこで、日本企業の文化を形成している日本人の気質などを調べていくうちに、突き詰めると組織は「人」なのだと考えるようになりました。「人事をやりたい」と思い始めたのはその頃です。就職活動でも、一貫して人事への配属を希望しました。さまざまな会社を回った結果、メーカーでの人事が第一志望となりました。ものづくりを支える製造・研究・営業・マーケティング・コーポレート部門といった全ての機能を備える組織の人事の仕事に一番魅力を感じたからです。なかでも老若男女に商品や付加価値を提供している会社がよいと思い、消費財メーカーである花王に入社を決めました。
ところが、入社初日の辞令でいきなり販売会社への出向を命じられ、初期配属先が営業になりました。何が起こったのかわからなくなるくらいの衝撃でした。毎日外出して営業を行う生活をするなんて、入社前は少しも想像していなかったのです。ようやく営業の楽しさがわかってきたのは、入社2年目に多少規模の大きなお客様を任せてもらい、花王の強みやダイナミズムを活かせるようになり、自分の努力が直接数字に跳ね返ってくるようになってからです。今思うと、このときに自社製品を現場に届ける営業の重要性を身を持って体験できたのは、本当に良かったと思います。営業の活動や流通の流れがすぐにイメージできることは、人事としての私の強みになっています。
ただ、その間も機会があれば、「いつ人事担当になれますか?」と会社に意思を伝えていました。それが功を奏して、入社3年目に本社の人事部に異動となりました。念願かない、いざ異動してみると、販売会社の営業と本社の人事では仕事内容も環境もあまりにも異なり、まるで転職したような感じでした。たとえば、営業時代は営業の支店では1人1台PCがある環境ではなく、私が日中パソコンに触れることはほとんどなかったのですが、人事部では1人1台パソコンがある環境で、毎日のようにパワーポイントで資料を作ったりするようになりました。特に人事に異動した最初の1年は、人事制度・会社の組織・事業活動の仕組みやその中での立ち回り方などすべてが新しく、知識・ノウハウのキャッチアップがとにかく大変でしたが、「会社ってこういう風に動いているのか」と新鮮な発見が多く、楽しい日々でした。
2年ほど人事の企画業務に携わった後、国際人事の担当に変わりました。日本から海外の現地法人に赴任する海外駐在員の赴任から帰任までのサポートをする担当でした。そこで初めて、外部の人事コンサルタントと一緒に仕事をする機会を得て、さまざまな会社の人事制度を覗けるコンサルタントの仕事に興味を持つようになりました。また、当時は日本企業がコンサルティングファームの見識を活用し始めた時代で、コンサルタントの募集が多数ありました。最初は軽い気持ちだったのですが、その募集のいくつかを受けたところ、ある会社に入社が決まり、新たなキャリアを歩むことを決めました。
私が入社したコンサルティングファームは10名ほどの小さな会社で、いわば個人商店の集まりでした。そのため、一人に任される責任が大きく、何でもチャレンジできたので、良い経験を積むことができましたし、自分ひとりに課せられる責任の重大さからプロフェッショナリズムを身に付けることができたと思っています。とはいえ、やはり企業における人事の仕事は好きだったので、いずれは事業会社の人事に戻ろうと最初から決めていました。そして、縁があって2001年、GEに入社しました。
GEはいかがでしたか?
