
※インタビュー実施時の御所属・役職名にて記載させて頂いております
青山学院大学 地球社会共生学部長・教授 松永 エリック 匡史氏
×
ISS Consulting代表取締役社長 関口真由美
「人に会うこと」の価値が、改めて問われています。
ISS Consultingは1996年の創業から、今年で30周年を迎えました。この30年で、グローバル化、DX、AIの進展により、企業経営や働き方、人材市場は大きく変化しています。
一方で、時代が変わっても変わらず大切にされてきたものがあります。
それは、「誰と働くか」「価値観を共有できるか」、そして「人の可能性を信じられるか」ということです。
30周年特別対談では、青山学院大学教授であり音楽家でもある松永 エリック・匡史氏をゲストに迎え、対面コミュニケーションが生み出す信頼、多様性がもたらす価値、そしてAI時代における人間の役割について語り合いました。

松永 エリック・匡史(まつなが エリック・まさのぶ)
青山学院大学地球社会共生学部長・教授。幼少期を南米で過ごし、15歳からプロミュージシャンとして活動。米バークリー音楽院でJAZZギターを学ぶ。AT&T、アクセンチュア、野村総合研究所、日本IBM、デロイト、PwCなどでDX・メディア領域を牽引し、デジタル事業立ち上げや未来創発を推進。2018年にONE NATION Digital & Mediaを創業。現在は「アーティスト思考」を提唱し、教育・社会課題解決にも取り組んでいる。

関口 真由美(せきぐち まゆみ)
ISS Consulting代表取締役社長。外資系・日系グローバル企業を中心に、長年にわたり人材紹介業の運営に従事。これまでに2000社を超える企業成長とリーダーシップ強化を採用の側面から支援。ダイヤモンド社より『外資系トップの仕事力シリーズ』など、経営者の思想やビジネス論に関する書籍も上梓。近年は「CxO Dialogue Series」や人事リーダー向けセミナーの企画・運営を通じ、経営・人・社会をつなぐ対話の場づくりにも取り組んでいる。
- 第1章:出会いと原点 テーマ:人との縁から始まる
- 第2章:30年で変わったこと テーマ:社会・企業・人材市場の進化
- 第3章:国際からグローバルへ― 30年で変化した、働く価値観とは
- 第4章:変わらなかったもの:ISS CONSULTINGの本質とは何か
- 第5章:これからの経営と人材 :AI時代に求められる人材とは
- 最終章:30周年メッセージ :感謝と次の30年へ
第1章:出会いと原点 テーマ:人との縁から始まる

