他者の考えを受け入れることがコミュニケーションの要
これまでの経歴をお聞かせください。
1984年に大学を卒業してNECに入社しました。当時はNECが売上一兆円に達した頃で、「NEC中興の祖」といわれた小林宏治氏がいらっしゃった時代です。入社後、事業所と工場での人事からキャリアをスタートし、1989年から本社人事部の人事企画グループへ移り、幹部人事や制度設計に携わりました。1995年頃、一通りの人事変革を終え、その後の方向に行き詰まり感がありました。打開を求めてアメリカへの出張を自ら希望し、二度実現しました。社員のモチベーションを向上させるために何をどのように考えどのようにしているのかを学ぶために西海岸、東海岸問わず様々な企業を訪問しました。そこで驚いたのは、アメリカ企業も日本企業の人事制度やチームワークを研究していたことです。膨大な文献があり、1980年代の日本を必死に学んでいました。私たちが彼らから学ぶように、彼らも私たちから学んでいる。異文化の企業を見聞するなかで、学ぶことの重要性を痛感しました。
その後、ドイツと英国の勤務となり、ヨーロッパの国々の人と仕事をしました。彼らと触れ合う中で苦心したのは、いかに相手と信頼関係を築くかということです。経験上言えるのは、一緒に食事をすることはとても有効です。お酒を飲みながら会話をすれば、次第に本音が出て打ち解けていきます。当時は英語で言いたいことが表現できない歯がゆさを何度も感じましたが、その分相手のことを考える習慣が身に付きました。相手がどういった人で、どういった話題を選べばいいか事前に準備しました。この「相手の考え方を理解しようとする」姿勢がその後の人事としての仕事に非常に役に立っています。社員一人ひとりが自身の人生の中で何を重視しているのか、何をしたいのか、を捉え、人事としてどのように社員の自己実現をサポートしていけば良いかを常に考えるようになりました。
海外から帰任後は、再度本社人事部に戻り、新たな人事制度改革やキャリア施策の導入をリードしました。その後、2002年にNECエレクトロニクス(現ルネサスエレクトロニクス)に移り、東証一部上場を人事面でサポートし、半導体専業会社としての様々な人事制度構築に携わった後、NECラーニングという教育事業会社で5年間、人事コンサルティングや経営研修を担当しました。その後、NECとLenovoの合弁会社をつくるためにNECパーソナルプロダクツ(現NECパーソナルコンピュータ)に移りました。そして、合弁が完了し今に至っています。
NECとLenovoの強みを引き出しながら相乗効果をもたらす
NECとLenovoの合弁会社設立の際、人事としてどのようなことをなさったのですか?
2011年、合弁会社を設立するにあたっては、人事面でも大規模な構造改革を行いました。多くの苦難がありましたが、結果として言えば、LenovoとNECが合弁会社を設立したことは大成功だったと自負しています。NECはそれまで、日本のパソコン市場でシェアNo1を誇っており、合弁後もこれを維持しています。NECが長年日本のパソコン市場を牽引してきたからこそ、LenovoはNECを一方的に吸収するのではなく、NECのマーケットでの力を活かすという戦略を採りました。NECの開発・生産・営業・保守の力を維持しながら、そしてさらにNECがPC-9800の時代から長年培ってきたブランドの「信頼感」を保ってきたことがこの合併を成功させた大きな要因だと考えています。
先般、NECの米沢工場でLenovoの「ThinkPad」の生産が開始されました。生産コストだけを考えれば、海外に工場を移転するのが普通です。しかし、日本には少し値段が高くても信頼できるものを買いたい、早く製品を届けて欲しいというニーズがあります。Lenovoの製品に対しても同様です。米沢で生産することで、受注から最短5営業日でお客様の手元に製品をお届けすることが可能となりました。そういった基本的なお客様のニーズに応えていくことで、日本においてシェアNo1の売上規模を維持していけると考えています。米沢にはLenovoの幹部を何度も招きました。NECの社員とビアパーティー等のイベントを重ね懇親を深めました。組織の融合には社内のコミュニケーションは非常に重要と考えています。Lenovoの幹部には大勢のNECの社員の前で挨拶してもらう。そうすると、Lenovoの幹部も目の前にいる大勢の社員に対する責任感を感じます。そして、その気持ちが周りに伝わり、組織全体のモチベーション向上につながります。この流れができると、コスト面だけを考えて米沢の工場を閉鎖するといった議論にはなりません。
合弁会社設立の後、量販店等と直接やり取りする営業の方々には、どのような変化がありましたか?
