学生時代に触れた異文化との交流が、キャリアを考えるスタートになった
大学卒業後、ヘンケルに就職されていますが、ヘンケルを選ばれたきっかけを教えてください。
私のキャリアは、学生時代の体験が土台にあります。まずは学生時代の話をさせてください。私はドイツで高校を卒業し、大学へ進学、心理学を専攻しました。心理学の論文はほとんど英語で書かれているので、英語のスキルを伸ばすと同時に海外に出て視野を広げたいと思い、大学2年のときにアメリカのLAに留学しました。1年の留学期間でしたが、私の人生で一番多くの経験を積んだ1年となりました。ドイツ語を話すドイツ人ばかりの国から、人種のるつぼであるLAに行き、初めて「オープンマインド」の文化に触れたのです。一気に視界が開けたような気がしましたね。LAで人々の多様性と、自由で活気のある空気を感じ、いろんな意見を持っている方々と交流することの楽しさを知り、非常にエンジョイしました。1年後、ドイツに戻ってきたときに通常とは逆の意味でカルチャーショックを受けたくらいです。それほどまでに、LAでの生活は印象的でした。そこでもう一度、LAで経験したような新しい体験を別の場所でしたいと考え、東京でインターンシップを取ることにしたのです。ドイツ人と日本人は信頼を重んじるところなど似ている部分が多く親近感を感じていたことと、アジアという地域の成長性に未来を感じていたからです。日本での生活はLA以上にカルチャーショックがありましたが、率先していろんな経験をしようと思っていました。その頃には「どこに住んだとしても、結局自分は1人なのだ」と考えるようになっていましたね。そのたった1人の自分から、何かインパクトを発信できるようになりたい。そのためには探究心が必要だし、恐れずに挑戦することが重要だと思うようになりました。どんな環境でも自分次第で切り開いていけることを、私は学生時代に学びました。そして2002年に日本でのインターンシップを終了し、ドイツの大学を卒業したのです。
就職先はグローバル企業で、海外に多くの拠点があることを条件に考えました。ドイツには有名な多国籍企業がいくつもあります。ですが、調べてわかったことは、海外に拠点があってもそのほとんどが工場であり、小さなセールスオフィスがいくつかあるだけ、という企業が多いということでした。その点ヘンケルは、海外にもたくさんのオフィスがあります。日本オフィスがあったことも、私にとっては重要なポイントでした。ドイツを代表する企業で、かつ世界的な規模で働ける。そう考えた私は、新卒でヘンケルのキャリアをスタートすることにしました。
ダイバーシティを楽しめることが、グローバル企業で働く醍醐味
ヘンケルではどのようにキャリアを積んでこられたのでしょうか。
入社後4年間は本社で仕事をしました。どのようにしたら効率的に会議を進行できるのかなど、仕事について基礎から学び、様々な経験を積むことができました。入社当時からいつかアジアで仕事をする、と考えていたので、当時の上司にそう伝えたところ「まずは成果を出しなさい」と言われました。そのとき上司に言われた「単にスピーディーにキャリアを進めていくのではなく、自分がどういう人間でどういうことを成してきたのか、足跡を残せるような人になりなさい」という言葉は今でも心に残っています。
念願かなってアジアに行けることになったのは、入社5年目でした。最初はアジアパシフィックの本社である上海に赴任になり、ネットワークもコーディネーションもしっかりとれている、非常に整った環境での仕事始めとなりました。とはいえ、苦労が全くなかったわけではなく、最初の半年は特に大変でしたね。アジアパシフィックの14カ国は、それぞれ仕事のやり方も人の性格も違います。日本人とインド人の仕事の仕方は全く違いますし、同様に中国人とインドネシア人の仕事への感覚も全く違います。例えば、私が各国に情報収集のために「このような内容をいつまでに返信お願いします」とリクエストをかけます。この反応が様々です。ある国からはすぐレスポンスがきて「なぜこのような調査が必要なのか、その背景を知りたい」と言われますし、ある国からは何も言わずに必要な回答だけが届きます。またある国からはいつまでたっても返信がきません。これはひとつの例ですが、それらの対応の裏側には、国ごとの文化や考え方の違いがあるのです。
この時期、身をもって感じたのは「ひとくくりにアジアと語ってはいけない」ということです。さまざまな個性豊かな国が集まってアジアが形成されているのだと実感しました。「それならば、私はこの多様性をとことん楽しもう」と強い意志をもって仕事に臨んでいるうちに、最初の6ヶ月を乗り越えた後はずいぶんスムーズに仕事が運ぶようになりました。いろんなバックグラウンドの国や人がいて、それを受け入れることができたことが成功につながったと思います。そしてまさに、この「多様性を楽しむこと」が、多国籍企業で働くことの醍醐味でもあります。ダイバーシティとは「この会議室に3人の女性と3人の男性がいます」というような、単純な性別や国籍の違いのことではありません。ここにいる6人がそれぞれ異なった意見を持っている。そして、その様々な意見の中で意思決定をする。これが、私が考える多様性です。
その後、日本に行きたいと上司に嘆願し、2012年に日本に来ることができました。ドイツの本社で働き、その後アジア、そして日本と、グローバルから徐々にリージョンに異動できたことは、私にとって理想的なキャリアだったと思います。ドイツで企業としての大きな理念とプロセスを知り、上海で経営的戦略を考え、日本で実際にその戦略を実践するというプロセスを踏むことができました。グローバルの本社で立てた戦略は、国ごとにローカライズされます。グローバルの明確なメッセージを受け取りながら、ローカルには現地のやり方に長けた、適切な人材が必要です。
リーダーシップとは双方向の関係性を築けること
日本のHRディレクターとして意識していることは何ですか?
