これまでのキャリアについて、簡単に教えてください。
新卒で入社したのは政府系の銀行でした。市場の失敗を補完し日本経済に貢献したい、日本という視点で世界を見たいと思っていました。初めに国際部に配属になり、日米貿易摩擦の解消のため、当時としては先進的な外資系企業へのファイナンスなどに取り組みました。その後、企業派遣で米国に留学しましたが、戦略論の教授から「日本企業には戦略がない」と言われた言葉が胸に残りました。帰国後、バブルの崩壊で変革を迫られる日本企業を「公」「財務」の観点からでなく、「民」「戦略」の観点から変えたいと決意し、戦略コンサルティングファームに参画しました。事業戦略の策定や新規事業の立ち上げなど、様々なプロジェクトを経験しましたが、一方で、また胸に残ることが出てきました。優れた日本企業には、「戦略」は組織のどこかにありました。しかし、その「戦略」を実行するために組織や人を上手く変えていくことができない。それこそが、日本企業が変わる上での最大の課題ではないか、そんな思いが強くなっていきました。そして、現在の組織・人事コンサルティングにたどり着いたわけです。
キャリアを築いていくなかで何か転機になったことはありますか?
本来は、打ち解けた人たちにしか言わないのですが(笑)、私にとっては2度の「アイデンティティ・クライシス」が転機だったと思います。
1度目は米国留学の時でした。授業で展開される激論に、最初はついていけなかった。「発言しなければ、クラスでの存在価値がない」と焦りが募りました。ある講義で企業の競争力がテーマとなった際、意を決して挙手し、発言を求めました。事前に準備したこともあり、クラスメートによると私の「発言」は20分間の「大演説」だった(笑)。しかし、その結果、クラス全員が私の名前を覚えてくれ、関連するテーマでは教授から発言を求められるようになった。自分には意見があると自ら示すことの重要さを痛感しました。
2度目は戦略コンサルティングファームに参画してからです。前職で身についた前例踏襲型の思考は、ゼロベース思考で新たな価値を生み出すコンサルティングには全く通用しませんでした。外国人のマネージャーから「誰かが既に言っていることではなく、あなた自身の独自の切り口で解決策を出して欲しい」と迫られ、苦しみました。「自分のバリューは何なのか」を問い続けるなかで、ある時から自然とその状況を乗り越えていたのですが、どの組織に属しているか、誰かが言っているからではなく、自分の頭で考え抜いたものこそが「バリュー」があるのだと身体に染み付きました。
今、グローバルな環境で難しい課題に直面しても、クライアントへのバリューだけを考えて立ち向かっていけるのは、そのような「クライシス」を乗り越えるなかで、プロとしての基本姿勢が身についたからではないかと思っています。
新たな経営コンサルティングで日本企業のグローバル戦略を支援する
マーサーの組織・人事コンサルティングについて、その戦略を教えていただけますか。
まず、我々が日本企業の経営課題をどう見ているか、からお話しましょう。
リーマンショック後の景気後退で、日本企業は、国内のオペレーションや組織を絞り込み、同時に海外市場で成長を目指すよう迫られました。マーサーは、この国内の絞り込み(Shrink)と海外での成長(Grow)を同時に進める日本企業の“Shrink AND Grow”を支援してきました。
その後、日本企業の「グローバル化」は第2フェーズに入ってきました。第1フェーズの「グローバル化」は、事業の海外展開という「国際化」でした。そこでは、海外の各市場に合った組織・人材マネジメントを行うことが成功のカギを握ります。例えば、現地の優秀人材に市場の労働慣行に合った処遇を行ったり、適切な権限委譲を行うことなどがその例です。一方、グローバルに多極化が進む中で、個々の市場に最適な組織運営を、日本を含めて束ね、グローバル全体で競争力を高める必要が出てきています。これがグローバル化の第2フェーズです。
しかし、日本企業にとって最大の課題は、これまでの強みの源泉であった日本型の組織・人材マネジメントをグローバル標準にしようとしても、それが通用しないことです。日本企業がグローバル最適なマネジメントを実現するには、これまでの伝統的な組織・人材マネジメントにイノベーションを起こさなければなりません。
組織・人材マネジメントにイノベーションを起こし、日本企業がグローバル最適なマネジメントを実現すること、これが我々マーサーの使命です。既存の戦略コンサルティングのアプローチとも、伝統的な組織・人事コンサルティングが扱う領域とも異なる新たな経営コンサルティングを目指しています。
具体的な取り組みについて教えていただけますか。
グローバル戦略を支える組織・人材マネジメントを実現するには、事業戦略の読み解きから、組織・人材マネジメントの個々の仕組みの設計、そしてその運用まで、幅広い取り組みが必要です。また、それらが一貫し、かつ、日本を含むグローバルで実施される必要があります。
マーサーでは、日本を含むグローバルにHuman Capital Strategy(組織・人事戦略)、Talent Management(タレントマネジメント)、Rewards(報酬)、HC Operation & Technology Solutions という4つの専門領域別のグループがあり、クライアントの課題に応じて各グループが互いに協働しながらコンサルティングを提供しています。また、世界180都市以上にオフィスがあり、複数のオフィスが共同でプロジェクトチームを編成できるようになっています。つまり、クライアントが日本を含む世界のどこにいても、解決すべき課題が組織・人材マネジメントの上流から下流までの複合課題であっても、マーサーグローバルの知見とコンサルティングを一貫して提供できるのです。
さらに、日本の知見を活かして世界に貢献する取り組みも始まっています。例えば、アジアの新興企業が海外進出を目指す場合、日本企業のグローバル化が参照される場合が少なくありません。また、債務危機を抱える欧州の企業では、日本企業が取り組んでいる”Shrink AND Grow”が解決の方向性として議論されています。「課題先進国」としての取り組みを世界に活かすこともマーサージャパンの重要な役割なのです。
御社で活躍されているのは、どんな人ですか。
「クライアントのイシュー(経営課題)は何か?」を自分の頭で考え抜く人ですね。クライアントの戦略と組織の実態をいろいろな角度から見て、自分の頭で考えて、「これが課題ではないですか」という自分なりの意見を出してくる人は、成長も早い。前職でコンサルティング経験がある、英語ができるなどは、確かにプラス要因ですが、それらの能力は後天的に磨けるものだと思います。そのための機会は、マーサーの中にはたくさんあります。
これだけは、という要素を挙げるとすれば、「人の役に立ちたい」「会社をいい方向に変えたい」というような個人としての「志」を持っていること。これは、組織や人事を取り扱うコンサルタントとして不可欠の要素だと思います。
我々の仕事は、日本企業の支援を越えて、社会的にも意義のあるものだと考えています。このような仕事に取り組み、個人として成長するとともに、社会にも貢献したいという「志」を持つ方と是非いっしょに仕事をしたいと思っています。