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CxO Dialogue Series Vol.07

デジタルで人を動かす――日本ロレアル 上久保 学氏の“ひと”を軸にしたリーダーシップ論とは

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日本ロレアル株式会社
デジタル戦略統括本部 本部長
上久保 学氏

早稲田大学を卒業後、P&Gに入社。営業、オンラインビジネス、ヘアケアブランドのトレードマーケティングなど、幅広い領域でブランド成長を牽引。2019年に日本ロレアルへ入社し、プロフェッショナルプロダクツ事業本部デジタル部にてデジタルマネージャーを務める。2021年、日本ロレアル リュクス事業本部 デジタルマーケティング戦略本部長に就任。2023年9月より現職。

公開日:2025年12月12日
※インタビュー実施時の御所属・役職名にて記載させて頂いております

テクノロジーが劇的に進化し、AIがビジネスのあらゆる領域に浸透する時代となりました。デジタルはもはや特定の部門のものではなく、企業の血流そのものといえる存在です。
日本ロレアル デジタル戦略統括本部 本部長の上久保 学氏は、その最前線で「人とテクノロジーの共鳴」をテーマに、組織変革とブランド成長を牽引してきたリーダーです。
営業・eコマース・ブランドマネジメントを経て、現在はCDO (Chief Digital Officer)として全社のデジタル戦略を統括する上久保氏。AIやデータの力に“人の感性”を融合させることで生まれる、新しいリーダーシップのあり方について伺いました。

生物学とデジタルの狭間で見つけた「人と関わる喜び」

学生時代は生物学を専攻されていたそうですね。もともと生物がお好きだったのですか?

はい。小学生のころから恐竜や生き物が大好きで、映画ジュラシック・パークのDNA復元のシーンに衝撃を受けたのを覚えています。将来は獣医になって動物を助けたいと思い、大学では細胞分裂やDNAの研究を行っていました。卒業研究ではES細胞の複製に取り組みましたが、研究は地道で、同じ作業を何度も繰り返します。もちろん科学の面白さはありましたが、「自分はもっとスピード感を持って、チームで成果を出したいタイプだ」と気づいたのが就職活動の原点です。

人との関わりを重視するキャリアを選ばれたのですね。

そうですね。生物学で得た「観察力」や「構造的に物事を捉える視点」は、実はデジタルマーケティングでも活きています。ユーザーの行動データも、ある意味で、生きた現象です。数字を分析するだけでなく、その背後にある人間の心理や行動原理を読み解く――これは研究で学んだ思考プロセスに近いものがあります。

人とのつながりがキャリアを導く――挑戦の原点

就職活動ではどのような業界を志望されたのですか?

最初はメーカーを中心に見ていました。生活者の目線で商品を考え、人に届けるプロセスに関われることが魅力的だったからです。中でもP&Gの面接では、「消費者理解がすべての起点」という考え方に強く共感しました。研究で得た分析力を、人の心を動かす方向に使えるのではないか、と感じた瞬間でした。

その後、実際にP&Gでどのような経験を積まれたのでしょうか。

最初は営業として店舗を回り、消費者の声を直接聞くことからスタートしました。現場での学びは大きく、数字の裏にある「人の行動」を理解することの大切さを実感しました。最初に転勤した仙台の後、神戸、東京と異動を重ねながら、約10年間営業に携わりました。やがてオンラインビジネスやヘアケアブランドのトレードマーケティングにも携わり、デジタルとリアルをつなぐ経験を積んでいきました。

オフライン営業とオンライン営業、どんな違いを感じましたか?

店舗営業はお客様の行動を直接店舗で観察し、現場を統括する店舗担当者様と直接会って話すことが醍醐味です。一方でeコマースは、クリックや購買データを通じて“見えない顧客の声”を読み解く世界。どちらも「人を理解する力」が鍵になります。オンラインの数字の裏にも、リアルな人の行動や感情がある。それを想像しながら改善していくのが面白かったですね。

eコマースの経験は、今のデジタル戦略にもつながっていますか?

