第三者試験認証機関はユーザーのエージェント
御社の事業内容とMHS事業部について教えてください。
テュフズードはドイツに本社を置く第三者試験認証機関で、多種多様な各国法規制や技術規格への適合性を第三者として評価/認証することで、お客様の迅速な市場へのアクセスをサポートしています。同時に、安全性確立に関する新たな必要性や方向性に対応するべく、新しいサービスの開発を続けています。現在では、電気・電子機器、産業機械、医療機器、自動車、玩具、更に食品検査や環境保全に至るまでの幅広い分野において検査、トレーニング、認証、試験サービスを提供しています。
MHS事業部は医療機器の安全性や有効性を第三者として確認することを一義的なミッションとしています。医療機器は非常に高度なプロダクトですから、患者さんはじめ一般の方が安全性を確認することは難しい。そこで我々のような第三者機関が法規制に則って責任と権限を持ち、それをチェックするわけです。
我々にはお客様が2人います。1人は、気持ちの上で一番大事な医療機器のユーザー、つまり患者さんであり医師の皆さんです。その方々を見ずに安全性評価を行うと薄っぺらな事業になってしまいます。我々も患者になりうるわけですから、それについてリアルに想像しながらユーザーのエージェント、つまり代理人として安全性の評価をしようと心がけています。
もう1人は直接のお客様である医療機器メーカーです。こちらに対してはパートナーという位置づけで仕事をしています。安全で有効な製品を迅速に審査して、早く市場に出したり、輸出したりできるようにする。大きく見ると、日本の医療機器産業が世界で競争力を持てるようにサポートをしているのです。
ビジネスの成長機会をどのように捉えておられますか。
第三者試験認証機関は、お客様のプロダクトや組織が法規制や国内・国際規格に適合しているかを確かめることがビジネスの柱となっています。MHS事業部にとってそれは日本の薬事法であり、ヨーロッパのCEマーキングとなるわけですが、各国の法規制によって民間の審査会社が審査できる製品の範囲が定められています。日本の薬事法では、リスクが高い製品の認証審査に関しては、国が一元化して責任を持って行い、それ以外の部分を民間の審査会社が審査しています。現在の法や規制改正の動きとして、我々民間の審査会社が審査できる製品の範囲が、もう少しリスクの高いものにまで広げられる傾向にあるので、これは大きなビジネスチャンスだと考えています。
また、安全性を評価して認証するためには数々の技術資料を評価しますが、プロダクトの実機を試験/評価する機能が弊社では手薄でした。そこで昨年、電気安全試験所を東京の中野坂上に設立し、新しいビジネスを立ち上げました。認証申請の前段階で電気医療機器をメーカーから預かり、試験所でいろいろな電気試験を行い、結果をレポートとして発行します。それが認証に不可欠なレポートになるわけです。こういったシームレスなサービスについても今後注力していこうと考えています。
もう一つ新しいビジネス分野として、生体適合性評価のサービスも立ち上げました。これも認証に必要不可欠なモジュールになりますが、体内に埋め込まれたり、人体に直接接触するような医療機器の安全性を検証します。有害な成分を含む医療機器によるアレルギー反応などの人体への悪影響を防止するために、その医療機器が素材的に安全か検証するわけです。
横方向への展開としては、いままで法規制のなかった国で新しく法規制が制定され、その適合性の審査を義務付けるところが徐々に増えてきました。そうした国々に医療機器を輸出する日本のメーカーを、我々がサポートしていきたいと考えています。
他社と差別化できるテュフズード社の強みは何でしょうか。
第一の強みはブランド力です。医療機器認証の業界でテュフズードと言えば、ほとんどの方にわかってもらえる。グローバルに見てもテュフズードは医療機器認証でナンバーワンです。
もう一つはリソース面、つまり審査員や薬事評価員の数が国内では一番多いことです。私も審査員の資格を持っていますが、審査員資格があればどんな医療機器でも審査ができるというわけではなく、審査できる医療機器分野は専門分野ごとに限定されます。私の場合、前職で産業用の電気機器を扱っている制御機器メーカーにいましたから、電気医療機器の全般的事項の審査をすることができます。入社後に超音波医療機器についてのトレーニングを重ね資格認定されましたから、超音波医療機器についてはさらに専門的な審査できますが、それ以外の医療機器に関して深い審査はできない。だから審査機関としては、いろいろな専門性を持った審査員を数多く揃えなくてはならないんです。
人数が少ない機関は、専門性が幅広くないため、場合によっては海外支社から審査員を呼ぶこともある。そうすると英語での審査になりますし、日本の商習慣や細かな事情がわからないまま、コミュニケーション不足に起因した不適合報告書が発行されたりする。当社はいろいろな領域から大勢の日本人審査員が集まっていますから、持っている資格の数も多い。どんな分野のメーカーさんに対しても、日本人だけで対応できるんです。
審査員の専門性はどのようにチェックなさるのですか。
資格認定制度があり、機器の分野ごとに社内トレーニングコースと実習を受け、試験に合格すれば資格が付与されます。資格を持っていない分野の審査はできません。
それに加え、我々の審査はチームで行い、お客様を訪問すると必ず1日の終わりにメンバーが集まって、情報共有や審査の仕方、判定の調整のためのミーティングを行います。ベテラン審査員と経験の浅い審査員が意見を出し合いますから、それがOJTのような働きをして、経験のシェア、知識の交換が行われます。
パートナーとしてお客様のビジネスゴールに向かって一緒に進む
メーカーからパートナーとして選ばれるためにどんな努力をされているんでしょうか?