着任後はまず、シニアマネジメントとスタッフのそれぞれから聞き取りをし、それらをグローバルな視点と日本独自の視点の双方から検討しました。例えば日本の新卒採用の仕組は大変複雑で、時間もかかります。ですからグローバルの戦略に沿いながらも、選考のツールやステップを日本独自のものに変更していきました。ヘンケルの強みのひとつは、このようにグローバルとローカルがしっかり繋がりながら、ローカル独自の解釈をして実践することができるということです。
また、我々が成功のために必要だと信じていることは、まずオープンで正直なフィードバックを与えなければいけないということです。良い仕事をしている人には、しかるべきフィードバックを。できていない人には、どうすれば改善できるのかをフィードバックする。そのためにはリーダーの育成が重要です。またリーダー同士のフィードバックも大事だと考えています。
ヘンケルでは、マネージャーを対象にして1年に1回、誰がトップパフォーマーでリーダーの可能性があるか、次はどのように伸ばしていくかをグローバルで話し合うプログラムがあります。ヘンケルジャパンでも、本年度からこれを取り入れることにしています。ただ、日本ではマネージャーだけではなく全スタッフを対象にそれぞれのキャリアを検討していきます。それぞれにどんな可能性があるかを考え、この人にはもう少しこの部門でキャリアを積んでもらってから次のステップを考えよう、この人には次のステップとして新しい部門でチャレンジしてもらおう、本人の意見も取り入れつつ一人ひとりのキャリアパスを描いていきます。こういうことが可能なのは、ヘンケルが企業としてとても成熟している証でもあります。スタッフはトップが話し合ったフィードバックを受けられる。そしてスタッフは逆に「あなた自身の意見を聞かせてほしい。どう思いますか?」と聞かれます。この双方向での対話がとれるところが、ヘンケルの強みだと思います。
ヘンケルが考える理想のリーダーとは、どういった人物でしょうか。
ドイツには「魚は頭から腐ってくる」という諺があります。何か問題があるときはリーダーの問題なのだと伝えている諺です。当社の場合ですと、グローバル、地域、国ごとにリーダーがいて、そこに明確なリーダーシップがないと我々の戦略が機能しなくなります。4年前にヘンケルのスローガンが変わり(Henkel ? Excellence is our Passion)、新たなビジョン、企業としてこうなりたいというメッセージを発信しました。その際に「リーダーシップの原則」も、明確化しました。5つの原則があるのですが、言わんとしていることは「リーダーシップは一方通行ではない」ということです。リーダーがあれをしなさい、これをしなさいではなく、双方向の関係性を築くことを重要視しています。チームメンバーに対してフィードバックを与えることも、チームメンバーからフィードバックをもらうことも、リーダーシップだと考えています。また、リーダーシップは社内だけのリーダーシップを言うのではなく、関係者すべてを含んでいます。顧客との間で良いリーダーシップをとることも重要です。いま、これらのリーダーシップ育成のために、様々なワークショプを行っています。また、新しくマネージャーになる人たちに、企業がどのような期待をしているかを伝えることもトレーニングに入っています。
ヘンケルではどのような人材を求めているのでしょうか。
ヘンケルは「トリプル2」というタレントディベロップメントフィロソフィーがあります。これは2つの異なる職務、2つの異なる事業部門、そして2つの異なる国・地域で働くことを奨励している配属方針です。社員一人ひとりの能力開発に役立ち、またグローバルカンパニーとしてのヘンケルに対する理解を深めることになるからです。例えば、ドイツ、中国、日本で働き、セールスや、マーケティングの仕事をし、ビジネスユニットでいうと接着技術部門、ビューティケア部門、またそれぞれの部門のB to B、B to Cの分野で働くことができます。