間違いなくつながっています。あの頃は「デジタル」といっても限られた範囲でしたが、そこで得た“データを通じて人を見る視点”は、今のマーケティングの基盤になっています。P&Gでのeコマース経験が、私のキャリアを大きくデジタルの方向へ動かした最初のターニングポイントでした。
そして、ブランドを育てるというのは、単に商品を売ることではなく、消費者の行動や感情の変化を読み解くこと。その意味では、研究でデータを観察する姿勢と、P&G時代で培った営業で人を見る感覚の両方が、今の仕事の土台になっています。

データの海に“人間の感情”を見出す――アルゴリズム時代のマーケティング哲学

マーケティングの現場では、データに偏りすぎて「人の感情」が置き去りになることはないのですか?

まさにそこが課題だと思います。数字は正確ですが、完璧ではない。たとえば、データ上ではコンバージョン率が低くても、ブランド体験としての満足度が高いケースもあります。そうした定量化できない価値をどう理解し、どう意思決定に組み込むかが、デジタルマーケターの腕の見せどころです。私はいつも「データを読む」だけでなく、「データの隙間にある声を聴く」ことを意識しています。

非常に印象的なお言葉です。“データの隙間にある声”とは、具体的にどんなものですか。

例えば、あるキャンペーンで数字的には平均的な成果しか出ていなくても、SNSのコメント欄には「このブランドの考え方に共感した」という声が並ぶことがあります。その感情の動きこそ、ブランドが持つ生きた価値なのです。数値的に測れない共感が、次の購買につながることも多い。だからこそ、アルゴリズムと感性を行き来する視点が欠かせません。

ロレアルのCDOとして、その哲学はどのように活かされていますか?

ロレアルでは、デジタルを「売上を上げる手段」ではなく、「ブランドの存在意義を伝える手段」として位置づけています。アルゴリズムがどんなに進化しても、最終的に人の心を動かすのはストーリーです。アルゴリズムの向こう側にいるひとりの生活者の気持ちに想像力を持てるかどうか。人間らしさを失わないマーケティングができるかどうか。そこに、デジタル時代のマーケターの本質があると思っています。

ブランドとサロンをつなぐオンラインの扉――ケラスターゼ公式店立ち上げに込めた使命

ロレアルへの転職後、最初に手掛けられたプロジェクトが「ケラスターゼの公式オンラインショップ立ち上げ」だったそうですね。

はい。最初に担当したのは、ECサイト上での「ケラスターゼ公式ショップ」立ち上げでした。サロン専売ブランドが自社の公式オンライン店を持つのは当時では非常に珍しいことでした。従来のサロンビジネスは、カウンセリング販売が基本。お客様と美容師の信頼関係の上に成り立っており、オンライン展開は「対面の価値を壊すのではないか」と懸念する声も多かったことを覚えています。

サロン現場とのバランスが大きな課題だったのですね。

その通りです。オンラインで販売することは、サロン様の売上を奪うという誤解を招くリスクもありました。しかし一方で、消費者の購買行動はすでに変化しつつありました。サロンで商品を勧められても、帰宅後に「やっぱり買いたい」と思っても買える場所がない。そうした購入機会の損失を補う場として、正規品を安心して買える公式ストアをつくることが必要だと考えました。

ブランド価値と流通の健全化、両方を守るための戦略だったと。

ええ。オンラインで展開することによって、これまでケラスターゼを知らなかったお客様にブランドの世界観を伝えることができました。オンラインでの露出が増えた結果、「あのラグジュアリーなブランドを扱っているサロンは上質だ」という好循環が生まれ、サロン側にもメリットが還元されていきました。

ロレアルに入社して、これまでのご経験と組織文化の違いを感じた部分はありますか?

