業界のリーディングカンパニー合同セミナー
『デジタルヘルスケアの経営戦略』セミナーレポート
デジタル変革期におけるリーディングカンパニーの経営戦略セミナー第2回テーマは“AI・IoT×ヘルスケア”。注目を集める医療・ヘルスケア領域で、デジタルテクノロジーを活かした変革に挑む企業2社、日本IBMとGEヘルスケア・ジャパンが登壇。各社のキーマン2名をゲストに、デジタルヘルスケア戦略の今と未来についてのトークセッションを行いました。
PRESENTATION
プレゼンテーション
パネルディスカッション
PRESENTATIONプレゼンテーション
デジタルヘルスケア領域の
コグニティブ・ビジネス戦略る
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業
ヘルスケア・ライフサイエンス事業部 パートナー事業部長
金子 達哉氏
Watsonを使って
白血病の突然変異を見抜く
日本IBMのヘルスケア・ライフサイエンス事業部は現在120名程度の組織ですが、今年だけですでに20名ほど採用している成長中の組織です。その私たちが取り組む「コグニティブ・ビジネス」を紹介します。私たちはIBM Watsonを2013年にローンチしましたが、Watsonは現在すでに世界で10兆円ほどの売上を上げています。これはIBMの売上全体の約10%。AIビジネスの成長ぶりと可能性が窺える数字です。実際、ヘルスケア・ライフサイエンス領域での可能性は大きく、たとえば「臨床でAIのサポートを受けたいと答えた医師」は76%、「AIが確定診断をする未来がくると答えた医師」は85%もいます。その一方で、ビッグデータやAIを十分に活用できていると答えたヘルスケア・ライフサイエンス企業のCEOは、たった6%。期待は高まっていますが、企業はまだ使いこなせていないのが実情です。
Watsonの強みは何と言ってもデータ量です。ゲノム、化合物、論文などの良質なデータ量は、他社には真似できません。その優位性を活かして、日本でもいくつもの実績を残してきました。たとえば、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長・宮野悟教授との共同研究では、Watsonがゲノム解析を通じて、ある女性患者の白血病の突然変異を見抜き、病状の回復に貢献しました。また、国立循環器センターとの共同研究では、日本人の死因の1/4を占める循環器病の発症リスクや重篤化リスクを、Watsonを使って正確に予測するプロジェクトを進めています。Watsonが膨大なカルテ情報、患者さんの訴え、看護師さんの記録などを読み込むことで、リスク予測の精度を10%ほど高めることに成功しています。今後は、脳卒中・心不全などのリスク予測も行っていきます。
さらに、AMED(日本医療研究開発機構)とは、難治性疾患実用化の共同研究を進めています。この研究ではさまざまな取り組みを進めていますが、一つだけ紹介すると、病因を確定する病理医の先生方とWatsonの実力を比較するプロジェクトがあります。現在、Watsonが画像を見て病因を判断する確信度は85~90%ほど。これは、病理医の先生方と比較してもかなり高い数値です。Watsonは、病理医としてもすでに優秀なのです。
プレ疾患の定義化も可能になるだろう
医療機関向けだけでなく、ヘルスケア企業のお客様向けのサービスもいくつか紹介します。たとえば、「Watson for Drug Discovery」という創薬研究支援サービスは、日本でも6社のお客様が活用しています。「Watson for Patient Safety」は、AIを使って患者の安全性を確保するサービスです。また、Watsonがお客様の営業社員一人ひとりの人柄や地域特性などを分析して、「MRロールモデル指数」を出し、その指数に基づいて生産性を上げるためのアドバイスをする営業支援サービスなども行っています。
今後、リアルワールドデータとAIは、中長期的には「個別化医療」を間違いなく実現するでしょう。また、疾患予測モデルを確立できれば、プレ疾患の定義化も可能になるはずです。つまり、「プレ心筋梗塞」「プレ脳梗塞」などがわかるようになるのです。さらに、いまだに治療法が見つかっていない疾患の治療法を特定し、「アンメット・メディカル・ニーズ」に応えることもできるでしょう。このようにして、Watsonは今後も新たな価値を創出し、ビジネス変革を起こすことに貢献できると考えています。
これからの日本の医療に対応する
Brilliant Hospital構想
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
執行役員 イメージング本部長 兼 東日本統括本部長
毛受 義雄氏
IoTで製品の故障を予知し、壊れないようにしている
GEヘルスケアは、全世界でMRI・CT・超音波診断装置などの画像診断装置を主に製造・販売する組織で、世界全体の売上は2兆円規模です。ハードウェアのほかに、造影剤などのウェットウェア、クラウドストレージなどのソフトウェアも扱っています。GEヘルスケア・ジャパンは、GEが世界中に持つ450ほどの工場のなかで、たった7つしかない「ブリリアント・ファクトリー」に選定された日野工場を持っており、そこから日本モデルの高質な機器装置を世界に発信することで、グローバルで高い評価を受けています。
ところでいま、日本の医療は医療費の増大・税収の減少などで大変な局面を迎えています。その状況を打破するため、国は病院を「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」に分け、機能を分化することで、看護師の比率を減らし、病院の在日数を短くしようとしています。同時に、いくつかの病院が連携することで「医療圏」を形成し、その範囲内の患者にバランスよく対応する体制を整えようとしています。
私たちは、こうした状況を踏まえて、いま3つの成長戦略を打ち出しています。1つ目は「ケアエリア」で、肝臓疾患やアルツハイマー病などの特定領域に注目したり、受診→治療→予後をトータルに対応したりすることで、さらなるビジネス成長の可能性を探っています。2つ目は「製品+サービス」の流れで、たとえば最近では、IoTで製品の故障予知をする「Brilliant RaDi」というサービスを実現し、患者さんが、機器の故障で治療を受けられなくなる時間をできるだけ短くしています。
病院のお客様向けの
経営コンサルティングにも力を入れている
3つ目は、2つ目とも関連していますが「デジタル×IT活用」です。私たちは、院内のあらゆる「人・モノ・情報」をネットワークで接続し、そこから収集したビッグデータを医療現場に活用することで、医療従事者や経営者に新たな知見を提供する「Brilliant Hospital構想」を抱いていますが、それにはデジタル×ITの活用が欠かせません。たとえば、その構想の一環として、私たちはいま、病院の経営改善に取り組んでいます。予約管理システムによって、CTやMRIの検査時間・待ち時間のスケジュールを細かく把握できれば、予約枠を増やしたり、緊急検査に対応したりすることができます。私たちはいま、そうやって病院のお客様向けの経営コンサルティングにも力を入れています。
最近は、冒頭で紹介した日野工場を、病院の経営者の方々に見学していただく機会が増えています。そうすると、「この工場には、ウチの病院の経営改善のアイデアが満載だ!」とおっしゃっていただけることが多い。大変嬉しいことです。工場のメンバーたちが長年カイゼンを続けてきた成果だと感じています。たとえば、日野工場では、センサーを使って工場内のヒートマップをリアルタイムで作成し、工場内のどこに問題があるかがすぐにわかるようになっています。こうしたシステムやデータを基に、短期間で簡単にレイアウトを変更できる体制が整っているのです。この仕組みは、確かに経営改善にも応用できます。
今後は、サプライチェーンとの協業や、医療圏単位でのビジネス効率化改善にも取り組んでいきますが、それと同時に、私たち自身がデジタルトランスフォーメーション時代に適したカルチャーにもっと変わっていく必要があると考えています。