自由に発言できる環境が組織を活性化する
大学を卒業されてからのキャリアを教えてください。
大学卒業後、医療関連の仕事に就きたいと考え、薬品卸会社に入り5年ほど、MS(医薬品卸販売担当者)の仕事に携わりました。配属された地域では他社の地盤が強く、新規開拓をするにも、最初の1年は話すらまともに聞いてもらえませんでした。それでも地道に営業しているうちに取引先が増えて、仕事のやりがいを感じるようになりました。その後家庭の事情で退社し、将来について考えているとき、医師が医療の方針や治療法を決める際に専門的・学術的な情報を提供する仕事をしたいとの思いが強くなっていきました。そんなときにアメリカの製薬会社アップジョンからMR(医薬情報担当者)としての誘いがあり、チャンスだと思って入社しました。
アップジョンはその後、買収合併を繰り返しましたが、私はその間、MRだけではなく、プロダクトマネジャーや営業の責任者など、いろいろな仕事を経験することができました。今ももちろん学ぶ毎日ですが、その当時はとにかくいろいろな学術書や文献を読んだり、学会に出席したりして勉強しました。アップジョンではとにかく先生のところに行って話をしてきなさいというスタンスでしたので、先生方と話すために、当時扱っていた抗生物質についても先生方以上に勉強しましたし、プロダクトマネジャーになってステロイドを担当したときは、あらゆる疾患、免疫、遺伝子の勉強も幅広くしました。
同社に15年ほど在籍した後、リウマチ抗体製剤を出したばかりのワイスに転職しました。当時、リウマチの治療法は内服療法が中心で、抗体製剤に医師や患者さんが大きな期待を寄せていましたから、それを何とか世の中に広めたいと思ったんです。そこに私の経験を役立てられないかという気持ちでした。そこには3年在籍し、その後眼科治療薬のアルコンに移り、眼科に特化した新しい知識や経験を積んだ後、2011年の1月にバクスターに入社しました。
勉強を続けるモチベーションは何でしょうか。
なにより、患者さんの力になりたいという気持ちです。我々は患者さんと直接接するわけではないですが、常に患者さんのことを念頭において仕事をするべきだと考えています。それぞれの患者さんの症状を改善するために必要な提案をするのが我々の仕事です。そのためには当社の製品だけでなく幅広い勉強をする。先生とある患者さんの話をした結果、その患者さんにとってエビデンスに基づいた最適な治療法を勧めるべきです。そしてその提案を受け入れてもらうためには、日ごろからとにかく勉強して、医師に訪問を喜んでもらうくらい多くの有意義な情報が提供できるようになる必要があると思います。その姿勢が医師との信頼関係につながると思っています。私もMRの時に「川本の言ったとおり治療したら、患者さんがよくなったよ」「その情報を川本から研修医に教えてよ」と言われることがありましたが、これが何より嬉しかったですね。
バクスターに入られたのはどのようなお考えからですか。
内資外資の製薬会社での経験から、バクスターは非常に将来性のある会社だと思いました。これからはアンメット・メディカル・ニーズ、つまり有効な治療法、治療技術がないニッチな疾患にフォーカスして、患者さんが本当に必要とする治療法を提供していかなければならない。それをバクスターなら実現できると考えたのです。
バクスターは血友病の治療薬開発で世界トップクラスの力を持ち、世界初となる多くの治療薬を提供しています。血友病はある血液凝固因子の働きが低下しているか欠乏している病気です。現在では、出血時の補充療法よりも定期補充療法が血友病治療の主体になりつつあります。
血友病の患者さんたちが、健常な方と変わらない生活が送れるようにバクスターは医師や医療従事者に最新の情報を提供し、研究を支援することで貢献していきたいと考えています。そういう会社で、自分も患者さんやご家族の方に貢献したいと思いました。
バクスターの強みは何ですか?
当社の強みは、新製品のパイプラインが充実しているということです。血友病は、働きが低下している、もしくは欠乏している血液凝固因子の違いによっていくつかの疾患があり、いまは血友病Aの治療薬を提供していますが、今後は血友病Bやその他の血液凝固異常症の治療薬も提供していきます。
さらに、バイオ技術を使った手術時の止血や創傷治癒に関するものなど、外科領域でのパイプラインも持っています。
これらのパイプラインはグローバルではすでに流通している製品もありますが、日本ではまだ上市されていません。これらをできるだけ早く日本の医療現場に提供したいと考えています。
また、バクスターの組織としての強みは、なんといっても人材です。長く勤めている人が非常に多く、それぞれが専門性を持って知識も深く、経験の蓄積があり、医療現場との信頼関係がしっかり築かれている。私は去年だけでも4人のMRの還暦祝いをしましたし、今年は65歳で定年を迎える方がいます。私はいま55歳ですが、「まだ若い。あと10年は頑張れる」と言われています(笑)。人的資源という面では他社には負けないと思います。
みんなが長く勤めたいと思うのはなぜでしょう?