GEには約11年間在籍しました。最初の2年間はHRリーダーシッププログラムのメンバーとして、日本とオーストラリアで人事の仕事を、またオートリース事業のシックスシグマのブラックベルトにもチャレンジしました。その後はコーポレート部門の人事、電力事業の日本と韓国を担当する部門人事などを経験し、最終的には電力事業の1ビジネスユニットでアジアパシフィック全域を束ねる人事リーダーのポジションに就きました。GEの経験のなかでとりわけ印象深いのは、1年半ほどパリに駐在したときのことです。
パリではGEマネー(当時の消費者金融部門)の中欧・東欧・中東地域のHRマネジャーとして仕事をしました。縁もゆかりもない場所でのチャレンジでしたが、特に面白かったのは、自分が身を置いていた組織が、ヨーロッパ・アジア・アメリカなど計二十ヶ国以上の出身者から構成される多様性の高いチームだったこと。その中の多くのメンバーがパリのオフィスに常駐しているわけではなく、中欧・東欧・中東諸国に常駐あるいは頻繁に出張している極めてヴァーチャルなチームだったことです。私はHRビジネスパートナーとして、日本人というアイデンティティを脇に置き、彼ら一人ひとりがどのような気持ちで働いているかに気を配りながら、対面や電話やチャットシステムでいつも誰かと対話していました。一口にヨーロッパ人と言っても、実際は国によって、個人によって、価値観はまったく違います。個々の価値観の違いは、一人ひとりとしっかり話さないとわからないこと。一方で、日本人のイメージを払拭して、彼らに私自身を理解してもらうことも大事でした。こうして信頼関係を築いていかないと、彼らの人事として私の存在意義を十分に理解してもらい、私も彼らの人事担当者として付加価値の高いサポートがタイムリーに提供できないからです。ダイバーシティを重視することは、対話を重視することなのだと深く実感した日々でした。
その後、2012年に日本IBMに移り、4年ほど日本とアメリカ本社で経験を積んだ後、2016年の夏にスリーエム ジャパン(3M)に転職してきました。IBMは素晴らしい会社でしたが、いつかまたメーカーの人事の仕事にチャレンジしたいという気持ちも強かったのです。スリーエム ジャパンは、日本国内に研究開発拠点と複数の製造拠点を持ち、全ての事業経営機能を備えたメーカーであり、しかも広義の化学メーカーという意味では花王と同じ。初心に戻るつもりでやってきました。
3Mの素晴らしさを社内にもっと広めたい
3Mではどのようなことに取り組んでいるのですか?
一言で言えば、スリーエム ジャパンのこれまで蓄積されてきた実績を活かし、成長を加速していくのが私のミッションです。そのために、今は「エンゲージメント」「ダイバーシティ&インクルージョン」「タレント・ディベロップメント」の3点に力を入れています。
「エンゲージメント」とは、ごく簡単に言えば「社内ブランディング」です。3Mは離職率が非常に低く、多くの社員が3Mで働くことを誇りに思っています。これはとても良いことですが、一方で、普段から自分の会社がいかに素晴らしいかを語る社員はそれほど多く見かけません。私のように最近社外から来た者からすると、3Mには優れた点がたくさんあるエクセレント・カンパニーだと自信を持って言えますが、長く3Mで働く方々には相対的な良さが見えにくいのです。そこで、人事が旗振り役となって、3Mの素晴らしさを社内にもっと広めたいと考えています。
3Mジャパングループは、世界最大級の意識調査機関Great Place to Work®の2017年版で、日本における「働きがいのある会社」ランキングの20位(従業員1000人以上)に入りました。こうした実績を社内外に積極的に広報したり、他社にはない優れた制度があることを客観的且つ効果的に伝えていくことが大切だと考えています。
また、他国の3Mの目線で見たスリーエム ジャパンの良さを知ってもらうことも重要です。その点では、弊社の代表取締役社長デニース・ラザフォードには、中国・ラテンアメリカ・ベルギーなどの3Mで働き、さまざまな国の社員と働いてきた経験があります。彼女に、たとえば「3Mの中国と日本では、ここがこのように違う」といった具体的なエピソードを社員にどんどん話してもらうことには大きな意味があります。また、現在のシンガポールとオーストラリアの社長は、スリーエム ジャパン出身者です。彼らが日本に帰ってきた際に、デニースと同じように他国の3Mのこと、そこから改めて認識されたスリーエム ジャパンの強みを自らの言葉で語ってくれたら、スリーエム ジャパンの良さがまた違った角度から見えてくるでしょう。さらに、さまざまな国の3M社員とのインタラクションを増やしたいとも思っています。そこに生まれるコミュニケーションから、スリーエム ジャパンの強みが見えてくることも多いはずです。
他の「ダイバシティ&インクルージョン」「タレントディベロップメント」の2つはどのような取り組みですか?