関口:今回、30周年の対談企画を進めるにあたり、「ぜひ対談をお願いしたい」と真っ先に思い浮かんだのがエリックさんでした。最初の出会いは、2017年。「GAISHIKEI LEADERS(外資系リーダーズ)(※1)」でのインタビュー企画でしたよね。
当時のエリックさんは、プロのギタリストとしての顔を持ちながら、外資系戦略コンサルティングファームでデジタル事業のパイオニアとして活躍されていて、「こんなに多面的な才能を持った方がいるのか」と、とても強い印象を受けたことを覚えています。
(※1)GAISHIKEI LEADERS(外資系リーダーズ):グローバル企業の経営者・リーダー層によるインタビュー/イベントシリーズ。日本企業のグローバル化やリーダーシップ、経営変革などをテーマに、多様な業界のトップランナーたちが知見を発信していた。
エリック:ありがとうございます(笑)。確か、当時のテーマは「デジタル変革期における音楽ビジネス」でしたよね。今振り返ると、かなり尖った企画だったと思います。
そのご縁をきっかけに、ISS Consultingとは、その後もさまざまなワークショップやイベントをご一緒させていただきました。特に印象に残っているのは、六本木にある【Mercedes me】で開催したイベントですね。
関口:懐かしいですね。当時は、自動運転がまだ“未来の技術”として語られていた時代でした。でも、エリックさんたちは、そのさらに先の世界を見ていましたよね。
会場では、「車が自動で動くようになったらどうなるか」だけではなく、「もし車がハッキングされたらどうするのか」といったリスクの話まで、未来の社会や人の暮らしまで踏み込んだ議論が交わされていました。
エリック:壇上の議論は、かなり未来を先取りしていたと思います(笑)。ただ、あの場にあったのは、単なるテクノロジー論ではなかったのですよね。
「未来はどう変わるのか」だけではなく、「人はどう生きるのか」「社会はどう変わっていくのか」という視点で話していた。それがすごく面白かったですし、参加者の皆さんの熱量も印象的でした。
関口:エリックさんの魅力は、音楽やアートといった感性を持ちながら、同時にビジネスも深く語れるところだと思っています。論理だけではなく、人の感情や空気感も大切にされている。そのバランス感覚に、以前からとてもリスペクトしていました。
今回、30周年の対談相手としてぜひお願いしたいと思ったのも、まさにそこが理由でした。
エリック:ありがとうございます。僕自身、昔から「ロジカル」と非連続的な「エモーション」の両方を大切にしてきました。さらに言えば、仕事だけではなく、すべてにおいて“対等な関係性”を築くことを意識してきたのです。
アメリカで仕事をしていた時も、ただ海外から学ぶだけではなく、「日本からどんな価値を提案できるか」を常に考えていました。与えられる側ではなく、一緒に価値をつくるGiver側でありたいと思っていたのです。
以前、あるコンサルタント嫌いで有名なクライアントと初めて会った時のことが印象に残っています。たまたま部屋に置いてあったカウベルをきっかけに音楽の話で盛り上がって、「お前はコンサルタントじゃなくて、友達だ」と言われたことがありました。
そこから関係性が一気に深まり、本当にさまざまなイノベーションが生まれていったのです。結局、人と人との信頼関係や共感が、新しい価値をつくっていくのだと思います。

関口:本当にそうですね。人との縁からすべてが始まる。ISS Consultingも、この30年間ずっと、その想いを大切にしてきました。
コロナ禍を経て、改めて感じたのは、「本音で話せる関係とは何か」ということでした。オンラインは便利ですし、効率も良い。でも、どこか“必要なことだけを話す場”になってしまう感覚があるのです。
エリック:僕も同じことを感じています。オンラインは便利なツールですが、コミュニケーションというより、“確認”に近いのですよね。効率的な情報伝達としては優秀ですが、人と人との空気感や感性までは伝わりきらない。だからこそ逆に、「誰と会いたいか」「誰と仕事をしたいか」が、以前より明確になった気がします。
関口:確かに、「この人とは価値観を共有できそうだ」という感覚も、以前より早く感じ取れるようになりましたよね。
エリック:そうなのです。僕自身、誰とでも仕事ができるタイプに見られるのですが、実は人見知りで苦手な人もたくさんいました(笑)。ただ最近は、その“違和感”に向き合えるようになりました。相手のことを理解しようとして、たくさん会話をしたり、本を読んだり、その人が好きなものを調べたりする。そうやって歩み寄っていくと、最初は合わないと思っていた人とも、新しい関係性が生まれることがあるのです。
関口:私自身、ISS Consultingを立ち上げた時から、「誰と、誰のために働くか」を何よりも大切にしてきました。キャリアを重ねる中で、成果や成長の重要性を学ぶ一方で、最終的に人を動かすのは数字だけではなく、「誰のために、どんな想いで仕事をするのか」だと感じるようになりました。だからこそ、ISS Consultingでは“プロフェッショナル集団”をつくりたいと思ったのです。
エリック:それはまさに“感性”ですよね。結局、人も組織も、最後は「誰と、どんな想いでやるか」に尽きるのだと思うのです。


第2章:30年で変わったこと テーマ:社会・企業・人材市場の進化

関口:この30年で最も大きく変わったのは、やはり“働き方”と“人の価値観”だと思います。以前は年功序列が当たり前で、「この会社にいれば安心」という空気がありました。
でも今は、会社の規模や肩書だけでキャリアを選ぶ時代ではなくなりました。働く人自身が、「何を実現したいのか」「誰と働きたいのか」「どんな価値観を大切にしたいのか」を考えながら選択する時代になったと感じています。
エリック:僕は、それ自体は良い変化だと思っています。実は僕自身、年功序列が当たり前の時代だったからこそ必死に努力したタイプなのです。音楽大学出身で音大に留学もした後で青山学院大学に入学したので、社会人スタートが周囲よりかなり遅れていました。ですから自分と同じ歳の先輩に「どうすれば追いつけるか」「どうすれば抜けるか」を本気で考え続けていたのです。
もし完全な年功序列で、絶対に追い越せない世界だったら、多分腐っていたと思います(笑)。