思ったことを忌憚なく言える環境があるからじゃないでしょうか。私は、部下たちが何でも意見を出せるようにオンラインの目安箱をつくったんですが、全然使われていません。なぜかと思い、いろいろと聞いてみたところ、面と向かって言うから必要ないというんです(笑)。率直に発言したことが1つでも反映されると嬉しいし、自由に発言できる環境が組織を活性化し、イノベーションを生んだり、変革を進めたりします。こういうカルチャーは、一朝一夕にできるものではありません。時間をかけて築かれてきたものだから、簡単には崩れないし、若い人たちにも受け継がれていくんです。人の力、チームの力が大切ですね。
私自身が、バクスターにずっといたいと思うのは、やはり人に魅力を感じるからです。社長にしても同僚の役員にしても、私の知らない引き出しをたくさん持っているから、それをもっと吸収したい。部下の中にも、私が思いもつかないことを言う人もいて、発想の自由さにインスパイアされることもある。そういう仲間がいるからさらに仕事をしたくなる。いいチームがあって、そのチームを育てて、そこで仕事をしていきたい。私は彼らともっと仕事がしたいんです。
人間にとって大きな喜びは自分の成長
人材育成はどのようになさっているのですか。
新しく入ってきた社員には、先輩社員のメンターをつけてトレーニングをします。メンターに指名された人は大変ですよ。自分の仕事しながら後輩の世話をするんですから。メンター役の社員も自分の仕事が忙しく、人の世話を見る余裕がそれほどあるわけではありません。私だってそうでした。それに、後輩の改善すべきところ、足りないところを指摘しなくちゃいけない。人間って人にはいい顔したいものなのに、指摘しなければ相手が伸びないから、嫌がられても言わざるをえない。忍耐力がいりますし、苦労もたくさんある。でも、後輩の世話をすることでメンターも一緒に成長できる。だから双方にとってメリットがあるんです。
また、プロダクトマネジャーの役割にも特徴を持たせています。多くの会社ではマーケティングが細分化され、イベントだけ、リサーチだけ、マテリアルだけというように仕事が細分化される傾向にあります。どこの会社でも優秀な人材の確保には苦労しているので、細分化すれば、外部からその分野の経験者を即戦力として採用したり、社内で育成させることが短期間でできるという事情もあるでしょう。しかしそれでは、将来的に部門や会社を背負う人材は育ちません。だから当社では、1人のプロダクトマネジャーが全てのプロセスを担当しています。ですので、当社でプロダクトマネジャーとして学べば、マーケティングとしてさらに幅広い仕事ができるようになりますし、グローバルタレントしても通用していくと思います。
バクスターで活躍しているのはどんな人ですか?
努力している人ですね。私は個人がもともと持っている才能や能力にそんなに差はないと思っています。でも努力している人、勉強している人はやはり活躍しています。会社も教育プログラムをいろいろ用意していますが、本人がそれをうまく活用し、努力しなければ成果は出ません。
部下から日々、「この仕事をレヴューしてください」とメールが送られてくるんですが、忙しくて返事が遅れると、会った時に怒られる(笑)。成果を早く出したい、上司に評価してもらいたいという意欲のある人には、結果も伴ってきます。成果が出ると嬉しいですよね。そうなれば仕事に対するモチベーションが上がります。
また、ある課題を与えたら、期限内にある程度のレベルのものを出せることに加えて、それを実行するときに周囲をうまく動かせる人も活躍している。人に動いてもらうには、相手の立場を理解しつつも自分の意見をきちんと言って相手を説得する、コミュニケーション能力が必要です。
バクスターを目指す人にメッセージをお願いします。
これからバクスターはどんどん成長していきます。だから自分を成長させたいと思う人には、バクスターに入って会社とともに成長しましょうと言いたい。確かに大規模な製薬メーカーに比べれば社員数も事業規模も小さい。でも、みんなが自分と会社の成長を目指して働いています。人間にとって大きな喜びは自分の成長です。バクスターの仲間を見ていると、自分を磨いて、成長させようと頑張っているのがよくわかります。これは、仕事をするうえで素晴らしい環境だなと思います。10年後にみんなで振り返って、成長してきて本当によかったねと語り合えればと思っています。