SAPのHRBPは
ビジネスに付加価値を提供する仕事
人事もビジネスありきで判断すべきだ
SAPに移るまでの職歴を教えてください。
大学は文学部英文学科で、特にアメリカ文学を研究し、その内容をどう解釈するか、どう読み解くかを学びました。物事はさまざまな角度から見ることができること、一見関係なさそうなことが問題を解決する意外なヒントになりうることを知りました。大学卒業後は、「組織のリエンジニアリング」に興味を持ち、リエンジニアリングを手がけるチャンスを得やすいのではと考え、変化スピードの速い外資系ハイテク・IT企業での人事の道をすすんできました。。、ケーエルエー・テンコールでは、人事スペシャリストとして、現地駐在員への対応や総務なども担当しながら、人材育成プログラムづくり、育成制度づくりを担いました。
その後、当時の上司に誘われて、1999年にサイベースに入社しました。私はここで、ほぼすべての人事業務に携わりました。組織改変、M&Aのデューデリジェンスのための調査分析、アジア・パシフィック&ジャパンの人事責任者として8カ国の人事部マネジメント等を経験しました。初めて実施する役割も多く、何をどうしてよいかがわからず苦慮したことも多々ありましたが、学ぶことが多くあり、中身の濃い経験・有意義な仕事をさせていただきました。もう1つ、大きな学びになったのは、当時の副社長がビジネスの判断を下す際、必要に応じてさまざまな部署のメンバーを呼び、議論していたことです。人事の私もよく声を掛けていただきました。その議論の場で、マーケティングや営業など他部署の見方、そして何よりも経営の見方を学びました。副社長には、「人事もビジネスありきで判断を」「儲けを増やす上で人事が何をどうサポートできるかを考えてほしい」とよく言われました。私はこの教えを今も守っていて、会社としてベストの判断は何か、そこに人事としてどういった付加価値を付けられるのかをいつも考えるようにしています。「人事のための人事ではなく、ビジネスのための人事」という考え方は、HRビジネスパートナー(以下、HRBP)には欠かせませんし、人事全員が持つべき考え方だと私は思います。2013年からSAPジャパンに移り、HRBPを担当していまに至ります。
SAPはERP大手企業というだけでなく、お客様とイノベーションを共創する企業
SAPはどのような会社ですか?
かつて当社の事業の柱として売上の9割を占めていたのは、ERPと呼ばれる基幹業務システムでした。しかし現在では、売上の6割がERP以外のサービスによって構成されています。なおかつ、6年前と比較して収益・利益・時価総額・従業員数の全てが2倍以上に拡大し、年平均では2桁成長が続いている。つまり、SAPという会社自身がイノベーションを創出し、ビジネスモデルを変革してきた実績があるのです。だからこそSAPは、自らの体験を通して培ったノウハウを提供することで、お客様企業のイノベーション創出に貢献できるという自負があります。
HRBPとして、どんなことをされていますか?
私は、2013年から2016年までは営業部門のHRBPを担当し、2017年からは技術・コンサル部門のHRBPを担当しています。まずは、とにかく担当部門マネージャに会いに行き、各マネージャの考え、マネジメントスタイル、そして各部員を博するように意識しました。また、ビジネスを知るためにも営業同行をし、人事系クラウドサービスやアナリティクスをどのように社内で活用しているか、その結果どういった成果を上げているかをお客様に説明しに伺うこともしてきました。BRBPとして、人材とビジネスを知ることはまず大切です。
そして、HRBPの一番の役割は、事業部長と一緒に組織戦略、組織全体の成長プランを策定していくことです。
また、事業部長が自ら作成するデベロップメントプランに対してのフィードバックやコンサルティング、ビジネス変化に適応するための人材育成・意識変革のリード・意識調査を使用しての現状把握と改善企画を考え実施もしていきます。
現在進めるプロジェクトのひとつに、チェンジマネジメントプロジェクトがあります。このプロジェクトでは、部署のメンバーたちが、自身の変革の必要性をどれほど強く感じているかを調査し、その調査の結果に応じてアクションプランを考え、部署全体を巻き込みながらアクションを起こしていくことを推進しています。今回の調査でわかったのは、彼らのほぼ全員が、自分自身のスキルセットやマインドセットを変えなくてはならないことに気づいているという事実です。しかし、彼らのほとんどが、どうやって自分を変えてよいのかがわからず、困っていることもまた確かです。そこで私はいま、マネージャーのスタッフマネジメントに対するサポートを手厚くし、チーム全体が主体的に変化するよう促しています。
また、SAPならではの組織変革の仕組み「ラウンドテーブル」、「人事データ統計分析・計画」も推進しています。
「ラウンドテーブル」は、事業部長とHRBPが一緒になって、各組織の「カタリスト(変革者)」や「サクセッサ―(継承者)」を決め、彼らのキャリアディベロップメントプランを考えるというものです。例えば、ある部署を数年後に変革したい場合、まずその変革の中心に立ってもらいたいメンバー(カタリスト)を選び、いかに、最新の技術、スキル、考え方などをいち早くキャッチアップしてもらった上で、数年後に元の組織で変革の中心に立ってもらうか考えます。海外のポジションやグローバル研修などに派遣するか、あるいは、誰かの元に一定期間ついてもらい、そのメンバーの影となり、メンバーのノウハウを徹底的に学ぶか、様々な選択肢を模索し、決めていきます。