関口:確かに今は、若くても実力があればチャンスがある時代になりました。ただ、その一方で、ポジションだけで人を評価してしまう危うさも感じます。
エリック:まさにそこです。役職が上だから“人として偉い”わけではないのですよね。例えば、経営に近い役割を担う管理職は、現場より責任が増え、その結果として報酬が高くなる。それだけの話なのです。役割が違うだけ。でも日本企業は、その二つを混同してしまいがちです。
本来は、役職と人間性は切り離して考えるべきだと思っています。
関口:たとえどれだけ大きな会社であっても、自分自身がワクワクできなければ意味がないと思うのです。逆に、小さな組織であっても、本気で挑戦している人たちと一緒にいると、不思議とエネルギーをもらえる。そういう感覚は、昔から大切にしてきました。
エリック:“ワクワク”は、本当に大切ですよね。最近特に感じるのは、人生を楽しんでいる人って、実は肩書きとはあまり関係がないということです。ワクワクして生きている人は、必ずしも肩書きがすごいわけではない。
大企業の経営者だから幸せというわけでもないし、逆に世の中ではあまり知られていない会社で働いていても、自分の好きなことを長く追求している人には、ものすごく魅力がある。そういう人に会うと、こちらまで元気をもらえるのです。
関口:それは、人材紹介の仕事にも通じる気がします。最初はご自分の理想や希望する企業にしか転職を考えていなかった方でも、新しい可能性をお話しすると、「そんな未来もあるのですね」と、一気に表情が変わる瞬間があるのです。
エリック:それは本当に価値のある仕事ですよね。単なる“転職支援”ではなく、その人自身も気づいていなかった可能性を引き出している。ある意味、人生の転機に関わる素晴らしい仕事だと思います。
関口:だからこそ、これからは企業も個人も、「どこに所属しているか」だけではなく、「どんな想いで働いているか」が、ますます問われる時代になっていくのかもしれませんね。
エリック:そう思います。だからこそ、人を惹きつける力や、相手をワクワクさせる力が、これからの時代はより重要になっていくと思います。
第3章|国際からグローバルへ― 30年で変化した、働く価値観とは