入社したとき、ロレアルは人同士の距離感が近いな、と思いました。ロレアルには「チームで考え、共に動く」カルチャーが根付いています。メンバー同士の会話から自然にアイデアが生まれ、それが企画につながる。上司や同僚との距離が近く、信頼をベースにした風通しの良さがあるのです。

変化を恐れず、生活者に寄り添う――リュクス事業で磨いたデジタル戦略のアジリティ

ロレアル リュクス事業本部では、どのようなミッションを担われていたのですか。

リュクスではCDMO(Chief Digital Marketing Officer)として、デジタルマーケティング全般を統括していました。大きく3つの柱があり、ひとつはeコマースの拡大、次にPOEメディア戦略(Paid, Owned, Earnedの最適化)、そしてCRMを中心とした顧客データの活用。この3つの軸を通じて、ブランドごとに最適なデジタル体験をどう設計するかを考える日々でした。

扱うブランドの幅も非常に広いですよね。

ラグジュアリー系のスキンケアやメイクアップブランドが中心でしたが、それぞれのブランドには異なる個性と顧客層があります。たとえば、スキンケアが強いブランドとメイクアップに強いブランドでは、訴求ポイントもチャネルの強みもまったく違う。ですから、各プラットフォームの特性を見極め、「どのブランドがどの場で最も輝くか」をチームで徹底的に検証していきました。

この時期はちょうどコロナ禍で、生活様式も大きく変化していました。

まさにそうです。対面接客が制限され、オンラインに急速にシフトせざるを得ない状況でした。しかしロレアルのすごいところは、その変化を一瞬でチャンスに変えるアジリティです。投資やリソースを即座にオンラインへとシフトし、全社で一体となって対応した。社員一人ひとりの柔軟性とレジリエンスの高さを実感しました。

コロナ禍はデジタル化の加速を促す契機でもあったと。

はい。オンライン購入の利便性が広く浸透した一方で、リアルな接客の価値を再認識する声も増えました。つまり、オンラインとオフラインのどちらか一方ではなく、それぞれの強みを活かして、つながる体験をどう作るかが重要なのです。店頭でのアドバイスや試用体験と、オンラインでの利便性やパーソナライズをどう融合させるか――そのバランス設計が、いまのデジタル戦略の核心だと思います。

“リアル”が共感を生む――インフルエンサー時代のブランド発信術

リュクス事業本部でのデジタル戦略の中でも、インフルエンサーマーケティングの推進が大きな柱だったとか。

SNSやメディアにおける投資配分を見直しながら、ブランドごとに最適な戦略を立てるのが重要でした。たとえば「このカテゴリーはどのSNSへの投資が有効か」「どのメディアが効率的に認知を広げられるか」といった判断を、データに基づいて設計する。そのうえで、ブランドの世界観を壊さず、インフルエンサーの個性を活かすフレームを構築していきました。

上久保さんはインフルエンサー施策に関してそれまで未経験だったそうですが、どのようにキャッチアップされたのでしょうか。

まずは「何が起きているのか」を現場で観察することから始めました。メディア担当のスペシャリストやエージェンシーの方々に積極的に話を聞き、実際の実行プロセスを徹底的に学びました。戦略を机上で描くだけでなく、運用のリアルを理解する――そこに本質があると思っています。チームには30〜40名ほどのメンバーがいましたが、3〜4名のメディアスペシャリストが特に重要な知見を持っていたので、彼らから多くを吸収しました。

チームとの学びのサイクルが、そのまま戦略構築の力になったのですね。

そう思います。私は常に目的を起点として考えることを意識していて、インフルエンサー施策も、「何を達成したいのか」から逆算して戦略立案とフレーム設計をしていました。数字の成果を追うことは大切ですが、結局はブランドと消費者の関係をどう深めるかが目的。そのために、チームやエージェンシーと対話しながら方向性を磨いていくプロセスを何より大切にしています。