我々の製品を販売いただく量販店、小売店の皆様は今まで日本でシェアNo1を確立してきたNECに対する信頼感を持っています。そこで、合弁当初から「NECは変わらない」というメッセージを強く出しました。それまで築きあげてきたNECの信頼感を大事にしたいからです。それから1年半から2年ほどかけてLenovoとNECの一体感を培い、LenovoもNECも隔たりのない「One Team」だとアピールしていきました。このように時間をかけて徐々に変化していったのです。今ではNECの営業もLenovoの営業も、両者の製品を売る必要があることを理解しています。One Teamとして会社全体を成長させなければ市場で生き残れないからです。ここに至るまで3年かかりました。融合を急ぎ過ぎると上手くいかなかったかもしれません。社員の気持ちを変化させるために、毎年一回は全国の社員を一同に集め、キックオフを実施し、そこで経営幹部から事業伸長の思い、戦略を伝えます。LenovoとNECが「one Team」になることが最善の一手であると。そうしたことを続けていくと、次第に感情的にも打ち解けていきます。
LenovoとNECを統合するために人事交流も活発に行いました。Lenovoの社員は米沢の生産現場に行き、ものづくりの現場を実際に見る。逆に、NECの人間にはLenovoのグローバルな会議やワークショップに出席する。多くの国籍からなる社員に触れることで、社員にとっては自分のキャリアが広がる可能性が見えてくる。LenovoとNECがお互いの良さを理解し合えたことで融和が加速されました。昨年11月には、それまで3拠点あったオフィスを全員がワンフロアで仕事ができるように新しいオフイスに引越しも行いました。何かあると顔を見てすぐに話せるんですよ。また、すぐ打ち合わせができるようにフロア内にはいくつかのオープンミーティングスペースも設けました。社員にはとても好評ですね(笑)。
「世界一の企業」という目標から逆算すれば多様化が必要になる
御社の今後の人事課題はどのようなものがありますか?
現在日本には3つの会社があります。レノボ・ジャパン、NECパーソナルコンピュータ、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズです。この3社がいかに上手く融合していけるかが1番の経営課題です。1+1+1=3では意味がない。相乗効果を生み出して、3以上の結果を出さなければなりません。
Lenovoは2005年のIBM社のパソコン部門の買収によりパソコンの分野で世界3位に、そして2013年には世界1位となることができました。しかし、いまIT機器市場ではスマートフォンをはじめとしたパソコン以外の分野が成長しています。今までの成功体験を尊重しながら、新しい価値を生み出すという変化が求められています。人事の立場からすればそういった必要な人材の確保が必須です。端的に言えば、パソコン以外の領域で活躍できる人、今まで培ってきたものを守るだけではなく、何が次の世代に必要か考えられる人を確保する、ということです。
一方、人や組織の「多様化」は益々必要になります。外国人の上司や女性のリーダーは当たり前です。私のLenovoでの最初の上司は中国人の女性でした。その後はずっと男性ですが、英国人、アメリカ人、そしてこの4月からはオーストラリア人です。こういったことはLenovoでは特に珍しいことではありません。経営陣も中国人、アメリカ人、フランス人、等々多彩です。トップは中国人ですが、だからといって中国的なマネジメントスタイルになるわけではありません。中国市場は非常に大きいですが、中国市場だけでは世界一にはなれないからです。世界一になるためには、人も組織も必然的に多様化します。我々はグローバルでビジネスをしており、世界一の企業になることを目標としています。「世界一の企業」という目標から逆算したマネジメントの体制、人と組織のあり方、コミュニケーションのあり方、ビジネススタイル等々を日々模索しているのです。
最後に転職を考えている方にメッセージをお願いいたします。
弊社では多様性を楽しめる人が活躍できます。LenovoとNEC両社のブランドがあり、ブランド戦略も違います。そういった「違い」を素直に受け入れ、違いの中で学び、それを面白みに変えることが出来る人は弊社で活躍できると思います。
オープンマインドも重要でしょう。世界中にいる同僚と仕事をすることになります。自分の良さを最大限に表現し、自分の考えを相手に伝えようと意識し、論理的に物事を説明して相手に理解してもらおうとする姿勢は大切です。英語でのコミュニケーション力も当然必要です。
そして、将来のヴィジョンを持った人にきてもらいたいですね。事業を大きくしたい、この会社をもっと良くしたい、事業を通して社会に貢献したい、個人としてキャリアアップしたい。どのようなヴィジョンでも良いです。弊社では何かを大きく成長させ、良くすることに意欲的な人を求めています。