関口:1990年代、日本にはさまざまな外資系企業が入ってきました。当時は、「英語ができる」というだけで価値がある時代でしたよね。
エリック:ありましたね(笑)。今振り返ると、外資系企業そのものがまだ“お祭り”のような時代だったと思います。英語が話せるだけで評価されたり、外資にいること自体がステータスになったりしていた。でも、それだけで成立するほど、日本市場にもまだ隙があった。
関口:当時は、“外資系=かっこいい”という空気も強かったです。
エリック:まさに(笑)。ただ、その後大きく変わったのは、日本独自のカルチャーや価値観を、外国人や外資系企業の方がむしろ理解し始めたことだと思っています。一方で、日本企業は逆に“海外流”を追いかけすぎて、日本の良さを見過ごし、手放してしまった部分もあった。
本来、日本企業には組織力や、共生力、人を育てる文化、長期的な信頼関係など、世界に誇れる強みがありました。でも、それを「古い」と切り捨ててしまったところもあったと思います。
関口:確かに、この30年で企業の“グローバル化”に対する考え方も、大きく変わってきた気がします。以前は「海外に進出すること」がグローバル化でしたが、最近はそれだけではなく、企業としてどんな価値観を持ち、社会と向き合うのかまで問われるようになっていますよね。
エリック:そこはすごく大きいですね。昔は“インターナショナル”という言葉を使っていました。国と国の関係性が中心だった。でも今の“グローバル”は違います。単に海外展開していることではなく、「地球規模で考える感覚」を持っているかどうかなんです。
例えば環境問題や人権、ダイバーシティ。これは一企業、一国だけでは完結しません。企業活動そのものが、地球や社会とどう向き合うかを問われる時代になった。つまり、グローバルとは“地球規模で考えるマインドセット”なんですよね。
関口:だから最近は、商品やサービスだけではなく、「その企業が何を大切にしているのか」という姿勢そのものが、企業価値やブランド価値につながっているのですね。
エリック:そうですね。その一方で、AIも急速に進化しています。多くの人が「仕事がなくなるのではないか」と不安を感じていますが、僕はむしろ、この大きな変化や混乱を整理し、新しい方向性を示せる人が、次の時代をつくっていくのだと思っています。
関口:どういう人が、次の時代をつくっていくのでしょうか。
エリック:一つの専門領域だけではなく、世界全体を俯瞰して考えられる人ですね。AIだけではなく、人間、社会、地球環境、そのすべてをつなげて考えられる視点が必要だと思っています。
例えば、AppleのTim Cook氏のように、経営だけではなく、ダイバーシティや社会課題についても自分の言葉で語れるリーダーです。利益だけではなく、「企業としてどう社会に貢献するのか」という視点を持っている。Appleが輝いているのは、マーケティングだけではなく、その企業の強い想いをリーダー自らが体現し、発信しているからです。
今は、企業にも教育にも、「何のために存在するのか」が改めて問われている時代だと思います。単にマーケットがあるから参入するのではなく、「自分たちは何を信じているのか」という理念や哲学から始まる時代になってきているのです。

関口:それは、ISS Consultingが30年間大切にしてきた考え方にも通じる気がします。私たちは、単に人材をマッチングするのではなく、企業やCandidate一人ひとりに真摯に向き合い、その方が何を大切にしているのか、どんな想いを持っているのかを深く理解することを大切にしてきました。
また、「この企業は何のために存在しているのか」「この方はどんな人生を歩みたいのか」といった、本質的な部分まで対話を重ねながらご縁をつないでいく。それがISS Consultingの役割だと思っています。
エリック:それは、まさにISS Consultingの“美学”ですよね。結局、人も企業も、“美学”があるかどうかだと思うのです。何を大切にし、どんな姿勢で社会と向き合うのか。その軸を持っている組織や人には、自然と人が集まってくるのだと思います。
関口:この30年で大きく変わったことの一つは、「会社中心」だった時代から、「個人」が重視される時代へ移ったことだと思います。以前は、とにかく会社のために働くことが当たり前でした。でも今は、ウェルビーイングや自己実現といった言葉が広がり、一人ひとりが「自分はどう生きたいのか」を考える時代になりました。
エリック:僕もそこは非常に大きな変化だと思っています。ただ、だからといって会社依存に戻るべきだとは思わないのです。むしろ、一人ひとりが自分なりの成功を定義できることが重要になってきている。そういう人たちには誇りがありますし、企業側も、そうした個人をどう尊重し、活かせるかが問われていると思います。
その一方で、個人だけを重視すると組織はまとまりません。だからこそ、企業には「北極星」のような存在が必要なのです。私はこういう世界をつくりたい、この課題を解決したい、だから一緒にやろう――。そういう想いに共感して人が集まる会社は、これからさらに強くなると思います。