CRMやデータ分析の領域にも踏み込まれていたとか。

チームのエキスパートが強くリードしてくれたので、私は会社としての方向性がズレないように意識をしました。CRMは“データ×感性”の融合領域だと思います。お客様の購買履歴や行動データを見て終わりではなく、「このメールを受け取った人はどう感じるか」「このタイミングで送る意味はあるか」といった人間的な視点を持つことが欠かせません。データの裏にあるインサイトを探るため、チームがワークショップを開いて議論をリードしたことは素晴らしい企画でした。その中から「本当に喜ばれる顧客体験とは何か」という気づきが生まれ、施策の改善につながっていったと思います。

AIは「スピード」と「創造性」をつなぐ――人とテクノロジーが共鳴する次世代マーケティングへ

デジタル戦略の領域において、AI活用はどのように進化しているのでしょうか。

現在、ロレアル全体でもAIを活用した変革が進んでおり、各部門がそれぞれの課題に応じて新しいソリューションを模索しています。私のチームでもAIの導入を積極的に進めていますが、まず注目しているのはオペレーションの効率化です。マーケティングの現場では、データ集計や分析に膨大な時間を費やすことが多い。そこにAIを活用することで、分析のスピードを飛躍的に高め、より早く意思決定できる環境を整えていきたいと考えています。

データ処理の効率化が第一歩、ということですね。

はい。しかし、AIの価値はそれだけではありません。むしろ私が注目しているのはクリエイティビティの加速です。たとえば、キャンペーンのアイデアを出す際に、以前はチーム内でのブレストや対話を何度も重ねていました。今ではAIを壁打ち相手として活用し、短時間で複数の仮説を立てることができます。AIにアイデアを投げ、消費者がどんな反応を示すかをシミュレーションすることで、精度の高いインサイトを迅速に得ることができるようになりました。これにより、PDCAサイクルのスピードが格段に上がっています。

一方で、AI活用には使い方のスキルも求められますね。

その通りです。AIは万能ではなく、問いの立て方、つまりプロンプトの設計次第で結果がまったく変わります。同じ質問をしても、表現や文脈が違えば出てくる答えも違う。ですから、AIを使いこなすためには、私たち自身の“質問力”を高める必要があります。AIが導くのは正解ではなく、あくまで可能性の一つ。だからこそ、問いを磨くことが、マーケターの新しいスキルセットになっていくと感じています。ロレアルでは、プロンプト作成の技術を学んでAIへの質問力を高めるための研修が、グローバルでも日本でも数多く開催されています。時代に求められる最新のスキルを、すべての社員が習得して成長できる環境が整っていると思います。

それでも、AIにすべてを委ねるわけではないのですね。

もちろんです。AIはあくまで支援者であって、意思決定の主体は人間です。AIの提案を鵜呑みにするのではなく、「なぜこの結果が出たのか」「背景にどんな行動や感情があるのか」を読み解くことが大切です。AIが導くのは効率ですが、ブランドが追求すべきは“共感”です。AIをどう使えば人の心に響くのか――そこに人間の感性が求められます。ですから、AI時代のマーケターには「ロジカルに考える力」と「感情を読み取る力」、この両方が必要になるでしょう。

AI時代のチーム運営にも変化はありますか。

AIを導入することで、チーム全体の仕事の質も変わり始めています。たとえば、単純なデータ処理やレポーティングはAIが代替し、メンバーはより戦略的な思考やクリエイティブに集中できるように徐々になってきている。つまり、人が人にしかできない仕事に時間を使える環境が生まれているのです。私はチームに対して、常に「AIに仕事を奪われるのではなく、AIとともに進化する人であってほしい」と思っています。

ロレアルでは過去2年間、「Make Time for What Matters Most(最も大切なことに時間を使おう)」というスローガンのもと、業務の効率化と簡素化に本気で取り組んできました。実際に社員からも、ワークライフバランスや心理的安全性が向上したという声が聞こえていますが、AIはこれからのチーム運営にも大きく貢献してくれるでしょうね。