また、「人事データ統計分析・計画」は、人に関する情報が集約されたクラウドデータを元に、例えば、退職率を下げるためには、採用率を上げるためには、といった課題に対して、データ分析し、アクションプラン策定をしていきます。HRBPは、事業部長と一緒にこういった全ての議論を円滑推進し、実施、実施後まで責任をもちます。
今後の方針について教えてください。
ビジネス面では、イノベーションをキーワードにクラウドやビッグデータ・アナリティクスにより一層注力するとともに、IoTや機械学習といった新技術を活用します。また並行して、人事業務に詳しいHRアーキテクト、購買・調達業務に詳しい購買・調達アーキテクトなどを強化し、各領域のコンサルティングに力を入れていきます。さらに、SAPは、新商品・新サービスの創出手法「デザインシンキング」をビジネスにいち早く取り入れた会社ですが、今後はその傾向をより強めていきます。(デザインシンキングの殿堂として有名なスタンフォード大学のd.schoolは、SAP創業者の1人であるHasso Plattner氏の個人寄付で、IDEO創業者のDavid Kelly氏らとともに2005年に設立された。d.school設立のきっかけはSAPにある。)
もちろん、組織変革や個人のサポートなども強化していきます。例えば、「エンプロイー・アドバイザー・カウンシル」というプロジェクトが進行しています。これは、社長の福田が「もっと社員に意見を言ってほしい」と望んだことから始まったもので、自ら手を挙げてカウンシルに入った社員たちが、月に一度、役員ミーティングに出席して、さまざまな組織変革の提案を行っています。例えば、社員全員でミーティングルームを常にキレイにする「ミーティングルームクリーン作戦」は、このカウンシルの提案から生まれました。具体的には、書けないペンを見つけたらすぐに新しいペンに変えるといったいくつかのルールを決め、全員で行動に移しています。この作戦が始まってから、ミーティングルームは格段に美しくなりました。他にも、カウンシルは執務室に緑を増やしたり、執務室のパーテーションを取っ払ったりすることを提案し、実現しています。
最後に、SAPのHRBPとは何かを教えてください。
4つの軸があります。一つは人事戦略をSenior Leaderの方々にコンサルティングしていくこと。2つ目はチームと組織のデベロップメント、3つ目がTransformation management、最期にWorkforce insights and planningです。この4つを組み合わせて、ビジネスが成功するようにManagerと一緒にビジネスを行うパートナーです。そのためには人事のデータを分析しかつテクノロジーを駆使しながらManagerに適切なアドバイス、質問を行う必要があります。また、担当部門だけでなく、会社全体に影響を与える人事施策、例えばBranding、Diversity & Inclusionの浸透、働き方改革等の施策を考え、よりよく社員の働きやすくなるよう、また市場に対して魅力的に映る会社になるよう活動を行っています。
自分のやりたいことに突き進んでよい会社
社風や制度について教えていただけたらと思います。
SAPジャパンの社風として第一にお伝えしたいのは、「見えない壁やバリアが一切ない」ことです。エンプロイー・アドバイザー・カウンシルなどは典型例ですが、自分がやりたいと思ったことを実現できる会社なのです。必要があれば、自ら社長や経営陣に進言していただいてかまいません。その行動を邪魔する人や組織や制度は、どこにもないのです。社長の福田は、正しいと思えば、誰の意見でも積極的に採用する考えの持ち主です。むしろ、一人ひとりが主体的にどんどん行動を起こし、会社や自分自身を変えていってもらいたいと思っています。
また、社員に「さまざまなオポチュニティ」を用意する会社でもあります。そのオポチュニティには、誰が手を挙げてもかまいませんし、手を挙げれば誰もが選ばれる可能性があります。例えば先日、小松製作所(コマツ)、NTTドコモ、オプティムとSAPジャパンの4社で「ランドログ」という新会社を立ち上げました。SAPジャパンからも1名が出向しており、手を挙げて選ばれた社員は実に楽しそうに働いています。こうしたオポチュニティがいくらでもある会社なのです。そうした特徴のせいか、平均勤続年数は外資系企業としてはかなり長いほうです。きっと飽きないのだと思います。
ただ一方で、社員が「学び続けなければならない環境」であることも間違いありません。先に説明した通り、SAPのビジネスは変わり続けており、それに合わせて一人ひとりも変わり続けなくてはならないのです。それが辛い方には向いていないと思います。もちろん、学びのオポチュニティもたくさんあって、たとえばSAP Academyというプログラムがあり、選ばれた新卒社員は1年目に9カ月、アメリカのSAPアカデミーで営業・プリセールスの技術をみっちり鍛えられ、同時に他国のメンバーと協調して働くことを学ぶ機会があります。こうした学びの場や、自分を知るためのツール(MTBI)などはいくつも用意しています。自分を変えたい、何か行動を起こしたいという気持ちがある方は、私たちが惜しみなくサポートします。
どのような方と一緒に働きたいですか?
一言で言えば、「いつも前を向いて進んでいける方」です。もちろん過去のキャリアや実績、スキルは重要ですが、それ以上に未来のキャリアやスキルが重要だからです。私たちは、未来の自分のため、未来の会社のために何ができるか、何をしなければならないかを自ら考え、行動を起こし、ビジネスに付加価値を与えられる方を求めています。それができる方にとって、SAPジャパンは、きっと長く飽きずに楽しく働き続けられる場です。その点は、私が保証します。