このように、トリプル2を実行してその中で自分の経験を深め、幅広い視野をつちかっていこうという心構えがある方、海外在住経験のある方、グローバルコミュニケーションスキルを持っている方をヘンケルは求めています。この場合のグローバルコミュニケーションスキルというのは、英語が話せるというだけではなく、多国籍な方たちに適応力を持って対応できる能力まで含まれます。また、ハングリー精神を持ち、現状の中で、事態をより良くするためにはどうすべきかを自問できる力を持っている人、言うなれば、自分に質問を投げかけることができる方、また、チャレンジと変化をオポチュニティと捉えられる方にとって、ヘンケルには活躍できる場、成功するチャンスが沢山あると思います。
また、個性的で、多様性を持った方、いろんな方をヘンケルのスタッフとして迎え入れたいと思っています。先日、新卒者セミナーがあったのですが、56人中、ほとんどの人が黒いスーツで黒いネクタイをしてきた中に、一人だけブラウンのスーツにシャイニーなネクタイをして際立った存在感を放つ方がいらして、私はもう、見たときに「この人だ」と思いました。クラーク博士の言葉に「Boys be ambitious」という言葉がありますが、私自身の言葉でいうと「Authentic(自分らしく)」です。自分に何が足りないかの弱みも知りながらも、自分の強いところを常にフォーカスしてAuthentic(自分らしく)に達成すべきゴールを持っていることが重要です。
真の意味での多国籍、多様性の中で働くことができる
最後にヘンケルで働く魅力を教えて下さい。
まず、オポチュニティを掴むことができる企業であること。ヘンケルは創業138周年を迎えた企業ですが、企業としてこれだけのブランドの数とサイズ感を持っている会社はほとんどありません。チャレンジしようと思えば、あらゆるオポチュニティがあります。ヘンケルは日本に工場と開発拠点を持っています。これは他社と比べて大変なアドバンテージです。また、われわれの顧客も日本に住む日本の人たちです。日本の顧客から得た知見をもとに製品化した商品が、グローバルにインパクトを与えることもあります。例えば、ヘアケアやヘアカラーに関して、日本の顧客は大変洗練されています。その顧客に対応できる商品を展開し、この日本で成功することができたら、どこへ行っても成功させることができるという自負を持っています。そのような日本発のグローバルビジネスができるのが、ヘンケルジャパンの良さです。他のグローバル企業では、日本がそのような重要な役割を持っているケースは少ないと思います。
そしてもうひとつのヘンケルの魅力は、真に多国籍な仕事場をスタッフに提供できることです。本当の意味でのマルチナショナルな仕事環境です。そして、ありきたりのトレーニングではないスタッフ育成の場があります。例えば社長とのラウンドテーブル、新卒者のオープンディスカッションの場も設けます。私自身も新卒者の方達とお話する機会を持っています。
また、先ほどから何度も申し上げている多様性について最後にお話させてください。ヘンケルジャパンの全スタッフの中で、女性は28%です。マネージャーレベルでは全体の12%です。これからは、この数字をもっと伸ばしていきたいと思っています。日本の女性は高い学歴を持っていながら、仕事を続けることがむずかしい環境があります。これを打開したいと考えています。とくに我々のビューティケアは顧客が女性主体ですし、接着の部門でも女性にもっと活躍をしていただきたいと思っています。
仕事の仕方も、ワーキングフレキシブルポリシーを掲げています。希望者は週に3日、4日という勤務ができますし、週5日間でも時短勤務や、長距離通勤の方の中には任意で在宅勤務をしているケースもあります。我々はオフィスに長時間いるのではなく、あくまで結果を出せる人を求めています。結婚しても子育てしながらも働けるアイデアを持ち寄って実現できる企業にし、女性から見た時にも「自由にキャリアを構築できる憧れの企業」になってほしいと考えています。企業としてガイダンスを与え、オポチュニティが到来したときに、そのチャンスを掴んでもらう。ヘンケルジャパンは今後もそのような場を提供していきます。