AIと人間が共創する時代におけるマーケティングの理想像を教えてください。

AIの力でスピードと効率が飛躍的に高まる一方で、人間が担うべき役割はますます“感情”や“意味合い”の領域になっていくと思います。AIが生成するコンテンツは膨大ですが、そこに「なぜこのビジュアルを使うのか」「なぜこの言葉が響くのか」という物語を与えるのは人間の役目です。私はAIを、感性を磨く鏡として捉えています。AIとの対話を通じて、自分たちのブランド哲学をより深く理解し、より明確に語れるようになる――そんな未来を描いています。

化粧品やトレンドを扱うビジネスだからこそ、ロレアルでは“人間らしさ”が求められるのです。テクノロジーと感性が共鳴することで、マーケティングはより豊かで創造的なものへと進化していくはずです。

ローカルとグローバル、それぞれのバランスも重要ですよね。

はい。ロレアルの強みは、グローバルで統一されたトーン&マナーを保ちながら、ローカル市場の文化や感情に合わせて最適化できる点です。グローバルがプロダクトのコアメッセージを定義したとしても、それを基にローカルならではの共感軸を作り上げるのは各国です。そこにブランドの生命力が宿ります。AIやテクノロジーが進化しても、最後に心を動かすのは人の発想です。だから私は、ローカルの自由度をどう確保するかも重要な要素だと考えています。自由とは勝手気ままではなく、“ブランドの哲学を理解した上での創造”。その力を育てるのがリーダーの仕事だと思っています。

未来を描き、現実を動かす――AI時代のビューティビジネスを導く、フューチャリスティック×リアリスティック思考

リュクス事業本部から全社のデジタル戦略を統括される立場へ。CDOとしての役割にはどのような変化がありましたか。

スケールと責任の重さが非常に大きくなりました。事業部という枠の中では、オンラインのPL(損益責任)を持ちながら、ブランドごとに戦略を構築していく立場でした。しかしCDOというポジションでは、PLを直接持たない分、「どのように全社に影響を与え、成果を共創するか」という視点が求められます。言い換えれば、「インフルエンスを通じて成果を出す役割」です。単なる支援部署ではなく、事業部と共にビジネスをドライブさせる存在でなければなりません。

事業部のリーダーたちと並走する中で、意識していることはありますか。

最も大切にしているのは、「フューチャリスティック(未来志向)」と「リアリスティック(現実志向)」の両立です。デジタル戦略本部は、会社の未来を見据えて新しい挑戦を提案する立場である一方、現場の課題を即座に解決する現実的な対応力も求められます。この二つのバランスが崩れると、ビジョンだけが先行して実行が追いつかなくなるか、逆に目の前の対応ばかりに終始して革新が止まってしまう。ですから、私はいつも「遠くを見ながら、足元を固める」ことをチームに伝えています。

「信じて任せる」がチームを動かす――ビジョンが導く自律型組織のつくり方

これまで多くの変革をリードされてきた中で、上久保さんが考えるリーダーシップの本質とは何でしょうか。

私が大切にしているのは、「すべてを自分で決めない」ということです。リーダーというと、方向を示し、判断し、チームを導く存在だと捉えられがちですが、実際の現場では信じて任せる力が何よりも重要だと感じています。

私がリュクス事業のCDMOを務めていたときも、チームにはそれぞれ高い専門性を持ったメンバーがいました。メディア、CRM、Eコマース、クリエイティブ──領域は異なりますが、みんな自分の分野に誇りと情熱を持っている。だからこそ、私は方向性のフラッグ(旗)を立てることに集中し、その先の道筋はチーム自身が描けるように支援することを意識していました。

チームをエンパワーするために、具体的に意識していることはありますか?