お客様から認証を取りたいと言われて、じゃあ審査しましょうというのではなく、なぜ認証を取りたいのか、どんな製品の認証なのかというお客様のニーズを、コミュニケーションを重ねながら深掘りしていきます。このコミュニケーションを通してお客様が考えている最終ゴールがどこなのかがわかり、そこに至るにはどんな認証が必要なのか、どういうスケジュールでどんなテストが必要になるか、そもそも認証が必要なのか、といったことが明らかになります。
我々は認証機関なので、コンサルテーションはできません。「ここの設計をこう直すと適合しますよ」とは言えないんです。それでも、「いついつまでに、どの市場にこの製品を出したいが、どうすればいいか」という大きな部分については、いつまでに何をするべきかというガイドを出すことはできる。そうやってお客様のビジネスゴールに向かって一緒に進んでいきます。
リーダー育成が各社で課題になっていますが、御社では幹部育成はどのようにされているのでしょうか。
グローバルで見ても事業が拡大基調にありますので、組織が大きくなってマネジメントを適切に行える人材が、日本のみならず本社・海外支社でも不足しています。従来は、ある技術領域で専門性の高い人がその部門の長になりうるという方程式でやってきました。でも、必ずしもそれがうまくいくわけでもないんですね。そこで、グローバルの中では幹部候補生を育成するプログラムがいくつか立ち上げられています。長いものでは1年半ぐらいかけて、各国から推薦でメンバーを集めて、プロジェクトをやりながらマネジメントを学んでいきます。日本からもそこに積極的に人材を送り込んでリーダー人材の育成を行っています。
御社ではどんな方が活躍されていますか?
いま活躍しているメンバーを見ると、新しいことでも臆することなく、「自分の専門外のことだけど、なんとかできますよ」と向かっていく。そうやって新しい知識、経験を貪欲にチャレンジする人は伸びていきますね。例えば、医療機器以外の分野から入った人でも新しい知識、経験をどんどん吸収していって活躍している人は沢山います。
型にはまらないことも大切です。たとえば審査のレポートは文書にするのがルールになっていますが、それだと微妙なニュアンスが伝わらなかったり、堅苦しい作文になったりすることがある。あるとき、「口頭で伝えたほうがわかりやすいので、顧客とミーティングを持ちましょう」と言い出す人が現れたんですよ。試しにやってみたら結果は大正解で、コミュニケーションの非効率問題が一挙に解決されましたね。いままでの枠にとらわれず、そういう提案ができる人は組織の中でも活躍しています。
また、審査員はコミュニケーション力が試される仕事なんです。結果をしっかり伝えることもそうですが、NG判定になったとき、なぜNGなのかを時間をかけてきっちり説明できることがより大切で、そういう説明能力がお客様に高く評価される人が多く活躍していますね。
最後に、転職を考えている方にメッセージをお願いします。
今ご活躍の分野で「私はソフトウエアについては誰にも負けなかった」とか、「回路設計については自信があります」といった具合に、何かキラリと光るものを持っている方が活躍できる場が弊社にはあります。医療機器の分野でエンジニアとして活躍している人はもちろん、医療機器以外の分野で活躍されているエンジニアの方に是非来ていただきたいです。