プロフェッショナルとはどうあるべきだとお考えですか?
プロフェッショナルは「人並み」ではいけません。一般の人ができないことをやるからこそ付加価値がありプロフェッショナルとしてお金をもらえる。その付加価値とは何か、ということになるのですが、それはそれぞれの立ち位置によって違います。私はコンサルタントから経営者になりましたが、コンサルティングのプロフェッショナルと経営のプロフェッショナルは大きく違います。
それではまず、マーサージャパンの社長に就任するまでのキャリアを教えてください。
大学卒業後、8年半日本生命にいました。営業部門を経て人事部門に異動し、会社からMBAに行かせていただきました。MBA取得後に帰国して、人事部門に復帰しました。仕事は順調でしたが、30歳の終わり頃に、「このままの生き方でいいのだろうか」と悩みはじめ、31歳の時に思い立って転職を決意し、マッキンゼー・アンド・カンパニーにコンサルタントとして入社しました。
マッキンゼーでは国内外の大手・中堅企業に対する成長戦略や M&A戦略、マーケティング組織開発など幅広い分野でのプロジェクトに携わりました。特に、自分から手を挙げて行った1年間のニュージャージー駐在は大変でしたが得たものも大きかったです。英語もネイティブレベルではない上、医学を専攻したわけでもない身で医学の基礎知識も必要となる仕事をしていたので、毎日英語で医学書を読みながら必死に勉強して、土日も昼夜もなく働きました。大変でしたがこの経験があったからこそ、どんな難しい問題でも必ず何とかなるだろうという自信を得ることができました。
駐在から戻ってからは、3年ほど一心不乱に仕事をしていました。しかし、ある朝突然に「そろそろ、違うことをしよう」とひらめき、転職を決めました。理由はわかりませんが、とにかく違うことをしたくなったのです。振り返ってみると、自分の環境を変える時というのは、ロジカルに説明できる理由があった訳ではなく、唐突に感情が湧き上がってくることが私は多いですね。
次の環境として現在のマーサージャパンに決めたのは、決してコンサルティング業界で転職しようと思ったからではありません。これまで広い意味で「人」に関わる仕事をしてきたこともあり、人や変化といった、何か有機的なことにやりがいを感じていたことが一つです。そして人や変化に対する自分の考え方が、当社のリーダー層と非常に似通っていたことが入社の決め手となりました。入社して2年間は、M&Aの場面における組織や人事制度、カルチャーなどの統合に関するコンサルティング活動に従事しました。その後、縁あって07年の3月に同社の代表取締役社長に就任しました。
スキルのみならず、人として信用される人間性が必要
コンサルティングのプロフェッショナルとはどうあるべきとお考えですか?
まずは、ベースとなる「コンサルティングベーシック」がしっかりと身についている必要があります。コンサルタントは考える速さが一般の方よりも数倍速く、物事をクリアに捉え構造化することが出来、かつ明確に適切な答えを導くことができるようにならなければなりません。そしてその上で、それぞれの専門分野において固有のスキルや経験値を持っていることがプロフェッショナルの条件だと考えています。
また人として信用される人間性も必要です。コンサルティングという仕事は現場主義で、お客様とコミュニケーションをとりながら現場で仕事を進めます。私たちはサービス業であり、お客様に何かよい変化を起こすのがペイの対象です。外部の人間である我々からの提案を喜んで受け入れてもらうには、コミュニケーションスキルだけではうまくいきません。
つまり、コンサルティングのプロフェッショナルとは、スキルと、人として信用される人間性の部分両方を持ち合わせるべきだと思います。
プロフェッショナルなコンサルタントの具体的条件とは?