「ダイバーシティ&インクルージョン」の面では、女性社員の積極的な採用・登用を進めています。特に女性社員が活躍することで、女性ならではの新しい視点を得られること、今までにない商品を生み出せることに価値があると考えています。実際、女性が多く参加するプロジェクトから、新たな商品が生まれた事例が出てきています。こうした事例を増やせば、女性の活躍はさらに広がるでしょう。
とはいえ、現状にはまだまだ問題があります。たとえば、海外のプロジェクトに関わるオポチュニティが出てきた際に、それに挑戦できるスキルと能力を持つ女性社員に小さな子どもがいて、子育て中だから両立が難しいだろうという理由でその女性社員に声を掛けるのをためらった、というマネジャーがいました。そのマネジャーはあくまでも本人に気を遣ってそのような判断をしたわけですが、それが結果的に女性社員の積極的な登用や本人のチャレンジ精神の妨げになる可能性もあります。家庭や子育てなどの状況にかかわらず、まずは能力に応じて公平にチャンスを提供することが重要です。その上で子育て中に海外赴任するかどうかは、本人に決めてもらえばよいことなのです。こうした無意識の思い込みを「アンコンシャス・バイアス」と言います。現在私たちは、マネジャーの皆さんにアンコンシャス・バイアスを理解してもらっている最中で、その理解は確実に深まってきています。
「タレント・ディベロップメント」への取り組みでは、2014年から、スリーエム ジャパンでは「ジャパン・リーダーシップ・アカデミー」を開催しています。社内で長期的に活躍していただくには、専門性を深めるだけでなく、汎用性の高いマネジメントスキルを磨き、3Mで国内外のどこに行っても活躍できる素養を身につける必要があり、その実現に向けた取り組みとして、このジャパン・リーダーシップ・アカデミーを創設しました。フューチャーリーダーコース(管理職昇進を目指す層)、ビジネスリーダーコース(事業部長を目指す層)、エグゼクティブコース(役員を目指す層)の3コースを実施し、これまでに250名を超す社員が卒業しており、その半分を超す卒業生が昇進したり新たなポジションに就くなど、成長を加速しています。また、海外の3Mで活躍する社員も数多くいます。スリーエム ジャパンは、もともと専門性の高い社員が多い会社。ジャパン・リーダーシップ・アカデミーは、そこにマネジメントスキルの習得と所属部門を越えたメンバーとビジネスの課題を解決するプロジェクトワークを経験することによって、社員たちのポテンシャルを高めることに貢献しています。
海外も含めて将来の選択肢が多い会社
3Mでは、どのようなチャンスを得られますか?
3Mは「自主性と自律性」を重んじる会社です。社員一人ひとりが自らアイデアを出して、プロジェクトを企画し、周囲を率先して巻き込み、プロジェクトを進めていくことを奨励しています。代表的なものに「15%カルチャー」というものがあります。これは、会社の成長に貢献できるテーマであるなら、業務時間のうちの15%をどのような研究や行動に使ってもよいという不文律です。こうした文化の下で新商品を開発したり、新たなアイデアの創出に取り組みたいという方には、多くのチャンスがあると思います。
スリーエム ジャパンは1960年の創業以来、60年近くの長い歴史のなかでいくつもの画期的な商品を創造してきました。現在も、世界の3Mのなかで第3位の売り上げを誇っています。その開発力・製造力・人財力は広く知られており、他国の3Mから期待を寄せられています。そのため、東南アジア諸国を中心として、世界の3Mからさまざまなポジションにスリーエム ジャパンの社員を迎えたいという声が常に届いています。先にお話しした通り、現在、シンガポールとオーストラリアの社長はスリーエム ジャパン出身者が務めていますし、他にもアメリカ本社の要職や各国の3Mのマネジャー層などに日本人が多数就いています。このようにして、海外で活躍するチャンスもこれからも豊富に用意されています。
どのような方を求めていますか?
一言で言えば、「チャレンジしたい方」です。私たちは、チャレンジしたい方にさまざまな可能性、さまざまな将来の選択肢を提供できます。たとえば、最初はポスト・イット® 製品の担当になった方が、5年後には本人の希望で研磨材や歯科用製品などの担当に異動し、キャリアの幅を広げる可能性が十分にあります。また、営業からマーケティングに異動する、あるいは他国の3Mで活躍することも可能です。本人の意思と実績次第で、さまざまなビジネス、さまざまなポジションの選択肢があるのです。
「3Mのサイエンスで、社会と暮らしを、もっと豊かに。」この企業理念に共鳴し、一緒に前へ進んでいける方には、いくつものオポチュニティを用意できると思います。ぜひ思いきってチャレンジしていただけたらと思います。