関口:私は、「なぜこの仕事をするのか」といった問いをずっと大切にしてきました。クライアントやCandidateのために本気で向き合いたい。その想いを共有できる人と働きたいと思っています。
エリック:まさに“共感でつながる組織”ですよね。今、青山学院大学でも、哲学やスポーツ、ビジネスと国際問題など、異なる分野を掛け合わせながら、「自分で考える力」を育てようとしています。知識だけではなく、「自分は何を信じるのか」を持てる人を育てたいのです。
最近は、SNSの影響もあって、正解を探しすぎる人が増えている気がします。でも、本来ビジネスも人生も、答えは一つではありません。だからこそ哲学が必要になる。自分で問い、自分で考える力が、これからの時代には欠かせないと思っています。
関口:結局、企業も教育も、「何のために存在するのか」が問われているのですよね。
エリック:本当にそう思います。そして、そこにAIも加わってくる。だからこそ、人間はもっと“感性”や“思想”を磨かなければいけない時代になってきているのだと思います。
第4章:変わらなかったもの:ISS CONSULTINGの本質とは何か
関口:この30年で、社会も企業も、人材市場も大きく変わりました。でも、その中でISS Consultingが変わらず大切にしてきたものがあります。それは、「誰と働くか」、そして「どんな想いで仕事をするか」ということです。
エリック:それは本当に重要ですよね。今、AIやテクノロジーが急速に進化していますが、僕はAIこそ「人間を人間らしくする存在」だと思っています。単純作業や確認業務はAIに任せればいい。そうすることで、人間はもっと“考える”ことや、“感じる”ことに時間を使えるようになるはずなのです。
関口:今まで多くの人が、「決められた役割」をこなすことを仕事だと思っていました。でも、これからは違いますよね。

エリック:はい。僕はこれから「創職」の時代になると思っています。つまり、“職業を与えられる”のではなく、自分で価値をつくっていく時代です。営業だから営業だけをやる、マーケティングだからそれだけをやる、ではなく、「クライアントのために何が必要か」を考えて、自分たちで形を変えていく。アメーバのように柔軟に変化していく組織が、これから強くなると思っています。
そのためには、強い信頼関係が必要です。そして、その土台になるのが、『Vision・Mission・Value』なのです。最近は言葉だけが独り歩きしているケースも多いですが、本来そこに共感できなければ、一緒に働くことは難しいと思っています。
関口:ISS Consultingでも同じです。30年前の創業以来、私たちが大切にしてきたのは、単に人を紹介することではありません。
クライアントの成長にどう貢献できるか。Candidateの人生にどのような可能性を生み出せるか。そのことを真剣に考え続けることでした。
成果はもちろん大切です。しかし、その成果も人との信頼関係の積み重ねの先に生まれるものだと思っています。だからこそ、同じ想いを持つ仲間と仕事をしていきたい。その考えは30年経った今も変わっていません。

エリック:それが、“北極星”がある組織ですよね。人は、共感できる理念があるから集まるのです。逆に言えば、理念のない組織は、AIが進化すればするほど生き残りが厳しくなると思います。
だからこそ、今必要なのは“余白”なんです。AIによって効率化された時間を、さらに仕事で埋めるのではなく、自分で考えるために使う。哲学やアート、本を読むこと、人と対話すること。そういう時間が、人間らしさを育てるのだと思います。
関口:確かに、最近は「考える力」が弱くなっていると感じることがあります。
エリック:そうです。だから僕は2027年度のカリキュラム変更のタイミングで哲学を取り入れています。ただ、難しい哲学を暗記するためではありません。「なぜ自分はここにいるのか」「なぜこの会社を選ぶのか」と、自分で問いを持てる人になってほしいのです。
さらに言えば、日本人はもっと日本文化を知るべきだと思っています。海外に行くと、日本の歴史や文化、工芸やアートに強い興味を持つ人が多い。でも日本人自身が、それを“知識”としてしか捉えていないことも多いのです。
本来、教養とは「楽しむこと」なんですよね。アートや歴史を通じて、人と共感し、対話が生まれる。その感性こそが、これからの時代の競争力になると思っています。
関口:ISS Consultingも、突き詰めるとそこなのかもしれません。単なる人材紹介ではなく、「人と人が出会うことで、新しい価値を生み出すこと」。それを30年間、ずっと続けてきたのだと思います。
エリック:だからこそ、ISS Consultingは“人間らしい会社”なんですよ。

第5章:これからの経営と人材 :AI時代に求められる人材とは
関口:AI時代に求められる人材というと、エリックさんはどのようなイメージを持っていますか?
エリック:その問いに対して、少し意外に聞こえるかもしれませんが、僕の研究室には『ドラえもん』が全巻置いてあるのです(笑)。
関口:え、ドラえもんですか(笑)。しかも全巻。