私のなかでは5つあります。一つ目は『自分で道を拓いていく覚悟がある』ことです。人の描いた地図の上を歩くのではなくて、自分で地図を描いてみたいという前向きな気持ちです。次に『勘とスキルが一般の人より上回っている』こと。勘は経験値が必要ですし、コンサルタントは勘で勝負してはいけないとも思いますが、ある程度までは努力して磨くべきだと思います。経験の引き出しが多くなるほど、その引き出し同士に独自の繋がりができて、より速く優れた答えを導き出すようになります。それが勘になるのだと思っています。三つ目は『解けるかわからない問題に嬉々として向き合える』ことです。同じ企業でもケースごとに問題は異なりますから、スキルや過去の経験だけに頼らず、毎回新たな目線で問題に取り組めるかどうかも大事です。また、『人の心や感情を敏感に読み取れる』ことも必要です。私たちの仕事は、お客様から一人の人間として信用されなくてはうまくいきませんから、相手の気持ちや感情を瞬時に感じて、その場の空気を読めなくてはいけません。最後に『相応の英語力』ですね。日本の企業であっても多くの場合ビジネスは既にグローバル化していますので、言語のボトルネックがあると活躍範囲が狭くなると思います。
経営のプロフェッショナルとして勘を磨くことが大切。
社長としてのミッションを教えてください。
まず、前提としてマーサージャパンの社長は世間一般の「社長」のように偉くありません(笑)。対外的、法的責任や売上などの責任はすべてありますが、権限は多くありません。プロフェッショナル・ファームでは、最後にクライアントに対してバリューが出ればいいわけですから、どこの立場の人であろうと、正しいことを言えばいい。もちろん、社長として私は皆から“あの人の言うことは正しい”と思われるようにしなくてはという責任感はあります。
現在のミッションは、人の「上」に立って何かやる、というよりも、人間関係を円滑にし、コラボレーションを起こすためのサーバント・リーダーシップだと思います。「横」に立ったり、場合によっては「下」に立ったりすることもあるわけです。マーサーに限らず、組織がよりクライアントに向けてフォーカスされていく流れの中では、組織を横に繋ぐ役割がないとシナジーが出にくくなります。放っておいたらバラバラになりますが、そうならないのは、縦にルールを作ることではなくて、横同士の有機的な活動が存在するからなのです。それが私の究極の役割でしょう。
経営のプロフェッショナルとして大切なものは何でしょうか?
コンサルティングのプロフェッショナルと経営のプロフェッショナルは大きく違います。私はまだ経営者としては経験が浅いですが、自分で思うのは、経営というのは3割ぐらいの精度で物事を決めて進まざるを得ない場合もあるということですね。「決める」こと自体にも大きな意義があるのです。決めずに放っておくと事態が悪化することさえあります。コンサルだったら8割ぐらいの精度はないと決断しづらいですが、経営者の場合、3割ぐらいの精度でも決めるときは決めなければいけません。そしてその決断が、外れたら会社が倒れるので外さない必要があります。低い精度で正解を出すために、勘が必要だと考えています。運もありますがコントロールできない。しかし勘というのは経験とか考え抜かれた思考回路のなかではある程度働きやすくなります。ですから勘を磨くことが経営のプロフェッショナルとしては大切です。
また、経営のプロフェショナルは「限りなく自分に近い役者」になる必要があります。少なくとも大きい企業の場合は、完全に素でやっていてはうまくいきません。どんなに意を尽くしても全員が同意するわけではありません。それでも物事を進めて行かなくてはいけないし、ノイズもあるなかで最後までやり抜こうと思ったら、素の自分だけではコントロールを失ってしまうこともあります。
逆に、演じすぎても演じていることが周囲にわかってしまうのでよくありません。限りなく「本人」ですが、第三者的な立場も必要といいますか、常に冷静な自分がもう一人いなくては経営のプロフェッショナルとしては勤まらないと思います。
最後に、マーサージャパンで働きたいという人にメッセージをお願いします。
楽な仕事ではありませんが、「とてもチャレンジングなことをやって自分の可能性を広げてみたい」という覚悟が持てる人、また、人とか組織とか変化にピンと来る人にはマーサーでの経験は非常に勉強になるはずです。「人」の分野で仕事をしている会社は数多くありますが、これほどまでに「人」を軸にして変化を起こすことにパッションやコミットメントを持っているプロフェッショナル・ファームは、それほどないのではないかと思っています。また、それを本当にグローバルネットワークの中で実現するためにチャレンジすることができます。成長したい人にとっては、得がたい機会を提供できる場だと思います。
ありがとうございました。