一つは、「心理的安全性」をつくることです。どんなに優秀な人でも、失敗を恐れて発言できない環境では力を発揮できません。そのため、「心理的安全性」が保たれた職場であることは、ロレアルではとても重要なことなのです。私はよく「間違ってもいい」「意見を出すことが価値だ」と伝えています。議論の中で考えがぶつかることもありますが、違う意見が出るからこそ、より良い答えが見つかる。多様なバックグラウンドを持つメンバーが安心して意見を交わせる環境を整えることが、リーダーの大事な仕事だと思います。

チームに多様性があるからこそ、視点の広がりも生まれますね。

そうですね。特にロレアルは、さまざまな国籍・バックグラウンドの社員が集まるグローバル企業です。価値観の違いがあるのは当然で、そこに違和感を覚える瞬間もあります。しかし、その違和感こそが新しいアイデアの源泉になる。たとえば、ミーティングで「それ、なぜそう思うの?」と質問すると、まったく異なる視点が返ってくる。それが思考を刺激し、結果的にプロジェクトがより立体的になっていきます。リーダーは正解を知る人ではなく、多様な視点を束ねる人であるべきだと思います。

現在のCDOチームを、どのような組織にしていきたいと考えていますか。

3つの軸で考えています。
ひとつは、「常に新しいことに挑戦できるチーム」であること。事業部のように短期のPL責任を負わないからこそ、会社全体にとって必要な中長期のチャレンジを推進できる。業界の外にも目を向け、異分野から学ぶ姿勢を大切にしています。カンファレンスで出会った異業種企業のソリューションを導入したこともありましたね。こうしたオープンな探索活動こそ、次のビジネスを生み出す源だと思います。

二つ目は、「強固なパートナーシップを築けるチーム」。AI時代において、すべてを自社で完結するのは不可能です。ロレアルの強みは“ビューティとテクノロジーの融合”にありますが、私たちはテックカンパニーではありません。だからこそ、専門パートナーとWin-Winの関係を築き、互いの知見を掛け合わせることが重要です。そのためには、チーム全員が「人間味あるビジネスパートナー」であること――つまり、信頼され、一緒に仕事をしたいと思われる存在であることを大切にしています。

そして三つ目は、「一人ひとりが成長実感を持てるチーム」。デジタル戦略本部は全社横断組織ゆえに、ブランドごとの事情を理解しながら全体最適を考えなければなりません。その難しさを乗り越えるためには、個々が自分の役割に誇りを持ち、常に学び続ける姿勢を持つことが不可欠です。ロレアルには、若手メンバーでもシニアマネジメントに直接提案する機会が当たり前にあります。その経験を通じて、思考力もビジネス感覚も飛躍的に成長できる環境にしたいと思っています。

ロレアルのCDOとして描く未来のビジョンを教えてください。

外から見ても、社内の人から見ても、「ここなら成長できる」「ここなら未来を動かせる」と感じてもらえる組織でありたいと思います。ロレアルには、挑戦を恐れず、変化を楽しみ、仲間を信じるカルチャーがあります。AIやデータがいくら進化しても、最終的にブランドを動かすのは人の情熱だと思っています。テクノロジーと人間性、その両輪を回しながら、ロレアルが描く「美の未来」を次のステージへ導いていきたいですね。

そして、”ぶれない”ことも大事ですね。環境が変わっても、トレンドが移り変わっても、ブランドの哲学や自分の価値観を見失わない。ロレアルは130年以上の歴史の中で常に変化を恐れず、進化を続けてきましたが、根底には「世界をつき動かす美の創造」という信念があります。それをどう現代的にアップデートし続けるかが、私たちの使命です。AIもテクノロジーも、そのための手段でしかありません。

巻き込み、響かせ、広げていく――グローバル時代に求められる“共感で動かすリーダーシップ”