エリック:ええ。なぜかというと、未来を考える上で、『ドラえもん』ほど、本質的な作品はないと思っているからです。こんなこといいな、出来たらいいな、の世界観です。
今、多くの人は、AIについて、「このまま技術が進化したらどうなるのか」という延長線上で未来を考えています。でも、その未来予測はどうしてもネガティブになりがちなのですよね。仕事がなくなる、AIに支配される、不安だ――そうした話ばかりが先行してしまう。
でも、本来大切なのは、「自分たちはどんな未来を望むのか」だと思うのです。
例えば、『ドラえもん』って、未来の道具を通じて、「こんなことができたらいいな」「こんな世界になったら面白いな」という夢や希望を描いていますよね。つまり、“未来を楽しむ視点”がある。
僕は、これからの時代には、その感覚がすごく重要だと思っています。
こんな社会になったらいい。
こんな人生を送りたい。
そんな理想を描き、その未来を実現するために今何をすべきかを逆算して考える。僕は、それこそが“未来をつくる”ということだと思っています。
関口:未来は与えられるものではなく、自分たちでつくるものだということですね。
エリック:そうです。そして、そうした視点を持てる人こそが、AI時代に求められる人材なのではないかと思っています。
だからこそ、教育がとても重要なのです。今は情報が溢れすぎていて、多くの人が他人の価値観に流されやすい時代です。でも、本来、幸せの形は人それぞれ違っていていいはずなのです。
地位やお金も大切だと思う人がいてもいい。でも、それだけが幸せではない。
自分なりに「これが幸せだ」と思える人生を歩めることが、本当は一番大切なのだと思います。
関口:多くの経営者やExecutiveの方々とお会いしていても、役職や成功を手に入れた後に、「自分は本当に幸せなのか」と悩まれる方は少なくありません。

エリック:だからこそ、“比較対象”を変え直す必要があるのです。多くの人は100点を求めて苦しくなってしまう。でも僕は、1時間前、1日前の自分より、一歩でも前進していればそれでいいと思っています。
小さな幸せを感じ、それを深掘りしていく。その積み重ねが人生なのではないでしょうか。
関口:ISS Consultingも、人とのご縁を通じて、その“小さな幸せ”を積み重ねてきた会社なのかもしれません。誰かの話を聞き、その人が少し前向きになったり、新しい未来を見つけたりする。その瞬間に、この仕事の意味を感じます。

エリック:僕なりの考えではありますが、究極、人は人との関係性の中で幸せを感じるのだと思います。だからAI時代になればなるほど、人間には「問いを立てる力」や、「人を理解しようとする力」が求められると思っています。
そして、これから本当に必要なのは、“評論する人”ではなく、“一緒に未来をつくれる人”です。
アーティストが作品を生み出すように、自ら未来を描き、周囲を巻き込みながら、新しい価値を創造していく。そういう人材こそが、これからの時代に求められていくのだと思います。
関口:人にしかできないこと、例えば寄り添い、惹かれあうような感覚はなくなりませんよね。
エリック:まさにそうです。すべては“ストーリー”なんですよね。小説家や映画監督がすごいのは、人を惹き込み、最後まで読ませる力があるからです。そこには必ずストーリーがあり、「なぜこの物語を描いたのか」という強い意思があります。
僕は、これからのビジネスや教育にも、その視点が必要だと思っています。人材紹介も、単に「この人をどの企業に紹介するか」という時代から、「この人はどんな人生を歩みたいのか」「この企業はどんな哲学を持っているのか」を深く結びつける時代に変わっていくと思うのです。
関口:確かに、私たちの仕事も、Capabilityだけを見るのではなく、その人の価値観や美学まで含めて向き合っています。
エリック:だからこそ、これからの人材紹介には、“人を幸せにしたい”という想いが必要なのだと思います。ただマッチングすればいいわけではない。相手を理解し、リスペクトし、その人が本当に輝ける場所を考える。そこまでできる会社が、これから本当に価値を持つようになると思います。
そして、僕も学生たちにもいつも伝えているのは、「企業に選ばれる側になるな」ということです。企業に好かれる自分を作ろうとすると、自分らしさを失ってしまう。本当に大切なのは、自分がどう生きたいか、自分は何を大切にしたいのかを持つことなのです。
関口:そうですね、人にとって大切なのは、“自分らしく生きられているか”ということなのかもしれませんね。
エリック:本当にそう思います。そして、その“自分らしさ”というのは、一人で完成するものではなく、人との出会いや対話の中で育まれていくものだと思っています。
関口:“自分らしさ”は、一人で完成するものではなく、人との出会いや対話で育まれる・・・素敵な表現ですね。
今回の対談も、振り返ってみると、最初は「人に会うこと」の価値から始まりました。そして、AI、哲学、教育、未来の話へと広がっていきましたが、最後はまた、「人と向き合うこと」に戻ってきた気がしています。
エリック:そうですね。テクノロジーが進化し、働き方や社会の形が変わっても、人が人を理解しようとすること、その価値だけは変わらないのだと改めて感じました。
関口:ISS Consultingも、この30年間ずっと、「人に向き合うこと」を大切にしてきました。これから先の時代も、その本質だけは変わらずに持ち続けていきたいと思っています。

エリック:本当に素晴らしいことだと思います。改めまして、ISS Consulting 30周年、誠におめでとうございます。
関口:ありがとうございます。これまで支えてくださった多くの方々への感謝を胸に、これからも“人と人とのつながり”を大切にしながら、次の未来へ歩んでいきたいと思います。
最終章:30周年メッセージ 感謝と次の30年へ
私たちは人を動かす仕事をしているわけではありません。
誰かの人生を決めることでもありません。
ただ、その人が自分自身に納得し、自分の選択に意味を見出しながら前に進めるように、そっと支えているだけです。
その積み重ねの中で、自然にご縁がつながり、それがまた新しい意味を生んでいく。
それが、この30年続いてきた理由であり、これからも大切にしていきたいISS Consultingの美学です。
そして、このような在り方を続けてこられたのは、私たちだけの力では決してありません。
これまで出会ってきたクライアントの皆さま、そして転職を考え、人生の大きな意思決定の場面で私たちを信じてくださったCandidateの皆さま、その一つひとつのご縁があったからこそ、私たちはこの仕事を続けることができました。
一つの出会い、一つの対話、そのすべてが私たちにとって学びであり、支えであり、ここまでの歩みそのものです。
改めて、これまで関わってくださったすべての皆さまに、心から感謝を申し上げたいと思います。
これからも私たちは、自分を偽らずに生き、他者のために力を使い、ご縁に感謝しながら、自然に立ち上がる関係性を丁寧に紡いでいく。その在り方を大切にしながら、次の30年に向かっていきたいと思います。

「出会いの先にある未来へ ― Editor’s Note」
今回の対談を通じて、最も印象的だったのは、「問いを持ち続ける力」でした。
エリック氏は対談中、終始「なぜ」「どうして」という問いを自然に投げかけ続けていました。AI、教育、哲学、アート、人材、経営――話題は多岐にわたりながらも、その根底には一貫して、“人はどう生きるべきか”というテーマが流れていたように思います。
「常に問いで生きてきた」と語るエリック氏。その問いは、好奇心へとつながり、さらに“ワクワク”する感情へと変わっていくのだといいます。
実際、対談中のエリック氏は、次々と新しい視点やアイデアを語り続けていました。それは単なる知識量ではなく、「もっと知りたい」「もっと面白くできるはずだ」という純粋な探究心から生まれているように感じました。
そして、その姿勢は、ISS Consultingが30年間大切にしてきた価値観ともどこか重なります。
人に会うこと。
人の話を聞くこと。
相手を理解しようとすること。
そして、その人の未来に本気で向き合うこと。
テクノロジーが進化し、社会が大きく変化していく時代だからこそ、こうした“人間らしさ”の価値は、より一層高まっていくのかもしれません。
対談の最後、エリック氏は「たくさんのワクワクを抱えながら生きている」と笑いながら語っていました。
30周年という節目に行われた今回の対談が、読者の皆様にとっても、新たな問いや、小さなワクワクにつながるきっかけとなれば幸いです。
Text&Edit by ISSコンサルティング 安齋陽子
Photo by 公文健太郎