これまでのキャリアを通じて、どのようなリーダーでありたいと考えるようになりましたか。

一言で言えば、「人を動かし、未来をつくるリーダー」でありたいと思っています。デジタルマーケティングの責任者として、若いメンバーが挑戦し、学び、成長できる環境をつくること。それが、私のリーダーとしての仕事です。
また、私がフォーカスするのは、個の成果ではなく「チームとしての成果」です。スケールのある仕事を実現するには、自分ひとりでは完結しません。とくにデジタル戦略本部のような全社横断の機能では、どんなに素晴らしいアイデアも、関係者との合意形成がなければ前に進みません。だからこそ、他部署を巻き込み、共に動かす「共創力」が問われます。

その共創力(巻き込み力)は、どのように育まれてきたのでしょうか。

まず大切なのは「相手の視点で考えること」です。自分のゴールを押し通すのではなく、相手の課題や優先順位を理解し、「この取り組みがあなたにも価値をもたらす」と伝える。そうすることで初めて、真のパートナーシップが生まれます。
AIやテクノロジーの変化が激しい時代だからこそ、スピードと丁寧さの両立が鍵です。リーダーは、“早さ”だけでなく“響かせ方”を知る人でなければなりません。

これからのリーダーを目指す方々へメッセージを。

私自身、今後は日本だけでなく海外にもポジティブな影響を与えられるリーダーになりたいと思っていますが、どんなに結果を出しても、「この人と一緒に働きたい」と思われなければ、真のリーダーとは言えません。逆に、国や文化が違っても、「共感」と「信頼」があれば、つながることができます。常に誠実に、勇気をもってチャレンジすることが、これからのグローバルリーダーには必要だと考えています。

そして変化の速い時代では、正解がない状況で判断しなければならないことも多い。でも、AIがどれほど進化したとしても、最後に人を動かすのは「心」です。
ビジョンを語る言葉の力と、データやファクトからロジカルに考える力、共に進む仲間を信じる力。それらがあれば、未来は必ず切り拓けます。次の世代を導く皆さんには、ぜひそういった力を、自らの中に育ててほしいと思います。

多様性が生み出す強さ――ロレアルが貫くフェアネスと挑戦の文化

ロレアルのカルチャーを端的に表すと、どのような言葉が浮かびますか。

「フェアネス」と「アントレプレナーシップ」ですね。自分がやりたいことをきちんと提案し、ステークホルダーを巻き込んで合意を取れば、本当にプロジェクトを動かせる。私自身も入社からわずか数ヶ月で、ケラスターゼ公式ショップの立ち上げを構想し、半年でローンチまで進めることができました。このスピードと信頼の文化は、まさに起業家精神の象徴です。

ダイバーシティもとても重要視されていますよね。

ロレアルのブランドは多様ですから、それを創り上げる私たち自身が多様である必要があります。ジェンダーも、職階も、これまでの経歴も関係なく、誰もが尊重しあって活躍している会社なので、この多様性もフェアネスの上に成り立っていると言えますね。それぞれの多様なバックグラウンドや価値観がビジネスをドライブしていく。これがロレアルの組織を強くしていると感じます。

最後に上久保さんの考えるロレアルという企業の魅力を教えてください。

「信頼されながら挑戦できる会社」です。大きな組織でありながら、意思を持てば自ら道を切り拓ける。誰にでもチャンスがあり、どんな背景を持つ人も平等に評価される。笑顔とフェアネスを軸に、互いを尊重しながら前進していく――それがロレアルの強さであり、私がこの会社を心から誇りに思う理由です。

ありがとうございました。

日本ロレアル株式会社

世界最大の化粧品メーカーであるロレアルグループの日本法人。「世界をつき動かす美の創造」という企業理念のもと事業を推進しています。日本はロレアルグループの中でも重要な戦略的拠点のひとつであり、シュウ ウエムラとタカミの 2つのブランド本部機能(商品企画やグローバル展開施策を策定)と、その他のブランドの営業・マーケティング等を担う新宿本社、全国に配置された支社に加え、川崎の研究開発拠点(日本ロレアル リサーチ&イノベーションセンター)、御殿場の製造工場(株式会社コスメロール)で構成されています。

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